「イスラム教の原理主義は変えるべきだと思っています! 変えなかったら、あなたがたは間違った道を転がり落ちていくことになると思う」(*1)
大川隆法・幸福の科学総裁の予言的警鐘が、現実化してしまったのが、今年10月のハマスによるイスラエルへの攻撃だった。
イスラム原理主義組織のハマスが10月7日、イスラエルに奇襲作戦を仕掛け、約1200人の一般市民を惨殺した。ハマスは戦闘員ではない赤ちゃんや子供まで虐殺し、女性をレイプ。生きている人間の首を園芸用の鍬で切断したり、「自分の手で10人のユダヤ人を殺したんだ!」と母親に嬉々として電話をしたりする戦闘員もいた。
その後、日本のメディアでは、戦闘による死者数が連日、報道されるようになった。だがそれは、米政府によると信憑性が疑わしいとされるハマス支配下のガザ保健省の発表に基づくもので、ガザ地区の死者数と、イスラエル人の死者数の双方を合算した数字である。
(*1)2021年12月のエルカンターレ祭法話「地球を包む愛」
世界の常識とかけ離れた日本の"常識"
これは日本にのみ見られる「特異」な論調である。
教育評論家の森口朗氏は、テロによる死者数と自衛戦争による死者数は、同列に並べるべき数字ではないとして、こう述べる。
「日本人は、今回の件で自分たちの世界常識がずれていることを、世界中に明らかにしてしまいました。テロで人を殺すことと、自衛戦争で人を殺すのは全く評価が異なるのが世界の常識です。日本では、憲法9条を根拠として、自衛戦争さえ否定するのが憲法学会の多数派であるため、テロによる人殺しと、自衛戦争による人殺しが全く異なることが理解できない国民性になってしまったのです」
一方で、イスラエル政府の「地下のハマス軍事拠点の上に存在する病院に対して短期間の避難警告を出しておけば、病院を民間人ごと破壊するのは自衛戦争の範囲に含まれる」とする考え方に批判が多いことは事実である。しかし「(国民を)守る気がないのなら、それは主権を放棄しているのとほとんど同じ」(*2)であることもまた事実であり、難しい問題だ。日本の左翼的なメディアはあらゆる戦争を違法化し、「戦争に正義なし」(*3)と主張する傾向が強いが、それで解決できる問題ではない。
これが世界標準でないことは、米政界で極左に位置し、長年イスラエル批判を展開してきたバーニー・サンダース上院議員でさえ、こうハマス批判をしていることからも明らかだろう。
「イスラエル人を含めて、世界の心ある人々は長年、ガザ地区の封鎖、ヨルダン川西岸の占領、パレスチナ人の窮状に抗議してきました。ハマスのテロはこうした悲惨な現状を解決することをより困難にし、パレスチナとイスラエル双方の過激派を勢いづかせ、暴力の連鎖を継続させるのです」
※文中や注の特に断りのない『 』は、いずれも大川隆法著、幸福の科学出版刊。
パレスチナはヨルダン川西岸地区とガザ地区に分かれている。
豪遊生活を送るハマスの幹部
パレスチナで10月7日の前に行われた世論調査の結果では、ハマスの人気は地に落ちていた。約7割の市民がハマスを「全然信頼していない」か、「あまり信頼していない」と答えた上(下図)、ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏の支持率は20%弱という低さだ(*4)。
カタールのホテルでくつろぐハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏(画像はOfir Gendelman/ Xより)。
それもそのはず。ガザ市民200万人の困窮をよそに、ハマスの幹部3人の総資産は110億ドル(約1.6兆円)に上り、彼らはカタールの5つ星ホテルで贅沢三昧の生活を送る(右写真)。カタールからは年間で最大約5億ドル(約755億円)、ハマスをテロ組織と認定していない国連からも過去2年間で約4億ドル(約600億円)の資金提供も受けているとされる(*5)。
