Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 759 週間リポート 近鉄バファローズ

2022年09月28日 | 1977 年 



背番号『1』に真っ赤な炎を見た
いささか旧聞に属する話になるがエース鈴木投手がチーム6連敗をストップさせた力投を紹介しよう。太田投手や井本投手らがいくらよく投げているといっても最後の頼りはエースだ。弱小球団と言われた時代から主戦投手として力の限り投げ抜いてきた鈴木投手は20日の対クラウン7回戦(平和台)の試合前から悲壮な決意だった。この日の登板の為に鈴木投手はナインより一足早く前日に福岡入りした。そして宿舎の主人に頼んだのが赤飯だった。「明日、選手が球場に出掛ける前に赤飯を出してやって下さい」とお願いしたのだ。チームが5連敗中なのに赤飯とは。だがこれは鈴木流の連敗脱出の縁起担ぎだった。

「この試合に負けたらオレの存在価値は無い」こう言ってマウンドへ向かった鈴木投手は6回裏までパーフェクトピッチング。過去二度のノーヒットノーラン試合を達成しているだけに完全試合の現実味が帯だしネット裏の記者席もざわめきだした。しかし7回裏、先頭の基選手に左前安打を許し大記録達成はならなかった。続く8回裏には一打逆転のピンチを招いたが持ち前の速球でクラウン打線を抑えてチーム6連敗を阻止した。「自分の記録よりチームの連敗を止められたことが嬉しい。全員の力を合わせたガッツの勝利だ」と自身の完投勝利をそっちのけで連敗脱出を手放しで喜んだ。

逃した完全試合の話になると鈴木投手は「まったく意識していなかった。とにかく勝たなければと邪念は捨てていた。欲を出すとロクなことにならないのは過去にも経験しているからね」と苦笑い。結局、味方打線が得点した初回の3点を守り切ったわけだが西本監督も連敗中とあって最後まで落ちつかなかったようだ。「立て続けに負けていたから投手の回転も早くなるのだが、鈴木がパーフェクトをやりかけていたから普段以上に気を遣ったよ(西本)」と疲れ切った表情だった。この試合の初回こそ目の覚めるような速攻を見せたが、その後は再三の好機を逃して追加点は奪えず決定打不足は解消されていない。

6連敗は脱したものの、まだチーム状態は万全とは程遠く泥沼状態から抜け出したとは思えない。「この勝利をキッカケにして打線が奮起してくれれば良いのだが…」と西本監督。これも10連勝の反動なのだろうか?とにかく打てない毎日が続いている。「1つずつ勝っていかなくては阪急や南海と張り合えない。連勝せないかんよ」と西本監督の悲痛な叫びだ。しかしチームの柱となるのは近鉄の場合は鈴木投手を中心とする投手陣だ。エース鈴木と開幕から出遅れているベテランの神部投手の復活が前期優勝のカギを握っている。


両リーグトップにも笑わず
このところ西本監督が無口になっている。阪急との山陰シリーズ3連戦で3タテを喰らいズルズルと首位の座から滑り落ちた。3連戦を前に出雲市の宿舎にテレビ局のアナウンサーが取材に訪れたが西本監督は断った。普段メディアの露出機会が少ないパ・リーグの球団が取材を断るのは稀である。「ワシは本当の事しか言わない。だから今は努めて喋らんようにしている。つい愚痴を言って金田(ロッテ監督)の二の舞になるのはゴメンだ」と西本監督は取材拒否の理由を明かした。

先頃、金田監督(ロッテ)が首位阪急に大差をつけられ早くも前期優勝を断念したと発言したことがチームの指揮官としていかがなものかと騒動となった事を考えれば西本監督が口を開かないのは賢明である。それほど今回の対阪急戦3連敗はショックだった。「現在のチーム状態ではマスコミの皆さんと気軽に話をする気になれない。早くチームを立て直さねねば…」と寝ても覚めてもチームを強くさせることしか頭にない西本監督。「何とか苦労して阪急や南海に離されずにきた。このまま易々と死ぬわけにはいかない」


バラ色の夢も、もはやそれまで
前期優勝をかけた阪急戦の第1ラウンドは6月13日の藤井寺球場で行われたが結果は痛恨のドローだった。「阪急に勝てないエース」と酷評されていた鈴木投手がマウンドに上がり力投したが勝利することは出来なかった。「調子?決して良くはなかったが延長11回を投げ抜いたのは気力だと思う。野球は技術だけじゃない。やっぱり気持ちが大事だよ」と鈴木投手は勝てはしなかったが満足感に満ちていた。5月31日の南海戦に完投勝利した後に鈴木投手は西本監督に阪急戦登板を直訴した。当時は風邪気味で薬を服用し、万全な体調ではなかったが阪急に勝てないエースの汚名返上に燃えていた。

