遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

面白古文書『吾妻美屋稀』5.「うそまこと見立角力」

2023年07月18日 | おもしろ古文書

今回は、オーソドックスな面白見立て番付けです。

が、例のごとく、結構な難物で、多数でした。

四分して、右上から順に。

うそまこと見立觔

うその方

大関 百物がたりのばけもの
  (百物語の化物)
【百物語】多勢の人が集まって、 ろうそくを百本立てて置き、それぞれが化物 の話をして、一本ずつ蝋燭を消して行く。100話怪談を語り終えると、本物の化物が現れるとされていた。

関脇 めしのこげすきといふ居候
  (飯の焦げ好きという居候)

小結 切り芝居の今入れかわつた
  (切り芝居の今入れ替わった)
【切り芝居】江戸後期、一切(一太刀をあびせる)だけの芝居を立見で安価に見られる興行。通常、3本立の三切芝居で、一切が終わると、立見席は入れ替えになった。

前頭 びんぼう質二おくといふ人
  (貧乏質に置くと言う人)

同  魚つりのいいしやく
  (魚釣りの言い尺)

同  朝ひなのぢごくやぶり
  (朝比奈の地獄破り)
【朝比奈地獄破り】朝比奈三郎義秀は、剛力無双の自分に、地獄の鬼でもいいから、挑戦してこいと挑発した。すると夢の中に鬼が現れて、義秀を馬鹿にして笑ったので、鬼を追いかけまわし、地獄の門を破り、やがて地獄を征服した。歌舞伎や狂言の演目として人気があった。

同  土用かんの入にきく薬
  (土用、寒の入に効く薬)

同  つんぼの札かけてるこじき
  (ツンボの札掛けてる乞食)

同  けいせいの入レぼくろ
  (傾城の入れぼくろ)
【傾城】遊女

同  事ふれのはやるやまひ
  (事触れの流行る病)
【事触れ】物事を世間に言いふらす人

 

同  やすうりのべつかう物
  (安売りの鼈甲物)

同  げいしやのしやくもち
  (芸者の癪持ち)

同  はらにあなのある国
  (腹に穴のある国)
【腹に穴のある人の国】江戸期、朝比奈伝説の一つ、「朝比奈島巡り」の中で、朝比奈三郎が、巨人国、小人国、手長・足長の国、腹に穴が開いた人の国などをめぐる御話し。

同  ゑきしやの方角
  (易者の方角)

同  かほミせの口上
  (顔見世の口上)

同  仲人のでたらめ口
  (仲人のデタラメ口)

同  伊勢参りにこじき
  (伊勢参りに乞食)
【伊勢乞食】伊勢参りの人々に物乞いをする本物の乞食の他に、参拝客相手に荒稼ぎをする商人を嘲って伊勢乞食とよんだ。

同  相場仕のたいへいらく
  (相場師の太平楽)
【太平楽】好き勝手なことやでたらめな言い分。

同  百しやうの不作
  (百姓の不作)

同  新おきやへ入こむ奉公人
        (新置屋へ入込む奉公人)
        
同  けごん経大ぼうのとり

行司 正月ことば

頭取 たぬきねいり(狸寝入り)
   辻だんぎ(辻談義)
          ほうべん(方便)
        

まことの方
大関 大わいときのねんぶつ
   (大わい時の念仏

関脇 小べんたれたあとへ寝るうバ
  (小便垂れた後へ寝る乳母)

小結 山上参りのどろ川で白状
  (山上参りの泥川で白状)
【山上参り】山伏姿でホラ貝を吹きながら、蔵王権現に上り、参詣すること。

前頭 年よりめうとむつまじいの
  (年寄り夫婦睦まじいの)
 
同 ていしゆのるす二ねぬ女房
 (亭主の留守に寝ぬ女房)

同 せぎやうのさかやき
  (施行の月代)
【施行(せぎょう)】僧侶や貧しい人に物を施し与えること。特に、伊勢参りや四国巡礼の無料で接待がなされた。食べ物、飲物や草鞋だけでなく、月代などのサービスまで施された。
【月代(さかやき)】男性が前額から頭の中央にかけて髪を丸くそり落とすこと。

