納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
今年のドラフトはひと口に言って清原ドラフトである。過去にも江川ドラフト、原ドラフトと呼ばれるものがあったが、今年の清原ほど集中度・寡占度はなかった。その意味で非常に特殊なドラフトと言っていい。その特殊性の中で各球団はどのような秘策を練っているのだろうか?
◆ 阪神タイガース :清原には一塁だけでなく外野、三塁も用意
初の日本一に輝いた阪神の課題は?の問いには誰もが投手力の充実を挙げるだろう。弱投に悩まされた首脳陣も同じ考えだが、清原となると話は違ってくる。「清原の1位指名は8月に決まっていた」と球団関係者は明かす。吉田監督は日本一になった翌日の会見でドラフトに関しては白紙を強調したが実は8月の時点で既に清原指名は決まっていたのだ。喉から手が出るほど欲しい即戦力投手を差し置いてでも清原一本に絞ったのは何故か?それは清原の存在がチームバランスを超越した選手だからだ。振り返れば昭和54年のドラフト会議では今と同じく打高投低のチーム状況であったが1位は早大の岡田だった。その判断は間違いでなかった事は明らか。そして何よりも今ドラフトに即戦力投手の逸材が存在しないことが清原1位指名の最も大きい理由である。
「清原君は足も速く肩も強いから一塁だけでなく外野や三塁でも使える(横溝チーフスカウト)」と佐野選手に衰えが見え始めているだけに1年目から外野手として出場する可能性もある。更には掛布選手の負担を減らす意味でも将来的には一塁へのコンバートが囁かれており、清原を三塁の後釜にしようと考える動きもある。クジ運に見放された場合はズバリ、園川投手(日体大)が外れ1位候補の筆頭。日米大学野球で脚光を浴びた本格派左腕。先発陣にサウスポーが不在の阪神にとって是非とも欲しい投手だ。仲田投手に期待した今季だったが制球難と精神面に課題があり来季の計算には入っていない。左腕不足は中継ぎ陣にも。山本和投手は年齢の点で連投になると苦しくワンポイントを任せられる左腕は必要だ。ただ園川投手はプリンスホテル入りを希望しており、場合によっては西川投手(法大)に方向転換する可能性も残している。
◆ 広島東洋カープ :有望若手が揃っているだけに余裕のドラフト
「戦力的に特にココという穴がないので」と他球団の監督さんが聞いたら頭から湯気を出しそうな余裕の発言をした阿南新監督。退任した古葉前監督から引き継いだチームには有望な若手がゴロゴロしている。山本浩や衣笠以外の主力選手は全員20歳台。加えて春キャンプやオープン戦で活躍した次世代の若手も控えている。それでも敢えて弱点を挙げるとしたら二塁手か。木下、原、新人の正田、更には小早川をコンバートして何とか今季は乗り切ったが、確固たるレギュラーは不在。阿南監督も「敢えて言うなら内野手が欲しい」と本音をポロリ。どうやら広瀬(本田技研)、若井(法大)、福王(明大)あたりの即戦力野手に白羽の矢が立ちそうだ。
だが阪神同様に清原は別格。1位指名に関しては「清原で決まり」と木庭スカウト部長は公言している。他球団との競合は覚悟の上で「やっぱり大砲というのは持って生まれた才能。清原君は10年に1人の逸材。意外と足も速く器用さも兼ね備えている(木庭スカウト部長)」と高評価。抽選で清原を外した場合は「投手はいくらいても困らない。今年は投手が不作なので各球団のスカウト達の腕の見せ所(球団関係者)」と言うように少数精鋭の好投手を奪い合うことになりそうだ。現時点では園川投手(日体大)、中山投手(高知商)という左右の本格派に狙いを絞っているようだ。
◆ 読売ジャイアンツ :オール・オア・ナッシングで清原に賭ける
実力は三流に成り下がっても相変わらず人気だけは No, 1の巨人。球団フロントもスカウト達もこの時期になると俄然と強気になる。「実績を見れば清原は原以来の大物じゃないかな。甲子園でもここで打てば一流だなぁ、と思いながらテレビを見ていたけど必ず打ったもんね。すぐには無理だろうけど2~3年でファンの期待に応える選手になると思うよ。抽選になるだろうけど逃げる手はないよ。ナンバーワンの選手なんだから」と王監督は秋季キャンプ中に記者からドラフトに関して聞かれると清原指名を堂々と公言した。巨人はドラフト会議当日に正力オーナーを交えて指名選手を決めるのが恒例となっていて現時点では未確定だが今年に限っては清原で間違いなさそうだ。
