(前の記事からの続き)
普段は冷静に 現実検討もしっかりした 思考ができるのに、
情緒的に負荷がかかると 一気に現実検討が低下し、
「妄想的」 とも呼べる 混乱しやすい状態になってしまう。
扁桃核など 辺縁系の活動が 過剰な状態になり、
前頭前野が圧倒されて 機能低下を起こしてしまう 傾向がある。
まさに 「感情が理性を 圧倒してしまう状態」 に 陥りやすいのだ。
境界性パーソナリティ障害の患者は、
自傷行為に伴う 不安や痛みなどの 不快反応を感じにくいことが 知られている。
脳機能のレベルでも、 痛みに対する 体性感覚野の反応が 低いことに加えて、
扁桃格の反応が 抑制されることが示されている。
自傷行為をすると 「痛み」 に不快反応を起こすが、
扁桃核の反応は抑制され、 そのため 自傷行為による 「痛み」 だけでなく、
慢性的な心の 「痛み」 も 一時的に抑制されることになるのだろう。
患者が自傷行為を 「安定剤代わり」 にするというのは、
こうしたメカニズムによる。
境界性パーソナリティ障害においては、
「自分自身や相手の気持ちに しっかり気付き、 しっかり表現する能力」 である
「内省機能」 が、 前頭前野の機能と相関している。
そのような 生得的な脳の問題が、 治療によって改善するのだろうか?
世間一般には、
「生まれの問題」 = 「生物学的なもの」 = 「精神療法で治らない」
= 「薬物療法」、
「育ちの問題」 = 「心理的なもの」 = 「精神療法」 という、
やや単純化された 図式があるようだ。
しかし事実は そんな簡単なものではない。
「内省機能」 は 精神療法によって 改善することが実証されている。
生物学的に決定されている 脳の問題も、 治療で変えることができるのである。
〔 「境界性パーソナリティ障害」 みすず書房 (小羽俊士) より 〕