会場はシネリーブル池袋、映画館で本編1本分の尺(2時間10分)まるまるトーク!(^_^)
ここを訪れたのは昨年5月以来となります。
開演30分ほど前についたのですが、すでに行列になっていました(゜ロ゜)
受付けでスマホに仕込んだQRコードをピッとやり、列に並びます。てっきり指定席なのかと思い込んでいて、直前になって全席自由だと知りちょっと慌ててしましました(^_^;
自分に割り当てられた整理番号は比較的若かったので、Eー9という中央通路側の良い席を確保できました。
スクリーンにはPCの画面が投影され、ステージ上のテーブルにはノートパソコンが...こりゃまさに「ここまで調べた」形式で、今回はその特別編って感じでしたね(*^m^*)
時間となりステージには片渕須直さん、続いて氷川竜介さん...お二人による対談形式のようです。
ご挨拶の後、すぐに対談開始。私にしては珍しくメモと取ったので掻い摘まんで印象にのこったお話しを。
最初に2010年にまとめMAPPA社長の丸山さんに提案した企画書を映し出しながら、キーワードに「機微」が...。
これは企画協力した氷川さんによるものだったと思いますが、氷川さんのお父さんから言われた言葉で「夫婦は危機に陥りやすい。言葉ではなく機微である」をヒントに書かれたらしいです。
戦争の時代でも、人々は今とさほど変わらない生活を営み、すずさんもニコニコしながら炊事したり、掃除したりしている。
こういうことの積み重ねを丹念に表現していくことで、地続き感と自分自身とも関係している物語として考えて言ったと。
メインテーマとしてはこの些細とも言える機微を重ねに積み重ねていって、すずさんを存在感ある実在する人物として構築することにあったと感じました。
そのために原作に描かれている動作も徹底的に追求し、片渕さんや浦谷さんが、布団から起き上がる動作、スケッチする動作、天秤棒を担ぐ動作を連続写真やビデオで繰り返し撮影しては考察する...この映像も見せてくれましたが、とても面白かった...浦谷さんだとアニメーター意識が強くて演出が入って自然じゃないらしいんですね。片渕さん自身もそうじゃなくてこうでしょ?をやって見せていたりとか...正に舞台裏ですね(*^o^*)
そして作画監督で松原秀典さんが参加すると、この人がまた輪をかけて所作にこだわる人で、ちゃぶ台に置かれた箸を手に取るまでの動作、その男女の違い、風呂敷の包み方、担ぎ方などなど、とにかく人物が自然に行っている普通の動作を徹底的に追求しているのです。
本編終盤の空襲シーンで、すずさんが鷺を追いかけて、石段降りて路地を駆け抜けるという場面がありますが、あれもスタッフで現地で実践しているビデオ映像があって感心してしまいました。
対象となる物や場所、それを実感するために何でもやってみるという徹底ぶり!机の上で考えているだけでは出てこないリアリティあふれる映像の秘密を少しだけでも垣間見えた気がしましたね。
テレコム時代の昔話も紹介されていましたけど、当時定期的に行われていたアニメーターテストで、ある時のテーマが「ガード下の飲み屋で酒を飲む中年男」をどう描くかというもの...これって私も小津安二郎さんの演出法でも同じことを聞いたか読んだかしたことあるんですが、酒好きの動作って、コップや杯を手を動かして口元に寄せるんじゃダメなんですよ。逆に口を持って行く動作を表現しないとそれらしくないんですね。
アニメーターは俳優としての能力も備えていなければならない...そのためには実践や経験、そして観察眼だ大事なんです。
で、片渕さんはそういった物事を身体にたたき込んだ上で、シナリオと絵コンテにまとめていくワケですが、これも左脳と右脳のフィードバックになっているとのことで、シナリオの整合性は論理性のある左脳だが、絵コンテとして右脳の自分が描いてみると合わない部分があって、左右二人存在する自分の中でせめぎ合っていると。
シナリオ→絵コンテ→シナリオ...これを何度も繰り返して行って作品としての形を作っていくとのことでした。確かに文字と絵では脳内の使う部分が違うでしょうし、せめぎ合いが生じることでしょうね。このバランスも大事なんだと思います。
