いわゆる圧縮バットとは「木製バットの木質部及び導管部の細胞内にフェノール樹脂、エポキシ樹脂、
不飽和ポリエステル樹脂等の合成樹脂を強制的に注入して硬化し前記の合成樹脂注入後、金型等で
圧縮し加熱硬化させ反発力を増したバット」である。嘗てサミー・ソーサ選手が使用したコルクバットは
違反バットでしたが、むしろ圧縮バットの方を問題視すべきだったと思いますけどね、個人的には。
球場の規格と共に「飛ぶ」ボールとバットにもメスを入れたのも下田武三コミッショナーでした。ボールに関しては以前から機構側が認定したモノを使用していましたが、この年からバットにも認定が必要となりコミッショナーの刻印が無いバットの使用は禁止となりました。この決定は事前の根回しをしていたとは思えず王選手の突然の引退が関係しているのでは、と勘ぐってしまいます。各バットメーカーは認定の申請をする必要がありましたが、開幕までに間に合わないメーカーもありバタバタ感が拭えませんでした。
…谷沢のバットは圧縮じゃないのか?…それは軽い冗談から起きた。4月26日・大洋-中日戦の試合開始前、メンバー表交換に
一塁側ベンチを訪れた丸山球審に山根投手コーチが「谷沢のアレなぁどうなんだろうか、去年のヤツと似てやせんか?」と疑いを
込めながらやんわりと一声かけた。続いて中日ベンチへ向かった丸山球審は、さりげなく谷沢のバットを見た所、コミッショナーの
刻印があるのを確認した為、この話はこれで終わりの筈でした。しかし大洋は試合で使われた谷沢の折れたバットを球場関係者
から入手し美津濃社に調査を依頼したというのだ。谷沢のバットは巨人・王助監督が使っていた石井社製、圧縮バットでなくても
よく飛ぶと評判のバットだ。「普通のバットは爪を立てると跡が残るが石井社製のは固くて残らない」「谷沢選手個人を疑っている
のではなく、一度あの会社のバットを調べて貰おうと思ってね」と疑いの為ではなく性能の良さの確認が目的であるとしている。
石井社製のバットが疑われたのはコミッショナー認定の申請が遅れた為でした。他社の多くがキャンプ中に申請したのに対し石井社の申請期日は3月20日。認定されたのは16社目の4月13日でした。「何か細工をしていて遅れているのでは?」などの噂話が飛び交いました。前年まで石井社製の圧縮バットを使っていた大杉(ヤクルト)は同社の白木バットの認定が遅れて試合で使えない為、ルイスビル製のバット10ダースを急遽購入して使ったものの、今ひとつシックリせず打撃不振に陥っていました。
石井社製バットが認定されるとすぐに大杉の他にも衣笠・田淵・河埜・ホワイトなどが使い出し、谷沢や
山本浩などは打率や本塁打レースでトップに踊り出ました。しかし大杉やマニエルなどバットを変えても
相変わらず不振から脱せずにいる選手も勿論いました。各打者総じての印象は「他社より格段に表面が
硬い。グリップのしなりも充分で圧縮バットの感触と変わらない」と絶賛。そんな時に起きたのが今回の
大洋・山根コーチの「谷沢のバットは…」発言でした。
結論から言うと石井社製の白木バットは潔白で、そもそも大洋球団は谷沢の折れたバットの調査依頼は行わなかった。勿論、連盟への提訴もしていない。山根コーチの雑談にマスコミが飛びつき騒ぎが大きくなった「大山鳴動し・・」でした。 石井社によると飛距離を伸ばすポイントはバットの「しなり」で、しなりを良くする為に乾燥過程の熱風・湿度・温度などの特許技術を石井社は持っていて、圧縮バットと遜色ない白木バットが出来たというのが真相のようでした。