ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

周産期医療が危ない

2007年10月13日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

全国的に、分娩受け入れ中止を表明する地域中核病院の数が増えています。周産期医療は、24時間体制でいつでも母児の急変に対応できる体制を維持する必要がありますから、産婦人科医、助産師、小児科医、麻酔科医などのスタッフの体制が十分に整っていなければ、周産期医療の提供は継続できません。

地域における産婦人科医、小児科医、麻酔科医などのトータルの数は、そう急に増やすことはできません。従って、少なくともこれからしばらくの間は、今いる人員を何とかやりくりして急場をしのいでいく必要があります。すなわち、緊急避難的に周産期医療提供体制を再構築することによって、地域において周産期医療の提供を維持継続していく方策を考えていかねばなりません。

分娩受け入れ施設の数を維持することにこだわっても、現場のスタッフがどんどん辞めてしまうような施設ばかりでは全く意味がありません。

今は何よりもまず、現場で辞めずに必死に頑張っている産婦人科医、小児科医、麻酔科医などのトータルの数を維持することが最も重要だと思います。

****** 朝日新聞、滋賀、2007年10月12日

周産期医療が危ない

【分娩受け入れ総合病院14に減少】
【医師不足、県が公募で対策】

 医師不足で分娩(ぶんべん)の受け入れを取りやめる総合病院が増え、県内の周産期医療(妊娠満22週から生後7日未満の産科・小児科双方による医療)が厳しい局面を迎えている。03年に県内に20カ所あった分娩が受け入れ可能な総合病院の数は、今年8月末現在で14カ所にまで減少。開業医の負担も増えている。医療水準の低下に危機感を持った県は、公募による医師確保に踏み切るなど対策に乗り出した。(上田悠)

 彦根市に住む山本友香さん(31)は昨年10月、次女を出産する際に救急車で彦根市立病院(彦根市八坂町)に搬送された。帝王切開の緊急手術が必要だったため、病院にあと5分到着するのが遅れたら、無事出産できたかわからなかったという。

 同病院は今年3月、3人いた産婦人科医のうち2人が退職したことから、分娩の受け入れを中止。山本さんは同病院での分娩継続を求めて「彦根市立病院での安心なお産を願う会」(現・安心なお産を願う会)に加わり、署名活動や勉強会に参加してきた。山本さんは「市立病院で分娩ができなくなり、これから出産する人たちは、容体が悪化した場合や手術が必要な時にどうすればいいのか……」と、不安を口にする。

 6月、彦根市立病院に続き、近江八幡市立総合医療センター(近江八幡市土田町)も新たな妊婦の分娩の予約受け付けを中止した。10月には公立甲賀病院(甲賀市水口町鹿深)が、医師の退職を理由に小児科の時間外の救急医療体制を一部縮小。同病院の冨永芳徳院長(64)は「全国的な医師不足で、地方の一病院の努力で対応することが出来ない状況になった」とコメントしている。

(朝日新聞、滋賀、2007年10月12日)

****** 読売新聞、山口、2007年10月13日

小児科、産科を集約化…県医療対策協

今年度中に計画策定

 医師不足の解消を目指し、有識者や医療関係者らで対策を話し合う「県医療対策協議会」(会長=前川剛志・山口大医学部長、21人)の会合が12日、県庁で開かれた。事務局の県医務保険課は特に深刻化している小児科と産科について、中心となる病院に医師を集中させる「集約化・重点化」計画を今年度中に策定する方針を明らかにした。

 同課によると、人口10万人あたりの県内の小児科医は11・3人で、全国平均(11・5人)より低い。また、日本産科婦人科学会が「分娩(ぶんべん)する場合、1病院あたり産科医を3人以上配置すべき」と提言しているものの、県内は1病院あたり2・57人にとどまっている。

 こうした実態を受け、県は「小児科、産科とも勤務医の負担が過重となり、医療の安全性が損なわれる」と懸念。一部地域では病院までの距離が遠くなる恐れも生じるが、「集約化・重点化」に取り組む必要があると判断した。

