面白古文書『吾妻美屋稀』の16回目、「しんはん 生類せり合問答見立て ニ編」です。
生き物をめぐって、競り合います。横に二つずつが対になっています。
4分割して載せます。
頓智、ユーモア、洒落をきかせてあるはずですが、現代の我々には謎解きが難しいです。
今回は、赤(うーん、意味がわからん)があります。読者諸氏のサジェスチョンをお願いします。
「しんはん 生類せり合問答見立 ニ編」
・神主にあらで鮭とハ是いかに・・・鮭<=>社家
・鳥の名に仏法僧といふごとし
・ぬすミするゆだんのならぬひる鳶(盗みする油断のならぬ昼鳶)【昼鳶】人家に忍び込むこそどろ。
・釜でにるかいこのむしハ五右衛門よ(釜で煮る蚕の虫は五右衛門よ)
・たわけやらうなぎハ人のあなつるぞ(たわけ野郎ウナギは人の穴釣るぞ) ・・・ウナギは生殖器を想起させるので、夫婦和合,子授けの信仰と結びつき、ウナギが交尾している絵馬も奉納された。
・できものヽ名もいやらしきねぶとざこ(できものの名も嫌らしき根太雑魚) 【根太】もも・尻など、脂肪の多い部分に多くできる腫れもの。【根太雑魚】天竺鯛
・手習ひのはじめハいの字かながしら(手習いの始めはいの字仮名頭)・・仮名頭とカナガシラ(ホウボウ科の海産魚)とを掛けた。
・道風ののう書にしたハかいるなり(道風の能書にしたは蛙なり)
・おし鳥のつるぎ羽あれどきれもせず(鴛鴦の剣羽あれど切れもせず) 【剣羽】鴛鴦などの尾の両わきに立つ、銀杏の葉の形をした小羽。
・おかしさよさびてきたない赤いわし(おかしさよ錆びて汚い赤鰯) 【赤鰯】干したイワシ。赤くさびたなまくら刀の代名詞
・女子ならおにも十八じやもはたち(女子なら鬼も十八蛇も二十)
・人ならば男ざかりや四十がら(人ならば男盛りや四十雀) ・・・「四十才から」と鳥の「シジュウカラ(四十雀)」を掛けた。
・でん〝/\虫家もちありく力あり(デンデン虫家持ち歩く力有り)
・ぶどうをバこのむりすとててニ合ず(葡萄をば好むリスとて手に合わず) 【手に合わず】もて余す
・とり貝にはしらがふとく立てあり(鳥貝に柱が太く立ててあり)
・どじやうにハ閂(かんぬき)あるを知らざるか
閂: 鰌(どじょう)を丸のままに煮たもの。
・くハほうをバふかハよく寝て待てゐる(果報をば鱶はよく寝て待っている) 【鱶(フカ)】いびきをかいてよく眠る人。 ・・・魚のフカとふか(寝る人)を掛けた
・待ずとももつて生れた小判魚 【コバンザメ】サメ類などの大型動物の体に吸着して、食べ残しや寄生虫を食す肴。力の強い者の近くにいて、そのおこぼれにあずかる者のたとえ。
・くらがりでふました犬のくそたれめ(暗がりで踏ました犬の糞垂れめ)
・くさいのをへとも思うハぬいたちづら(臭いのを屁とも思わぬイタチ面)
・おそろしき夢なら獏がくふてやろ(恐ろしき夢なら獏ば喰ふてやろ)
・くまのゐではらのいたいハ直るなり(熊の胃で腹の痛いは直るなり)
・かつたいにひとしき鮭の生ぐさり
【かったい】やまとことばで、乞食のこと。
・このしろもやけバ死人と同じかざ(コノシロも焼けば死人と同じかざ) 【かざ】匂い ・・・大衆魚、コノシロを焼くと、死人を焼く臭いがするとされた。また、「この城を焼く」に通じるので、武士からは嫌われた。