同 何時でもとんでくるおゐしや
 (何時でも飛んでくるお医者)

同 夜道にちやうちんかりた嬉しさ
 (夜道に提灯借りた嬉しさ)

同 春はなさき秋ミのるの
 (春花咲き秋実るの)

同 地廻りのまぶにゐけん
 (地廻りのまぶに意見)
【まぶ】江戸後期の隠語。てきや。

 

同 十月の水しぐれ
 (十月の水時雨)

同 俄雨にしらぬ人二傘かすの
 (俄雨(にわかあめ)に知らぬ人に傘貸すの)
 
同 孝行者のもろふたほうび
 (孝行者のもろうた褒美)

同 おしやかさまのふへるの
 (お釈迦様の増えるの)

同 かわい子をせめるやいと
 (かわいい子を責める灸)

同 てんぴんのはり口
  (天秤の針口)
【針口】天秤てんびんの中央、支柱の上部にあって、平均を示す針のある部分。

同 てしま先生はなし
 (手島先生話し)
【てしま先生】手島堵庵。江戸時代中期の心学者。平易な言葉で、教化の普及につくした。

同 道中の一里づか
 (道中の一里塚)

同 車に乗て居るいざり
 (車に乗っている躄)

同 はかりのむだめ
 (秤の無駄目)
【無駄目】竿秤で、実際には使うこともないのにつけてある秤の最初の目盛り。

同 宮寺へ奉納のしな
 (宮寺へ奉納の品)

行司 じしやく 北むく
  (磁石 北向く)

頭取 立石のせし〇
          こよミの日し○
          こよミの月し○
          三月三日汐干

【三月三日潮干狩】江戸時代、例年3月3日は大汐干潟になるので、人々は汐干狩りに出かけた 

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面白古文書『吾妻美屋稀』4.「歌舞伎狂言穴さがし」

2023年07月14日 | おもしろ古文書

面白古文書『吾妻美屋稀』の4回目、『歌舞伎狂言穴さがし』です。歌舞伎の穴を突いています。

上段の右から順に見ていきます。

新版 歌舞妓狂言穴さがし

・質に入た宝物をうけもどすに利足出したを見たことなし
(質に入れた宝物受け戻すに、利息出したを見たこと無し)

・やつこのそうじに竹ぼうきではいても塵取が有たことなし
(奴の掃除に竹箒で掃いても、塵取りが有ったこと無し)

・末社たいこが大さハぎの酒もり二作り身すひ物のでたことなし
(末社太鼓が大騒ぎの酒盛りに、造り身、吸物の出たこと無し)

・茶見世の女子が手桶さげて水くミに往てもどつた事なし
(茶店の女子が、手桶提げて水汲みに来て、戻った事無し)

此通りちうしんとかけ出しポント切連ぬといふことなし

・長持ちの内にかくまハれて居るものが小べんに出たことなし
(長持ちの内に匿われている者が、小便に出たこと無し)

 

・寶の剣の身をすり替るにドノ鞘へでも合ぬことなし
(宝の剣の身をすり替えるに、どの鞘へでも合わぬこと無し)

・むほん人の絵姿ハ黒し外の着もの見たことなし
(謀反人の絵姿は黒し、外の着物見たこと無し)

・勅使上使の贋ものハしたに木綿どてら着て居ぬことなし
(勅使、上使の贋者は、下に木綿の褞袍(どてら)着ていぬこと無し)

・しゆりけん打とパツト立のろし木の根もとへ仕掛たをミた事なし
(手裏剣打つとパッと立つ狼煙、木の根元へ仕掛けたを見た事無し)

・お家の伯父伍ハいつでも敵やく押領のわる工みせぬハなし
(お家の伯父御は、いつでも敵(かたき)役、押領の悪巧みせぬこと無し)

・敵もちの浪人が大切までに出世せすに居たことなし
(敵持ちの浪人が大切りまでに出世せずにいたこと無し)【大切】歌舞伎の興行で一日の演目の最後につける一幕。

 