 集約化の対象となるのは民営以外の病院。今後、圏域を設定した上で、基幹的病院や、そこに機能を移転する病院を決める。

(読売新聞、山口、2007年10月13日)

****** 中国新聞、2007年10月13日

小児科・産科医師を基幹病院に集約 山口県

 ▽年度内に医療確保計画

 小児科、産科の深刻な勤務医不足に対応するため、山口県は十二日、基幹病院に医師を集めて地域の医療体制を確保する「集約化・重点化計画」の策定作業を始めた。県医療対策協議会の議論を基に、本年度内にまとめる。

 県庁であった対策協議会の初会合には、会長を務める前川剛志山口大医学部長や医師会長、病院長ら委員十八人が出席した。県側が、県内の小児科、産科の病院当たりの医師数は全国平均に比べてほぼ一人少ない現状を報告。医師の集約化を進める方針を確認した。

 委員は、多くの軽症患者が夜間救急を訪れる実態や、医学生がリスクの高い診療科を避ける傾向などを指摘。「勤務医の負担を減らさなければ、地域医療が立ち行かなくなる」との意見が相次いだ。一方、かかりつけ医の考え方を広める努力が先とし、「医療が手薄になる地域が出ないかが心配」との声も出た。

 「集約化・重点化」は厚生労働省が二〇〇五年十二月、都道府県に緊急避難策として検討を指示。〇七年四月現在、小児科で二十四道府県、産科で十七道府県が「必要」と回答している。【高橋清子】

(中国新聞、2007年10月13日)

****** 公明新聞、2007年10月12日

産科医療 医師減少、救急対応鈍らす

5日に1回の「当直」

 今年(2007年)8月に起きた、奈良県の妊婦が多数の病院に受け入れを断られた末に救急車内で死産したケースなどを受けて、各地で地域内の連携など産科救急の在り方を見直す動きが相次いでいる。

 日本産科婦人科学会は、地域の拠点となる病院に医師を集約化することで医療の質を高める構想を発表している。産科救急の見直しに際しては、地域で産科を担う病院や医師数、勤務実態も十分に考慮に入れた体制を構想する必要があるだろう。

 病院に勤める産科医の勤務実態を浮き彫りにする全国調査の結果が、日本産婦人科医会から発表された。それによると産婦人科勤務医の当直回数は2006年度で月平均6.3回、6年前に比べ約30%も増えているという。単純に計算すれば5日に1回以上の頻度で当直していることになる。その上、9割以上の施設で医師は当直明けもそのまま勤務を続けていた。

 当直明けも働き続けるという実態は、例えば、きょうの朝から勤務を開始したとすれば、ほとんど休憩も取らず、少なくとも、あすの夕方まで働き続けるということだ。乗客の命を預かる電車やバスの運転手であれば到底、許されないような勤務が常態化していることを表している。疲弊というより“燃え尽きる”ような過酷な勤務の中で起きる医療事故も心配される。

 当直回数は2000年度に行われた調査では月4.7回だったとされるので、1.6回増えた計算になる。同医会ではこの数字を、小児科や救急などと比べても多いのではないかと分析している。

 このように勤務が過酷になる背景には、産科医師数そのものが減り続けている実態がある。日本産科婦人科学会が昨年まとめた調査結果によると、1994年からの10年間に産婦人科医は8.6%減少し、その半数に当たる4.3%が直近の2年間で減っていた。そのあおりを受けて、分娩を扱う医療機関は05年度までの12年間で全国で1200施設も減っていた。地域でお産をする病院がない、いわゆる“お産難民”が生まれる背景にはこうした実情がある。

 産婦人科医が辞めてしまう理由には、過酷な勤務実態に加え、他科に比べて訴訟が多く敬遠される、若い世代で急激に増えている女性医師が自らの結婚や出産を機に辞めてしまう問題もある。産科医会は、過重労働やそれに見合わない対価、産科医やお産ができる施設の不足に拍車を掛け、それが妊婦の救急搬送先が見つからない一因になっていると分析している。

