遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

祝!故玩館開館15周年! 伝寂連 小野切 『和漢朗詠集断簡 紅葉』

2024年10月28日 | 文人書画

先日、コロナで御無沙汰だった友人が訪ねてきて、「故玩館も15年目ですね」と言われ、ビックリしました。バタバタしているうちに、15年もたってしまっていたのです。振り返ってみれば、10年目はコロナの真最中、それどころではありませんでした。

そこで、15周年をブログで祝うことにしました。

選んだのがこの一幅です。

全体:46.1㎝x143.3㎝、本紙:16.3㎝x26.4㎝。

古筆切とよばれる品です。

自身も能書家であった京大教授吉沢義則博士の箱書きがあります。

室町時代以降、公家、大名、新興富裕層などの間で、古人の名書を、手許へ置いておきたいとの願望が強くなりました。しかし、名品には限りがあります。そこでやむなく、古筆巻子などを切り取り、その古筆切を、蒐集、保存するようになりました。このような古筆切は、数千にのぼるといわれています。

現在は、その大半が、博物館・資料館や数奇者のもとにおさまっています。

古筆切は、特に、茶の湯で珍重されます。

 紅葉
不堪紅葉靑苔地 又是涼風暮雨天 白 
黄夾纈林寒有葉 碧琉璃水浄無風 白 
洞中清浅瑠璃水 庭上蕭条錦繍林 保胤
外物独醒松澗色 余波合力錦江声 山水唯紅葉 
しらつゆもしくれもいたくもるやまは
したはのこらすいろつきにけり 貫之
      モミジシニケリ
むら/\のにしきとそみるさほやまのはゝ
そのもちきりたたぬまハ 清正

 

 紅葉
不堪紅葉靑苔地  
又是涼風暮雨天  
(「秋雨中贈元九」白居易)
堪へず紅葉、青苔(せいたい)の地
またこれ涼風、暮雨(ぼう)の天

青苔の生えた地に紅葉が映えて、何とも言えない景色だ。また冷風が吹いて、暮れ行く空に雨までも降りそそぐ風情は、さらに心にしみる。

黄夾纈林寒有葉  碧琉璃水浄無風
 (「泛太湖書事、寄微之」白居易)
黄纐纈の林は寒くして葉あり
碧瑠璃の水は浄(きよ)くして風なし

黄色の纐纈染のように紅葉した林は、寒さのなかに、葉を残している。紺碧に澄みきった湖水は、瑠璃のような碧色で、浄らかな水面には風も吹いていない。


洞中清浅瑠璃水 庭上蕭条錦繍林
(「翫頭池紅葉」慶滋保胤)
洞中には清浅たり瑠璃の水。
庭上には蕭条たり錦繍の林。

洞の中には瑠璃のように青く清い水が浅く流れている。庭先には錦繍のように美しい紅葉の林が広がる。

外物独醒松澗色 余波合力錦江声
(「山水唯紅葉」江以言)
外物の独り醒めたるは松澗の色
余波の合力するは錦江の声

樹々は皆紅葉して酔っている如くだが、紅葉以外では谷間の松が酔わずに独り醒めている。

樹々は皆紅葉して酔ったようだが紅葉以外のものでひとり酔っていないのは谷間の松の色だけだ。谷川の波までも、錦江で錦を晒す音に声をそえている。 
錦江(きんこう):蜀の人が錦をさらした川。

守山の陲(ほとり)にて詠よめる【家集 813】
白露も時雨も甚(いた)く守山(もるやま)は下葉殘らず色づきにけり 
紀貫之

 題不知【俊成三十六人歌合 075】
叢叢(むらむら)の錦にとぞ見みる佐保山の柞(ははそ)の紅葉切り立たぬ間は
藤原清正
柞(ははそ):ナラ、クヌギ類の総称。

今回の品は、『昭和古筆名葉集』に、寂連法師(建仁二年七月四日)による古筆切として記述のあるものです。

〇小野切 朗詠集歌二行書上下墨罫コノ文切秋興ヨリ佛名迄

田中塊堂編『昭和古筆名葉集』京都鳩居堂、昭和23年。

【寂蓮(じゃくれん)】保延五(1139)年? - 建仁二(1202)年。平安時代末から鎌倉時代初期にかけての歌人、僧侶。藤原俊成の養子。俗名、藤原定長。西行、定家と並び称される。

古筆とは、平安時代から鎌倉時代にかけて書かれた和様の名筆をさしています。そして、古筆をいくつかに分けた断簡には、伝承筆者名が付されています。しかし、現在では、その多くが不確かなものとされています。この問題に正面から挑んだ論文は、「奈良、平安時代の古筆の殆んど全部と、鎌倉、南北朝、室町時代以降の古筆切にあっても、そのすべての約三分の二程度の古筆切は、書格比定の方法によって筆者を極めたらしいものであることが推定された」と結論付けています(木下政雄「古筆切における筆者伝称と書格の表示について」京都国立博物館学叢, 15巻、113‐125、1993年)。書格比定法とは、九品法という中国の書品鑑定法にならって、日本の能書を鑑定する方法です。現在の筆跡鑑定法からすると、否定される場合が多いのです。

特に、自署の慣習がなかった平安、鎌倉時代には、基準となる真筆が非常に少なく、古筆筆者の特定は困難です。寂然の場合、現在、真筆とされるのは国宝の2点のみ。

今回の品も含めて、書体が字(特に、漢字)間を繋がない古筆が、「伝寂連筆」とされているようです(^^;

茶の湯を嗜む心得のない遅生ではありますが、まぼろしの寂連で、故玩館15周年を祝ってみました(^.^)

コメント (14)
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