話題の新NISA、実は「落とし穴」だらけ…荻原博子が「おやめなさい」と断言するワケ
NISAのポイントはやはり「非課税」
2024年から始まる「新NISA」。ネット証券大手のSBIホールディングスや楽天証券などは、すでに口座数が1000万を超えていて、個人の関心も高まっているようです。
「NISA」とは、国がつくった非課税で投資ができる口座。通常の投資だと、儲かった額に対して20%ほどの税金(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0・315%の合計20・315%)がかかります。ところが、「NISA」の口座にある投資商品は、この税金がかからずに非課税となります。
たとえば、100万円で買った株が110万円で売れたとすれば、10万円の利益となり、通常の証券口座では、この利益の中から2万315円の税金が引かれ、実質的な手取りは7万9685円。一方で「NISA」の口座に入っている投資商品では、非課税のため10万円がそのまま実質的に手元に残る、という仕組みです。
「NISA」には、これまで「一般NISA」と「つみたてNISA」という2種類がありました。
「一般NISA」は、上場株式や投資信託などを買っていくというもので、年間に使える金額の上限が120万円。また非課税保有期間は5年でした。つまり、保有限度額は600万円となります。
一方の「つみたてNISA」は、金融庁が定める一定基準を満たした投資信託などを文字通り積み立てで買っていくというもの。年間の上限は40万円(保有限度額800万円)で、非課税保有期間は20年でした。
この「NISA」の投資額と非課税保有期間が、表のように2024年1月から広がります。これが「新NISA」と呼ばれる制度です。
現行の「NISA」の大きな欠陥は、保有期間が限られていること。このため運用がうまくいけばいいけれど、損が出るとダメージを防ぎようがないということでした。
新NISAのメリットとは
たとえば100万円で買った株が50万円になってしまったら、通常の証券口座なら株価が100万円に戻るまで「塩漬け」にして、待ち続けることが可能です。評価損は抱えることになりますが、損を確定させることは避けられます。
ところが「一般NISA」を使って100万円で買った株は、口座に5年間しか置いておくことができません。一度も100万円を超えず、5年後に50万円だったとしても、そこで売るか、新しい口座に移しかえなくてはなりませんでした。
しかも、移しかえた場合、その時の株価が取得価格となります。100万円で買って50万円になった株を一般の証券口座に移すと、取得価格が50万円ということになってしまいました。
このため、この株がやっと100万円に戻ってよかったと思っても、50万円の株が100万円に値上がりしたと見なされてしまうのです。
この場合、利益が50万円出たという扱いになり、50万円の20%で10万円の税金がかかります。元々は100万円で買った株を100万円で売ったわけですし、通常の証券口座ではかからなかった約10万円の税金を「NISA」では支払わなくてはならないということになっていたわけです。
けれど、「新NISA」では、口座が恒久化され、保有期限が無期限となったため、こうした「NISA」の欠陥は解消されました。これは大きなメリットと言えるでしょう。
だとすれば、すぐにでも「新NISA」を始めるべきでしょうか?
「新NISA」のメリットについては、金融庁をはじめとして各銀行、証券会社でも山のように出ていていますから、メリットについてはそちらにお任せし、あえてここではデメリットについて書きたいと思います。
「制度からくるデメリット」
「新NISA」には、「制度からくるデメリット」と、「思い込みによるデメリット」の大きく2つのデメリットがあります。
まず、「制度からくるデメリット」について見てみましょう。
「新NISA」の「制度としてのデメリット」は、「損」に弱いということです。投資をする方は、少しでも損を減らすために「ナンピン買い」や、「損益通算」「損失繰り越し」などを駆使します。けれど、「新NISA」では、こうした手法をフルには使えません。
1.「ナンピン買い」が難しい
「ナンピン(難平)買い」とは、保有している銘柄の株価が下がったときに、さらに買い増しをして平均購入単価を下げる買い方。たとえば、100万円の株を1株買い、これが50万円になってしまったら、さらに100万円で2株買えば、平均取得価格は約67万円になりますから、100万円になるまで待っていなくても、株価が67万円以上になったら売れば利益が出ます。
この株が、さらに30万円になってしまったとしたら、90万円で3株買えば、トータル290万円で6株持てますから、1株あたりのコストは約49万円。つまり、株価が49万円以上になると、利益が出ます。
ただ、「新NISA」では、1年間に240万円までしか株を買うことができず、同じように「ナンピン」で取得コストを下げようと思っても、230万円で4株しか買えない。この場合、株価が58万円以上にならないと利益が出ません。
しかも、「新NISA」の投資の枠は240万円なので、すでに他の投資商品を買っていたら、その年はどんなに株価が下がっていても、買い増すことはできません。