2位は吉田選手(三菱自動車川崎)を予定。山倉選手の後釜がなかなか育たず、有田選手(近鉄)獲得に動いているが年齢的に2~3年が限界とあって何としても実力派捕手が欲しいところ。実は昨年のドラフト会議後にドラフト外で獲得に乗り出したが会社側から「ドラフト外では…」と断られている。球団側も指名すれば入団OKの感触を得ているようだ。投手に関しては石井投手(日大)を狙っている。「中継ぎなら1年目から使える。調子にムラがあるのが欠点だが度胸もあり即戦力」とスカウト陣の評価は高い。3位以降では堀江スカウトが推す古川選手(亜大)に注目。パンチ力のある右の外野手で仁村選手や石井選手と遜色ないと評価している。
巨人は勿体ないです。今のままでも優勝できます
聞き手…では阪神と並ぶ、もう一つの雄である巨人はいかがでしょう?OBとしても特別な意識があると思いますが
広 岡…野球界を良くも悪くも代表するのが巨人軍です。セ・リーグを盛り上げるには阪神だけでは難しい。ライバルである巨人が
頑張ってくれないと盛り上がりに欠けるのも事実です。他の球団じゃダメという事ではないですが、野球のスタイルの違いや
東京と大阪など対決の構図が分かりやすい。残念ながらパ・リーグにはこうしたライバル球団の構図がなかなか現れない。
仮に現れたとしても長続きしない。西武vs他の5球団じゃダメなんです。1対1の構図じゃないと
聞き手…その巨人も再建が叫ばれていますがどうでしょう?
広 岡…投手陣は定岡が抜けたけど他球団と遜色ない。野手陣は駒が揃っていて、現状の戦力でも充分に優勝争いを出来る。でも
実際は貯金が僅か「1」で優勝した阪神とは12ゲーム差の3位に終わった。チームとして結束力の欠如が原因ではないのかと。
大リーグなら監督が解任されてもおかしくない
聞き手…何故でしょうか?
広 岡…私も詳しくは見ていないので断定は出来ませんが、主力選手のプライドを大事にしていない印象があります。打撃陣では試合の
前半から自由に打たせても良い場面でもクリーンアップの選手に犠牲バントやヒットエンドランを強いる事が少なくなかった。選手に
してみると「あぁ俺は信用されてないのか」と感じてしまう。と同時に主軸としての責任感を放棄してしまう危険が生まれるんです。
打てなくても自分のせいではないと責任転嫁してしまう
聞き手…責任から逃げてしまうと
広 岡…人間は追いつめられると逃げたくなるんです。打てないと「これじゃいかん」と奮起するんだが、そこで「バントせい、右方向へ打て」
などと言われるとやる気が失せてしまう。打てないお前が悪い、と一喝してやればいいんですが王は選手に遠慮し過ぎですよ
聞き手…選手を甘やかしてしると?
広 岡…クロマティなんか大リーグの球団でもなかなか獲れないレベルの選手だが遊んどる。日本の野球を舐めるなと言ってやらんと。
外人選手はボスの言うことは結構気にしているんです。来季の契約内容を左右しますから。緩めたらそれなりの仕事しかしない
聞き手…投手陣はどうですか?
広 岡…頭数は揃っている。あとは使い方。130試合のうち、50試合くらいは負けていいのに全試合に勝とうとしている。巨人は全試合が
テレビ中継されますから捨てゲームと分かる試合をする訳にはいかないのも理解できますが、それでは投手はパンクします。
負けゲームに勝ちパターンの投手をつぎ込んだら、1シーズン持ちませんよ
聞き手…具体的には?
広 岡…先発が早い回に崩れて鹿取投手を起用する場面がありますが、鹿取は連投するとダメなんです。少し休ませるとカミソリのような
球を投げるけど使い続けると並みの投手になってしまう。この辺の使い分けじゃないでしょうか
聞き手…再建は可能だと
広 岡…優勝できる選手は揃っています。事実、セ・リーグのどの監督に聞いても巨人は怖いと言いますよ
長嶋茂雄。西武の監督には最もふさわしい男です
聞き手…巨人関連でもう一つ。いや、もう一人。広岡さんが西武の後任監督に長嶋さんを推薦したという話が伝えられていますが本当ですか?
