「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

光市母子殺害事件・最高裁上告審判決(3)--本村さんの社会的な意味づけ

2006年06月21日 00時52分12秒 | 光市母子殺害事件
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/36574143.html からの続き)

 本村さんは一審で無期判決が出され、自暴自棄になって もうやめたいと思ったとき、

 検察から涙ながらに 懇願されたそうです。

 この裁判が無期懲役で終わってしまったら、日本では二人の人間を殺害しても、

 少年であれば死刑にならないという 判例が残ってしまう。

 日本は判例主義なので 他の裁判に影響を与え、同じように苦しむ遺族が また出てきてしまう。

 それは検察としては堪えがたい、何とか協力してほしい、と。

 それを聞いたとき本村さんは、この事件は 自分たち個人の悲しみであると同時に、

 日本の司法において 大きな意味を持つ、ということを知らされました。

 自分の応報感情ではなく、社会のなかでの意味づけを与えられ、

 前向きに考えられるようになれた と言っています。
 

 本村さんのような理知的な人の訴えは、今まで置き去りにされていた

 日本の犯罪被害者の救済にとって、本当に大きな存在になったと思います。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/36588506.html
 

コメント (3)
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光市母子殺害事件・最高裁上告審判決(2)--本村さんにとっての死刑制度

2006年06月21日 00時51分31秒 | 光市母子殺害事件
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/36556382.htmlからの続き)

 本件の加害者元少年と、面会を続けてきたという住職がいます。

 住職の話によると、元少年は今は苦しんでおり、

 今の自分を見てほしいと、一言一言かみしめるように 話していたといいます。

 どういう形で償えるかは分からないが、生きて償いたいと言っているそうです。

 一方、別の面会者は、元少年に反省の色は見えないと話していました。

 本当のところはどうなのか 分かりませんが、

 加害者が友人に宛てた 昔の手紙のマスコミ報道だけで 感情的に判断せず、

 包括的な情報を見ていくよう 気を付けたいと思います。
 

 もっとも、本村さんによれば 加害者の悔悟の念は、

 死刑の可能性が出てきたことによって、初めて自分の命が奪われる恐怖にさらされ、

 死にたくないという気持ちになった、

 自分が犯した罪の深さを 知る契機になったのだ、といいます。

 そういう意味では、死刑制度があるからこそ、加害者の自責が生まれる

 という構図はあります。

 ただし、死刑制度による犯罪抑止力を示せるデータは かつてどこにもなく、

 逆に加害者が 捕まって死刑になることを恐れて、

 目撃者を殺してしまうこともあるといいます。
 

 本村さんは、加害者が反省して、罪を悔いて、その時に死を持って償うことこそが、

 死刑の意義だという考えのようです。

 けれども本村さんは、加害者が死刑になれば 自分は癒されるとは、

 一度も言っていないと語っていました。

 ただ、死刑判決が出れば「納得」できる、ということだそうです。

 事件のことは 一生背負っていかなければならないけれど、ひとつの区切りをつけて、

 自分の人生を 憎悪だけで終わらせるのではなく、新たに踏み出していくためには、

 死刑判決という段階が必要だという、前向きな真意があるのだと思います。

 
 一審で無期懲役判決が出た直後、本村さんが声を震わせて訴えていた言葉を、

 僕は忘れられません。

 「遺族だって、被害から回復しないといけないんです……! 

 人を怨む、憎む、そういう気持ちを乗り越えて、また優しさを取り戻すためには、

 死ぬほど努力しないといけないんです……!」

 その時の激情に呑み込まれるだけでなく、行く先の心のあり方までをも洞察した、

 これほど熱情的で繊細で明哲な、深い人間的な言葉を、僕は他に知りません。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/36574858.html
 
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光市母子殺害事件・最高裁上告審判決(1)