・若とののほうらつに太夫のあげ代梻ふたことなし
(若殿の放埓に、太夫の上げ代払うたこと無し)

・宮寺の場へ参詣の仕出しがさいせん上て拝んだことなし
(宮寺へ参詣の仕出しが、賽銭上げて拝んだこと無し)
【仕出し】劇中で、通行人や群衆など、最も軽い役。

・大盃で大ぜいが呑でもてうしのつぎ目を仕たことなし
(大盃で大勢が呑んでも、銚子の継ぎ目をしたこと無し)

・世話場の門口にしやうじ入れたり簾戸をはめたことなし
(世話場の門口に、障子入れたり、簾戸(すと)をはめたりすること無し)
【世話場】町家・農家などの日常生活を演じる場面。
【門口】家の入口

・松の木のうへにてつぽうを持た忍びものしゆびよふやつたことなし
(松の木の上に鉄砲を持った忍び者、首尾よくやったこと無し)

・欠落して来た女郎をかくす押入に物の入てあつたことなし
(欠落(かけおち)して来た女郎を隠す押入に、物の入れてあったこと無し)

 

・銀箔のお月さんハいつでも丸いかけた月のでたことなし
(銀箔のお月さんは、いつでも丸い、欠けた月の出たこと無し)

・落人ハ笠と杖ばかりを持て路銀の用意あつたことなし
(落人は、笠と杖ばかりを持ちて、路銀の用意あったこと無し)

・サアすつぱりおやりなさんませとべつたり居るものをころしたことなし
(サアすつぱりおやりなさんませとべったり居る者を殺したこと無し)
【べったり】尻を落として座るさま。

・一トかせ切れた手おひ上着の肩をぬがぬといふことなし
(一(ひと)かせ切れた手負い、上着の肩を脱がぬと言うこと無し)
【かせ】刀で切る回数を表わす

・むほん人のほろぶるハかゞり火に丁ちん昼であつたことなし
(謀反人の滅ぶるは篝火に提灯、昼であったこと無し)

・顔見世の中かたは後室バかり男あるじが有た事いつもなし
(顔見世の中かたは後室ばかり、男主が有った事いつも無し) 
 

 

完全制覇とはいかなかったまでも、は最小で済みました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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面白古文書『吾妻美屋希』3.「かねもちになる伝授」

2023年07月12日 | おもしろ古文書

面白古文書『吾妻美屋希』の3回目、「かねもちになる伝授」です。

これまでの面白瓦版と異なり、金持ちになるための方法を伝授するというものです。

項目は大変少なく、金銭、着物、諸道具、家宅、用心、女房、命、堪忍、遊芸、不実、食物、酒、桶類、印判、下人、下女・丁稚、色欲、商売についてです。相変わらず、が多いです。ただ、ばかりで、全くお手上げの項目は無し。何となく、著者の言わんとすることがぼんやりと浮かんできます。

4つに分けて、右上から順に。

かねもちになる伝授

金銭 銭かねハ神ほとけのやう二をもひあだくつかへハばちあたりとこころへすこしもつかふ事なかれ
(銭金は、神仏のようにも思い、徒く使えば罰当たりと心得、少しも使うことなかれ。) 

着物 きものハせんだく物よしとおもふべしよきものをきれハ◎つかふはじめなり長そでハ別なり
(着物は洗濯物を良しと思うべし。良き物を着れば銭使う始めなり。長袖は別なり。)
【◎(内側の小〇は□)】銭

諸道具 身ぶんさうおふのものがよしみせのどうぐハかぎるべしその外ハ○○○○○しんぼうすべし
(身分相応の物が良し。店の道具は限るべし。その外は○○○○○辛抱すべし。)

家宅 あまりひろきハあしせまきを惟なり又家ハよき家ヽ作るべしあしけれバわざわひをまねく○○から○あし
(あまり広きは悪し。狭きを惟なり。又、家は良き家々作るべし。悪しければ災いを招く。○○から○悪し)

