「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

睨む人形の目 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (50)

2010年11月30日 21時02分05秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○ 東央大病院・ ICU

美和子 「今度は 前庭反射を調べる」

世良 「まだやるのか」

  美和子、 水が入った注射器を 安達の右耳

  に当てる。

美和子 「見てて。 右耳に冷水を注入すると、

 脳が正常なら 眼球が右に寄るの。 これを

 『眼振』 ていうんだけど」

  美和子が水を注入するが、 安達の目は止

  まったまま。

世良 「動かないな」

美和子 「左耳に注入すれば、 通常は左に寄る

 はず」

世良 「動かない …… 」

美和子 「 『眼振』 も消失ということ」

世良 「 …… でも、 何だか変な気もする …… 

 こうやって 色んな反応を調べても、 実際に脳

 の中が 見えるわけじゃない …… 脳は一体

 どうなってるんだろう?  この人の 頭の中は

  …… ?」

美和子 「(答を避け) …… 眼球頭反射を調べ

 るわ。 頭を動かしてみると、 脳死になって

 いれば、 眼球は人形の目みたいに 固定した

 まま動かな …… 」

  美和子が安達の顔を 左に向けると、 眼球は

  美和子をぎょろりと 睨むかのように、

  右へ動く。

美和子 「!? …… (血の気が引く)」

世良 「目が動いた …… !?」

美和子 「 …… まさか …… !?」

  美和子、 恐る恐る 安達の顔を 右に向けて

  みる。

  眼球は左に動き、 美和子を凝視する。

美和子 「(愕然とする) まだ、 生きている …

 … !?」

世良 「本当か !?」

  身の毛がよだつ思いがする 美和子と世良。

川添の声「何をしている !?」

  驚いて振り向く 美和子と世良。

  戻ってきた川添が 入ってくる。

  川添、 注射器や脱脂綿が 置いてあるのを

  認める。

川添 「何だこれは !? 君たちはなんてこと

 を !!」

世良 「す、 すみません …… !」

  川添、 美和子を 安達から引き離す。

  がっくりと膝をつく美和子。

川添 「自分のやったことが 分かってるんです

 か !?」

美和子 「 …… !! (川添を見上げる)」

川添 「 …… 私も バカなことをしたもんだ。

 あなたたちに任せるなんて …… (わなわな

 と)」

美和子・ 世良 「 ……… 」

(次の記事に続く)