2006年06月20日 17時08分46秒 | 光市母子殺害事件
 
 本日午後3時、最高裁は 広島高裁の無期判決を破棄し、差し戻しを命じました。

 事前から その可能性が一番高いのではないか、とは言われていました。

 差し戻し審では、無期懲役が見直されて 死刑判決が出る公算が強くなります。

 高裁は、前と同じ理由で無期懲役を言い渡すことは できなくなったわけです。

 安田弁護士が提出していた 傷害致死・有期刑の主張は、

 上告審では取り上げられなかったようです。
 

 ただし、高裁で審理を初めからやり直すわけで、また時間がかかってしまいます。

 それを考えると、最高裁は差し戻しではなく、自ら死刑判決を下すという

 「自判」をするべきではないか、という声もありました。

 裁判員制度を控えて、審理の迅速化が求められており、

 最高裁は自判で 自ら模範を示したほうがいい、という意見です。

 被害者遺族の本村さんも、それを望んでいました。
 

 日本では、未成年が4人を銃殺した あの「永山事件」の裁判で、

 死刑判決の要件が 厳しく定められました。

 その「永山判決」以来、死刑の求刑・判決が 抑制されてきました。

 そういう流れのなかで起きたのが、この光市母子殺害事件でした。

 本村洋さんは、7年間に渡って 死刑判決を訴え続けてきました。

 本村さんの 長く苦しい闘いの成果が、少しずつ実を結んできたと言えるでしょう。

 犯罪被害者支援の運動が高まり、犯罪被害者基本法も成立しました。

 検察庁も死刑の求刑が増え、本件の上告も 普通なら諦められていたそうです。

 本村さんが 自らのプライバシーを犠牲にして、マスコミやシンポジウムなどで

 発言し続けてきた影響は、とても大きいものがあったと言えると 僕は思います。

 本村さんが表に出なければ、この事件は一審の無期懲役で終わっていたと、

 本村さん自身が言っています。

 今回の判決は、永山裁判以来 日本の死刑判決を拘束してきた基準を、

 20年ぶりに見直すものになると言われます。
 

 テレビのワイドショーなどでは どの番組でも、本村さんの訴えに賛同し、

 死刑を求める論調でした。

 裁判所の判決の根底にあるものは、国民世論や市民感情であるといいます。

 本村さんは、被害者遺族が 裁判で意見を述べることができず、第三者による裁判で

 当事者が置き去りにされていることにも、異議を唱えてきました。

 その結果、遺族が法廷に遺影を持ち込むことや、被害者側の意見陳述も

 認められるようになりました。

 それによって 世論も動かされ、近年の体感治安の悪化と相まって、

 裁判所の判断にも 反映されるようになりました。
 

 僕自身、元々死刑制度反対の立場でしたが、

 本村さんに感化されたものはあると思います。

 ただ、被害者遺族も人それぞれで、事件のことは忘れたい、

 触れたくないという人たちもいることを、忘れてはいけないと思います。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/36574143.html
 