用心 大の第一しまりハじやうぶにするがよしあんヤラハ○てまるそう〇〇て損なり
(大の○第一締まりは丈夫にするが良し。あんヤラハ○て〇也。そう〇〇て損なり)

 

女房 かヽにハまかれるよしずいぶん大事ニかくべしあしき事あらバいヽきかすべしいふ事きかねばさるべし
(かかには巻かれるが良し。ずいぶん大事にかくべし。悪しき事あらば言い聞かすべし。いう事聞かねば去るべし。)

命 千年も万年も生をふしとをもふべし死するといふ事思ふべからず金銀たまらぬなり
(千年も万年も生を不死と思うべし。死するという事思うべからず。金銀たまらぬなり)

堪忍 できぬかんにんハせぬがよしかんにんしすぎるとなんぎおこるなりい○○事ハしあんしてよくいふべし
(出来ぬ堪忍はせぬがよし。堪忍しすぎると難義起こるなり。い○○事は思案して、よく言うべし)

遊芸 おぼつる事無もし覚るならばへたがよしニ一手になるべからずゆふげいあがれバしんしやうさがるなり
(覚つる事無〇。もし覚るならば下手が良しに一手になるべからず。遊芸上がれば身上下がるなり)

不実 ものヽ○○のしやうぶすべてに事そんのはしなりとかく正直がとくなり又いやな事ハ早く即いふ惟なり
(ものの○○の勝負すべてに事損のはしなり。とかく正直が徳なり。また、嫌な事は早く即、言うが徳なり。)

 

喰物 けんやく第一なれどもくいものハ下人も主人も同じやうにすべし上よく下あしけれバ家内○○○んせずそん也
(倹約第一なれども、食いものは下人も主人も同じようにすべし。上良く下悪しければ家内○○〇んせず損なり)

酒 のむ事無用なりもしのむならバ酒にのまれぬやうにのむべししかしひるのうちハのむべからず
(飲む事無用なり。もし飲むならば酒に飲まれぬように飲むべし。しかし、昼の内飲むべからず)

桶類 おけのるいあるひハふろなどハねだんの高ひのを用ふべし安いのハくさりはやくおおそんなり
(桶の類或は風呂などは、値段の高いのを用うべし。安いのは腐り早く、大損なり。)

印判 古ル印ばん又ハ生に合ぬはんもつべからず大二そんぶ立なり名のりをたゞしてもつべし
(古印判又は生に合わぬ判持つべからず。大いに損部立つなり。名乗りを正して持つべし。)

心得 人ハ一切何事もたより二おもふべからず我身より外かたなしと思ふへしとかく銭かねを〇〇〇〇べし
(人は一切何事も頼りに思うべからず。我身より外〇かたなしと思うべし。とかく銭金を〇〇〇〇べし。)

 

下人 めしつかいの者ハわか手足と思ふへし我と下人と同じやう二身を働べし下人のつかいわが身○べからずそんのはじめ也
(召使いの者は、我が手足と思うべし。我と下人と同じように身を働くべし。下人の〇使い我身〇べからず。損の始めなり。)

下女、丁稚 下女ハふきりやうのをつかふべしあるしもかヽもししんどいすくなしでっちハふぜき二○を付べし
(下女は、不器量のをつかうべし。主もかかもしんどい少なし。丁稚はふぜき二○を付べし。)

色欲 いろ事第一つヽしむべしばい女ハひへのうれひあり下女をつまべば金のむしん何事もミなそん也
(色事、第一慎むべし。売女はひへの憂いあり。下女をつまべば金の無心、何事もみな損なり。)

商売 坂にくるまをおす之こころへゆだんなく○〇〇〇べし。其内朝ハ早くおきるべし例えば一日ニ五ト(分の崩し字)ちがへハ一月十五匁の違一年ニ百八十目の〇・・・・・・・・・・・・・○
(坂に車を押すの心得、油断なく○〇〇まるべし。其内朝ハ早くおきるべし。例えば一日に五分〇違えば一月十五匁の違、一年に百八十目の〇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・○)
【ト】分の崩し字
【目】匁

