遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

鑑定本7 森田直、小松正衛、岡田宗叡『しろうと骨董鑑定読本』

2024年09月17日 | 骨董本・雑誌

先回のブログで、野間清六、谷信一『美術鑑定事典』を紹介しました。

今回の品は、それとよく似た本です。

森田直、小松正衛、岡田宗叡『しろうと骨董鑑定読本』三恵書房、1977年。

先回の本は、日本美術の研究者二人が、一般向けに書いた美術鑑定入門書です。非常に幅広い項目を事典形式に網羅しています。

それに対して、今回の品は、著名な骨董愛好家や骨董店主、三人が、素人向けに書いた鑑定の読本です。扱う内容も、古民芸、鑑賞陶器、茶器に絞られています。

森田直、小松正衛、岡田宗叡が、それぞれ、古民芸篇、鑑賞陶器篇、茶器篇を担当しています。

深くはありませんが実践的な内容です。

古民芸篇では、国焼諸窯や民具などを扱っています。特に、値段についてしっかり書かれているので、大変参考になりました。我々、素人にとっての鑑定では、品物の真贋と価値(値段)が問題になるからです。

鑑賞陶器篇には、「贋物に対する十戒」が書かれています。
一、見知らぬ人から買うな
二、欲心を出すな
三、安すぎる物に注意
四、有名品はあぶない
五、生兵法ケガのもと
六、舞台装置にまどわされるな
七、感興を覚えたものを買うこと
八、常にすぐれた陶器を見よ
九、古めかしいものは新しい
十、研究熱心であれ
一番大事なことは贋物が見抜ける鑑識眼を養うことである。

茶器篇では、本物と偽物の鑑別にあたって、まず本物に接することの重要性を説いています。本物つまり基準になるものを知らなければ、贋物もまたわからないからです。そして、すべての贋物に共通している特長として、使われている土が、どこの土であるかが判らないこと、釉薬の特質が本物とまったく異なること、よく焼けていないこと、作品に品位がないこと、が挙げられています。

うーん、耳が痛い事ばかりですね。どこまで行っても、基本が大切(^.^)

本の最終頁には、質問券が付いています。

骨董についての質問事項を裏側に書き、回答料1000円と返信用封筒を同封して、編集部へ送ります。すると、質問に対して回答がかえってくるのです。

なんだか、昔の少年雑誌を思い出しますね(^.^)

ps. 誤って、先回のブログ「鑑定本6 『美術鑑定事典』」を削除してしまいました  トホホ  記憶をたどりながら書き直します

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鑑定本5 落款印譜写真集2種、『書画 落款印譜大全』、『評伝 日本書画名家辞典』

2024年09月11日 | 骨董本・雑誌

今回も大部の落款印譜集、2種です。われながら、こういう類の巨大本をよくも集めたものだと思います(^^;

ただ、今回の本は、ある意味画期的です。それは、書画の落款や印譜を、絵師が写したのではなく、写真に撮ったものを載せてあるからです。したがって、資料の信頼性は格段に上がります。

狩野亨吉、井上方外『書画 落款印譜大全』と小林雲山『日本書画名家辞典 』です。

 

狩野亨吉、井上方外『書画 落款印譜大全 第一輯、第二輯』武侠社、昭和6年。

第一輯、第二輯の2巻仕立てです。第一輯は江戸時代まで、第二輯には明治以降の落款、印譜が載っています。それぞれ、600頁ほどです。

付箋の数が、使用頻度を物語っています。

ですので、傷みがはげしい(^^;

特に使用頻度の高い第一輯は、表紙がはずれ、ボロボロです。

昭和6年発行です。定価金拾圓は、今の金で2-3万円くらいでしょうか。そうやすやすと購入できる本ではなかったでしょう。写真左端の購入控え番号が第076號であるのも頷けますね(^.^)

書画の著者別に、印譜の写真がずらっと載っています。数少ないですが作品も。

左:佐藤一斎    右:頼三樹(三郎)

谷文晁の作品と落款。

谷文晁は印譜だけで、14頁にもわたっています。

第二輯は。明治以降の作家のデータ。下写真は、柴田是真の印譜です。

 

小林雲山『評伝 日本書画名家辞典 』二松堂、昭和6年(今回の品は、その復刻版、昭和56年)

分厚く重い本です。1000頁ほどあります。

その大半は、書画の作者についての評伝です。

すでに、類書はいっぱいもっています。では、なぜこの本を買ったか?

