ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

深刻化する医師不足

2007年10月24日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

どの産科施設にも分娩受け入れ数の限界があります。いくら需要があっても、ある月の分娩予約件数が施設の分娩受け入れの限界に達した場合は、その時点で、その月の分娩予約の受付は中止せざるを得ません。

また、産科1次施設の場合、母児に何か異常が発生した時は直ちに対応可能な高次施設に患者を救急搬送する必要があります。万が一、高次施設が常に満床で救急搬送の受け入れ困難な状況が日常化しているようだと、産科1次施設で分娩を取り扱うことも不可能となってしまいます。従って、地域中核病院は救急搬送を受け入れるために常にベッドを空けておく必要もあります。

要するに、地域中核病院が、低リスク分娩の対応だけで手一杯になってしまって、救急搬送を受け入れるだけの余裕が全く無くなってしまうようでも非常に困るわけです。地域中核病院が十分にその機能を果たしていくためには、産科1次施設にも頑張っていただき、日常的に両者が緊密に協力し合っていくことが重要です。

周産期医療では、県内の多くの施設(産科1次施設、産科2次施設、地域周産期母子医療センター、総合周産期母子医療センター)のそれぞれが十分にその機能を果たし、緊密に連携していくことが非常に大切です。すなわち、県内の多くの施設が、一つの大きなチームとして、情報を共有し、スムーズに連携・協力していくというスタンスが、今後ますます重要になっていくと思います。

****** 産経新聞、群馬、2007年10月23日

深刻化する医師不足

 全国的に広がる医師不足の影響が、県内にもじわりと広がっている。救急医療の現場では、かかりつけではない妊婦の受け入れを拒否する病院も出ており、県立病院では常勤医不在から、産婦人科を休診する病院が出ている。大学病院が地域に派遣した医師を呼び戻す動きも出ており、事態は深刻化している。県などは問題解決に乗り出しているが、思うような効果は出ていない。(小川寛太)

 ■受け入れ8回拒否

 館林地区消防組合管内で平成18年、東京からの旅行者だった妊婦が突然体調を急変させた。旅先だったため、かかりつけの産婦人科医に行くことができず、駆けつけた救急隊は県内で搬送先を模索。8カ所の病院に相次いで受け入れを断られ、妊婦は119番通報から約1時間半後に、ようやく県外の病院に収容された。

 県消防防災課によると、妊婦の救急搬送を断られた発生件数は同年で37件あり、1件当たりでみると前述した8回が最多だった。17年には21件、16年も16件の受け入れ拒否が起きている。

 受け入れ拒否が発生した割合は、全体の3~6%ほどで、「かかりつけの病院に1回で搬送されるケースがほとんど」(同課)という。搬送中に死産したり妊婦が亡くなったケースはないが、一刻を争う事態が想定されるだけに、拒否事案は決して少ない割合ではない。

 ■婦人科休診の事態

 受け入れ拒否が増加する背景には、産科医をはじめとした医師不足がある。県医務課によると、県内の医療機関に勤務する16年末の医師数は3908人で、14年末より33人増加した。しかし、地域や診療科によっては医師の偏在があるといい、産科と産婦人科を合わせた医師数は、14年末の181人から16年末には172人に減少した。

 医師不足に伴い、太田市高林西町の県立がんセンターでは、常勤医が不在となったため、婦人科は10月から休診となっている。医師を派遣している群馬大学が引き揚げを決めたことなどが原因とされる。

 16年6月から産婦人科を休診した渋川地区の中核病院「渋川総合病院」(渋川市渋川)では9月、常勤の産婦人科医を確保したものの、「医師を3人以上確保しないと産科を行うことは難しい」として、同25日に婦人科だけを再開した。内科や小児科でも、診療を実施しているとはいえ、常勤医がいない状況が続いており、医師不足は産婦人科にとどまらない状況だ。

 ■求職登録まだ8人

 16年4月に導入された新医師臨床研修制度により、出身大学の付属病院以外で臨床研修を行う医師が増加した。その一方、大学側は地域に派遣している医師を引き揚げることで医療水準を確保しているため、地域医療に反動が出ている。

 県は医師確保策の一環として、6月から県内の勤務を希望する医師に情報を提供し、医療機関の紹介や斡旋(あっせん)をする「県ドクターバンク」を導入。しかし、同制度で県内勤務に至った医師は9月末で、内科医に1人いるだけという。

 また、県内の59医療機関243診療科で求人登録を行っているが、現在求職登録している医師は3人で、将来を見据えて登録しているのは8人しかない。

 同課は「医師側の売り手市場となっている。各自治体にも同様の制度があるので、群馬の制度を周知し魅力を伝えたい」と話している。

(産経新聞、群馬、2007年10月23日)