 産科医療体制の見直し、再構築に当たっては、地域で働く医師数や施設の実態を十分に踏まえた検討を行う必要がある。身近ではあっても産科医が1人か2人しかいない施設がたくさんあるよりは、多少は遠くなっても、医師数が多く設備も充実、ハイリスクのお産にも対応できる施設がある方が、提供される医療の質は高くなる視点を持つ必要があろう。

「産科診療圏」構想も

 産婦人科医の育成へ即効策が見つからない中、産科婦人科学会は具体的な対応として、人口30万~100万人ごとに24時間態勢で対応できる中核病院を中心に「産科診療圏」を設定、ハイリスクの妊娠・分娩を扱う医療機関は原則、専任の医師を3人以上置く構想を提言している。その地域にふさわしい構想は、当然のことながらその地域の医師会や病院、行政が連携して知恵を絞るしかない。

(公明新聞、2007年10月12日)

****** 信濃毎日新聞、2007年10月12日

須坂病院のお産休止 県会衛生委が産科医確保求める請願採択

 県立須坂病院(須坂市)が来年4月以降、出産受け入れの休止方針を示している問題で、県会衛生委員会は11日、須高地区の母親らでつくる住民グループが提出した同病院の産科医確保を求める請願を全会一致で採択した。15日の本会議でも採択される見通し。

 提出したのは、村井知事に9月下旬、3万3900人余の署名を手渡した「地域で安心して子供を産み育てることができることを望む会」。請願書は、同病院は須高地区で唯一の出産施設であり「お産の取り扱いの存続は、地域で安心して子どもを産み育てるためには欠かせない」と訴えている。

 同病院では、産科医2人のうち1人がけがで出産に対応できないとして、来年4月以降、出産の取り扱いを休止する方針を決定。この日の委員会で北原政彦・県立病院課長は「全国的な産科医不足で医師確保は厳しい状況だが、4月以降にお産が再開できるよう、あらゆる手を尽くす」と述べた。

(信濃毎日新聞、2007年10月12日)

****** 毎日新聞、岐阜、2007年10月11日

羽島市民病院あり方検討委:羽島市民など3病院産科休止、別の病院に集約 /岐阜

 ◇医師1人で緊急時、対応できず

 「羽島市民病院あり方検討委員会」の第1回会合が10日、羽島市新生町の同病院で開かれ、同病院の産科が年内で休止し、隣接する笠松町の松波総合病院に集約されることが明らかになった。また、同委員会に特別参加した岐阜大学大学院医学系研究科・医学部地域医療医学センターの今井篤志教授は、同病院以外の県内二つの病院の産科も年内に休止し、近隣の病院に集約されることを明らかにした。

 2病院は東海中央病院(各務原市)と白鳥病院(郡上市)。それぞれ中濃厚生病院(関市)と郡上市民病院(郡上市)に集約される。産科を休止する3病院はいずれも常勤の産科医が1人で「緊急時に対応できない」として、各病院に産科医を派遣している岐阜大が打開策として各病院に集約を伝えたという。

 委員会で今井教授は、羽島市民病院と東海中央病院は近年、出産件数が減少傾向にあり、周辺には開業医のほか県総合医療センターなどもあるなどとして「安全な出産には産科医が3人以上必要。全国的に問題となっている妊婦のたらい回しは岐阜県ではしたくない。集約される3病院の産科は一時避難的に休止とするが、婦人科は継続し、体制が整えば必ず再開させる」と説明した。【宮田正和】

(毎日新聞、岐阜、2007年10月11日)

****** 朝日新聞、2007年10月11日

周産期救急医療 産婦人科医会支部の4割「十分でない」

 日本産婦人科医会(寺尾俊彦会長)が、周産期救急医療の現状について、47都道府県の支部にアンケートしたところ、4割の19支部から「受け入れ態勢が十分ではない」と回答があったことが分かった。「十分に行われている」と答えたのは28支部で、産科医不足などが問題の背景にあるとし、国に対策を求めている。