・すつぽんハきんかん店を出すがよい
⇊ クリンちゃんのコメントを参考にして改訂
・すっぽんハきんかん店を出すがよい(スッポンはきんかん店を出すが良い)
・・・・・すっぽんの卵は、10円玉ほどの大きさ、黄色く丸いので「きんかん」と呼ばれている(金柑に似ているから)。鶏(廃鶏)の卵巣や卵管内にある未熟な卵も、同様に、「きんかん」と呼ばれ、食される。すっぽんのきんかんは稀少だが、鶏のきんかんはかなり一般的なので、当時、これらを扱う店(きんかん店)があったのかもしれない。
なお、幕末の面白瓦版『酒肴むりもんだふ』には、「やり過ごすと出すを八百屋店(みせ)とはいかに、すっぽんは果物(なりもの)ならねどきんかんといふがごとし」とあります。この場合、八百屋店(みせ)を出すとは、八百屋を出店するのではなく、反吐を出すの俗語なので、今回の、「きんかん店(みせ)を出す」も、何かの隠語かも知れない。
・猫あしのぜんでお客をするがよい(猫脚の膳でお客をするがよい)
・きり〝/\す何がふそくで舌つヾミ(蟋蟀、何が不足で舌鼓) 【蟋蟀】古くはキリギリス、現在ではコオロギを指す。この面白古文書が書かれた幕末には、鳴く虫全般を指していたと思われる。【舌鼓】舌打ち。 ・・・・馬飼が馬を追う時に舌打ちをする音、スイスイッチョから、虫の鳴き声を舌打ちと表現した。元々、いまいましい時の舌打ちとは関係ないが、ここでは、キリギリス<=>舌打ち<=>腹立ちと繋げている。
・こハいかに何はらだちや平家がに(こは如何に、何腹立ちや平家蟹) ・・・ヘイケガニの甲の模様は人間の怒りや苦悶に満ちたの表情に似ている。
〇これより十二支もんどう(これより十二支問答)
・まめねずミ千べんまひのげいもする(豆鼠千遍舞の芸もする)
・田がへしハ牛でなけれバ出来ぬもの(田返しは、牛でなければ出来ぬもの)
・大将のたちのさやこそとらの皮(大将の太刀の鞘こそ虎の皮)
・ちさけれどうさぎハ付きの外にすむ(小さけれど、兎は月の外に住む)
・天上する龍のいきほひ雲をよぶ(天上する龍の勢い雲をよぶ)
・御神事ハ白口なハにかぎるべし(御神事は、白口縄にかぎるべし) 【くちなわ】蛇、【白口縄】楮(こうぞ)の皮で作った綱。 ・・・「しろくちなわ」で、白蛇と白口縄を掛けている。
・馬の皮たいこはるのハ日本一チ(馬の皮、太鼓張るのは日本一)
・たひよりも羊のはまやきからで一チ(鯛よりも、羊の浜焼き唐で一) ・・・海洋国である日本人は鯛を尊ぶが、牧畜国家、中国では鯛は好まれない。代わりに、羊を焼いてよく食べる。
・人のまね自由にするハさるの徳(人の真似、自由にするは猿の徳)
・にハ鳥ハときをたげへずつくるなり(鶏は、時を違えず作るなり) 【時を作る】鶏が鳴いて夜明けを知らせる。
・三かんで王のくらゐをもった犬(三韓で王の位をもった犬)・・・・日本書紀、神功皇后の三韓(高句麗、新羅、百済)征伐神話は、中世以降、人々の間に神功伝説として甦り、朝鮮蔑視(劣等感の裏返し)の風潮が蔓延した。その中の一つに、三韓征伐の際、「(新羅王、高句麗王は)日本ノ犬也」と岩に刻んだという言い伝えがある。
・はらいたのくすりとなるハ猪のきも(腹痛の薬となるは猪の肝)