その上に、これまでの舞台挨拶でも仰ってますが、とにかく画面の隅々まであらゆる時代の事象を網羅しているので文字によるシナリオでは表現できないことも多々生じてしまう...実写映画の場合もこの問題はあって、小津安二郎さんのシナリオも絵コンテが付け加えられていて、俳優の配置や配色までも描かれていたり...これは絵を描くことでしか伝えられないことです。
そしてなんとか半年かけて初稿をまとめたところ、2時間に収まらないことがわかり、どうにかしようと考え、TVアニメなんかでよくやる各カット2コマずつ削ってみようとか考えてもみたが、それではすずさん始め、人物の機微が表現できず...最終的にはプロデューサーの提案でリンさんのエピソードをバッサリ切り落とすことに至ったと。すずさんの家事労働シーンを削るという案もあったが、それでは作品として成り立たない...やるならリンさんしかないと。
最初は抵抗も感じたが、大事なその部分を抜くことで、後々ファンの間で要望も生まれるかもと密かに期待...まぁそれが図星となり、ビジネス的にも成功したから長尺(ロング)版の実現に繋がったワケですけどね(^_^)
お話しと並行していろんな画像・資料もチョイチョイ見せてくれて、楽しかったです。
太平洋戦争に突入しているのに、もんぺどころか丈の短いスカートを履く若い女の子、細かいところでは上下水道を絵に表現するためにマンホールマニアの方に協力を依頼、昔からのマンホールにも色んな歴史が織り込まれている...東京だけでも見ていくと、時代の変遷も感じる。「東京都」のマークが色々なんですよね。
長尺版の資料もチラッと表示...屋根に干された二組の布団やリンドウ柄の茶碗!
こりゃもう19年10月は確実に作品に織り込まれる予告みたいなもんですよね\(^o^)/
長尺版で円太郎さんの職場でエンジンをテスト・開発しているシーンも入れ込みたいと着想したが、根拠となる資料がどうしても見つからず、わからないものは描かない主義で、ここは頓挫しているようです。
なんとなくエンジン始動テストとか、「紅の豚」とかでも思いついたりしますけど、開発の過程となるとベールに包まれて表に出てこない部分だし、「風立ちぬ」でも近いシーンはあったりもするけど、氷川さんも「あれ、アニメスタジオですよね?」と突っ込んでいたように、かなり曖昧なんですよね(^_^;
その他にも「マイマイ新子と千年の魔法」で出てくる小学校は伝説のアニメーター・金田伊功さんの母校で、当時アヒル係をやっていて、その小屋にあたる部分も痕跡っぽいのを画面に出していたとか、雨の表現を数値で考察して描き分けを考えていたとか天こ盛りの濃ゆ〜いマニアックな話しのオンパレードで、すごく楽しいヒトトキを過ごせました(*^m^*)
そして終了予定時間も近づき、そろそろ来るかな...と思っていたところで氷川さん「時間があまりないのですが、何か質問のある方...」
瞬間サッと挙手、今回は質問できました(^_^)
「『この世界の片隅に』を最初に観たとき、とてもテンポが早い作品だなと思ったのですが、これは全体と短くするために各カットを2コマずつ削るという考えの名残みたいなものから来ているのでしょうか?」というもの。
お答えとしては(例によってテンションアップしてしまい、もちろんメモなんか取る余裕もないので、こういう感じのことを仰っていたという概略ですが...(^_^;)、こうの史代さんの原作は四コマ漫画的なオチのある構成となっており、それが一定のリズムになっていて、独特のテンポを生み出す結果になっているのではないか。2コマ削りはやってなくて、機微や生活動作を重視するために、むしろ各カットともに4〜6コマくらいずつ増やしているとのことでした。
いつもですが、丁寧に、時によく考え言葉を選びながら真摯に質問に答える姿勢に感激です...本当に嬉しいし、ますます惚れちゃうんですわ(^_^)
残念ながら時間もアッと言う間に過ぎて、ここで終了となりました。
片渕さんのお話しは毎回面白くて時間がいくらあっても足りませんねぇ...。
そして最後のフォトセッションだけ、観客にも撮影が許されました。
今回も大満足!片渕さん、氷川さん、本当にありがとうございました!
日曜日っていろんな意味で出にくくて、今回もちょっと無理しての参加だったけど、それだけの価値はあまりあるほどの贅沢で有意義なものとなりました(^_^)