実は今年に入ってだいぶ経ってから知ったのですが、昨年の秋、サックス奏者、という言葉では捉えきれない程のミュージシャン、宮本大路氏が亡くなりました。それから半年以上が経過し、彼の最後のアルバムとなるLast Pictureが、6月下旬に発表されました。
私が彼の演奏を知ったのは6年ほど前、ピンクボンゴでの演奏をYouTubeで見たことによります。それから、ピンクボンゴのCDを全部(5枚)買って、何かとよく聴いていました。そこでもソプラノ、アルト、テナー、バリトンといったサックス、フルート、パーカッションの演奏があり、4ビートのジャズからラテンからフリージャズからムード歌謡から、かなりのヴァリエイションがあり、シリアスからコミカルからとごちゃ混ぜでしたが、そこはピンクボンゴのポリシーのようなもの、確かなアレンジで不思議な統一性があるのに感心していました。
宮本大路氏は熱帯JAZZ楽団の一員でもあり、他にも様々な方面で活躍していたのですが、忘れてはならないのが一級のスタジオ・ミュージシャンでもあった、ということです。彼の名前は知らなくとも、実は演奏を耳にしたことがあるという人は多いはずです。彼のブログ(http://sirobari.exblog.jp)でもほのめかされていますが、テレビのCMで流される曲でサクソフォンのソロが聞こえたら、その演奏者は彼だった、ということも少なくなかったようです。
私は、YouTubeでピンクボンゴの他、スーパー・マルチーズでの演奏をよく見ていました。これはCDかDVD(できれば後者)にするとよいのではないかと思うような曲(演奏)もたくさんあります。
そして今回のLast Pictureです。このタイトルは宮本氏自身のアイディアによるとのことで(プロデューサーの三宅純氏によるライナー・ノーツ)、既に病魔に冒されていたことを自覚していたということでしょうか。結局、新録音は1曲だけ(2曲目のLast Picture)で、宮本氏自身のサクソフォン四重奏(多重録音)です。クラシックのサクソフォン四重奏とも共通する点があり、他方でジャズらしさもある曲です。宮本氏が「フランス近代からフリージャズまで非常に幅広い音楽性を持」つという評(やはり三宅氏によるライナー・ノーツ)も納得できます。たくさんの引き出しを持っていた音楽家、と言えるでしょう。全曲を通して聴くと、そのことがよくわかります。「幽霊たち」という舞台音楽の楽曲が多く収録されていますが、Lost in Lines(1曲目)は重厚なサクソフォン四重奏ですし、Triangle Work(8曲目)は、デイヴィッド・シルヴィアンがビル・ネルソンと共演した曲(The Healing Place。デイヴィッド・シルヴィアンのGone to EarthおよびCamphorに収録)を思い出させます(私が最も気に入った曲です)。エリック・サティの名曲「グノシエンヌ」(9曲目)をここまで解体して再構成したことにも感心します(これは他のアルバムに収録されていたもの)。アルト・フルートのソロはもとより、ドラムが山木秀夫氏と宮本氏のツインになっている点にも注目したいところです。
まだまだ多くの可能性があったにもかかわらず、まさに途上の死であったということでしょう。そして、このLast PictureというCDは、ジャズという殻にこもるようなものでないため、幅広くおすすめできるものです。
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