数多くの能のなかで、人気のあるものは限られます。しかし、それでも数十番はありますから、謡いもそれだけの数が普通に嗜まれるわけです。ですから、コンパクトで持ち運びに便利な番綴り本が各種発行されてきました。
先回は、江戸時代の番綴り本をいくつかとり紹介しました。
では、明治以降の番綴り本はどのような物なのでしょうか。少し整理して、数回に分けてアップします。
また、一曲のなかで謡いどころの短い部分だけを集めた小謡本については、別に書きたいと思います。
今回は、現行の謠本を集めた『観世流謡曲百番集』です。
11x16㎝、厚さ3㎝。平成13年刊。
謡が、百余曲入っています。
一番綴りの謠本、100冊と比べると、どれほどコンパクトか、実感がわきます。
少し大きめのポケットなら、すっぽり入ります。
本を開くとまず、観世流謡曲等級季節表がまずあります。
見ずらいですが、謡いの各曲それぞれを、1月から12月各月に分け、さらに、難易度によって、5級ー1級に分類し、さらに高度な曲は、準九番習、九番習へ、最上級は重習となります。「勧進帳」「石橋」「道成寺」「砧」などは重習いとなります。この表によって、曲の季節と難易度がわかります。
次に目次です。ずらりと曲が並んでいます。
そのうちで、例えば、「弱法師」を開くと、
一番綴り本より、少し字は小さいですが、十分に使えます。
このシリーズには、続編があります。『観世流謡曲續百番集』です。
大きさは、『観世流謡曲百番集』と同じ。百番集以外の謡曲、百十余曲が掲載されています。
この2冊で、現行の能のほとんどはカバーされます。
『観世流謡曲百番集』
『観世流謡曲續百番集』
非常に便利です。
謡や囃子の会、あるいは能楽会館の客席で、この百番集をもっている人は、ベテランかもしれません。「お主できるな!」という感じです(^^;
でも、お金を払えば誰でも買えます。問題は、非常に高価なこと。2冊で、福沢諭吉先生が4人以上(^^;
2冊の百番集は、現行観世流謠本大成版を凝縮した物です。
元となる一番綴り本、『弱法師』を見てみます。
まず、作者、資材、構想などの基本事項。
続いて、曲趣と節譜解説で謡い方を説明、
舞台鑑賞鑑賞で、能の進行を説明があります。
つぎに、重要な字句、難解な字句の説明。
小道具や面の説明のあと、謡いに入ります。
『観世流謡曲百番集』では、この頁の右下半分から後が、そのまま縮小印刷されていることがわかります。
このように、現行の観世流謠本大成版は、非常によくできています。しかし、ここへ至るには、先々回のブログで紹介した、明治期に興った謡本改訂の動きが、大きく関係していると考えられます。
次回は、丸岡桂の改訂謡本縮刷版について紹介します。
今回載せられた資料の中で、唯一、『観世流謡曲百番集』『観世流謡曲續百番集』だけ、持っていました^^
謡曲が少し聞き取れる部分が出て来た頃、思い切って購入しました^^たった二冊ですが(汗)、私の宝物の一つです。
素晴らしい毎日の記事を、ありがとうございます。!!!!! 乱鳥
特に今回は、どこにでもある物ですし。ただ、今後の展開上、触れないわけにいかなかったものですから、言わずもがなの解説になりました(^^;
いずれ、少しはマシな物も出します(^.^)
能に限らず、手持ちの古文書がRancho さんのようにスラスラ読めたら、整理もだいぶはかどるのですが(^.^)
しかも、それには、「作者、資材、構想などの基本事項の説明」「曲趣と節譜解説で謡い方の説明」「舞台鑑賞での能の進行の説明」「重要な字句、難解な字句の説明」「小道具や面の説明」が抜けているんですね。
能の勉強には、膨大な勉強を必要としますね。
プロの能楽師でも、一生のうちで、演じるはおろか、一度も見聞きしない演目がいくつかあると思います。
室町時代にはあったけれど、今は消えてしまって、こういう総集編にすら載っていない能が相当数あると言われています。
600年という時代を考えると、それでもよく残ったと言うべきでしょうか。
(伝統芸能とはそんなものでしょうか・・・)
観世流と言えば、今から20年ほど前に戸栗美術館に行った折
途中に「観世能楽堂」があったのを思い出しました。
(現在は銀座へ移転したようですが)
能楽堂、裏ではいろいろあったそうですが、移転前の方がはるかに良かったです。