また調査では、62%のパレスチナ市民は、イスラエルとの停戦を破り、暴力を行使して「一矢報いる」ことを望んでいなかった。ガザ市民は、経済的苦境はハマスの統治が原因だとも回答しており極めて冷静だ。2007年にハマスが実効支配する前までは、ガザ市民はイスラエルに自由に出稼ぎに行けたが、ハマスが実効支配した後(*6)、イスラエルとエジプトは、経済的な封鎖を強化。このため市民が貧しくなったことを彼らは理解している。
その上、ガザ市民の約7割弱はハマスを批判する言論の自由や平和的デモを行う権利がなく、今、世界に流れている報道映像や死傷者数はハマスの域内で検閲を通ったものである。
ハマスの共同創設者の息子であるモサブ・ハッサン・ユーセフ氏は米テレビ番組FOXに登場し、ハマスを取り除くべきだとこう切々と語った。
「私はハマスが多くのパレスチナの人を殺すのを直接見てきました。彼らの原理は『否定』であり、ハマスが奉仕するのはイランです。イランは中東全域をイスラム主義の国にするために、パレスチナを利用しています」
「ハマスは人間を盾にしています。これが作戦を困難にしています。エジプトに資金援助をしているアメリカは同国に圧力をかけ、国境を一時的に開放し、ガザ市民を受け入れ、市民の犠牲が最小限になるようにすべきです。国際世論は逆の方向に向かっていますが、ハマスを排除しなければ、彼らは幸福になれません」
ガザ市民の本当の幸福を願うなら、ガザとテロリストとしてのハマスを区別する視点も求められる。赤軍派やサリンを撒いたオウム教信者と、一般の日本人とが異なるのと同じである。
(*4)Amaney A. Jamal and Michael Robbins , "What Palestinians Really Think of Hamas",米誌フォーリン・アフェアーズ、2023年10月25日
(*5)The Foundation for Defense of Democraciesより。なおカタールからこれだけ巨額の資金がハマスに流れ込んだ背景には、「イスラエルが長年パレスチナの主要な政治勢力・ファタハ(現パレスチナ自治政府の与党)を牽制するためにハマスを陰から援助し、カタール資金の流入も見逃してきた経緯がある」と指摘する専門家も多い。
(*6)2005年にイスラエルはガザ地区の撤退を完了させたが、教育、医療支援などの福祉で支持を得たハマスが台頭。06年の総選挙ではハマス主導の自治政府が誕生した。しかし、政府内の別組織、ファタハとの抗争が激化し、07年、ハマスはガザ地区内の大統領府などを占拠。実効支配を開始する。
ハマスへの信頼度は低い
出典: Arab Barometer Wave VIII, Gaza(2023)に基づき編集部作成。
テロには毅然とした態度を示すべき
「イスラエルの殲滅」を大義として掲げるハマスは、「イスラエルによる占領こそが問題だ。我々のやることは全て正当化されるのだ」と訴え、「イスラエルが完全に破壊されるまで何度でも攻撃する」と公言している。このため「停戦は彼らに再度攻撃をするための時間的猶予を与え、テロを容認する判断に与しかねない」とする米国防総省などの判断は、残念ながら軍事的には一部当たっていると言わざるを得ない。
日本の法務省の公案調査庁が発表する主な国際テロ組織13のうち11までもがイスラム原理主義組織である。また、2013年のアルジェリアの人質事件のように、将来日本人もテロの犠牲者になることもあり得る。従ってイスラム原理主義を肯定することはできない。そうでなければ、テロが世界で頻発することになる。
その上でイスラエルの自衛権行使が国際法上どこまで許されるのかについて論じることが、政治的な観点から見た時には、情緒的で左翼的な議論に流されない考え方だと言える(下参照)。
踏みにじられた宗教的寛容
では、なぜこの時期に、ハマスはイスラエルに奇襲をかけたのか。
理由の一つに、イスラエルとサウジアラビアとの国交回復が間近だったことが挙げられるだろう。2020年、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)、バーレーンとが国交正常化を果たした。