****** 岡山日日新聞、2007年10月22日

産科医「ゼロ」で苦悩 井原は県外出産7割 県内過半市町村 医師確保に躍起

 全国的に医師不足が問題となる中、勤務が過酷で医療事故による訴訟リスクも高いとされる産科は特に深刻な状況だ。奈良県の妊娠24週の妊婦が8月、同県と大阪府の病院に相次いで救急診療を断られて死産した問題は記憶に新しい。岡山県内の出生数当たりの産科医師数は全国平均と同水準だが、産科医ゼロの市町村も多く、大きな問題となっている。

 県西部に位置し、人口4万5767人(9月末、外国人除く)を抱える井原市では、07年の新生児231人(9月末まで)のうち、県内で誕生したのは30・7%。実に残りの約7割は、県外の病院で産声を上げている。県外のうち66・2%は、隣接していて地理的に近く、医療機関も充実している広島県福山市で出生している。これはほぼ例年の傾向で、井原市は深安地区医師会、福山市医師会と契約を結び、妊婦が県内で受診した際と同様の公的補助が受けられるようにしている。

 しかし、03年から市内唯一の分べん可能施設だった同市立井原市民病院(同市井原町)が、昨年8月末で産科を休止。産科を標ぼうする医療機関、常勤産科医はゼロとなり、現在は市内で産もうにも産めない状況となった。同病院での出産が市内の妊婦の1割程度にとどまり、もともと県外出産が多く公的補助も整っているものの、瀧本豊文市長は「安全安心の観点からも、市内に分べん施設がないのは大問題」と危機感をあらわにする。「市内で出産したい」「近くに産科がないのは不安」という声も多いという。

 このため同市は、同病院の産科医師確保に躍起になっている。ホームページなどでの募集、医師派遣バンクへの登録、大学への派遣要請などあらゆる手を尽くすが「産科再開には2~3人の医師が必要だが、岡山大から週2回の非常勤医師派遣で、婦人科診療をするのがやっとの状態」(同市保健センター)と頭を抱えている。

 県内の産婦人科の医師数は、94年の206人から04年には170人まで減り、減少率は医師数の多い20診療科で最大。04年時点では、現在の27市町村ベースでみると、4市9町2村で産科医がゼロだった(井原市は当時3人)。出生1千人当たりの数は、県平均の9・6人は全国平均(9・5人)と同水準だが、県内五つの2次医療圏域別で、全国平均を上回るのは岡山市を含む県南東部医療圏域しかない。

 岡山県はこうした状況を受けて今年7月、産科、小児科を中心とした医師確保策や地域での医師偏在の解決策を話し合う「県医療対策協議会」(会長・末長敦県医師会長)を設置。来月に第2回会合と、現場医師らも交えた産科部会の初会合を開く方向で調整を進めている。 井原市議会でも「地域医療等を考える調査特別委員会」(乗藤俊紀委員長)を設置し、議論を行っている。

 しかし、医師不足対策は、自治体レベルで対応しきれないのが実情。瀧本市長は「産科医師の確保へ努力を続ける一方、国や県など関係機関へ、過酷な勤務医の環境改善や医師不足の抜本的対策をさらに進めるよう働きかけていきたい」と話している。

(岡山日日新聞、2007年10月22日)

****** 毎日新聞、静岡、2007年10月20日

医師不足の課題抱え 産科医確保できずスタート 浜松赤十字病院、完成式

 11月1日に浜松市中区から同市浜北区小林に移転する浜松赤十字病院(安藤幸史院長)の完成式が19日、移転先の新病院であった。「浜北区に分娩(ぶんべん)のできる総合病院を」と市民から要望を受けて移転するが、分娩に対応できる産科医が1人も確保できないなど、医師不足の課題を抱えてのスタートとなる。

 新病院は病床が341床から312床に減るが、延べ床面積(2万6455平方メートル)は約1・8倍、駐車場の収容数(309台)は約2倍になる。ヘリポートや高度な放射線治療機器を導入するなど、浜北地区の医療拠点として約110億円をかけて整備された。

 しかし、分娩施設がありながら必要な医師3人が集まらず、現時点では産科の運営はできない状況。同病院は「訴訟のリスクや激務などで全国的に産科医が不足しているあおりを受けた。東京の病院などにも声をかけ、これからも人材探しを続ける」と説明している。眼科や脳神経外科でも常勤医が確保できず、高度な手術には対応できないという。

 同病院は1938年開設。新しい病棟でも築20年以上が経過し老朽化が進んでいた。このため旧浜北市が移転を推進。合併後の新市も、建設費や医療機器購入の補助金約17億円を拠出することになっている。

 市健康医療課は医師不足について「どの病院も同じ課題を抱えており、特定の病院を直接支援するのは難しい」と話している。【竹地広憲】

(毎日新聞、静岡、2007年10月20日)