現役の高校生と話をすると、当時を思い出します。今では全く思い出すことすらなかった「体育祭の練習」帽子もなく昼食後の午後1時から夕方5時まで4時間、お天道様にさらされっぱなしの「人文字」(PL学園が当時やっていた、あれ)練習。連日、担架で運ばれる女生徒が続出していました。(私はないです、運よく)「熱中症」ではなく「日射病」という言葉ならあった時代。教師も全く関与していなかった(たま~に木陰にひとり。ただ、居るだけ)危険な状況でしたね…あれだけ倒れたら(10名前後、救護室…いえ保健室へ…)今ならテレビで報道されたかも!?
そんな時、英語の先生に 「お前、疲れとる?」と声をかけられました。「いや…お前から預かってるノート、なかなか取りに来ないから、忘れとっとかなぁ…と。体育際の練習で忙しいし、時間無かったとやろ?」 嬉しかったですね… 先生の温かい言葉。それに対して自分は何と答えたのかは、全く覚えていません。周囲の目もあり…また、照れもあり… そんな記憶しか… 後日、「〇〇ちゃんが焼いとったよ!なんで すずちゃんばっかり⁉って。あの子、好きたいね~先生が」「えっ…???」
まぁ、そんなこんなで英語だけは… 一時期さぼりましたが、せんせの後押しもあり、帰宅後、少しは頑張りましたが(体育際の練習期間中)
ちょうどその頃、福武書店「進研ゼミ・英語講座」にて、「洋書特集」が組まれました。洋書… 元々本が好きで、高校生の頃も本は読んでいましたが、洋書はまだ一度も見たこともなく、そこに掲載された「不思議の国のアリス」の表紙のイラストに、まず惹かれました。難易度によって紹介されていましたが、真っ先に手に取りたい!と思わせるのは、やはりイラスト。「足ながおじさん」はその後、実際に買いました。本物の洋書は書店で見つけられなかったため、国内で「和訳付き」で出版されたものでしたが…。
そこに紹介された10冊程の洋書の中で、最も興味を抱かせたもの…。 それが今回ご紹介する、『ℳomo』モモ Michael Ende です。映画にもなった、『Neverending Story』ネバーエンディング・ストーリーの作者といえば、誰でも分かるのでは?
「時間泥棒を捕まえて!」というタイトルで始まる紹介文を読んで、これはいつか読まなきゃいけない!と強く思ったものです。難易度は最高レベルだったと記憶しています。(高校生にとっては、なので) 文字数は多くなりますが、英文そのものの難易度は、前回読んだ「オズの魔法使い」より多少難しい程度。今の高校生なら普通に読めると思います。火曜日、レッスンへ行く直前に立ち寄った図書館の洋書コーナーで、何気なく他にどんな本が置いてあるのか見ていたら、あったんです!あの憧れの洋書、モモが! 昨日の時点で130ページ(全236ページ)まで読み終えたところなので、半分を過ぎたところですが、まぁ~ 無駄を省き、効率性を求める職場だったり、どちらかといえば教職者側の都合優先で夏休みが削減される今の日本人にとっては痛烈なメッセージです。
ある日、時間泥棒があなたの元へやってきて、このように言います。
「今やっている仕事をあと30分早く終えるよう、顧客との無駄話はやめて…。母親に会いに行く時間? それも無駄。施設に預ければ〇〇時間も節約出来る。週2度、友人と飲むのも無駄。モモに話を聞いてもらいに行く?それも無駄な時間。こうやってあなたは〇〇時間〇〇分〇〇秒、時間を貯金できるのですよ!」(物語の中では、最初に時間泥棒が接触を図るのは床屋さんでした)
仕事に効率性が求められ、以前より忙しく動き回り… そんな大人たちの表情は常に曇り疲れていて… 犠牲者となるのは子供達。
「仕事から戻ったパパやママが以前なら、直接、僕に物語を語ってくれたんだけど…今はカセットテープに録音されたものを聴くんだ。」
「一緒に遊ぶ時間がないからって映画館へ行くようにって。お小遣いを渡された」etc....etc....
(余談ですが、作者は1995年に他界されています。カセットテープの登場で一瞬、えっ?となりました。もっと昔の方かと思っていたので…)
モモは現代でいえば最高の”Social Worker”です。(個人的に仕事柄、そう思ってしまいます…)皆、迷ったり疲れたらモモを訪ねる。モモはただ、黙って耳を傾けている。或は、夫婦や友人同士がモモの前で大喧嘩を始める。最初は興奮して怒鳴り合っているだけの二人もモモの前で思いの丈をぶつけ合う内、次第に冷静さを取り戻していく…。 やがて自分の非にも自分で気付かされる。「ここは…自分が悪かった」「あれは ほんのジョークのつもりだった。本気じゃなかった」「自分も売り言葉に買い言葉で…言い過ぎた」 ことの発端は、些細な事。すれ違いなんて、そんなもの。
”Go to see Momo!" 「モモに会いに行けばいいよ!」は、この町に住む人々の合言葉。
恐らく人は胸の内を誰かに語りたがっている。モモは何かアドバイスするでもない、解決の糸口を見つけようと必死になっている訳でもない、ただ、黙って聴いている。そう、聴いているんですよね。自然とほっとして、なかなか口を開かなかった人までも、自分を語り始める…。高校生の頃、或は大学生の頃… 今日に至るまで、確かに私の傍にもMomoは存在し、支えられてきたな…と。
Momoの中のありとあらゆる場面が思いでの中の人々と重なる所があり印象に残りますが、その中でも特にメモしておきたい箇所をここに書き留めておきます。モモには二人のスペシャル・フレンズがいます。一人は今から紹介する 掃除の仕事をしているOld Man。物静かで 時折 間があいて、じっくり考えつつ語る人です。
" You must never think of the whole street at once, understand? You must only concentrate on the next step, the next breath, the next stroke of the broom, and the next, and the next. Nothing else.'
Again he paused for thought before adding,
"That way you enjoy your work, which is important, because then you make a good job of it. And that's how it ought to be."
There was another long silence. At last he went on,
"And all at once, before you know it, you find you've swept the whole street clean, bit by bit. What's more, you aren't out of breath." He nodded to himself.
"That's important, too," he concluded.
「一度に道全体を見渡すんじゃないよ、分ったかい? 次のステップにだけ全神経を集中させるんだ。次の呼吸に、ホウキで掃く、その動作に。そして次の呼吸、次の動作…と。ただ それだけ」
彼はしばらく思考をめぐらせた後、再び話し始めた。
「そうすることで仕事も楽しめるから。このことこそ大事なんだ。この繰り返しが良い仕事となっていく。こうであるべきなんだ」
長い沈黙のあと、彼は遂に続けた。
「そして最後には、道全体を綺麗にしたことに 自分でも気付く筈さ。少しずつ、少しずつね。しかも、呼吸が少しも乱れることなくね」 彼は自分自身に向かって頷いた。
「これこそが大切なことなんだ」 これが彼の結論だった。(英文36ページ 日本語訳は私)
とても大切なことが、モモの親友の言葉に集約されている気がしました。あの「洋書特集記事」から早30年…。遂に出合った!という感じです。MOMO....生涯を通して大切な一冊となる筈だと予感した あの高校時代の夏の終わりを懐かしく思い出しました。