コメント(私見):
医師確保に悩む自治体病院で、医師確保対策と称して、高額研究資金を貸与し一定期間勤務で返済免除にする制度を設ける制度を創設するという報道です。何が何でも頭数を揃えたい切実な気持ちはわかりますが、医師不足に悩む自治体病院の数は非常に多く、全体の医師数がすぐには増えない現状では、他地域からの医師引き抜きには限界があると思います。
地域によっては、産婦人科の勤務条件改善の必要性が全く理解されず、1人でも産婦人科医を確保すれば分娩の取り扱いを再開できるという考え方に立って、産婦人科医確保の努力を行っている自治体や病院の事例も、時々報道されています。
もしも、産婦人科の集約化が全く進まないまま、個別の自治体や病院の努力で一人医長体制の産婦人科が復活するだけの状況が続けば、産婦人科の勤務条件はますます悪化するばかりで、母児の安全も確保できませんし、新人産婦人科医も増えないでしょう。
****** 信濃毎日新聞、2007年10月16日
最高500万円を貸与 昭和伊南病院の医師確保策
昭和伊南総合病院(駒ケ根市)を運営する伊南行政組合は15日、独自の医師確保制度を盛った条例案を組合議会臨時会に提出、可決された。県外在住で同病院に勤務を希望する医師に研究資金として最高500万円を一括で貸し付け、一定期間勤務すれば返済を免除する。県医療政策課は、県内で病院を運営する市町村や組合によるこうした制度は「聞いたことがない」としている。
制度は、産婦人科と整形外科などの専門医が対象。希望に応じ、3年以上の勤務の場合に500万円、2年以上の勤務で300万円をそれぞれ貸し、定められた期間勤務することで返済を免除する。使途に制限はない。
医師不足対策としては県も4月から同様の制度を設けているが、組合側は「伊南地域の医師不足に手をこまぬくわけにはいかない」(組合長の中原正純駒ケ根市長)と強調。3年以上300万円、2年以上200万円を貸す県の制度を併用する場合は、差額分について組合の制度を適用し、上乗せする。財源として伊南行政組合の一般会計剰余金から1千万円を病院事業会計に繰り入れる。
県内在住者を対象にしない理由について、組合事務局は「県内で医師の奪い合いにつながる恐れがある」としている。
昭和伊南は来年4月以降、産婦人科の常勤医2人が信大に引き揚げとなるため、出産の扱いを休止。整形外科の常勤医も9月から1人になっており、地域の人からは「安心できない」と対策を求める声が相次いでいた。
(信濃毎日新聞、2007年10月16日)
****** 伊那毎日新聞、2007年10月16日
昭和伊南病院が医師確保に向けた新制度創設
不足している産科医師などの確保に向け、昭和伊南総合病院(千葉茂俊院長)を運営する伊南行政組合(組合長・中原正純駒ケ根市長)は、県外から転入して同院で3年以上勤務しようとする医師に500万円、2年以上勤務しようとする医師に300万円をそれぞれ貸与する―などとする医師研究資金貸与制度を新たに創設する。私立を除く県内の病院では初の導入という。15日の伊南行政組合議会で条例案と補正予算案を可決した。
貸与された資金は、それぞれの勤務期間を経過すれば返還の義務は免除される。対象となる診療科は産婦人科、整形外科、そのほか。県が運用している同様の制度では3年勤務で300万円、2年勤務で200万円が貸与されるが、その適用者には差額(3年―200万円、2年―100万円)が貸与される。
同日の全員協議会で、同院で1年以上の後期研修を受けた外科、内科医師に対し、1回限り100万円を交付する後期研修医奨励金制度も示され、了承された。
(伊那毎日新聞、2007年10月16日)
****** 長野日報、2007年10月8日
昭和伊南病院産科休止 「非常事態」へ取り組み
医師不足により、駒ケ根市の昭和伊南総合病院(伊南行政組合運営)で産科が休止となる来年4月まで、半年を切った。里帰り出産の受け入れを中止し、近隣病院が受け皿になっても、このままだと同市を中心に年間100人の出産難民が出る見通しとされる。病院側は院内産院(院内助産所)の開設に向けた研究を続け、市民団体も自然分娩(ぶんべん)を呼び掛けるなど非常事態を乗り切ろうとする取り組みが始まった。組合側も医師確保のための制度づくりに向けて動き出した。
医療関係者の多くが地方都市で医師が不足する原因に挙げるのが、2004年に実施された医師臨床研修制度。医療の専門化が進む中で、プライマリ・ケア(基本医療)の基本的な診療能力(態度、技術、知識)の習得を目的に導入された。当初は総合的な医療の質の向上が期待されていた。
ところが、ふたを開けてみると卒後の医師が2年間の研修先に選ぶのは専門医がいて設備が整った大都市の大病院ばかり。県内の各病院に医師を輩出する信州大学でさえ、研修医を確保するのがやっとという状況になってしまった。
昭和伊南総合病院の千葉茂俊病院長は「これに加えて24時間態勢の重労働、すぐに訴訟につながることへの警戒感もあり産科医師の不人気が続いている」と指摘するように、こうした状況が診療科による医師の不均衡に拍車をかけた。
一方、国は人口30万―50万人に一つの割合で拠点病院(連携強化病院)を置き、医師を重点的に配置して医療の質を守りながら医療体制を確保する施策をとってきた。県では、産科・小児科医療対策検討会が「連携強化病院への医師の集約化・重点化の提言」を行い、信大はこれを受けて昭和伊南からの医師引き揚げを決めた。
こうした動きに対し、組合側は6月、地域の実情を踏まえた対応をするよう村井仁知事と大橋俊夫信大医学部長に要望。9月の2度目の要望で、中原正純組合長は「研修医受け入れに対する支援策も検討している」と、組合独自の医師確保策を講じる方針を明らかにした。
医師確保に向けて組合は、15日に開く臨時議会に1千万円を追加補正する議案を提出する。県外の医師が同病院に勤務した際、診療科を定めず研究資金の名目で一定額を貸与、規定の期間勤めることで返済を免じる制度。県が産科、小児科、麻酔科を対象に4月から始めた県医師研究資金貸与規定に準じる内容で、県制度と重複しないよう調整する。病院側は「これで30代から40代の医師に来てもらえれば」と望みを託す。
県は開会中の9月定例県議会で、院内産院の設置を支援する考えを示した。昭和伊南の強力な追い風となり得るのか―。県内にはまだ院内産院の施設はない。
(長野日報、2007年10月8日)