預言者アブラハムという共通のルーツを有する二つの宗教の和解という意味で「アブラハム合意」と名付けられた本合意は、トランプ米大統領(当時)がもたらした歴史的な和解であった。その後、スーダン、モロッコが続いてイスラエルと国交を回復した。
これはイスラエル殲滅を掲げる反ユダヤ主義と決別し、安定した中東をつくる未来志向の中東和平であり、エジプトのシシ現大統領も支持。イスラエルとの間ではビザなし渡航が認められただけでなく、サウジで最も権威のあるイスラム指導者(イマーム)のスダイス師は「ムハンマドはユダヤ人に友好的だった」と強調しつつ、ユダヤ教徒に対する宗教的寛容の重要さを説くなど、イスラム教徒のユダヤ教徒に対する「和解」が進んだ。
大川総裁は2022年1月に、「キリスト教徒がユダヤ教徒を許しているなら、イスラム教徒も(ユダヤ教徒を)許すべき」(*7)と「許しの原理」を説いたが、今回のハマスの奇襲はそのような許しに基づく国際関係が中東全域に広がらんとしていた矢先であったのだ。
アブラハム合意は「反ユダヤ主義」を掲げる「イスラム主義」を放棄した上で、アラブ世界がパレスチナの国家建設に協力するという取り決めであったが、「イスラエルの殲滅」を掲げるハマスやガザ地区の武装組織「イスラム聖戦機構」、そのバックにいるイランは、当然ながら、この合意が気に入らなかった。イラン国民の多くはイスラエル国民との友好的な関係を望んでおり、パレスチナの人々もイスラエルとの平和的な解決を望み、イスラエルによるヨルダン川西岸の入植(本誌39ページ)に反対していたイスラエルの議員がいたなど「和解」に理解を示す人々が存在したにもかかわらず、である。
実際、多くのアラブ諸国はガザを実効支配するハマスと、それを支援するイランを嫌悪している(*8)。「アラブの連帯」という建前上、各国は表立って表明はしていないが、ハマスが勝利すれば、「ユダヤ人殲滅」という否定的イデオロギーに正当性を与えてしまい、イランが勢いづくことをアラブ諸国は恐れている。
一方で、「アブラハム合意からパレスチナ国家建設へ」という"宗教的寛容"路線に対して、現時点で大きな障害になっているもう一つの極が、イスラエルのネタニヤフ首相であることは多くの人が認めるところだろう。同首相は、トランプ氏からバイデン氏に政権移行をすると、掌を返して対パレスチナ強硬路線に戻ったが、同首相の出身母体であるリクード党や連立を組まざるを得ない極右諸政党の元々の考え方から見れば、「宗教的寛容」に関心がないと言わざるを得ない。
(*7)2022年1月法話「『メシアの法』講義」
(*8) "Only America can save Israel and Gaza from greater catastrophe",英誌ザ・エコノミスト、2023年10月19日
第三次世界大戦に至るのか
イスラエルとサウジとの国交回復の機会が失われ、イスラエルとパレスチナの「二国家解決」(本誌39ページ)も不透明になった。
同時にイランから資金的・軍事的援助を受けるレバノンのヒズボラ、イエメンのフーシといった過激派組織が三方面からイスラエルや米軍基地を攻撃し、イスラエルやアメリカの忍耐の限度を試している状況にある。また八尾師氏が語っているように(本誌40ページ)、イランは核保有の野望を諦めることがない。国際原子力機関(IAEA)は報告書で、イランは12日間で核爆弾1個分の兵器級濃縮ウランを製造できるとする。一方イスラエルはイランが一発も核保有することを許容していない。全ての当事者が戦争拡大の回避に専念する場合にのみ、エスカレーションを避けることができる。だが紛争を回避する方が自国の存続に危険をもたらすと考えた場合、その保証はない。世界大戦に向かう条件が整いつつあるのだ。