そうです。最後に、付録?として、写真版の落款、印譜集が付いているからです。60頁ほどで、大したことはないのですが、それでも写真データは貴重です。

頼山陽の印譜。

この本の写真は、ひょっとしたら先の本と同じ?

そこで、印譜を比較してみました。

右側は、先の『書画 落款印譜大全 第一輯』です。

一番大きな印譜写真(「三十六峰外史」)を較べると、よく似てはいますが(当たり前(^^;)、細部には明らかに違いがあります。2種の本は、それぞれ、頼山陽の別の作品から撮っていることがわかります。

奇しくも、今回の2種の落款、印譜集は、いずれも昭和6年の発行です。そして私の知る限り、これ以降、写真に基づく落款、印譜集は出されていません。類似の物は、近年、美術館が発行する展示図録の巻末に見られるようになりました。

今回の本は、時代を先取りした画期的なものだったのですね。

著者たちは、いずれも明治の人です。

狩野亨吉(かのう こうきち、1865(慶応元)年) - 1942(昭和17)年))は、後述のように一筋縄ではとらえきれない巨人、小林雲山(勉)(1885(明治18)年ー没?)は書家として活躍する傍ら、日本の書画作家の評伝をまとめた人物です。井上方外の詳細は不明。

なかでも、狩野亨吉の人物像には驚かされます。

狩野亮吉は、江戸の思想家、安藤昌益を発掘した明治の学者として知られています。夏目漱石の友人で、『吾輩は猫である』や『それから』には、彼をモデルにしたと思われる人物が登場します。京都帝国大学総長を退いた後は、東北帝国大学総長に推されたり、皇太子(後の昭和天皇)の教育掛に推されたりしましたが、自分は危険人物であるとして、頑なに固辞しました。そして、「書画鑑定並びに著述業」により生計をたて、生涯独身、毎日、自分の性器をながめながら、春画研究に没頭したといいます。

京大変人列伝を書くならば、まず最初に来るべき人物だと思います。

明治の学者はとてつもなく、偉大ですね(^.^)

 

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鑑定本4 和綴本2種『本朝 画家落款印譜』、『日本 書画落款印譜』

2024年09月07日 | 骨董本・雑誌

今回は、和紙に木版刷り、和綴じの落款印譜集2種です。

 

古筆了悦、狩野素川『本朝 画家落款印譜』大倉書店、明治27年。

和紙に木版刷り、上中下、3冊です。

家にあった物です。祖父が使っていたのでしょう。相当に使いこまれています。綴じ糸がほとんど切れていて、バラバラです。

索引は、画数によります。画数ごとに、画数の小さい漢字から順にならんでいます。河鍋暁斎なら、曉斎の「曉」は16画ですから、下巻、16画の所を見ます。

現在の類書では、このような配列の索引は見かけませんが、慣れれば、案外便利です。

武士(大石良雄)の花押や芭蕉の落款、印章まで載っています。現在の類書とは、少し趣が違いますね。

 

