北朝鮮問題 「アメリカは周到な準備をして一挙に決着をつける」
《本記事のポイント》
- 北朝鮮への制裁決議が採択されたが、中国は本気で制裁しない。
- アメリカは、周到な準備をして一挙に決着をつける。
- 日本は朝鮮有事にどう対応するか、考えなければいけない。
元陸自西部方面総監
日本安全保障戦略研究所上席研究員
用田 和仁
プロフィール
(もちだ・かずひと)1952年、福岡県生まれ。防衛大学校を卒業後、陸上幕僚監部教育訓練部長、統合幕僚監部運用部長、第7師団長などを歴任。元陸将。現在、日本安全保障戦略研究所上席研究員。共著に、『日本と中国、もし戦わば』 (SBクリエイティブ)がある。
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北朝鮮の核実験を受け、国連の安全保障理事会は11日(日本時間12日午前)、アメリカ主導で作成した北朝鮮への制裁を強化する決議を全会一致で採択しました。北朝鮮への原油・石油精製製品の輸出に上限などを設ける内容です。
しかし、当初アメリカが目指していた、石油の全面禁輸や金正恩・朝鮮労働党委員長の渡航禁止や資産凍結の対象にするなどの厳しい制裁は見送られました。
「他国がどう動くか、という見通しを立てるのも大事ですが、もっとも大事なのは、日本がどう動くか」と語る、元陸上自衛隊西部方面総監の用田和仁氏の緊急寄稿を2回に分けて掲載します。今回は前編です。
中国は北朝鮮を本気で制裁しない
北朝鮮の脅威に対して、日本のマスコミは、アメリカや中国など周辺国の対応ばかり報道しています。さらには、強い態度で臨むトランプ米大統領に対して、思いつきで北朝鮮を挑発しているといった報道を続けていることには驚かされます。
アメリカは、オバマ前政権時代、「戦略的忍耐」と称して、軍事的行動を抑制してきました。しかしそれが結局、北朝鮮が核保有国になることを助けてきたということが分かります。
筆者は今年6月、北京で行われた、日本の自衛隊OBと中国の軍人などが交流する40年近く続く「中国政経懇談会(中政懇)」に出席しました。この席上で、中国側は「アメリカは米韓合同演習をやめ、北朝鮮はミサイル発射と核実験を凍結し、アメリカと北朝鮮が直接話し合え」と話していました。
一方で、北朝鮮に対する石油の供給停止などの経済制裁については何の言及もなく、制裁をする意思は感じられませんでした。
北朝鮮が消費する石油の9割を輸出しているのは中国です。その中国が、本気で制裁に乗り出さなければ、北朝鮮の金正恩体制は存続できます。
日本の一部のマスコミは、「対話」「平和的解決」こそが正義であるかのように主張しますが、それを続けた結果どうなるのか、ということを真剣に考えているのでしょうか。危機に対して主体性がなく、完全に人任せ、風任せです。
アメリカが北朝鮮を攻撃するために越えるべきポイント
北朝鮮は、日本、韓国、中国などを射程圏内に収めるミサイルを多数保持しています。さらに、来年には、アメリカ本土に届く核弾頭を搭載したミサイルを実戦配備できると指摘されています。
こうした中、国際社会では「トランプ米政権は、中国などの北朝鮮に対する経済制裁に頼ることなく、軍事的決着をつける覚悟を固め、北朝鮮を殲滅する作戦を発動するのは時間の問題」という見方も強まっています。
ただ、アメリカが、北朝鮮を攻撃するためには、いくつかの「障害」を越えなければいけません。
例えば、中国との国境付近の北朝鮮側にはミサイルなどの基地が点在しています。アメリカがこれらを破壊するには、事前に、中国が米軍機や米艦船などに攻撃しないという「消極的協力」が必須です。ロシアの「暗黙の了解」も必要でしょう。
こうした状況を踏まえると、アメリカは、少なくとも今秋の中国共産党大会が終わるまでは、北朝鮮に対する実力行使を控えるのではないか、という予測が立ちます。その間、アメリカは十分な情報収集に基づく攻撃計画の策定と演習を行うとともに、特殊爆弾などの製造に邁進するのではないでしょうか。