広 岡…いいえ、そんな話はしていません。当時はそれどころではなかったですから(笑)。でも西武が長嶋を迎えるというのならダメだという
理由はありません。今の西武にはセ・リーグ球団に対抗するチーム作り、人気、それに相応しい人材を探す必要があります。有能で
野球に詳しい人材だけではダメでネームバリューは必要。なかなか長嶋みたいな人物はおりませんね
聞き手…迎える側の西武の態勢は?
広 岡…昨年の秋口からベテラン勢に見切りをつけて若手に切り替えました。まだまだ一軍半レベルだが若い人は何かをきっかけに大きく飛躍
する可能性を秘めていますから楽しみなチームだと言えます。ただ若手投手に怪我人が多いのが心配です。それもプロ入りする前から
故障をしていたケースが殆どで怪我が癖にならないか懸念しています
聞き手…それはそうと広岡さん自身の話ですが、巨人復帰という噂が流れていますが真相は?
広 岡…巨人軍に対して特別な感情を持っているのは事実ですが、体調面を考えると監督業は厳しいですね
聞き手…では球界から引退ですか?
広 岡…いえいえ(笑)。野球界の為にやれる事はまだまだ沢山あります
聞き手…具体的にはどのような事ですか?
広 岡…選手が引退後に指導者として野球界に恩返しするにあたって勉強する場がないのが現状です。その為に監督やコーチになっても
結果を出せず、優秀な人材であるかもしれないのに消えて行く。そうした事が少なくなるように教育の場を設けたい
聞き手…日本にはアメリカのような下部組織で指導者を育てる仕組みがありませんね
広 岡…私は巨人を辞めて4ヶ月間アメリカで色々と学びました。野球だけではなく、例えば契約に関しても知らない事ばかりでした。
アメリカは契約社会。契約書に記されている以上、やらなけばならない社会でやらなければペナルティを課せられる。日本は
どんぶり勘定で恩を売ったり、人情が優先したりする。それでは球団運営は上手くいかない。オベンチャラで働く時期がある
かもしれないが何年続くか分からない。一つ歯車が狂って感情的に揉めだすと、とたんに「契約だ、権利だ」と騒ぐ。義理人情や
浪花節も否定しないが、やるべきことの単純化や明文化も大切だと学びました。それは選手だけでなく監督やコーチも同様にね
聞き手…実際の野球面では?
広 岡…例えば投手起用についても最終的には権利と義務。先発・中継ぎ・抑えとそれぞれの連中が平等に機会を与えられるのが権利、
最大限に仕事をするのが選手の義務。「今日のお前は調子が良さそうだから投げろ」では不平等、昔の根性野球です
聞き手…ビジネスライクに?
広 岡…決めたローテーションは故障以外の理由では崩さない。例え調子が悪くても使う。その投手が中5日のコンディション作りに
失敗したら彼自身の責任で、それでチームが負けたら減俸の対象とすればいい。そして負けた最終的な責任は監督がとる
聞き手…なかなか手厳しいですね
広 岡…監督と選手が傷を舐め合っちゃいかんのです。そういう思いでこの4年間やってきました。これからはネット裏から野球を
観ることになりますが気持ちは同じです
西武監督を電撃的に辞任した後、沈黙を保ってきた広岡達朗氏が初めて口を開いた。吉田阪神の来季、王巨人の逆襲への道、西武次期監督問題。そのひとつひとつに、この人らしい論理がある。三度、野に下った稀代の名将が熱く語る
西武での4年間、男の野望に燃えた4年でした
聞き手…色々とご苦労様でした。一段落して今の心境はいかがですか?
