遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

村瀬秋水『水墨淡彩 寒江獨釣図』

2024年12月24日 | 文人書画

江戸後期の文人画家、村瀬秋水の水墨山水画です。

全体:41.6㎝x192.5㎝、本紙(紙本):39.8㎝x137.5㎝。江戸時代後期。

【村瀬秋水】(寛政六年(1794)年ー明治九年(1876)年)美濃國武儀郡上有知(こうずち)村(現、岐阜縣美濃市上有知)の大庄屋の生れ。江戸時代後期の南画家。頼山陽の高弟であった兄、藤城とともに、家業に従事。兄の死後は、美濃の山中に隠棲し、画仙と称して画業に専念し、枯淡の作品を多く残した。

厳しい冬の山河。

静まり返った川面に小さな釣船が一艘。

静寂の冬景色の中で、蓑傘の釣師は自然のなかに溶け込んでいます。

実はこの絵は、古来から描かれてきた有名な画題、『寒江獨釣図』です。

そして、『寒江獨釣図』は、唐の詩人、柳宗元の詩「江雪」に基づいて描かれています。

今回の品には、村瀬秋水がその詩を讃として掛軸上部に書いています。

七言絶句「江雪」
千山鳥飛絕
万徑人蹤滅
孤舟蓑笠翁
獨釣寒江雪

千山、鳥飛ぶこと絶え
万径、人蹤滅す
孤舟蓑笠の翁
独り釣る寒江の雪

千山;多くの山々
万径;多くの道
人蹤(じんしょう);人の足跡。人の往来。

すべての山から鳥の飛ぶ姿が絶え、
あらゆる小径には人の足跡が消えた。
一艘の小舟に、蓑笠をまとった老人が一人、
降りしきる雪の中で釣り糸を垂れている。

村瀬秋水は、今回の作品だけでなく、他にも『寒江獨釣図』をいくつか描いています。彼の愛した画題だったのですね。

今回の水墨画は、冬の長良川、特に、美濃市~関市辺りの情景を想い起させます。美濃の山奥に隠棲して書画三昧の生活をおくっていた村瀬秋水にとって、この絵は、彼の心景であるとともに、眼前に広がる真景でもあったのではないでしょうか。

 


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8 コメント

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遅生さんへ (Dr.K)
2024-12-24 10:02:33
村瀬秋水という方を知りませんでした(~_~;)
頼山陽に連なる人物なのですね。
どこか、雪舟を思わせる作風ですね(^_^)
今の時期の、閑寂とした光景が漂いますね。
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Unknown (クリン)
2024-12-24 10:37:32
きびしくも美しい雪景色の中、ひとり船を進める・・
っていうシチュエーションが、グッときますよね💎⤴
作者がこの画題を好きなの、わかります💡
そして、じっさいこの季節の川で何のお魚を釣っていたのかな~なんてことも気になりました🐟
(雪舟っぽいタッチであることをここに書こうとしたのにDr.Kさまに先を越されてしまい、ちょっとざんねんに思いながらも同じことに気が付けてうれしいクリンより🐻💛✨⤴✨)
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Unknown (ぽぽ)
2024-12-24 11:37:21
遅生さんへ
ご当地画家さんなのですね!
この季節にぴったりな掛け軸ですね。
我が地方では雪が降りしきりまさにこの水墨画のようです。笑
それにしてもというかやはりというかとにかく漢詩なのですね。もう少し勉強しておけば良かったです。遅生さんの解説のおかげでなんとか理解できます(^^)
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Dr.Kさんへ (遅生)
2024-12-24 12:44:11
今ではほとんど顧みられることはありませんが、江戸後期から幕末にかけて、美濃では南画が盛んになりました。中心は、以前にブログで紹介した大垣の梁川星巌・紅蘭夫妻、江馬細香、小原鉄心、さらには原三渓の祖父、高橋杏村などと、東濃の村瀬一族です。そのうち多くは頼山陽と交流があったのも興味深いです。
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クリンちゃんへ (遅生)
2024-12-24 12:50:55
時節に合った絵ですね。
昔はこの辺りへもよく釣りに行っていたので、懐かしいです。
おっしゃる通り、冬は魚が活発でないので、釣りには向きませんが、それでも釣糸を垂れたいのが、哀しい釣人のサガです(^^;
この状況で狙えるのは、寒鮒や寒鯉でしょう。脂がのっているので、味は絶品です(^.^)
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ぽぽさんへ (遅生)
2024-12-24 13:08:48
ぽぽさんの所は、「雪が降りしきりまさにこの水墨画のよう」なのですね。
とても風情がありそうです。
休みの時に、ぼやっと外を眺めていると気分が落ち着いて、文人の境地に浸れるでしょう(^.^)
私も漢文は大の苦手でした。
でも世界を雄大に語るには、漢詩が向いているなあと感じています。
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Unknown (tkgmzt2902)
2024-12-25 07:04:17
漢詩を見て、心が震えるほどの寂しさを感じました。
山水画の小さな人物の挿入はよく見ますが、今度からはこの漢詩を頭に鑑賞の視点が変わります。
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tkgmzt2902さんへ (遅生)
2024-12-25 09:22:44
今年のように冬が厳しいと、このような情景がリアルに感じられますね。
漢詩は大の苦手ですが、大自然などとの交わりを詠むには漢詩がピッタリだと思います。
バタバタした日常を脇に置いて、こういう漢詩をふと口ずさむと、唐の時代の人々と交感できますね。
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