遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

能画16.英一蝶『鉢木』

2022年06月27日 | 能楽ー絵画

同じような古面ばかりが続きましたので、気分を変えて、能画シリーズに戻ります。

全体、88.9㎝x148.5㎝。本紙(絹本)、83.2㎝x56.9㎝。江戸中期。

江戸時代の絵師、英一蝶の落款、印がある掛軸です。

【英一蝶】承応元(1652)年~享保九(1724)、江戸中期の画家。狩野安信に学び、後に、浮世絵風の軽妙なタッチで都市風俗を描いた。また俳諧を松尾芭蕉に学び、諸芸にも通じた。1698年幕府の忌諱にふれて12年間三宅島に流罪の後、英一蝶と改名。    

描かれているのは、能『鉢木』の一場面です。能画としては、舞台ではなく、情景を描いたAタイプの絵です。

【あらすじ】ある雪の夜、上野(コウズケ)の佐野に着いた旅の僧が、(佐野源左衛門)常世の住む貧屋に宿泊を請う。いったんは断った常世だが、妻の言葉を受け入れて僧を連れ戻り、粟の飯をすすめ、秘蔵の鉢植えの梅、松、桜を火にたいて、精いっぱいの歓待をする。常世は、一族の横領にあってこのように落ちぶれているが、もし鎌倉に事が起きたら一番に駆けつけて命を捨てて戦う覚悟だと話す。翌朝、旅僧はなごりを惜しんで家を去る。
 後日、鎌倉から諸国の武士に召集がかかる。常世もやせ馬に乗って駆けつけると、例の旅僧は前執権の最明寺入道時頼で、常世の言葉に偽りがなかったことを賞し、鉢の木のもてなしに報いるためだと言って、梅田、松枝、桜井の三荘を与える」(『能狂言事典』平凡社)

旅僧に身をやつして諸国行脚をする北条時頼のために、落ちぶれた武士佐野常世が、大切に育ててきた盆栽の、梅、松、桜を切りくべて、雪の夜、暖をとろうとする場面を、英一蝶らしい温かな筆致で描いています。この場面は、謡曲では「薪の段」とよばれ、広く親しまれています。

【薪の段 】仙人に仕えし雪山の薪。かくこそあらめ。我も身を。捨人の為の鉢の木。切るとてもよしや惜からじと。雪打ち払いて見れば面白やいかにせん。まづ冬木より咲きそむる。窓の梅の北面は。雪封じて寒きにも。異木よりまづ先立てば。梅を切りやそむべき。見じという人こそ憂けれ山里の。折りかけ垣の梅をだに。情なしと惜しみしに。今さら薪になすべしとかねて思ひきや。櫻を見れば春ごとに。花少し遅ければ。この木や侘ぶると。心を尽し育てしに。今はわれのみ侘びて住む。家櫻切りくべて火櫻になすぞ悲しき。さて松はさしもげに。枝をため葉をすかして。かかりあれと植え置きし。そのかい今は嵐吹く。松はもとより煙にて。薪となるも理や切りくべて今ぞみ垣守。衛士の焚く火はおためなりよく寄りてあたり給えや。

降りしきる雪の中、秘蔵の盆栽を伐ろうとしている佐野常世。

その常世をながめている旅僧、北条時頼。

白黒を基調とした絵が、しんしんと降り積もる雪と、その中での二人の心の通い合いを浮かび上がらせます。

松や衣服の模様には、地味な色がさされています。

旅僧の頭巾、袈裟に色。

目立たないですが、笹葉にも薄く彩色がなされています。

しっかりとした描線や淡い色使いなどは、狩野派を学んだ英一蝶らしい表現だと思います。

しかし、英一蝶は江戸時代から人気のあった作家だけに、贋物が非常に多いことでも有名です。実際の所、この絵の真贋はわかりせん。

落款と印章からすると、グレーか?(^^;

この絵をよく見ると、左上に馬がいます。

いざ鎌倉に際して、佐野常代が、ボロの具足(絵の右上)を身にまとい、痩せ馬に乗って馳せ参じる時の馬です。

馬の表情が何とも言えません。

英一蝶は、時として、動物を擬人化して描くことがあったという・・・ひょっとしたら期待できるかも(^.^)

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする