信州安曇野の西側に屏風のように連なる後立山連峰の中で、一際目立つ優美な山が鹿島槍ヶ岳です。吊り尾根を挟んで南峰と北峰二つのピークが並び立つ双耳峰で、その美しい山容は後立山連峰の盟主と言うべき存在です。
そんな鹿島槍ヶ岳を最初に登ったのは昭和52年の夏、白馬岳から後立山連峰を縦走した時に山頂を踏みました。2回目は昭和54年9月末に後立山連峰の唐松岳から針ノ木岳まで縦走した時で、アルバムにその時の写真が幾つか残されていました。
昭和54年9月28日(金)~30日(土)
唐松岳~五竜岳~鹿島槍ヶ岳~針ノ木岳
鹿島槍ヶ岳北側直下の難所八峰キレット
鹿島槍ヶ岳山頂
鹿島槍ヶ岳から冷池小屋に向かう尾根
3回目は昭和60年5月の連休に岳友F君と二人で残雪の五竜岳~鹿島槍ヶ岳~爺ヶ岳を縦走しました。これも私の山歴の中で、想い出多き忘れ難い山行でした。その時の記録が当時所属していた山岳会の古い会報に載っていたので、鹿島槍ヶ岳の部分を抜粋して下記に転載してみます。
昭和60年5月3日(金)~5日(日)
五竜岳~鹿島槍ヶ岳~爺ヶ岳 参加者 Y・F、 H・F 男2名
・・五竜岳から、稼いだ高度を勿体ないほど落としながら小さいピークを次々と越えて行く。途中で人見知りしない雷鳥たちが絶好の被写体となって、単調な歩みの我々を楽しませてくれる。
キレット小屋で再びアイゼンを装着し、「さあ、これから難関の八峰キレットだ」と心を引き締める。キレットへの降りはシュルントの裂け目に落ちそうで、登りは嫌らしいトラーバス、固定ロープが無ければザイルのお世話になるところだ。
反対から来た大学生パーティがザイル操作にもたついたお陰で、中々前へ進めない。夏のキレットは話ほど大した事無いが、雪が付くとさすがに厳しい。
キレットを抜け、いよいよ鹿島槍への登りだ。重荷に喘ぐ我が身に「これが最後だ」と言い聞かせながら、やっとの思いで吊り尾根のコルに着いた。北峰を空身でピストンし、南峰に着くとたくさんの登山者が思い思いに周囲の景色を楽しんでいた。
我々も今までの疲れと緊張を解きほぐしながら、歩いて来た五竜岳からの尾根を安堵の思いで眺める。正月以来の雪山で随分心配もしたが、やっぱり来て良かったなあとつくづく思う。
鹿島槍ヶ岳から爺ヶ岳方面
その晩、冷池のテント場で大きな満月に照らされて寝たのだが、翌朝目覚めて空を見ると三日月になっている。しばらくキツネにつままれた思いでいると、「月食だ」と言うF君の声で原因が分かった。
冷池テント場から鹿島槍ヶ岳
な~んだとも思ったが、これも今まで頑張った我々に対する天のささやかなプレゼントかなと柄にもない気分になった。「月食と鹿島槍」これも山行の忘れられない思い出となるだろう。
あれから40年以上の歳月が過ぎましたが、F君とは今でも古き良き山友です。
4回目は平成7年8月に山仲間のF子さんと我々夫婦の三人で、テントを背負い鹿島槍ヶ岳から五竜岳~唐松岳まで縦走しました。今より随分若かったとは言え、キレットなど危険な岩場の多いコースを思い幕営装備を背負ってよく歩いたなあと思います。
平成7年8月11日(金)~13日(日)
鹿島槍ヶ岳~五竜岳~唐松岳
鹿島槍ヶ岳南峰から爺ヶ岳方面
鹿島槍ヶ岳山頂
山頂から五竜岳方面
北峰直下の北壁とカクネ里の雪渓
難所、八峰キレットの通過
最後となる5回目は、平成17年5月に単独爺ヶ岳を経由して鹿島槍ヶ岳を登りました。この時の山行記録が古いホームページに載っていたので、下記に転載してみます。
5月22日(日) 天気:曇り後雨
05:53柏原新道登山口→06:47南尾根分岐→08:50~09:09南尾根JP→10:10~10:30爺ケ岳南峰→11:20赤岩尾根分岐→11:32冷池山荘
前夜は扇沢の駐車場で車中泊し、AM6時柏原新道登山口より歩き始める。「午後から雨」の天気予報にあまり気分が乗らない。途中から夏道を離れ尾根筋の道に入る。笹や枝の煩い歩き辛い道だ。樹林の中、我慢の急登を続けポッと雪原に出た。
視界が開け行く手に爺ケ岳の稜線が聳え、背後には安曇野平が見渡せる。緩やかな雪道をしばらく歩き最後に岩屑の道を急登し爺ケ岳南峰に辿り着いた。
高曇りの空の下、鹿島槍を始めとする後立山の山々が残雪をまとい連なって見える。爺ヶ岳を出発した頃からポツポツ雨が降り出したが、衣服を濡らさぬうちに何とか冷池山荘に到着した。今日はテント泊の予定であったが雨に濡れるのが嫌で小屋泊まりに変更した。
5月23日(月) 天気:晴れ後曇り
05:57冷池山荘→06:50~06:59布引山→07:38~08:00鹿島槍ヶ岳→08:26布引山→09:00~09:26冷池山荘→09:40赤岩尾根分岐→10:39~10:48爺ケ岳中央峰→11:04~11:18爺ケ岳南峰→11:58南尾根JP→12:40~12:44 1920m地点→13:44柏原新道登山口
朝、外へ出ると青空が広がっている。昨日の雨が雪に変ったのか、稜線の山々は真っ白に変貌している。天気予報が悪かっただけに嬉しい誤算です。
朝食を済ますと慌しく出発。辿る雪道はアイゼンとピッケルが良く効いてまるで冬山気分。周りの景色を楽しみながら登り鹿島槍ヶ岳へ到着、吹く風があまりに寒くて自撮りする事ができない。山頂からは二昔前、F君と歩いた五竜岳の鋭い山容が姿を現し懐かしい。しばらく周囲の眺めを堪能した後往路を下山する。
登山コースから左より布引山、鹿島槍南峰、北峰
登山コースから西に望む立山(左)、剣岳方面(右)
布引山より鹿島槍ヶ岳
鹿島槍ヶ岳山頂(南峰)
南峰より望む北峰
山頂より爺ヶ岳方面
下山の道より振り返る布引山
冷池山荘で荷物を回収し、爺ケ岳経由で扇沢に下山、途中爺ヶ岳の降りで右靴底が剥がれたが、テープで固定してさほど支障はなかった。
下山後大町温泉の露天風呂で後立山連峰を眺めると、稜線は既に厚い雲の中であった。温泉を出ると池田町に住む山友のF子さん宅を訪ね、久し振り旧交を温めた。その後中央道を経由して帰宅の途についた。
鹿島槍ヶ岳は超健脚で無ければ一日で辿りつけぬ遠い山、今後里から眺める事はあっても山頂を踏む事は無いでしょう。
・・「双耳の、姿麗し鹿島槍」・・