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死刑と無期の「境界」

2006年06月18日 14時39分46秒 | 光市母子殺害事件
 
 今日の朝日新聞の記事からです。

 光市母子殺害事件に対する 最高裁の上告審判決が、20日に言い渡されるそうです。

 高裁の無期判決が破棄され差し戻し、または、死刑判決が出される可能性が言われていますが、

 死刑になるか無期になるか、過去の「境界事例」を挙げて 解説していました。

 死刑と無期の一番の境目は 被害者の人数で、

 1人だと無期懲役以下、3人以上は死刑となるのが通例です。

 この事件のように、2人の場合が裁判官を悩ませるそうです。

 もちろん他の要因もあり、人数だけで決まるものではありません。
 

 加害者の犯行後の情状も そのひとつですが、

 この事件では、加害者が友人に宛てたという 手紙の内容が取り上げられています。

 被害者や遺族を愚弄する 不謹慎で身勝手な文面は、人々の感情を逆なでしました。

 被害者遺族や国民の処罰感情に、大きく響いたことは間違いありません。

 ここ10年で 死刑判決の割合は上昇しており、

 「治安情勢や国民の処罰感情など 社会全体の情勢と、

 裁判所の量刑は 無関係ではない」ということです。

 また、女性や幼児が被害者の場合に、量刑に“重み付け”がされるそうです。

 一方、加害者が未成年というのは、さほど重視されないとのこと。

 近年、少年法や刑法が厳罰化されている影響でしょうか。
 

(国民が直接 審理に参加する「裁判員制度」が 3年後に開始されますが、

 国民の処罰感情が 量刑により強く反映されることになるでしょう。

 裁判員制度では 争点の簡略化にともない、

 上述の加害者の手紙のような、素朴な感情に訴える根拠ばかりが

 取り沙汰されはしないかと、懸念します。

 重大な判決は、総合的で精緻な観点から 熟慮されるべきと思います。)
 

 光市母子殺害事件の加害者は、これまで起訴事実は争わずにきましたが、

 上告審になってから、殺意はなかったと言いはじめました。

 被害者遺族の本村洋さんの見解では、死刑の可能性が出てきて 初めて、

 加害者はその判決を免れるため あがいているのだと言っています。
 

 本村さんには 生前の心子もともに近距離で会っていますし、

 罪悪を決して許さない心子でした。

 僕は必ずしも 死刑を期待するものではありませんが、

 2日後の最高裁判決の行方が、非常に注目されるところです。
 

(関連記事  http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/29299802.html)
 
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光市母子殺害事件の本村さん(2)

2006年03月20日 19時28分22秒 | 光市母子殺害事件
 
 きのうの記事「光市母子殺害事件の本村さん」にコメントとTBをいただきました。
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/29181389.html

 先方に付けさせていただいた僕のコメントを、こちらにも掲載したいと思います。

(文脈の関係上、一部加工しました。)

 ------------------------------------

 まず、僕は元々死刑反対の立場です。

(今は必ずしもそう言い切れなくなっています。

 正にそれは本村さんの影響ですが。)

 加害者の甦生プログラムと、犯罪被害者支援、遺族の癒しのシステムの必要性も強く感じています。

 僕は被害者遺族の本村さんのお話を直接聞いたこともありますし、メディアを通じて拝見したりしていました。

 当事者でありながらとても理知的で、客観的に見つめている方だと思います。

 一審の無期懲役判決が出たとき、悲憤と涙に打ち震えながら訴えた本村さんの下記の言葉は、非常に心に響きます。

 「怒りや憎しみやを乗り越えて、再び優しさを取り戻すためには、死ぬような努力をしなければならないんです」。

 怒りに身を任せてしまうだけでなく、その先にある優しさのことまでを踏まえた、深い人間性とその苦しみには計り知れないものを感じます。

 これほどの人格と品位を備えた被害者の言葉を、僕は他に知りません。

 その本村さんをして、「死刑にならないなら釈放してほしい。自分が殺す」と言わしめざるを得ないほどの、底知れない憤怒の被害者感情。

 死刑反対論者でも、この本村さんの言葉には耳を傾けざるを得ません。

 犯罪被害者支援運動の黎明期にあって、正に「神が与えた被害者」と言われる存在です。

 

 本村さんは憤りだけを持ち続けているわけではありませんでした。

 絶望や自暴自棄に陥っていた時期もあります。

 被害者遺族や被害者の言葉を、本人でない人は誰も代弁することはできないでしょう。

 ただし、被害者遺族もまた人それぞれで、加害者の極刑を望まない人も大勢います。

 もしこの事件の加害者が死刑になったあと、本村さんがどう感じ、生きていくか、それは誰にも分からないことだと思います。
 

 なお、「自分が殺す」という本村さんの言葉は、それほどの気持ちだということの表れで、実際に本村さんが加害者を目の前にして、手をくだすなどということはないと思います。

(続く)

最高裁上告審判決
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/36556382.html

差戻し審
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/47777510.html

被告人質問
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/48536162.html

第2回集中審理
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/49124214.html

第3回集中審理
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/50202257.html

差し戻し審判決
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/53880108.html


死刑制度について
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/29545347.html
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/51895139.html
 
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