これでは、株式投資の自由度があまりに低いと言わざるをえません。「新NISA」のほかに普通の証券口座を持つという人もいるでしょうが、そうなると、「損益通算ができない」「損失繰越ができない」などのデメリットも出てきます。
2.「損益通算ができない」
「損益通算」とは、赤字部分と黒字部分を相殺することを言います。
たとえば、「新NISA」の投資枠は小さいので通常の証券口座も持つという場合、A社の株を「新NISA」で100万円で買い、B社の株を同じく通常の証券口座で100万円買ったとします。この場合2つの株を売るときに、A社の株が70万円になってしまい、B社の株が130万円に上がっていたら、通常の証券口座なら赤字から黒字を差し引きして儲けはゼロにすることができるため、税金を納めなくてもいいということになります。
ところが、A社の株が「新NISA」の口座にある場合には、この「損益通算」ができないので、B社株の利益の30万円に対して、約6万円の税金を払わなくてはなりません。
3.「損失繰り越しができない」
「損失繰り越し」とは、株取引で出た損失を、翌年以降最長3年間、繰り越しすることができるというもの。例えば、200万円で買った株を100万円で売らなくてはならなくなったら100万円の損になりますが、通常の口座ではこの損は翌年以降に繰り越されます。
ですから、次の年に50万円の利益が出て、その次の年にまた50万円の利益が出たとしても、損している100万円を最長3年間は使えるので、儲けに対して税金を支払う必要は無くなります。
もちろん「新NISA」の口座でしか投資しない人は「損益通算」も「繰り越し控除」も必要ないので問題はありませんが、「新NISA」の投資枠だけでは本格的な投資をするのには使用出来る枠が小さいので、別途に証券口座を持っている人も多いでしょう。そういう人にとっては、デメリットとなるのは間違いありません。
思い込みによるデメリット
4.「口座を一人一口座しか持てない」
「新NISA」の口座は、一人一口座しか持てません。また、その年に売買できる金融機関は一社だけです。金融機関を変えることもできますが、かなり手続きが面倒で、一年に一度しかできません。気に入らない商品だったので売ってしまったとしても、翌年まで待たなくては、会社を変えてまた買うということはできないのです。
しかも、投資枠が空いていたとしても、次の年に持ち越せません。例えば、「成長投資枠」の240万円で目一杯に株を買い、途中で100万円分を売って枠が100万円できたとしても、その100万円分の枠は、次の年には持ち越せません。次の年に240万円プラス100万円の買い付け枠ができるわけではないのです。従って年間240万円という枠をオーバーすることはできません。
枠があってオーバーすることができないというのは、タイミングを見て売ったり買ったりといった、機動的な売買で儲けたい投資家にとっては不便で、結果的に買ったらずっと持っているような投資商品に偏っていくことになりかねません。
次に、思い込みによるデメリットも大きいように思います。
なぜなら、金融庁による「新NISA」のPRを見ていると、投資というのは長期で資産形成をしていくもという刷り込みが強く、「売り買いで機動的に儲けていく」という投資の本質が薄められているからです。
つまり、本格的に株を売り買いするような投資家向きではなく、あくまで投資初心者に「これで老後は安泰」という安心感(幻想と言ってもいいかもしれません)を与えながら投資させていくというのが狙いだからです。
ですから、投資初心者であればあるほど「新NISA」がお題目のように唱えている「長期投資」はいいものだという思い込みに陥りそうですが、気をつけたほうがいいと私は考えています。
シミュレーション通りにいくのか
金融庁の「NISA特設ウェブサイト」には、「資産運用シミュレーション」という「NISA」で積み立をしていくと、将来いくらくらいになるのかということを計算するコーナーがあります。
これをやってみると、いくら積み立てれば将来どれくらいに増えるかということが表示されます。投資期間が長ければ金額が大きくなるため、投資初心者が見たら、すぐにでも「新NISA」を始めなくてはと思うことでしょう。
けれど、そんなにうまくいくものでしょうか。
そもそも「積立」という言葉から「積立預金」イメージする人が多のではないでしょうか。そういう人にこんなグラフを見せたら、NISAさえはじめれば必ず儲かると錯覚してしまいかねません。
しかし、忘れてはいけないのは、投資である以上、こんな綺麗な右肩上がりはありえないということ。投資には、値下がり、つまり右肩下がりもあり得るのです。
図は、日経平均の30年間の推移ですが、それこそ山あり谷あり。一本調子で上がっていくことなどありえません。
「新NISA」で選べる投資信託には、インデックスファンド(日経平均などの指数に値動きが連動する商品)が多いですが、仮に経平均が3万8915年の時に日経平均のインデックスファンドを買った人は、5年年後には半額近くなり、2009年3月には、7054円を付けています。ピーク時の5分の1以下です。
一方10年前に買った人は2倍になっています。
インデックスファンドでも、これくらい激しい値動きがあるのですから、「長期投資なら安全に増える」という幻想は抱かないほうがいいでしょう。
「国のお墨付き」の金融商品?
