近世日本の書聖と言われた江戸後期の書家、貫名海屋の漢詩文です。
全体40.4㎝x165.3㎝(軸先含まず)、本紙27.3㎝x105.8㎝、紙本、幕末。
貫名海屋(ぬきなかいおく(安永七(1778)年ー文久三(1863)年):阿波生。江戸後期の儒者、画家、書家。京都で活躍。市河米庵、巻菱湖とともに、幕末の三筆と呼ばれた。近世の日本の書に大きな影響を与えるとともに、南画家としても活躍した。
作品は、自作漢詩、「題山水図」(山水の図に題す) からの一文です。
垂楊湾外雨初晴
一夜春江新漲声
試倚層軒看曉色
漁人艇麹塵行
垂楊湾外、雨初めて晴れる
一夜春江、新漲の声
試に層軒に倚り、曉色を看る
漁人艇、麹塵を行く。
垂楊:垂れた楊(やなぎ)、新漲:新しく漲る、倚:依りかかる、層軒:軒を重ねる様、曉色:夜明けの景色、麹塵行:酒を飲みながら行く。
七絶としては未完成ですし、後世に残されたものと少し異なります。詩作途中の書でしょうか。
貫名海屋は、晋・唐の法帖の臨書に励み、また空海など平安期の名跡を多く学んで、唐晋風と呼ばれる高雅で流麗な独特の書体をものとしました。
今回の品には、その書風がよく表れていると思います。
この書には、「脱倣写 海屋生」とあります。ですから、今回の品は、貫名海屋が、それまでの日本の書の様式から脱皮して、新たな様式を打ち立てようとする気概が溢れた物と言えるでしょう。