九谷焼の大皿です。いわゆる明治九谷です。
武将が二人、描かれています。
径 35.6㎝、高 6.5㎝、高台径 21.2㎝。明治時代。
裏の唐草模様は、江戸時代のものと趣が異なります。
銘も、明治期に特徴的な書き方です。
この皿の特徴は、何といっても絵付けです。
二人の武将が描かれています。
合戦の最中です。矢が飛んで来ています。
槍をもった武将が、相手を倒したところです。
槍で体を支え、相手を踏んずけています。
勝者のはずですが・・・・・
沈んだ表情です。
兜は失われ、肩には、折れた矢が刺さっています。矢が刺さったまま奮闘したのでしょう。
初老の男は、何を思っているのでしょうか。
武具なども、非常に精細にえがかれています。
この皿は、負けた方の男にも特徴があります。
勝者と同じくらい、精緻に描かれているのです。
まだ生きているのでしょうか。足の描写がリアルです。
よく見ると、足指の爪には白釉を塗っています。
曽我蕭白を思わせるような描き方です。
九谷焼は、明治に入って大きく発展しました。その特徴は、色絵付けです。色釉を縦横に駆使して、華やかな陶磁器を大量に生産しました。輸出向けの製品も多くありました。
大量に焼かれた明治の九谷焼ですが、現在の評価はあまり高いとはいえません。通俗的な画題が多く、明治という時代が遠ざかるにつれ、かえり見られることも少なくなりました。
そんな中で、今回の品は異質です。あの明治の華やかな雰囲気が微塵も感じられないのです。輸出には向いていません。では、国内向け?
描かれているは、何かの物語の一場面でしょうか。
組み敷かれているのが若者のようにも見えます。だとすると、熊谷直実が平敦盛を討ち取った場面でしょうか?
絵画はもちろん、陶磁器にも、このような描き方の合戦絵は見たことがありません。戦いにおける人間描写が見事です。
もしやと思い、5枚目の写真を、180度回転して見ました。
見事に立場が逆転しました(皿の向きを変えても同じ(^^;)。
戊辰戦争など維新動乱の記憶がまだ生々しかった時期に作られたこの皿は、戦いには勝者も敗者もない、ただ悲惨な現実があるだけだと語りかけているようです。