http://hrp-newsfile.jp/2022/4368/
幸福実現党 政務調査会 藤森智博
◆国保保険料の上限は、10年で8回、約30万円引き上げられ、2023年104万円へ
10月28日、厚生労働省は、来年度から国民健康保険(国保)の保険料の年間上限額を今より2万円引き上げる方針を固めました。
国保は、自営業者やフリーランスの人などが加入する保険です。保険料は、引き上げにより最大で年104万円となります。引き上げの背景には、高齢化による医療費の急増があります。
実は、この国保の引き上げは毎年の恒例行事のようになっています。
2014年以降23年までの10年間で引き上げが行われなかった年は、わずか2回。引き上げは、総額で27万円になります。
同じ公的保険である会社員中心の被用者保険や厚生年金保険は、同じ時期だとともに一度しか引き上げは行われておりません。国保の引き上げが「いかに、異常なことか」がよく分かるでしょう。
◆上限引き上げの問題(1):保険料が「累進課税」となる
それでは、この上限の引き上げは何が問題なのでしょうか。まず、挙げられることは「国保の累進課税化」です。
当然、保険料と税金には違う面はありますが、国保の場合、多くの自治体は「保険税」としてお金を徴収しています。
さらに、国保の対価である「医療」や「介護」は、事前の支払いが多くても少なくても、受けられるサービスには変わりはありません。
これが一般の私的保険と究極的に異なる部分です。公的保険は「助け合い」の観点から、サービスに見合わない保険料の徴収が正当化されているのですが、これが強調されればされるほど「税」としての性格は強くなっていきます。
そして、高所得者を狙い撃ちする「上限の引き上げ」は、国保の保険料が「累進課税化」することを意味しています。
◆上限引き上げの問題(2):問題が先送りとなり、公的保険制度の失敗がより深刻化する
次に挙げるべきは、「上限引き上げは、事実上の問題の先送り」となっていることです。今回の上限の引き上げの対象は、厚生労働省の資料によれば、わずか1.51%です。
そうした高所得者層の負担が多くなる分、中間所得層の負担は軽減されると謳われています。
これは確かに魅力的とも見える人もいるでしょう。
しかし、そもそもの問題として、公的保険制度自体が既に限界を迎えつつあることを見過ごしてはいけません。
2019年度の人口一人当たりの国民医療費を見ると、65歳未満が19.2万円であるのに対し、65歳以上では75.4万円、75歳以上は93.1万円となっています。
特に75歳以上の後期高齢者1890万人の医療費18.4兆円(2022年度予算ベース)に対し、患者負担は1.5兆円。
残りの約17兆円は、公費が約5割、若年層からの支援金が約4割、高齢者の保険料約1割で賄われています。
少子高齢化が一層厳しくなるなか、全くもって「持続可能」ではありません。
こうした状況で、高所得者層への累進課税を強めたところで「焼け石に水」にしかなりません。
むしろ、一時的な中間層の負担軽減によって、事態の深刻さが見落とされる危険性さえあります。
医療費の増大が、直接的に保険料として転嫁されれば、実感としてそれを感じることができますが、軽減されればされるほど、そうした感覚は薄れます。
一部の高所得者層にのみ負担を押し付けて解決するのなら、それでもいいのかもしれませんが、実際のところ解決できません。むしろ、問題を先送りにすればするほど、事態はより深刻になるでしょう。
◆上限引き上げの問題(3):法改正なしに事実上、政府が自由に引き上げを行っている
そして3点目の問題は、国保保険料の上限引き上げに「法律改正」が全く必要ないことです。これが、毎年の「恒例行事」とできた「カラクリ」となります。
「国民健康保険法」には、実は保険料の徴収に関する具体的な規定がありません。ですから、政府は、「政令」によって、自由自在に具体的内容を決めることができます。
政令とは、法律を実施するために政府が制定するルールです。
法律で具体的な内容が決められず、政令に委任されるところが増えるほど、政府が自由に決められる幅は広がります。
国保保険料の引き上げの場合で言えば、累進課税を法改正なしに政府の「フリーハンド」でできてしまうことになります。
◆政府の自由な保険料の上限引き上げは、憲法上の問題があり、自由の制限に通じる
「フリーハンドで政府が税金を課せる」ということは非常に恐ろしいことです。私有財産権は、自由と民主を担保するものです。
私有財産があるからこそ、経済活動の自由が保障されて、様々な思想・信条に沿った行動を取る自由も保障されるようになるわけです。
税金は、明らかにこうした私有財産の侵害となりますが、「公共の福祉」によって、社会全体の共通の利益のためにそれが許されています。
しかしだからと言って、「何でもあり」になったら困ります。だからこそ、「議会の法律によって条件を決めましょう」というルールがあります。これが憲法第84条の「租税法律主義」です。
「保険料自由自在」となれば、こうした憲法の精神を軽んずることになります。