「新NISA」は、扱える(投資家が購入できる)投資信託について、信託報酬の基準などを金融庁が厳しく定めています。
ですから、「国が勧めるのだから大丈夫」という思い込みをしやすい。中には「安心して買っていい商品」と思い込んでいる人もいるかもしれません。
商品は、各種指数に沿って値動きをするインデックスファンドと、ファンドマネージャーという運用の専門家が投資する銘柄を選んで積極的な運用するアクティブファンドが中心です。
インデックスファンドでは、国内資産のみを対象としたものなら信託報酬0.5%以下、外国資産を組み入れると0・75%以下という基準があります。アクティブファンドの場合には、国内資産のみだと1%以下、外国資産を組み入れると1.5%以下という基準になっています。
さらに、評判が悪い「毎月分配型投資信託」のようなものは除外されています。ただし、「隔月分配型投資信託」は、どういうわけか入っています。ですから、「国がお墨付きを与えている」というようなニュアンスで売ろうとする金融機関も多く出てきそうです。
ただ、けっして「国が厳しい基準でセレクトするので安全」などということはありません。投資商品である以上、値下がりのリスクがあることは同様であることを忘れてはいけません。
国が「長期投資なら大丈夫」という幻想を振りまき、しかも商品を扱う会社が「国が安全性を精査した商品」などと言って勧めることが予想されるだけに、注意が必要です。
今は投資に最適のタイミングなのか
また、「新NISA」の売り方についても気になる点があります。
選択肢の中心になっているインデックスファンドは、信託報酬が少ないので金融機関にとっては旨味が少ない商品と言われています。ですから、信託報酬が高く設定されているアクティブファンドを、「成長を期待できます」などということで積極的に売ろうとすることが容易に想像できます。
アクティブファンドは高い利回りを目指しているためにリスク商品を多く組み入れているので、それを知らないで買っていると、リスクが高い商品ばかりが積み上がっていくという可能性もあります。ところが、「国の規定にあった商品」ということでもそのリスク感が薄れてしまう。金融機関にとっては、売りやすいということになります。
では、リスクが少ないと言われているインデックスファンドならいいのかと言えば、そうとも言えません。確かにアクティブファンドよりはリスクが少ない。けれど、リーマンショックのようなことがあったらドンと下がる可能性を忘れてはいけません。
さらに、海外の資産を組み入れていたら、為替リスクも高まります。
そうしたリスクを充分理解した上で、本当にNISAを活用する価値があるかどうかの判断をしないと、後で泣きを見ることになるかもしれません。くれぐれも注意をして下さい。
ここまでは、「制度からくるデメリット」「思い込みによるデメリット」についてもてきましたが、NISAで購入する株や投資信託がリスク商品である以上、今が投資をはじめるのに適したタイミングや環境なのかというポイントも忘れてはいけません。
結論から言うと、私は今が投資を始めるのにいいタイミングだとは思えません。
「日銀リスク」の顕在化
まず、相場次第では日本のマーケット特有の「日銀リスク」が顕在化してくる危険性があります。
「アベノミクス」以来日銀が買い込んだ大量の国債は、すでに今年3月末時点で576兆円と、発行済みの国債の53・3%と過去最大になっています。今後、日銀が政策変更をして金利が上がると、国債の価格は値下がりするため、債務超過に陥る可能性が出てきています。
ですから、日銀は国債の買い入れをこれ以上増やしたくないでしょうが、植田和男日銀総裁が12月7日に「年末から来年にかけて一段とチャレンジング(挑戦的)になる」と、金融緩和を縮小するようなニュアンスのことを言っただけで、約10円の円高になり、日経平均株価も600円超下がりました。
その後、この発言は修正され、為替は円安に、株価も戻りましたが、株や為替など日本のリスク市場は、10年も続いて金融緩和の縮小に怯えているということは間違いないでしょう。
また、日銀が買っているETFは約60兆円ととても巨額で、東証一部の時価総額の1割近くになっています。年金(GPIF)の56兆円と合わせると、日本の年間の国家予算に匹敵する株をこの2つで買っているということ。
今は株価か堅調なので「儲かっている」ということでよく解釈されていますが、東証一部には、日銀が10%以上の株を持つ大株主となっている企業は27社もあり、アドバンテスト25・6%を筆頭に、TDK、ファーストリティーリングなども発行株式の20%以上を日銀が持っているのですから、もはや異常としか言いようがありません。
マーケットの下支えを国民にさせる
