贈与税にはいくつかの特例があり、孫への教育資金贈与などがその例です。これについては2018年8月29日0時11分55秒付で「このような特別措置を恒久化してよいものか」として記しましたが、このブログで触れていなかったものの一つが、タイトルに示した結婚・子育て資金に関する贈与税の特例です。特例らしく、適用期間が限られており、2025年3月31日までとなっています。
現在、2025年度税制改正に向けての議論が与党内で行われています。そのような中で、共同通信社が2024年11月30日17時7分付で「【独自】政府、子育て支援贈与税制廃止へ 1千万円非課税、利用低調」(https://www.47news.jp/11839264.html)として報じています。
記事では「政府は、結婚・子育ての資金を一括で贈与すると贈与税が1千万円まで非課税となる特例について廃止する方針である」と書かれています。つまり、これは与党の税制調査会における議論ではないということを示しています。2015年に創設された制度なのですが、利用者が少ないそうです。それはそうでしょう。教育資金に関する贈与税の特例よりも利用者が少なそうだということは何となく考えるところでしょう。それに、教育資金、結婚・子育て資金のどちらについても、経済格差を固定化することにつながりかねないし、少子化対策などに何ら貢献をしていないと推察されます。
ただ、与党の税制調査会では延長が議論される可能性もあります。実際、2023年度税制改正では適用期間が2年延長されています。利用者も少なければ効果も乏しいと思われる特例をいつまでも続ける必要などないはずですが、所詮、税制は政治の問題に尽きますから、どうなるかはわかりません。
私は、贈与税の特例を原則として即座に廃止すべし、と考えています。税制が複雑になりますし(今年の定額減税が典型例です)、不合理な差別を放置することにつながりかねないからです。
せっかくのことですので、ここで2023年度の「法学特殊講義2B」の内容から、上記の教育資金に関する贈与税の特例と結婚・子育て資金に関する贈与税の特例についての部分を掲載しておきます。
●直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた者(直系卑属)に関する特例
〔1〕適用期間
2013(平成25)4月1日〜2026(令和8)年3月31日
〔2〕適用の対象となる直系卑属
直系尊属と信託会社との間で教育資金管理契約を締結した日において満30歳未満の個人であって、前年の合計所得金額が1000万円以下である者である(租税特別措置法第70条の2の2第1項)。
〔3〕特例の内容
適用期間中に、直系卑属が直系尊属から以下のものを取得した場合には、信託受益権などの金額のうち一定の金額(1500万円または500万円)まで、贈与税の課税価格に算入しない(租税特別措置法第70条の2の2第1項)。
・直系尊属と信託会社との間で締結された信託受益権を取得した場合。
・直系尊属から書面による贈与により取得した金銭を、銀行などの金融機関に預貯金として預け入れた場合。
・教育資金管理契約に基づき、直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭等で有価証券を購入した場合。
いずれの場合についても、受贈者が教育資金非課税申告書を取扱金融機関の営業所等を経由して所轄税務署長に提出しなければ、適用を受けられない(同第3項)。また、受贈者は、教育資金の支払いに充てた金銭に係る領収書等の書類を、一定の期日前に金融機関の営業所等に提出または提供しなければならない(同第7項。取扱金融機関の営業所等の義務については同第8項を参照)。
〔4〕適用の対象となる教育資金
・学校教育法第1条に規定される学校(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学および高等専門学校)、同第124条に規定される専修学校、同第134条第1項に規定される各種学校などに直接支払われる入学金、授業料など(同第2項第1号イ)。
→この場合には1500万円まで、贈与税の課税価格に算入しない(租税特別措置法第70条の2の2第1項本文)。
・「学校等以外の者に、教育に関する役務の提供の対価として直接支払われる金銭その他の教育を受けるために直接支払われる金銭で政令で定めるもの」(同第2項ロ。教育に関するサービスの提供に対する対価、施設の利用料、スポーツや文化芸術など教養の向上のための活動に関する指導の対価、通学定期代、外国の教育施設に就学するための渡航費など)。
