今回も癋見(べしみ)です。時代は古いです。
幅16.6㎝ x 長23.2㎝ x 高8.2㎝。重 207g。室町時代。
木彫の上に胡粉を塗り、朱に彩色されています。さらに、所々に黒で毛描きがなされています。木が枯れていて、大きさの割には軽いです。
眼光鋭いですが、
怒りよりは、威厳をたたえた表情です。
左目の端に孔があけられていますが、理由は不明です。
眉、口髭、顎髭が墨で描かれています。目も、黒で縁どられています。
非常に大きな鼻先が、スパッと削られています。
今回の古面は、私の持っている面の中で、資料的には一番貴重な物だと思います。
それはひとえに、面の裏の墨書きのためです。
上州 永享
秋葉山 庚戌
三月
御寶前
大權現
政次郎
本人
永享二(庚戌、1430)年三月、 上州(群馬県)の秋葉山大権現(秋葉神社)に、政次郎なる人物が奉納した面であることがわかります。
上州には、14もの秋葉神社があるので、どの社かははっきりしませんが、この品によって、室町時代の奉納面の一様式がわかります。
秋葉神社は、火伏信仰とともに、天狗が祀られていることで有名です。
ですから、今回の品は、癋見(べしみ)面のうちの天狗面と考えて良いでしょう。
鼻が削られているので、よく知られている天狗のように長い鼻なのか、これまで見てきた癋見(べしみ)と同じく、大きめではあるけれど長くはない鼻なのか、どちらなのかはわかりません。
しかし、状況証拠から、この面は、これまで紹介してきた癋見(べしみ)と同じタイプの面と考えられます。
1)秋葉信仰における天狗は、元々、鼻の短い烏天狗であったらしい。
2)能(室町時代に確立)では、天狗の役者が癋見(べしみ)を被る。
3)長い鼻の天狗が一般的になったのは、江戸時代に入ってから。
それにしても、見事なまでにスパッと削られた鼻です。
かつては、鼻削りの神事があったのでしょうか?