イスラエルとハマスの対立は、ユダヤ・キリスト教対イスラム教との文明の衝突の様相も呈し始めた。大川総裁は、物事の正しさを判断するには、それが「究極まで拡大したらどうなるか」を想像するとよいと説いている。
この問題に詳しい識者の意見を聞きつつ、考えてみたい。
両者の攻撃は国際法違反か
(HSUアソシエイト・プロフェッサー 河田成治氏監修)
ハマス側
●10月7日の奇襲によるイスラエル住民殺害
●ロケット砲による民間施設の攻撃
●民間人を人間の盾にしている行為
⇒ 文民は攻撃対象としてはならないため、国際法違反。(1949年ジュネーヴ第一追加議定書51条2)
●イスラエル人や外国人をガザに連れ去り、人質にした行為
⇒ 戦争犯罪
※国際刑事裁判所規程の戦争犯罪(第8条2)では、戦争犯罪を、「ジュネーヴ諸条約の重大な違反行為」と規定し、「人質をとること」も戦争犯罪と定めている。
イスラエル側
●地上侵攻
⇒ 自衛権としての武力行使は国際法上の権利。(国連憲章51条)
●ガザ北部住民への避難勧告
⇒ 住民の安全または軍事上の理由から、必要なら立ち退きの実施は可能。(1949年ジュネーヴ第四条約49条
●ガザ市民が攻撃時に巻き添え
⇒ 文民の巻き添えが過度になることのみを禁止(比例性原則)。(ジュネーヴ第一追加議定書51条5(b))
イスラエルはなぜ恨まれているのか
第一次大戦中のイギリスの口約束により(本誌40ページ)、ユダヤ人のパレスチナ移住は静かに始まっていたが、1947年、国連はパレスチナをユダヤ国家とアラブ国家に分割することを決定(*)。アラブ人の反発と、ユダヤ人の軍事作戦で内戦状態に陥る。
48年、イスラエルが建国を宣言。宣言の翌日、アラブ系国家がイスラエルに宣戦布告し、第一次中東戦争が始まる。その際ユダヤ人の武装組織(イスラエル軍と連携)が500以上のパレスチナ人集落を襲撃して消滅させ、婦女子を含めて暴行・虐殺し、イスラエル軍によるパレスチナ全土の77%占領の結果と併せ、約75万人のパレスチナ難民が生まれた。これをパレスチナの人々は「ナクバ(大厄災)」と呼ぶ。現在ガザ地区に住む難民の多くは、ナクバによって土地を追われた人々の2世、3世である。
その一方でイスラエルによる占領への不満から、87年にパレスチナ人の大衆蜂起「インティファーダ」が発生。このころ、イスラエルの殲滅を目指すイスラム原理主義組織「ハマス」が設立され、彼らはその後、自爆テロなどの武力闘争を重ねる。
93年、「オスロ合意」でパレスチナ暫定自治政府が設立。しかし、自治地域はヨルダン川西岸地区とガザ地区のみに限定。パレスチナ国家の建設や難民問題は今後の交渉に委ねると先送りされ、「二国家解決」は遠のいた。
イスラエルは現在に至るまでヨルダン川西岸地区の一部を事実上占領し、イスラエル人による強引な入植を続けている。一説によれば、ヨルダン川西岸地区の約半分がイスラエル人入植者に既に占拠されたと言われており、その間、武器等で脅しながらパレスチナ人を土地から追い出したり、さまざまな嫌がらせをしたりするなど、これらの実態はメディアでは報じられ始めている。
特に昨年末ネタニヤフ首相の第6次政権が極右政党との連立で発足して以来、この傾向が強まっており、暴力の急増、パレスチナ人死傷者の増加が問題となっていた。バイデン米政権も表向きはネタニヤフ政権の手法を批判しているが、「事実上見て見ぬふりをしている」というのがアラブ側の強い不満だった。
(*)国連決議181号:全パレスチナ領の56%をユダヤ人の国家に、43%をアラブ人の国家に分割し、エルサレムを国連に代わって信託統治理事会が管理する特別国際レジームのもとに置くことを規定。
パレスチナの歴史的変遷図
(1)イスラエル建国運動以前(1917年)、(2)第一次中東戦争~第三次中東戦争ころ、(3)現在ヨルダン川西岸地区は壁やユダヤ人専用道路などで細かく分断されており、実効レベルでパレスチナの自治権が及んでいるのは、ここまで制限されていると思われる。
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