 受け入れが不十分になる理由(複数回答)では、産科医不足(14支部)、ハイリスクな新生児を受け入れる「NICU」の不足(13支部)などの回答が目立った。

 妊婦を搬送する際、病院間の連携のあり方などを定めた「搬送システム」が整備されていると答えたのは44支部。しかし、システムが「十分に機能している」としたのは24支部にとどまり、18支部は「機能しているが十分ではない」と回答。2支部は「機能していない」と答えた。

 ただ、システムが機能していなくても「受け入れについては十分に行われている」と回答した支部もあった。「拠点となる病院が1カ所しかないような地域では、そこが受け入れるより選択肢はない」としている。

 アンケートは、奈良で妊婦の受け入れ先が決まらず、死産した問題が起きたことを受け、9月に実施された。

(朝日新聞、2007年10月11日)

****** 長野日報、2007年10月8日

昭和伊南病院産科休止 「非常事態」へ取り組み

 医師不足により、駒ケ根市の昭和伊南総合病院(伊南行政組合運営)で産科が休止となる来年4月まで、半年を切った。里帰り出産の受け入れを中止し、近隣病院が受け皿になっても、このままだと同市を中心に年間100人の出産難民が出る見通しとされる。病院側は院内産院(院内助産所)の開設に向けた研究を続け、市民団体も自然分娩(ぶんべん)を呼び掛けるなど非常事態を乗り切ろうとする取り組みが始まった。組合側も医師確保のための制度づくりに向けて動き出した。

 医療関係者の多くが地方都市で医師が不足する原因に挙げるのが、2004年に実施された医師臨床研修制度。医療の専門化が進む中で、プライマリ・ケア(基本医療)の基本的な診療能力(態度、技術、知識)の習得を目的に導入された。当初は総合的な医療の質の向上が期待されていた。

 ところが、ふたを開けてみると卒後の医師が2年間の研修先に選ぶのは専門医がいて設備が整った大都市の大病院ばかり。県内の各病院に医師を輩出する信州大学でさえ、研修医を確保するのがやっとという状況になってしまった。

 昭和伊南総合病院の千葉茂俊病院長は「これに加えて24時間態勢の重労働、すぐに訴訟につながることへの警戒感もあり産科医師の不人気が続いている」と指摘するように、こうした状況が診療科による医師の不均衡に拍車をかけた。

 一方、国は人口30万―50万人に一つの割合で拠点病院(連携強化病院)を置き、医師を重点的に配置して医療の質を守りながら医療体制を確保する施策をとってきた。県では、産科・小児科医療対策検討会が「連携強化病院への医師の集約化・重点化の提言」を行い、信大はこれを受けて昭和伊南からの医師引き揚げを決めた。

 こうした動きに対し、組合側は6月、地域の実情を踏まえた対応をするよう村井仁知事と大橋俊夫信大医学部長に要望。9月の2度目の要望で、中原正純組合長は「研修医受け入れに対する支援策も検討している」と、組合独自の医師確保策を講じる方針を明らかにした。

 医師確保に向けて組合は、15日に開く臨時議会に1千万円を追加補正する議案を提出する。県外の医師が同病院に勤務した際、診療科を定めず研究資金の名目で一定額を貸与、規定の期間勤めることで返済を免じる制度。県が産科、小児科、麻酔科を対象に4月から始めた県医師研究資金貸与規定に準じる内容で、県制度と重複しないよう調整する。病院側は「これで30代から40代の医師に来てもらえれば」と望みを託す。

 県は開会中の9月定例県議会で、院内産院の設置を支援する考えを示した。昭和伊南の強力な追い風となり得るのか―。県内にはまだ院内産院の施設はない。

(長野日報、2007年10月8日)