もちろん、国民健康保険法第81条で、保険料に関して政令等に委任する規定があるため、憲法違反とまでは言えませんが、私有財産権を尊び、個人の自由を保障する憲法の精神の大きな妨げとなり得ます。
国保保険料、上限2万円引き上げの「カラクリ」が本当に恐いワケ。【後編】
2022.11.01
http://hrp-newsfile.jp/2022/4370/
◆政府が根拠不明の自主ルールで上限引き上げを行う危険性
そうした批判を恐れてか、 「フリーハンド「と言っても、政府の運用は慎重です。根拠不明の自主ルールを勝手に作って運用しています。
それは、保険料の上限額に該当する世帯の割合を1.5%に近づけることを目指すというものです。
一度に大幅に引き上げてしまうと、それだけ「保険性」が失われてしまうのと同時に重税感が出て批判が強まるのを恐れているため、そうした自主ルールを設定しているのかもしれません。
ですが、根拠不明のルールに基づいていること自体が非常に危険であると言わざるを得ません。根拠不明というのは、法的根拠と合理的根拠の両方について言えます。
法的根拠としては、政令で定められておらず、不明です。さらに後述の通り合理的根拠も不明なので、為政者の都合で「何でもあり」になりかねないのです。
◆政府の自主ルールの説明が信用できないワケ(1):他の保険に関する法律を都合よく解釈している
合理的根拠については、厚労省の説明はあります。
会社員向けの「被用者保険」において、最高額の人の割合が「0.5%~1.5%の間となるように法定されている」ので、これとバランスを取って、1.5%に近づけているとされています。
もっともらしく聞こえますが、仕組みも所得層もバラバラな「被用者保険」と「国民健康保険」を同じルールにしても、バランスは取れるようで全く取れません。実際、所得が高くなってくると、「国民健康保険の方が保険料は高い」という声はよく聞かれます。
また、厚労省の説明にはかなり嘘が入っています。厚労省の言う通り、「被用者保険」で最高額の割合が「法定」されているのは事実です。
しかし、被用者保険について定める「健康保険法」の第40条の2では、最高額の人の割合が1.5%を超える状態が「継続すると認められるとき」に、引き上げを「行うことができる」と規定されています。
厚労省の書き振りでは、「0.5%~1.5%の間」が義務規定のように受け止める人がいてもおかしくありませんが、実際は全く違います。
ちなみに、健康保険法と同様の規定は「厚生年金保険法」にも見られるのですが、実際の運用で「継続すると認められる」と判断して保険料を引き上げるまで、5年間を要しています。
国民健康保険と相当違いがありますが、これが「法定「されているかどうかの違いとも言えるでしょう。
◆政府の自主ルールの説明が信用できないワケ(2):いつの間に自主ルールを変更している
さらに言えば、この1.5%ルールも「取ってつけたもの」であることは間違いありません。2008年に「介護保険料の在り方等に関する検討会」が開催されたことがありました。
会議では、公的保険制度の最高限度額の考え方を記した資料が配られているのですが、そこでは国保について、1.5%ではなく、「4%」が目安と示されているのです。
この割合が増えるということは、その分上限額に達する世帯が増えても、上限を引き上げできないことを意味するので、それだけ累進課税にしづらくなります。
しかし、懐事情が厳しくなったからなのか、いつの間にか高所得者層から増税しやすいルールに変更されてしまいました。これが法定されていない恐ろしさです。
なお、「被用者保険」において4%が法定だったことはありません。
◆会社員向けの被用者保険の保険料も「インスタント」な引き上げを政府は狙う
以上は自営業者やフリーランスなどの国保の話ですが、会社員も見過ごすべきではありません。「インスタントに上限を引き上げる」というのは厚労省の長年の夢だからです。それは法律の変遷を見れば明らかです。
会社員の保険料である被用者保険について、「政令」で保険料の上限を引き上げる条件は緩くなってきています。
被用者保険について定める「健康保険法」では、もともと政令で保険料の上限を引き上げる場合、上限額の人の割合が3%以上でなければいけませんでした。しかし、2007年施行の法改正で、今の1.5%となりました。
さらに、2016年施行の法改正で「1.0%~1.5%」だったのが、「0.5%~1.5%」となりました。保険料の上限を引き上げすぎて、最高額を支払う人の割合が「うっかり1%を下回ってもいいようにした」わけです。
つまり、法改正を経ずとも政令で上限の引き上げができる環境を整えてきているのです。
◆私有財産権という自由の根幹となる権利を守るためにも、政府の姿勢には反対を
今回のように恒例行事とも言える国保保険料の上限引き上げについて、「自分には関係ない」と言って、これを放置すれば、その悪影響は拡大していく可能性が高いと言えます。
それが行き着く先は、政府の権力が肥大化し、私有財産権が軽んじられ、あなたの自由が制限される恐ろしい社会です。
そうした社会が本格化することがないよう、いき過ぎた「新福祉国家主義」に警鐘を鳴らしていくべきでしょう。