遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

立原杏所『水墨淡彩 飛瀑逐牛図』

2024年11月08日 | 文人書画

水戸藩の武士、立原杏所の淡彩画です。

全体:35.9cm x141.5㎝、本紙(絹本):25.0㎝x64.8㎝。江戸後期(文化7年)。

【立原杏所(たてはらきょうしょ)(天明五(1785)年ー天保十一(1840)年)】水戸生れ。彰考館総裁立原翠軒の長男。名は任。字は子遠、公遠など。杏所は号。文武両道に秀でた人格者。徳川斉昭の信頼が厚かった。絵を谷文晁に学び、渡辺崋山、椿椿山とも親交があった。関東南画檀の中心。大正・昭和初期の詩人、建築家、立原道造は子孫。

繊細な筆使いで、雄大な山水画が描かれています。

特徴的な巨岩。

温かみのある人物と牛。

作者の落款と印章。

奇怪な構図の作品ですが、緊張した画面の中に、静かな透明感が感じられる不思議な絵です。

この作品には、鑑定家、西村南岳の箱書きがあります。

このようなものは、あまり頼りにならないのですが、南岳の箱書きは比較的信頼がおけます。

さらに、この品には、鑑定家、中野雅宗の鑑定書がついています。こういう鑑定書は、いかにも怪しげ(^^; 

しかし、今回は少し事情が異なります。

中野雅宗によれば、この飛瀑逐牛図は、立原杏所、26才の時の作品とのこと。「明ノ上州ノ勝景図二倣ヒ、之二逐牛ヲ配ス、近景の断崖、落葉樹ハ晩秋ノ季節ヲ現ワシ、主山の巨巌ハ杏所独自ノ天造二シテ画興深々タリ、・・・・」と作品を評しています。

文人画の系譜に入る絵だと思います。

中野雅宗は、「杏所先生遺墨顕彰会」を主宰していて、その第11号に登録されているのがこの品です。

さらに、彼は、『日本書画鑑定大事典』(図書刊行会、2011年)全10巻を著わしていています。一巻が600頁余の大部、印影(朱色)落款約58000、写真千点以上にも及ぶ膨大な鑑定書です。偽印も対照されているので、私は図書館でよく利用します(定価が30万もするので、さすがに自前では無理(^^;)

立原杏所の項目に、今回の落款と印章が載っています。

左下の「立原任公遠作(26才)」。

上段左から二つ目「立原任印」と下段左端「杏所」

今回の品は、大著『日本書画鑑定大事典』の一部を担っているのですね。

贋物が多い立原杏所の作品ですが、今回の品は何とかいけそうです(^.^)

コメント (6)
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