 

 

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面白古文書『吾妻美屋希』2.「諸道具寄合ばなし」

2023年07月10日 | おもしろ古文書

今回は、面白古文書『吾妻美屋希』の2回目、「諸道具寄合ばなし」です。

これまでの見立て番付と異なり、いろいろな日用道具に裏話を語らせ、日ごろのうっ憤を晴らさせようという趣向です。

取り組んでみると、予想に反して、かなりの難物でした。とにかく項目が多いです。不明の赤、多数(^^;

 

 諸道具寄合ばなし 
 
つるべがいふてゐる めうとの中か水くさい
(釣瓶が言うている 夫婦の仲が水くさい)

火ふき竹がいふてゐる くらがりて尻ねぶられる
(火吹き竹が言うている 暗がりで尻ねぶられる)

ふきのとふがいふてゐる お客がないとふミつぶす
(フキノトウが言うている お客がないと踏みつぶす)

尻しきがいふてゐる わしハおいもが大きらひ
(尻敷が言うている わしはお芋が大嫌い)【尻敷】野外で腰をおろす時下に敷く物。

とくりがいふてゐる さかさまごとのないやうに
(徳利が言うている 逆さま事の無いように)

ぬか袋がいふてゐる 首すじ計りおいやじやへ
(糠袋が言うている 首筋ばかりお嫌じゃえ)
 
どびんがいふてゐる 今ならぽぴんふいてミせふ
(土瓶が言うている 今ならポピン吹いて見せう)
【ポピン】ポッピン、ビードロ。吹きガラス製のおもちゃ。吹くと底の薄ガラスが、ペコン、ペコンと鳴る。
【見せふ】見せよう
 
まごの手がいふてゐる わしにねからちんくれぬ
(孫の手が言うている わしに根から賃くれぬ)
【根から】ねっから、まったく。
 
お市の毛がいふてゐる ゆふべのもつれといてほし
(お市の毛が言うている 夕べのもつれ解いてほし)

連ん木がいふてゐる としがよるほどちそうなる
(連木が言うている 年が寄るほど小そうなる)
【連木】すりこぎ
 
はけがいふてゐる かミがこわいとけきれする
(刷毛が言うている 紙がコワいと毛切れする)
 
石うすがいふてゐる  わしがはたらきやへそかくす
(石臼が言うている わしが働きゃへそ隠す)
【へそ】石臼で二つの丸石を組み合すための突起。回すと目立たなくなる。

火ばしががいふてゐる やもめになつてあそびたい
(火箸が言うている ヤモメになって遊びたい)

 

とりもちががいふてゐる まだはいらずがゆへぬそな
(トリモチが言うている まだ蠅入らずが結えぬぞな)
【蝿入らず】蝿帳。蠅などが入るのを防ぎ、また通風をよくするため、紗や金網を張った戸棚。
【結う】繕う 

そら豆がいふてゐる しらはの時はほめられた
(そら豆が言うている 白歯の時は誉められた)
注:そら豆のおはぐろの部分が黒くなると豆が堅くなる。それ以前、おはぐろがまだ白い時(白歯)は柔らかい。

酒の通がいふてゐる むかしのやう二おもふてか
(酒の通が言うている 昔のように思うてか)・・意味?
 
しゆびんがいふてゐる よるの六時ハ○○まゐ
(酒瓶が言うている 夜の六時は○○まい) 

盃がいふてゐる こひもむじやうもわしがせい
(盃が言うている 恋も無常もワシがせい)


生づけがいふてゐる おまへが〇やしいかヽの事
(生漬が言うている おまえが〇やしいかヽの事)
 
のぶろがいふてゐる 山でいふてもおなじ〇
(野風呂が言うている 山で言うても同じ〇)

有りあけがいふてゐる きへるやうには下女がした
(有明が言うている 消えるようには下女がした)
【有明】有明行灯。枕元に置いて、夜明けまで灯し続けた行灯。

毛ぬきがいふてゐる 此八の字がどふなろふ
(毛抜きが言うている 此の八の字がどうなろう)
 
馬がいふてゐる しかでかぐらを上ケてミせふ
(言うている 鹿で神楽を上げてみせう)・・意味?

