鎌倉彫りの大きな文庫です。
縦 33.2㎝、横 26.8㎝、高 12.8㎝。大正―昭和。
蓋には、特有の鑿跡を生かして、小鼓がダイナミックに彫られています。
木胎に彫りを施した上に朱漆を塗ってあるので、日本流の堆朱の一種とみなすことができます。凹部が少し黒みがかっていて、立体感を強調しているのも特徴です。
底と内側は黒漆塗りです。
高さのある大型の文庫ですから、書類などをいっぱい入れると相当の重さになります。
こういった品は一般に華奢な造りが多いのですが、鎌倉彫りは彫りのダイナミックさとともに、堅牢さが特徴です。今回の文庫も、使用にたえる実用品です。また、箱は当然木を組み合わせて作られているのでしょうが、蓋などは、あたかも刳り抜きで造られたかのように見えます。
鎌倉彫りのウリは何といっても彫りです。
小鼓に桜散る図は日本人好みですね。
3-4mmほどの厚さの彫りですが、それ以上深い彫りに見えるのが鎌倉彫りの妙です。
この小鼓紋をよく見ると、掛け紐をゆるめて胴をはずしかかったところであることがわかります。小鼓は、使用したら、胴から皮をはずした状態にしておきます。皮を守るためです。舞台や絵画で見る小鼓(胴に皮がセットされた状態)は一時の姿なのです。ただ、この状態の小鼓は絵になりますから、このほうが一般にはポピュラーです。なので、皮のはずし際を捉えた模様は大変少ないです。私も初めてです。なかなかニクイ意匠です(^.^)
となると、この文庫は小鼓に使っているかというと・・・
笛(能管)の唱歌(楽譜)を入れています。
能管をデザインした工芸品は大変少ないのでやむを得ず(^^;
次回以降も、能関係の漆器などの木製品を紹介します。