→この場合には500万円まで、贈与税の課税価格に算入しない(同第12項第2号)。但し、受贈者が満23歳以上である場合には、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講する費用のみが教育資金の範囲に入る。
〔5〕教育資金管理契約の内容(同第2項第2号)
受贈者の教育に必要な資金を管理することを目的とする契約で、次に掲げるものである。
・受贈者の直系尊属と信託会社との間で締結された信託契約(主たる目的は教育資金の管理で、信託の利益の全てが受贈者のものになること)。
・受贈者と銀行等との間で締結された、普通預金・通常貯金などに係る契約(受贈者が教育資金の支払いに充てるために預貯金を引き出した場合には、領収書等の書類を銀行等に提出または提供しなければならない)。
・受贈者と金融商品取引業者との間で締結された、有価証券の保管の委託に係る契約(受贈者が教育資金の支払いに充てるために有価証券の譲渡や償還などをして金銭の交付を受けた場合には、領収書等の書類を銀行等に提出または提供しなければならない)。
〔6〕教育資金管理契約の終了事由
教育資金管理契約は、次の事由が発生した日のいずれか早い日に終了する。
・受贈者が満30歳に達したこと:その受贈者が満30歳に達した日。但し、その日において学校等に在学している場合または教育訓練を受けている場合(取扱金融機関の営業所等に届け出た場合に限られる)を除く(同第16項第1号)。
・満30歳以上の受贈者が「その年中のいずれかの日において学校等に在学した日又は教育訓練を受けた日があることを政令で定めるところにより取扱金融機関の営業所等に届け出なかつたこと」:その年の12月31日(同第2号)。
・受贈者が満40歳に達したこと:その受贈者が満40歳に達した日(同第3号)。
・受贈者が死亡したこと:その受贈者が死亡した日(同第4号)。
・「教育資金管理契約に係る信託財産の価額が零となつた場合、教育資金管理契約に係る預金若しくは貯金の額が零となつた場合又は教育資金管理契約に基づき保管されている有価証券の価額が零となつた場合において受贈者と取扱金融機関との間でこれらの教育資金管理契約を終了させる合意があつたこと」:その教育資金管理契約が当該合意に基づき終了する日(同第5号)。
〔7〕教育資金管理契約が終了した後に非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額がある場合の扱い
原則として、その残額は同第16項各号(第4号を除く)に定められる日の属する年の贈与税の課税価格に算入される。但し、受贈者が死亡したことにより教育資金管理契約が終了した場合には、残額は贈与税の課税価格に算入されない(同第17項、同第18項)。
〔8〕教育資金管理契約の終了前に贈与者が死亡した場合
原則として、贈与者の死亡時における資金残額を受贈者が相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となる(同第12項)。但し、当該贈与者に係る相続または遺贈により財産を取得した全ての者(当該受贈者を含む)の相続税の課税価格の合計額が5億円以下であって、次の場合のいずれかに該当し、かつ、受贈者が取扱金融機関の営業所等に贈与者が死亡した旨を速やかに届け出たならば、相続税の課税対象とならない。
・受贈者が満23歳未満である場合(同第13項第1号)。
・受贈者が学校等に在学している場合(同第2号)。
・受贈者が教育訓練(雇用保険法第60条の2第1項)を受けている場合(租税特別措置法第70条の2の2第13項第3号)。
なお、当該贈与者に係る相続または遺贈により財産を取得した全ての者の相続税の課税価格の合計額が5億円を超える場合には、当該贈与者の「死亡の日における非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額を、当該受贈者が当該贈与者から相続等により取得したものとみなす」〔「令和5年度税制改正の大綱」(2022年12月23日閣議決定)21頁〕。
●●直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた者(直系卑属)に関する特例