もちろん、奇襲のために攻撃を前倒しすることはあり得ます。周到な準備をして一挙に決着をつけるのがこれまでのアメリカのやり方であり、予断をもって時期を特定することは難しいところです。
日本の政治家は、アメリカの「北朝鮮攻撃後」を考えているか
北朝鮮をめぐる問題について、中国共産党の国際問題専門紙「環球時報」は8月、「北朝鮮が先にミサイルを発射して反撃を受けても、中国は中立を保つべきだ」と主張。それに先立つ4月には、「アメリカが北朝鮮の核施設に外科手術的な攻撃を行った場合、中国は介入しない」としていました。
前述の中政懇の際、筆者が非公式の場で、中国側に北朝鮮について尋ねたところ、ある人物は「北朝鮮などどうでもいい」「北朝鮮との同盟は変質した」とコメント。実際には、中国も北朝鮮に手を焼いているようです。
すでにアメリカが、北朝鮮を軍事攻撃した後の北朝鮮統治の具体策まで描いており、それを中国が了承している可能性もゼロではないでしょう。中国にとって都合のいい、反日的な韓国の文政権による統一朝鮮も実現するかもしれません。
そういったさまざまな可能性と、それにどう対処するかという点について、日本の政治家は考えているのでしょうか。
http://the-liberty.com/article.php?item_id=13492
北朝鮮問題 「有事のどさくさで、中国が尖閣を奪う危険性」
《本記事のポイント》
- 独裁国家の価値観が世界を覆うか否かの分岐点にある。
- 朝鮮有事のどさくさで、中国が尖閣を奪う危険性がある。
- アメリカが攻撃したら、日本はすぐ「支持」を表明すべき。
国連の安全保障理事会はこのほど、核実験を行った北朝鮮に対する制裁決議を採択しました。
これに対し、北朝鮮の朝鮮アジア太平洋委員会は14日に声明を発表。「アメリカを焦土化し、報復手段を総動員して恨みを晴らそう」とし、日本についても「4つの島でできた国は、主体(チュチェ)思想の核爆弾で海に沈めなければならない。日本はもはや、わが国の近くに存在する必要がない」としました。国際社会は警戒が必要です。
ただ、元陸上自衛隊西部方面総監の用田和仁氏は、こう語ります。「日本が忘れてはいけないのは、北朝鮮の脅威の次には、中国の脅威が待っているということです」。同氏の緊急寄稿を2回に分けて掲載します。今回は後編です。
今は独裁国家の価値観がアジアを覆うか否かの分岐点
秋の中国共産党大会の後、二期目をスタートさせる習近平・国家主席は独裁を強め、対外的に力を背景とした強圧的な行動に出てくることが予想されます。
今年6月に北京で行われた、自衛隊OBと中国の軍人などが40年近く交流している「中国政経懇談会(中政懇)」に筆者が参加した際、中国側の出席者は盛んに、「アメリカはアジアから出て行くべきだ」と繰り返し述べていました。
習近平政権は今後、アメリカに対して、アジアから手を引くことを陰に陽に迫り、日本には、経済的にも安全保障の面からも中国の影響下に入るよう迫るはずです。日米がそれを受け入れなければ、対決姿勢を鮮明にしていくでしょう。
今、日本とアメリカが共に、国際社会で北朝鮮と中国に好き勝手させないという覚悟を決め、行動しなければ、今後、独裁国家である中朝両国の価値観が世界を席巻してしまいます。
そうした歴史的な転換点に立っているという自覚を、日本の国民、マスコミ、政治家は持っているのでしょうか。
残念ながら、日本が主体性を失っている以上、トランプ米大統領の決断と行動に期待するしかありません。世界の覇権国であるトランプ大統領や米国民が、北朝鮮や中国に膝を屈し、屈辱的な状況を受け入れることはない、そう信じたいです。
「日本として」存在し続けることが難しくなる
問題は日本です。
繰り返しになりますが、今、北朝鮮に立ち向かえる国はアメリカしかありません。そして、アメリカによる北朝鮮への攻撃はアメリカの防衛であり、同時に日本の防衛でもあります。
