もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

西郷隆盛の書簡発見に思う

2020年01月06日 | 社会・政治問題

 西郷隆盛の書簡が発見されたことが報じられた。

 書簡は、上野の寛永寺に立てこもる幕府軍(彰義隊)との交戦前日(慶応4(1868)年5月14日付)に薩摩藩兵の指揮官に宛てたものとされている。このように活字・紙媒体で残された資料は、後世の歴史研究者にとって極めて貴重であるが、燃え易い・かさばる・虫食いという弱点があるために、多くの幸運に恵まれたものしか後世に伝わらないものであろう。翻って、現在の潮流はペーパーレス・電子媒体による保存であり、大量のデータをわずかのスペースに収納できる強点を持っているが、紙媒体以上の脆弱性を有している。火熱に弱いことは紙と同等に過ぎず、衝撃に対しては紙に劣り、特にEMP(電磁パルス)や改竄に対しては紙とは比較できないほど脆弱である。日本の国会図書館や先進国の国立公文書館では、脆弱補完対策がなされているであろうが、民間、特に個人が保有する電子媒体が後世に伝わる可能性は紙に比べて非常に低いと思われる。かってデンゼル・ワシントン主演の「ウオーカー」という映画では、核戦争で多くの書籍が消失した結果、聖書は点字翻訳された1冊となったが、これも暴徒に奪われてしまい、最後には彼の記憶を基に復刻するというストーリーであった。もし将来、核戦争が起こって生き残った人が復興を成し遂げたとしても、戦争に至る経緯や過程を知るための資料はほとんど残されていないために、歴史上の空白期間とされるのではないだろうか。政府の公式見解は残るであろうが、今回の西郷書簡のように公式見解を補完したり、世情を伝える資料はなく、世界中の各地で竹島や尖閣諸島が出現することになることだろう。昨日トランプ大統領がイランに向けてアメリカの高姿勢をツイッターでアピールしたが、アメリカの公式な政府資料ではどのような形で保管されているのだろうか。
 カルロス・ゴーン被告の密出国について、ようやく事の顛末が報じられるようになった。検察も本人が使用したPCの提出を求めて本格的な捜査に着手したが、PCからは何等の情報を得ることはできないのではと推測している。アメリカの通信傍受機関エシュロンは、世界中の固定・携帯電話の盗聴と、Windows上のメールをすべて読むことができるとされているために、テロ計画者は声紋が把握されていない人間を使用したり伝令を使用しているともされている。もし日本でもエシュロンと同様の施設があれば、彼の行動を逐一把握することができて出国を阻止できたかもしれない。

 西郷書簡発見を機に、紙・電子媒体資料のあれこれについて考えたが、オン後の趨勢としては電子媒体の重用が加速されることになるのだろう。後世に伝えるべきものを持たない階層はさておき、国の記録は両者の塩梅を勘案して保管して欲しいものである。