〔1〕適用期間
2015年4月1日〜2025年3月31日
〔2〕適用の対象となる直系卑属
直系尊属と信託会社との間で結婚・子育て資金管理契約を締結した日において満18歳以上満50歳未満の者。但し、前年の合計所得金額が1000万円以下であることが要件となる。
〔3〕特例の内容
適用期間中に、直系卑属が直系尊属から次のものを取得した場合には、信託受益権などの金額のうち1000万円まで〔結婚に際して支出する費用に充てる場合には300万円まで。租税特別措置法第70条の2の3第12項第2号(贈与税非課税枠に関する事項であるから、第1項に規定すべきであろう)〕、贈与税の課税価格に算入しない(同第1項)。
・直系尊属と信託会社との間で締結された信託受益権を取得した場合。
・直系尊属から書面による贈与により取得した金銭を、銀行などの金融機関に預貯金として預け入れた場合。
・結婚・子育て資金管理契約に基づき、直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭等で有価証券を購入した場合。
いずれの場合についても、受贈者は結婚・子育て資金非課税申告書を取扱金融機関の営業所等を経由して所轄税務署長に提出しなければ、適用を受けられない(同第3項)。また、受贈者は、結婚・子育て資金の支払いに充てた金銭に係る領収書等の書類を、一定の期日前に金融機関の営業所等に提出または提供しなければならない(同第9項。取扱金融機関の営業所等の義務については同第10項を参照)。
〔4〕適用の対象となる結婚・子育て資金
・受贈者の結婚に際して支出する費用(同第2項第1号イ)
・受贈者(その配偶者も含む)の妊娠、出産または育児に要する費用(同ロ)
〔5〕結婚・子育て資金管理契約の内容(同第2項第2号)
受贈者の結婚・子育てに必要な資金を管理することを目的とする契約で、次に掲げるもの。
・受贈者の直系尊属と信託会社との間で締結された信託契約(主たる目的は結婚・子育て資金の管理で、信託の利益の全てが受贈者のものになること)。
・受贈者と銀行等との間で締結された、普通預金・通常貯金などに係る契約(受贈者が結婚・子育て資金の支払いに充てるために預貯金を引き出した場合には、領収書等の書類を銀行等に提出または提供しなければならない)。
・受贈者と金融商品取引業者との間で締結された、有価証券の保管の委託に係る契約(受贈者が結婚・子育ての支払いに充てるために有価証券の譲渡や償還などをして金銭の交付を受けた場合には、領収書等の書類を銀行等に提出または提供しなければならない)。
〔6〕結婚・子育て資金管理契約の終了事由
結婚・子育て資金管理契約は、次の事由が発生した日のいずれか早い日に終了する。
・受贈者が満50歳に達したこと:その受贈者が満50歳に達した日(同第13項第1号)。
・受贈者が死亡したこと:その受贈者が死亡した日(同第2号)。
・「結婚・子育て資金管理契約に係る信託財産の価額が零となつた場合、結婚・子育て資金管理契約に係る預金若しくは貯金の額が零となつた場合又は結婚・子育て資金管理契約に基づき保管されている有価証券の価額が零となつた場合において受贈者と取扱金融機関との間でこれらの結婚・子育て資金管理契約を終了させる合意があつたこと」:その結婚・子育て資金管理契約が当該合意に基づき終了する日(同第3号)。
〔7〕結婚・子育て資金管理契約が終了した後に非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額がある場合
原則として、その残額は同第13項各号(第2号を除く)に定められる日の属する年の贈与税の課税価格に算入される。但し、受贈者が死亡したことにより結婚・子育て資金管理契約が終了した場合には、残額は贈与税の課税価格に算入されない(同第14項、同第15項)。
〔8〕結婚・子育て資金管理契約の終了前に贈与者が死亡した場合
贈与者の死亡時における資金残額を受贈者が相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となる(同第12項)。適用除外がない点が、教育資金管理契約の終了日前に贈与者が死亡した場合と異なるところである。租税特別措置法第70条の2の3には、同第70条の2の2第13項のような規定が存在しない。
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