もし仮に、今年中にアメリカが北朝鮮に何もしなければ、アメリカに対する世界や地域の信頼は地に落ちるとともに、日本には、北朝鮮と中国の属国になるか、アメリカにも頼らない自主防衛の道を進むか、の2つしか選択肢はなくなります。
確かに、アメリカが北朝鮮を攻撃すれば、日本にも北朝鮮のミサイルが落ちてくる可能性はあります。しかし、この眼前の切迫した脅威に対して、日本が現状以上の有効な対策を講ずる努力を怠り、「脅威を跳ね返す」という国民の一致した覚悟がなければ、中長期的に日本が「日本として」存在し続けることは難しくなるでしょう。
朝鮮有事のどさくさで、中国が尖閣を奪う危険性
したがって日本は、ただちに損害を最小限にする手立てを講じると同時に、来るべき、脅威の「本丸」である中国の覇権的な拡張主義を抑止できる防衛力を緊急に構築しなければいけません。合わせて、北朝鮮・中国に打ち勝つ戦略の下、日米同盟の体制も至急、再構築する必要があります。
この時、「当面作戦」として北朝鮮危機の事態対処を第一にするも、「将来作戦」である中国への備えを同一軸線上で考え、備えることが必要です。すなわち、本丸は中国の脅威に対する抑止・対処のための体制を強化することであり、それを軸として、北朝鮮危機の事態にも併せて対応できるように考慮することが肝要です。
今、日本が行うことが、北朝鮮危機の事態に特化した抑止・対処態勢であってはいけません。
例えば、アメリカが北朝鮮に対する軍事攻撃を加えた際、どさくさに紛れて、中国の海上民兵が尖閣諸島に上陸し、占拠する可能性もあります。アメリカは混乱の中で手を出せず、日本も対応できず、実効支配を許してしまう。そうした危険性も考えておく必要があります。
アメリカが攻撃したら、すぐに日本は「支持」を表明すべき
以上のような観点を持ちつつ、北朝鮮危機の事態において日本がなすべきことは、主に以下の5つに集約できます。
- 1.北朝鮮からのミサイル攻撃やゲリラ・特殊部隊の攻撃に対する国民の防護
- 2.ミサイル防御の緊急構築
- 3.邦人保護・救出(韓国からの避難、北朝鮮における拉致家族救出作戦の実施)
- 4.朝鮮半島からの難民対処(国境・離島防衛)
- 5.米軍の攻撃支援、米軍基地防護
北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、過去に何度も日本へのミサイル攻撃を示唆しています。ですから、今回の北朝鮮をめぐる問題で、たとえアメリカが核を含んだ本格的な攻撃を北朝鮮に仕掛けたとしても、日本はすぐに全面的な支持を表明しなければいけません。
そうしなければ、その後に起こり得る、北朝鮮や中国による日本への攻撃から、アメリカは守ってくれなくなります。
日本は躊躇せず「有事」と認定し、態勢を整える必要がある
また、朝鮮半島で大きな動きがあった場合は、日本政府は躊躇することなく「有事」と認定し、遅滞なく日本全土に防衛出動を下令し、迅速に対応できる態勢を整える必要があります。
最後に、21世紀の国際社会及びアジア・太平洋地域における安全保障上の最大の脅威は、中国のグローバルな覇権的拡張の動きであることを認識しなければいけません。その抑止・対処を基本として、日本は日米同盟を基軸に、切迫した安全保障環境に適応した実効性のある防衛戦略を構築し、現実的で具体的な防衛政策を強力に推進すべきです。
直近の課題に対処するためには、憲法改正などを実現する余裕はないことから、的確な国民防護と強固な日本防衛のため、自衛隊法をはじめ、領土・領海・領空の保全などに関する未整備な国内法を整備し、緊急の措置を講じることが肝要です。
http://the-liberty.com/article.php?item_id=13498
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