広 岡…秋晴れですよ(笑)。確かに西武退団時はフロント陣と意思の疎通を欠いた所がありましたが、今はもう…。西武にお世話になった
4年間は大満足でした。理想的な環境を提供してもらい、自分でも100%以上に働けたと感謝しています
聞き手…充実していたと。後悔は無いと
広 岡…選手にも恵まれ4年間で三度も優勝できて満足しています。それもこれも充分に練習できる環境設備を用意してくれた西武球団の
お蔭だと思っています。最後に僕自身が体調を崩したのは大誤算でしたが(苦笑)
聞き手…西武の監督時代を振り返って先ずは監督就任のいきさつから教えて下さい
広 岡…昭和54年、クラウンライターを西武が買収したと発表した時、私は後楽園球場の事務室で巨人軍関係者と一緒にニュースを
見ていたんです。「えっ、あの西武がプロ野球界に参入するのか」と巨人軍関係者が驚いていたのを憶えています。それは
参入を歓迎する驚きではなく、明らかに警戒心を抱いているのが分かりました。あぁ、西武とは巨人軍が緊張するくらいの
組織なのだと思いました。それからですね西武を意識したのは
聞き手…評論家を経てその西武の監督に就任する事になるのですね
広 岡…年齢的にも監督を務めるのは最後だと考えていましたから、どの球団を選ぶか慎重になりました
聞き手…西武以外にも監督就任要請はあったのですか?
広 岡…3球団から話はありました。最終的に西武か阪神かとの選択になりました。周囲は男になるには巨人を倒せる阪神を推す人が
多かったですね。最後と決めた仕事ですから思い通りに仕事をするには充分な設備投資が必要不可欠。それに応えてくれたのが
西武でした。西武を巨人や阪神を凌駕するチームに育て上げればパ・リーグ全体も発展すると思い決断しました
聞き手…いきなり1年目に優勝して、お見事でした
広 岡…あの優勝は森(ヘッドコーチ)の功績が大きかったですね。監督就任が決まるや、森とホテルに籠って敵・味方の分析をしました。
元々前年があと1勝で優勝というチームでしたから、少し肉付けをすればいけるという自信はありましたけど、セ・リーグ育ちの
人間に負けてたまるか、という他球団の意気込みは凄かったですけどね
聞き手…初期の1~2年は田淵や大田らのベテラン選手を上手く使いましたね
広 岡…野球選手は試合に出てナンボやから、怠けていたら絶対に使わなかった。田淵や大田はキャンプからオープン戦の頃までは
「今日はいいですわ」と言ってノンビリ構えていましたが、試合に出してくれないと分かると自分から動き出しましたね
聞き手…世間では超・管理野球と批判されましたが
広 岡…すぐ管理野球と批判するけどチームを潤滑に動かす為のルールを決めているだけで、これは日本だけの話ではない。個人主義の
大リーグだって遅刻をしたら罰金〇〇ドル、言い訳をすれば更に◆◆ドルは当たり前ですよ
吉田阪神は正攻法野球。来季の大崩れはないと思う
聞き手…監督になる可能性もあった阪神と日本シリーズで戦ったのも何かの因縁ですかね?
広 岡…やるからには勝ちたかったですけど、阪神がその気になったら太刀打ち出来ないと思っていました。阪神は主力が30歳前後で
選手として脂が乗ってる時期。しかもクリーンアップの破壊力はご承知の通り。まともに戦ったら勝てませんよ。シリーズ前の
ミーティングでも選手達には簡単に勝てる相手ではないとクギを刺しました。ただ日本シリーズは特別な試合だから相手も緊張して
平常心じゃない。だから1つ負けたとしても気落ちする必要はない。悪い点を修正すれば道は開けると言いました。選手・スタッフ
全員が自分の仕事をこなせば恐れることはない、と試合に臨みました
聞き手…2勝2敗で第5戦の小野投手の先発起用は捨てゲームだと言われましたが
広 岡…いいえ、予定通りです。ポイントは第6戦でしたね。初回にいきなり高橋直投手が長崎選手に満塁本塁打を打たれてジ・エンド。
勝負事の特徴で、ひとつ崩れるとドーと流れが相手に行ってしまう
聞き手…バース対策は充分でしたか?
広 岡…投手は厄介な人種でね。いくらデータを示して説明しても、いざマウンド上で打者と向かい合うと数字よりも自分の皮膚感覚を優先して
しまう。こうすれば打ち取れるというスコアラーが進言する攻め方をしなくなる
聞き手…吉田監督も広岡さんと同じように大リーグの野球を勉強した後に監督に復帰した人ですが、どのような印象ですか?
広 岡…あれだけ個性の強い集団を纏め上げた手腕は評価できますね。シーズン前から阪神投手陣は弱体と言われてましたが、僕は違った
印象を持っていました。確かに先発投手陣に不安はありましたが、中継ぎは充実していて抑えはもっと堅固だと評価していました。
ああした投手起用を進言したのが米田コーチか土井コーチかは分かりませんが、その進言を受け入れた吉田監督は素晴らしいと
思いますね。大リーグで監督業を学んできた成果だと思います
聞き手…攻撃面はどうでしょうか?