杉原子幸『日本 書画落款印譜』松山堂書店、大正4年。

この落款印譜集は、古本屋で買いました。

5分冊になっているので、データ量が豊富です。

やはり、画数順の索引ですが、いろは順の索引もついています。

例えば、「白隠」は、1巻、5画の「白」をみます。

今回の2種の和綴本『本朝 画家落款印譜』、『日本 書画落款印譜』はよく似た本です。

では、中味はどうなのでしょうか。

池大雅の項を較べてみます。

『本朝 画家落款印譜』

『日本 書画落款印譜』

どうやら、別個に編まれ、印章の使いまわしは無いようです。

池大雅の妻、池玉瀾についても同様です。

『本朝 画家落款印譜』

『日本 書画落款印譜』

2種の和綴本、やはり、ソースは異なるようです。

さらに、『日本 書画落款印譜』には、貴重な落款が載っています。

池玉瀾の母、「百合」です。祇園で茶店を営み、絶世の美女と言われた百合は、和歌を詠みました。玉瀾との合作も残されています。

このように、明治、大正に発行された和綴本には、現在の落款印譜集とは少し毛色の異なる人物が載っているので面白いです。掲載された落款、印章は、画家が描いたものですから、その精度は、写真版(次回のブログ)には及びません。しかし、和紙に木版刷りの物には、独特の味わいがあり、私は今回の和綴じ本を愛用しています(^.^)

 

 

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鑑定本3 荒木矩『大日本書画名家大鑑』

2024年09月04日 | 骨董本・雑誌

荒木矩著『大日本書画名家大鑑』です。

黒い大部のこの本も、かつて、骨董屋の主人の横に、デンと鎮座してた骨董屋アイテムです。

まず、その圧倒的ボリュームに驚かされます。

『大日本書画名家大鑑』は、『伝記編』『落款印譜編』『索引編』の3部作になっています。本の奥付には、昭和50年発行となっていますが、序文を読むと、昭和9年に発刊された『大日本書画名家大鑑』をあらためて刊行したものであることがわかります。

『大日本書画名家大鑑 伝記上編』第一書房、昭和50年

大きな重い本です。1300頁、2.2㎏あります。なんと、これは『伝記上編』ですから、『伝記下編』もあるのですね。両方合わせれば、4㎏以上。『大日本書画名家大鑑』は古本屋で買ったので、『伝記下編』を欠いています。『大日本書画名家大鑑』は全4巻なのですね。最近まで気がつきませんでした(^^;

『大日本書画名家大鑑 伝記編』では、上古より昭和初めに互る名家二万人を網羅し、各人の概要を述べています。また、 日本における書画の由来及び変遷を編年的に叙説しています。

「石泉」の名をもつ人は、9人もいるのですね。

『大日本書画名家大鑑  落款印譜編』第一書房、昭和50年。

書画の落款と印象を、作家別に収録した大著です。1300頁、1.8㎏あります。この種の本の大御所的存在です。付箋の多さからも、私の座右の書であることがわかりますね(^^;

膨大なデータは、明治以前と明治・大正・昭和の二大別に分類収載されています。

以下の著者の言から、本書に対する著者の思いと自負がうかがえます。

 一、從來、落款印譜書の刊行せられたるもの數多ありと雖も、概ね得失長短ありて、未だ満足の聲を耳にせず、此處に於て書畫愛好家多年の渇望を醫し、併せて、鑑定家の絶好資料たらしめんがため本書を発刊せり。
一、惟ふに真贋の鑑定は、運筆、傅彩の巧拙によること勿論なるも、又、一に落款印章によると言ふも過言にあらず、されば本書はあらゆる苦心を重ねて古今名家の落款印章花押を廣く蒐集し、原大の儘を探錄して、以て完璧を期したり、收載印顆の多種なること本書の右に出づるものなしと信ず。

実は、書画の落款印象に関する類書はいくつもあります。とにかく、『大日本書画名家大鑑』は大きく重いので、これを繰るにはやる気を奮い起こさねばなりません。チョコッと調べたい時などは、二の足を踏みます(^^; 