日本の株式相場は、長らく政府と、外国人投資家に支えられてきましたが、政府も限界に近づきつつあると言われます。外国人投資家もこれから欧米の景気が悪くなれば株への投資を減らす可能性があり、そうなったら、誰が日本の相場を支えるのでしょうか。
うがった見方かもしれませんが、今まで投資に関心がなかった国民を「新NISA」を餌に株式市場に誘い込み、マーケットの支え手といようとしている気がしてなりません。
もしそうだとしたら、最後に被害をかぶるのは、なけなしのお金をつぎ込んだ普通の人たちかもしれません。
世界を見回してもウクライナ情勢、イスラエル情勢という不安要因が溢れています。そうしたリスクを抱えながら、それでも株価がそれほど下がらないのは、なぜでしょうか。
それは世界的なインフレと、コロナ以降世界の中央銀行が景気の下支えのためにマネーをバラいたことによる金余りのためです。つまり、景気が良くて企業が儲かっているから株価が上がっているのではなく、ただ行き場を失ったジャブジャブのマネーが株式市場に集まったために値上がりしている。値上がりしているからさらにマネーが集まるということが起きているに過ぎないのです。
逆に言えば、一旦こうしたサイクルに異変が起きれば、リスク要因に投資家が注目し、一気に暴落する危険も孕んでいる。それが今の株式市場なのです。
では、こうした状況はいつまで続くのでしょうか。
2024年に投資ブームがやってくるが…
目先は大きな変化はないかもしれません。2024年の日本株は、いくつかの値上がりが期待できる要因もあります。
支持率ダダ下がりの岸田首相が今年9月の自民党総裁選を勝ち抜くには、衆議院を解散して選挙で勝利を収めることが必要。そうしないと、菅前首相のように、総裁選を戦えなくなります。ですから、もしかしたら「7月の七夕選挙」があるかもしれません。
だとすれば、それまでは、なんとしても株価を下げたくない。
自民党というのは不思議で、今は党内の仁義なき派閥争いを展開していますが、選挙となると一致団結する政党なのです。
そうなると、日銀、年金といった強力な株の買い手を総動員して、安倍政権の時のように株価の上昇を前面に出て景気を盛り上げることも考えられます。日銀、年金が出てきたら、しばらくは株の買い控えをしていた外国勢も勢いを増して、安倍政権下で大儲けした夢よ再びということで買いに回る可能性もあり、マーケットも盛り上がりそうです。
アメリカも状況は似たようなもので、今年11月のアメリカも大統領選の開票に向けて、バイデン政権も好景気を継続させておかなくてはならないという事情がありますから、なんとしても株高を維持したいでしょう。
今年、景気が悪くなると言われているのは中国ですが、日本にとっては、不安定になる中国から政治的に安定していて未だに異次元緩和を続けている日本に投資資金が流れることになるかもしれません。
そこに、政府の「貯蓄から投資へ」と大宣伝している「新NISA」がスタートするのですから、相場も湧くことでしょう。
今年前半の日本は、もしかしたら空前の「投資ブーム」になるかもしれません。
問題はそのあと
ただ、問題は、その後です。
もし7月の選挙があって自民党が大敗しようものなら、支持率が低い岸田政権ですから派閥抗争が激化し、総裁の椅子を狙ってそれこそ下克上の戦いとなり、政治空白が生まれる可能性があります。
困るのは、そうなっても大丈夫な政策の積み上げが何もないこと。賃上げ税制も不発、子育て支援も中途半場、トリガー条項凍結解除などという話もこの頃にはすっかり消えているはず。
一方で紙の「保険証」が廃止されたり、社会保険料アップされたり、増税議論が沸騰してくる可能性も大。仮に、総裁選で岸田首相が勝てない場合には、日本政治の混乱ということになるので、外国人投資家も再び売りに回る危険性があります。
さらに、ウクライナやイスラエルの戦争という地政学リスクも続いている可能性があります。特にイスラエルに対しては、UAEなど多くの国が中立的な立場を取っていますが、イスラエルへの怒りが高まっている中で再び「アラブの春」のようなことが起きれば、94%の石油を中東に依存している日本の産業は、壊滅的な打撃を受ける可能性があります。
世界も日本もどう転ぶかわからないので、個人的にはとても投資になど乗り出す時期ではない気がします。
こう書くと、「だったら、とりあえず、来年前半だけ投資して、あとはやめておけばいいじゃないか」という方もおられるでしょう。
けれど、それができるのは、投資経験の長いベテランや運用の専門家だけです。個人は、相場が暴落するときは、凍り付いて仕舞い、何もできないことが少なくない。特に新NISAに飛びついた投資ビギナーは、大きな暴落を経験したことがないため、逃げ時を逃して最後はババを引きやすいのです。
そういう意味でも、機動的な売り買いがしにくい「新NISA」をこの時期に始めるのは危険が多すぎる。少なくとも半年から一年は様子を見てからでも遅くないのではないでしょうか。