木魚がいふてゐる 胎がなにかやけつたいな
(木魚が言うている 胎が何かやけつたいな)
 
ふとんがいふてゐる まいばんわしがきヽづらい
(布団が言うている 毎晩わしが聞きづらい)
 
せつたのかねがいふてゐる せめて一度ハ世にでたい
(雪駄の金が言うている せめて一度は世に出たい)
【かね】後金。雪駄の底につける金具。

布ふろしきがいふてゐる しハのばすまもないこのミ
(布風呂敷が言うている 皺伸ばす間もないこの身)

 

車よけがいふてゐる たひがほどけりやちんぽミる
(車よけが言うている 足袋がほどけりゃちんぽ見る)
【車よけ】江戸時代、敷地の角などに置かれた石

茶だいがいふてゐる こひの手引を二度さした
(茶台が言うている 恋の手引きを二度さした)
 
ひびぐすりがいふてゐる きうぎんきけハきのどくな
(ひび薬が言うている 給銀聞けば気の毒な)
【給銀】給金

とびがいふてゐる とほ目がきいてゑようする
(鳶が言うている 遠目が利いてゑようする)

けぬきがいふてゐる ようもないのにこしつかふ
(毛抜きが言うている 用も無いのに腰使う)
 
こたつがいふてゐる ワしが仲人してあげた
(炬燵が言うている ワシが仲人してあげた)

わらばいがいふてゐる 冬ハゐんきにをもりしてる
(藁灰が言うている 冬ハ陰気にお守りしてる)

ちんほがいふてゐる こちのとなりの御もんつき
(ちんほが言うている こちの隣の御紋付)・・意味? 

釣りかんばんがいふてゐる いた〇てこちやしつたかい
(釣看板が言うている いた〇てこちやしつたかい)

竹しやうぎがいふてゐる しりつめるのもできごころ
(竹床几が言うている 尻詰めるのもでき心)
【竹床几】竹で作った縁台。三四人で腰かけて涼む。

きき徳利がいふてゐる とんと土俵てあふこヽろ
(きき徳利が言うている とんと土俵で会う心)

からかさがいふてゐる ふるになつてもぬれがきく
(唐傘が言うている 古になっても濡れがきく)

犬はりこがいふてゐる 月に七日ハおれもねる
(犬張子が言うている 月に七日は俺も寝る)・・意味?

きせるがいふてゐる のどがつまるとやけとさす
(煙管が言うている 喉が詰まると火傷さす)

とく里がいふてゐる おれがじぎせにやはてがない
(徳利が言うている 俺が辞儀せにゃ果てがない)

たこがいふてゐる 若い入ばかきのどくな
(蛸が言うている 若い入歯が気の毒な)

そろばんがいふてゐる 用事すむとなげらるヽ
(ソロバンが言うている 用事が済むと投げられる)

かうせんがいふてゐる たま/\でるとはぢをかく
(香煎が言うている たまたま出ると恥をかく)・・意味?

てつぽうがいふてゐる でるときひとに目をふさぐ
(鉄砲が言うている 出る時人に目をふさぐ)

風の神がいふてゐる わしがきらへハ金だらい
(風の神が言うている わしが嫌いは金盥)

ふんどしがいふてゐる かねのおになりや根元カまれる
(褌が言うている 金の鬼なりゃ根元噛まれる)

つけ木がいふてゐる なんのおいどに花があろ
(つけ木が言うている 何のおいどに花があろ)・・意味?
【つけ木】付木(つけぎ)。杉や檜などの薄い木片の端に硫黄を塗りつけたもの。火を移し点じる時に用いた。

げびつがいふてゐる 十夜袋がおそろしい
(下櫃が言うている 十夜袋が恐ろしい)
【下櫃】米びつ
【十夜袋】秋の十夜法要に、檀家に配られる袋。それに新米を入れてお供えをする。