広 岡…世間ではバース・掛布・岡田のクリーンアップばかりに注目が集まっていますが、手堅い戦法を取っていますね。犠牲バント数などは
西武の倍くらいあった。バントを軽視する人がいますがバントほど難しい戦法はありません。相手のバントシフトの間隙をついて進塁
させるなければいけないわけですから
聞き手…吉田監督は現役時代と変わりましたか?
広 岡…いや、現役時代から隙あらば思い切ったことをする所は同じですね。今回のシリーズでも岡田が死球を喰らった後しばらく痛そうに
してましたけど、すぐに走りましたよね。ああいう抜け目のない野球を昔からするんです吉田君は
聞き手…阪神の黄金時代が到来したとの声がもっぱらですが
広 岡…今年は全員がその気になって一丸となって勝ち取った。勝つ時は全体のバランスがきちんと取れている。その要がクリーンアップ、
特にバースだった。阪神の落とし穴はバースが封じられた時。阪神の強みはクリーンアップであり、弱みでもある。3人が揃ってこそで
バランスが崩れると普通のクリーンアップになってしまう。まぁバースはなかなかクレバーな選手なので大崩はしないと思います
記 者…次期監督については未だ白紙ですか?
根 本…そうです。今後の方向性を先ず決めて、それに合致する監督候補の方に話を持って行く。きちんとした段階を経るのが大事だと
思っています。マスコミの皆さんの考えている、監督を誰に決めるかという以前に考え方の位置付けをしているわけです。5年前、
広岡さんの時もそうでしたしトップ交代後に理想的な組織にするにはどうしたらよいのか、が一番大事なことですから。方向性が
決まってからですね具体的な名前が挙がるようになるのは
記 者…普通は新監督が新たなスタッフの人事をするものですが?
根 本…広岡さんの退任で一つの区切りが出来たので次はどの方向へという考え方がそこで一度白紙に戻ります。方向性を決めるまで
組閣はしません
記 者…年内が目途ですか?
根 本…それは分かりません。繰り返しますがきちんと段取りを経る、時期の早い遅いは重要ではありません。これまでも西武は
そのように物事を決定してきました。結果として過去4年間はその成果が出たと自負しています。過去を土台にして次の目標を
決める。それが決定しないうちは新監督の人選はしません
記 者…選手達は動揺しているのでは?
根 本…監督が退任するのは事実です。次の監督が決まる迄に時間がかかるかもしれませんが、その間に動揺を見せないように選手達は
広岡さんから教育を受けています。これまでの4年間で選手達もスタッフが変わるのは当たり前の事だと理解している筈です
記 者…それにしても余りにも突然の退任という気がしますが
根 本…一番の理由は身体の、しかも内臓疾患だということ。これまでも大きめの靴を履いたり色々と気を遣ってきたが、10月になって
痛みが酷くなった。監督業は激務で来シーズンを乗り切る自信がない、と言われたら諦めるより仕方ない。広岡さんは自分自身にも
厳しい人。その方が無理だとおっしゃるのは相当な事。これ以上お願いするのは忍びない
記 者…現在のスタッフは?