なので、よく使うのはハンディタイプのこれ。

落款字典編集委員会『必携 落款字典』柏美術出版、1982年

460頁、620g、片手で繰れます。

ところが・・・・

『大日本書画名家大鑑』(上)と『必携 落款字典』(下)とをくらべてみると、載っている落款は、同じように思えるのです。同じ作者の落款だから当たり前だと言われるかも知れませんが、同一印章を用いても、媒体や押し方、印章の古さなどによって、細部は異なってきます。同じ作品の落款を載せているのなら可能ですが、実際上はありえません。どうもこの業界では、使いまわしが一般的なようです。著作権などやかましく言われなかった頃の大らかな慣行でしょうか(^.^)

『大日本書画名家大鑑  索引編』第一書房、昭和50年。

『大日本書画名家大鑑  伝記編上下』、『大日本書画名家大鑑  落款印譜編』の膨大なデータにアクセスするには、どうしてもしっかりとした索引が必要です。

800頁、1.1㎏ほどあります。姓氏索引はもとより、別称、総画、音訓索引とに分類し、それぞれで検索ができるようになっています。他に類をみない索引です。

4巻そろえば、重さ7㎏、総頁5000頁ほどにもなるこの大著を著した荒木矩(ただし、慶応元(1865)ー昭和十六(1941))とは、一体どんな人物なのでしょうか。『大日本書画名家大鑑  落款印譜編』の序文によれば、彼は、明治33年から京都市美術工芸学校、京都市立絵画専門学校(現京都市立芸大)に勤務し、国文学、漢文学を教えました。また文展、帝展などに関与して、多くの美術家と交流しました。大正14年に退職し、その後10年間、日本美術史の資料収集に没頭し、昭和9年『大日本書画名家大鑑  』を著しました。

明治人だからこそ出来た壮大なライフワークなのですね。

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鑑定本2 常石英明、古書画の鑑定評価本(3冊)

2024年08月29日 | 骨董本・雑誌

先回に引き続き、古美術研究家、常石英明の著作3冊です。やはり、金園社発行です。

今回は、古書画が中心です。

『日本の古美術入門 古書画の鑑定と鑑賞』昭和52年、10版(初版、昭和45年)、950円。

平安時代から近代まで、日本の絵画と書について概説しています。絵画にしろ、書にしろ、膨大な作家と作品があるわけですから、それを一冊にまとめるのはどだい無理な話しです。でも、何回も目を通しているうちに、おぼろげながらこんなものか、という感覚ができてくるから不思議です。古陶磁でも同じですが、特に書画の場合は、時代の大きな様式の中に、作者の個性がピョンと乗っかっています。そこの所の微妙なバランスを感じ取ることができれば、書画の面白さが増すと思いました。

『書画骨董 人名大辞典』平成元年、8版、5000円。

日本美術に関係する有名人、一万有余名の略歴が載っています。書家、画家はもとより、歌人、俳人、茶人など文人のたぐい、さらに、陶工、金工、漆工、武人、僧侶などまで、幅広く収録されています。

落款や印章も簡単に載せてあります。聞いたことのある人はわずかです。日本の古美術がいかに幅広く奥が深いか、あらためて知らされます。

『古書画・現代絵画・刀剣・陶磁他 古美術鑑定評価便覧』平成元年、4版、4500円。

平安時代から現代までの書家、画家の作品の評価(価格)を中心に、陶磁器、刀剣など工芸品の価格について、ずらーっと載っています。

骨董には、陶磁器、掛軸などいろいろありますが、いずれにしろ、最初から最後まで、お金の問題がつきまといます。この品の相場はどれくらいが妥当か? ある程度の目安がつかないと先にすすめません。品物の価格には、作品の出来や時代の流行、景気など様々な要因が関係するので、一義的には決まりません。でも、こういう本を手元に置いておくと、気休めにはなります(^^;

さすがに『日本刀の鑑定と鑑賞』はパスしましたが、常石英明氏の著書、これだけ揃えると思わずウナリますね、ボリュームと金額(^^;

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