まきがみがいふてゐる こひしい度にみじこなる
(巻紙が言うている 恋しい度に短こなる)

筆のさやがいふてゐる わしも少しハきれ物じや
(筆の鞘が言うている わしも少しは切れ者じゃ)

野つぼが いふてゐる おり/\わしをふろにする
(野壷が言うている 折々わしを風呂にする)

しつが穴がいふてゐる もらひまつりがミてミたい
(しつが穴が言うている もらい祭りが見てみたい)

せんち虫がいふてゐる こちやれきくのお○○
【せんち虫】便所のうじ虫

 

 

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面白古文書『吾妻美屋希』1.「當世人情へんねし穴盡」

2023年07月05日 | おもしろ古文書

久しぶりに面白古文書です。

11.9㎝x17.9㎝、23丁。江戸時代後期。

非常に珍しい本です。

これまでにもいくつか紹介してきた、面白瓦版を集めて冊子にしたものです(実際は、版を改めています)。『吾妻美屋希』との題ですから、江戸みやげだったのでしょうか。

一枚刷りの面白瓦版よりも相当小さいので、小回りがききます。そのかわりに字が小さく、読むのに苦労します。

23種ほどの面白瓦版(主として、見立て番付)が載っています。順に紹介していきます。小さい字で不鮮明な箇所も多く、これまで以上の難義が予想されます(言い訳尽くし(^^;)。解読できない部分()のオンパレードになりそうですが、ブログ読者のアドバイスを、よろしくお願いします(^.^)

今回は、『當世人情へんねし穴盡』です。

上段(東の方?)と下段(西の方?)、それぞれについてみていきます。

上段:

上段前半:

當世 人情へんねし穴盡 
【へんねし】ねたみうらやむこと。
 
大関 しまいかたにのるとミな上手なゐしやじやとしろふとハおもふてゐるといふ去年まであんまでゐた人
しまいかたにのると皆、上手な医者じゃと素人は思ふていると言ふ去年まで按摩でいた人)

関脇 遊所で名高いつかひてをよつほどしにかねをつかふひとじやといふちいとばかりかねつかふてすいがつてゐる人
(遊所で名高い使い手を、よっぽど死金を使う人じゃと言ふ、ちいとばかり金使ふて粋がっている人)

小結 町かたのいとさんがげいこさんととりちがへるやうなけつく色町がいまでハといふ仲居やくわしや
(町方のいとさんが、芸子さんと取り違へるようなけつく色町が、今ではと言ふ仲居や詳しや)

前頭 しやうたくのねこを井戸ハたでくらわしているきんじよのことふれかヽ
(妾宅の猫を井戸端で喰らわしている近所の言触れ嬶)

同 なんぼよいなりをしたかきをおごつてもあのしやうばいハさがりじやといふしゆミたれた人
(なんぼ良い成りをし、高きを奢っても、あの商売は下がりじゃと言うしみたれた人)

同 堂嶋の人ハあかぬけハしてもたいこもちミたやうで上下モハにあわぬと言ふんどしのきたないかねかしの手代
(堂島の人は垢抜けしても、太鼓持ちみたようで、裃は合わぬと言ふフンドシの汚い金貸しの手代)

 

上段後半:

同 後家になつてからやつとはでにならしやつたあれでハ内のためにわるかろふといふ同行の佐平次
(後家になってから、やっと派手にならしやった。あれでは内のために悪かろと言ふ同行の佐平次)

同 さミせんやまひのさとへ謙々でるやつハなめくさりてうかめた男がおヽいといふ浄るりで〇かくふ人 (三味線病のさとへ謙々出るやつは、舐め腐りてうかめた男が多いと言ふ浄瑠璃で〇かくふ人)

同 他人どしあまりねんごろにするとしまひハらちもないことがある物じやといふつきあひのない人
(他人同士あまり懇ろにすると、終いは埒もないことがあるものじゃと言ふ付き合いのない人)

