大学入試センター試験の後継となる新共通テストは、2020年度から始まることとなっています。その目玉は国語の試験に導入されるという、記述式解答を求める問題です。採点に時間がかかることは容易に予想されるところですが、今日(2016年11月5日)の朝日新聞朝刊7面13版に掲載されている「記述式 なお課題 40〜80字で思考力?■採点の質は センター後継」という記事を読んでいて、頭に「?」が浮かんできました。
採点業務を民間業者に委託する場合の出題・解答なのですが、「短文形式」として「80字以下で1問や40字程度で2問」ということが書かれています。
上記記事にも書かれていますが、これでどうやって思考力を問うのか、と疑問に思われるのです。
もっとも、出題の内容に左右されるかもしれません。40字程度、または80字程度でも、問い方あるいは問う内容によっては思考力の一端は見受けられることでしょう。
しかし、よほど簡単な出題であればともあれ、一般的に、発想、思いつきについてであればこの程度の字数でよいとしても、思考力とはかけ離れるのではないでしょうか。漢字だけを使って文章として表現するならば、80字でも思考力を問えるかもしれません。しかし、そのような文章を解答として求めるとも思えませんので、新共通テストで問われる思考力とは何か、という問題が生じてきます。
手元の大辞泉によると、思考は「考えること。経験や知識をもとにあれこれと頭を働かせること」が筆頭に出てきます。また、「哲学で、広義には、人間の知的精神作用の総称。狭義には、感覚や表象の内容を概念化し、判断し、推理する知性の働きをいう」、「心理学で、感覚や表象の内容を概念化し、判断し、推理する心の働きや機能をいう」とも書かれています。
おそらく、一般的にいう思考は「考えること。経験や知識をもとにあれこれと頭を働かせること」でしょう。そのための能力が思考力です。そもそも経験や知識がなければ十分な思考をなすことは不可能ですので、思考力を問う以前に、少なくとも知識を問うことは必要です。その上で思考力となると、論理学などで用いられる記号を使用せず、文章だけで表現すると仮定すれば、40字では無理でしょう。上記記事によると、問題に使う素材は「論理的な内容を題材とした説明、論説」、「新聞記事・社説、会議録、法律の条文など」、「統計資料(図表、グラフ)」であることが想定されているようですから、80字程度の記述で解答することを求める設問とはいかなるものであるのか、見たいものです。
また、「出題・解答のパターン」としては「解答で使用すべき用語・表現の一部を指定」、「対話文・説明文の一部分を抜き書きで解答」、「設問の中で情報館の関係を提示して解答」が想定されるようです。いずれについても、思考力というよりは説明力を求める出題になるのではないでしょうか。
以前、「簡単な説明をすることができるように」という記事を、2013年11月29日1時43分50秒付でアップしました。私は、2年生向けのクラス別講義を担当しており、毎年、同じような問題を出しています。今年の9月29日に出したのは、次のような趣旨のものです(出題形式などが異なるので、表現を大幅に改めています)。
「民法第102条により、代理人については、Ⓐ行為能力は不要であるが意思能力が必要である。これに対し、Ⓑ使者の場合は、行為能力のみならず、意思能力も不要である。
下線部のⒶ、Ⓑのそれぞれについて、理由を記しなさい。」
解答用紙にはそれぞれ2行を用意しています。40字程度を想定していますが、40字以下でも説明は可能でしょう。
これは、短い説明を求める設問です。人によっては思考力を問う設問であると思われるかもしれませんが、私はそれ程の者ではないと考えています。何故なら、代理人の定義、使者の定義から簡単に導き出せるからです。
このような出題を行う理由は、「簡単な説明をすることができるように」において記したように、用語や制度などについて基本的な事柄を十分に理解しているかいないかを測るためです。ここで躓いては、応用問題、発展問題に対処できるはずがありません。
思考力をどのように測定するのか、詳しいことはわかりませんが、一定の論述を必要とするでしょう。ただ思いついたことを書いたところで、それではただのメモを超えるものではないからです。また、思考というからには、思いつきにあれこれと手を加えたりして形にしなければなりません。材料だけ並べるのでは料理と言えないことと同様です。80字程度でどこまで思考力を測ることができるのか、新共通テストの想定問題あるいは予想問題でも読んでみたいものです。