根 本…契約が残っているので11月いっぱいは続けてもらう。後任監督が決まれば多少の手直しは必要になると思う。今後も戸田球団社長や
坂井球団代表と連絡を密にして、出来るだけ早く結論を出したいと思っています
今回の退団劇での救いは6年前のヤクルトの監督を辞任した時と比べれば終始笑顔でドロドロした不快感が少なかった事。そこには西武の監督に就任する際に結んだ契約書の存在がある。ご存知のように選手がサインする統一契約書には選手及び球団による契約の解除に関する条項が38条あり契約後は行動を縛られる。しかし監督やコーチは統一契約書にサインする必要はなく通常は別箇に条件を記した契約書にサインしている。広岡氏は西武との監督契約を結ぶ際に自身の身の振り方に関する条項を細かく規定していた。そのお蔭もあって従来の監督辞任劇には付き物のトラブルも起こらなかった。今回の退団に関して日本シリーズで戦った阪神・吉田監督は感想を求められると「日本シリーズで勝てたのは時の運。プロ野球の監督の契約年数ほどアテにならないものはありませんな」とポツリ。
胸騒ぎが全く無かった、と言うと嘘になる。しかしそれは突然の出来事だった。東京・東池袋のサンシャインシティビル・54階にある球団事務所で戸田球団社長・坂井球団代表・根本管理部長らとの会談を終えた広岡達朗氏はサッパリした表情で会見に臨んだ
11月8日、西武・広岡監督が契約期間を1年残して退団を表明した。昭和56年の秋に監督に就任して以来、4年間でリーグ優勝が三度そのうち日本一が二度という名将のまさかの退団劇。表向きは健康上の理由で持病の痛風が原因とか。確かにシーズン前から広岡監督は痛風を悪化させ、10月9日にリーグ優勝を決めた藤井寺球場での近鉄戦も痛みの為に欠場し胴上げが行われなかったという珍事も。「医師に相談したら治療に専念しても治るのには半年以上かかると言われ、それだとチームに迷惑がかかるので辞めることにした(広岡監督)」となったのだが実は辞意発表の前日には広岡監督と根本管理部長が球団事務所で会談し広岡監督は「実りある話し合いだった。足の具合も根気よく治していきたい。頭の中は秋季キャンプの事で一杯」と日本一奪回に向けて気持ちを入れ替えていただけに突然の辞意発表には違和感が残る。
僅か1日で事態が急変したかに思えるが広岡監督と球団関係者との話し合いは幾度かあった。辞意表明の2日前には極秘裏に戸田球団社長と、1日前には前述の根本管理部長との差しの話し合いの前に坂井球団代表を交えた3者で話し合いの場も設けていた。広岡監督が球団側に繰り返し要請したのは監督の権限を拡大してチーム編成に関してゼネラルマネジャー的なポジションを求めたが認められなかったと言われている。広岡監督と球団フロント陣との対立はここ1~2年だけでも表面化した事案は多い。例えば江夏元投手(現評論家)の場合は現場に相談なくフロント陣の独断で進んだ獲得の経緯に反発。また今季では郭投手の起用法を巡り対立。大事に使ってほしい、というフロント陣の要請に対して「過保護だ。中5日で投げられなければプロでは使い物にならない(広岡監督)」と要請を無視した結果、郭投手は故障してしまい両者の対立は最高潮に。
阪神に敗れた日本シリーズでも度重なる大砲獲得の希望を受け入れないフロントに対して「(阪神に)負けた方がいい」と言い放ったのも大砲不在を再認識させる為だった。こうした事例を踏まえた上で11月5日・6日の戸田球団社長と根本管理部長との会談で監督権限の拡大が受け入れられず退団に至った模様だ。「健康上の理由なら致し方ない。堤オーナーも監督の意向を尊重し退団を了承し、これまでの4年間の功績を高く評価し感謝していた」と戸田球団社長は円満退団を強調する。こうした顛末を引き起こした一因は広岡監督自身にもあるのではないか。広岡監督は余りにも度々、グラウンドの内外でフロント陣をチクリチクリと批判する事が多々あった。監督という立場の人間ならそうした事は外部に漏らす前に内々でとことん話し合い処理すべきではなかったのか。色々な面で筋を通す人物であっただけに、その点は惜しまれる。
広岡監督が去る事が決まると周囲は早速、後任人事の話で盛り上がっている。三度のリーグ優勝も二度の日本一も残念ながら観客動員増加には結び付かなかった。広岡 " 前 " 監督は退団発表翌日のコーチ陣とのお別れゴルフ会の席で「後任監督はただ勝つだけじゃダメ。パ・リーグ全体の為にも人気のある人が望ましい。その点では長嶋君は適任」と語ったと伝えられている。また長嶋氏の他にも広島の監督を退いたばかりの古葉竹織氏や現役引退の際に堤オーナーから将来の監督就任を求められた田淵幸一氏などの名前も浮上している。 " 人気 " 重視なら最有力候補は長嶋氏だが、11月9日に前横浜大洋監督の関根氏の長男の結婚式が行われ、披露宴に根本管理部長と席を並べた長嶋氏は報道陣にコメントを求められると「西武の監督?田淵君が適任じゃないですか。明るい性格でチームに好影響を与えられるし、この1年ネット裏でよく勉強してましたし」とやんわりと逃げた。