同 とミんとすればじんならずじやといふていへぬしの内福をそしるそどくしなんのなんじゆなじゆしや
(富んとすれば仁ならずと言ふて、家主の内福を誹る素読指南の儒者)
【内福】うわべよりも内実が裕福であること。
【素読】漢文の意味、内容は二の次とし、文章を暗唱するように読むこと。江戸時代に流行った。

同 からやうをミていしやのやうな手しやよつてまるでよめぬといふもんもうの人
(唐様を見て、医者のような手じゃ、よってまるで読めぬと言ふ文盲の人)
【唐様】楷書、隷書、篆書などの 中国風の書体。特に、江戸時代の知識人の間で流行した

同 おとわやより友三が地でハおとこがよつほどかミじやといらぬせわやく不おとこな人
(音羽屋より友三が地では男がよっぽど上じゃ、と要らぬ世話をやく不男な人)
【音羽屋】江戸歌舞伎を代表する名家、尾上家、坂東家の屋号。二枚目。
【(中村)友三】大阪の名道化役。三枚目。  
 

下段:

下段前半:

大関 りつはなふしん見てありやほんまにかねハないのじや山じやげなといふかひしやうなし
(立派な普請見て、ありゃホンマに金はないのじゃげな、と言ふ甲斐性無し)

関脇 ながやへ来たよい女ほうをありやどこやらでほかこひしてゐたげなといふふきりやうなかヽしゆ
(長屋へ来た良い女房を、ありゃどこやらで外恋していたげなと言ふ不器量なかか衆)

小結 もうくわいたいなもしらずあのやうしハむすめがきらふてゐるげなといふおとこがつた人
(もう懐胎、なも知らず、名も知らず(<=Dr.Kさんのsuggestion)。あの容姿は娘が嫌ふているげなと言ふ男がった人)

前頭 みなミの薬やでもかまわずやくしやハありやかわらこじきじやといふはそくのたまつたわかい人
(ミナミの薬屋でもかまわず、役者はありゃ河原乞食やと言ふ歯糞のたまった若い人)

同 門頭さんハゑらい身持かわるいげな一かうぼうずのしよさいないげなといふ他家のらうじん
門頭さんはえらい身持が悪いげな、一こう坊主の所在なげな、と言ふ他家の老人)

同 ちいとよいなりをする女子衆を見てありやだんながつまんでゐるげなといふきんしよの人
(ちいと良い身なりをする女子衆を見て、ありゃ旦那がつまんでいるげなと言ふ近所の人)

 

下段後半:(2つ目の項目から)

同 おきに入りのかうぐやをてきの代ものハ高いげなといふだい所で女子しゆにふられた手代
(お気に入りの香具屋をてきの代物は高いげなと言ふ台所で女子衆に振られた手代)

同 評判のむすめをきずいなといふてあまつさへ〇〇にこつてゐるげなといふ色のきかぬ人
(評判の娘をきずいなと言ふて、あまつさへ○○にこっているげな、と言ふ色のきかぬ人) 【きずいな】わがままな。

同 かけかまわぬ人がげいこにこつてゐるのをありやだまされて居るのじやといふ茶やの喋しらぬ人
(掛構わぬ人が芸子に凝っているのを、ありゃ騙されているのじゃと言ふ茶屋の喋知らぬ人)
  【掛構わぬ】関心のない

同 じつの子もないにあのやうにかねのばしてしまひハどうするつもりじやといふびんほうな人
(実の子もないに、あのように金のばして終いはどうするつもりじゃと言ふ貧乏な人)

同 おなごの子にゆうげいをおしゆるとミないたづらになるといふむげいな娘をもつた人
(女子の子に遊芸を教ゆるとみないたずらになると言ふ無芸な娘を持った人)
【徒(いたづら)】無駄。

同 はやりものをはやう仕たりきたりするのハちよう/\しいのじやといふしミたれのぜになし
(流行り物を早う仕(立)たり着たりするのは喋喋しいのじゃと言ふしみたれの銭無し)
【 喋喋しい】おおげさな。
  

 

 

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