「阪急戦、それも天下分け目の決戦に投げないエースなんて意味がない。何とかしないとチームも自分もダメになる」と悲壮な覚悟で登板を買って出たのだ。試合は六度の無死走者を出しながら8回裏にジョーンズ選手が放った6号本塁打が近鉄唯一の得点で引き分けた。「負けんだけよかった」と鈴木投手は言ったが、西本監督は「負けと同じや。下位のチームは勝って首位とのゲーム差を縮められなければ負けと一緒」と吐き捨てた。勢いを失った近鉄は15日の対ロッテ戦ダブルヘッダーに連敗し阪急にマジックナンバー「7」が点灯した。残る阪急との直接対決は1試合のみ。ここからの逆転優勝は難しくなった。
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# 758 週間リポート ロッテオリオンズ

2022年09月21日 | 1977 年 



やはり金髪は女性にかぎる?
西垣球団代表は5月23日、新宿の球団事務所でスティーブ・マクナルティ投手(24歳)に解雇を通告した。僅か4カ月前にスティーブ投手は期待に胸を躍らせて羽田空港に降り立った。190cm・97kg で金髪の青年はロッテの入団テストを受ける為に遠い異国にやって来たのだ。自主トレ・キャンプを通じ投手としての評判は日増しに増していった。持ち前の重い速球に縦に大きく割れるカーブはまだ調整途中の他の投手の中では抜きん出た存在だった。「即戦力にはならんが先が楽しみな投手や」とカネやんもその素質に惚れ込み、3月4日に先ずは二軍からスタートすることで正式に採用が決まった。

純真な性格はチーム内でもアイドル的な存在で陽気さを振りまいていた。先輩ナインからのアドバイスにも「イエス」と答え黙々と練習に取り組む姿勢は好評だった。そのせいもあってかドジャースの2Aから来た若者は開幕一軍のベンチ入りが決まり、4月2日には早くも初登板を果たした。エース・村田投手の後を継いでの登板だったがブルペンとは異なり実戦では本来の持ち味は出せなかった。重くて速い自慢のストレートは打ちごろの球に変わり、走者を出せば二塁盗塁はタダ同然のマウンドさばき。加えて制球力も見る影がなく前評判はどこかへ吹き飛んでしまった。

カネやんがこんなスティーブ投手に解雇の段を下したのは投手としての体裁の無さが原因だった。特にノミの心臓とまで酷評された精神面の弱さが一番の理由だった。「技術が未熟というのはまだしも、度胸の無さはどうしようもない。いくら時間をかけても直しようがないで」とカネやん。7試合・0勝1敗・防御率 6.30 では仕方ない。開幕から2カ月足らずでロッテのユニフォームを脱ぐこととなった。「日本が好きだ。それに日本でもっと野球の勉強がしたい。ロッテがダメなら他のチームでも…」とスティーブ本人は日本でのプレーを希望しているが周りの情勢は厳しい。


観衆4万5000人にテレビ放映
カネやんが今季初めてコーチスボックスに立ち、陣頭指揮を執ったのは5月29日のこと。この日はロッテが前期で後楽園球場の主催試合で唯一の日曜日でのダブルヘッダー戦だった。球団総出で観客動員アップを図り4万5000人の大入り大盛況でカネやんも黙ってベンチに座っていられなくなったというわけだ。それにしてもカネやんがコーチスボックスに立つと観客だけでなく選手も威勢がよくなるから不思議だ。ロッテは初回から白選手の本塁打で先制すると2回裏には山崎選手の本塁打や2長打で3得点。4回裏にも3長短打で3得点して早々に試合を決定づけ勝利した。

続く第2試合は4対5とリードされた9回裏にリー選手がバックスクリーン直撃の同点本塁打を放って引き分けに持ち込んだ。ロッテナインは試合前に松井球団社長からハッパをかけられていた。「たくさんのファンの前で無様な試合をしないでほしい。今日は何が何でも勝って前期Aクラスを確保してほしい。それが後期に良い影響を与え、リーグ優勝という念願達成の近道なのです」と球団の今季スローガンである " ソウルフルベースボール " を前面に押し立てたかなり厳しい叱咤激励だった。快勝した第1試合は日本テレビ系で全国放送されて観客動員に奔走した球団関係者も「勝てて良かった」ホッと一息ついた。


生ビールはオレの季節
剛速球と天下一品のフォークボールで並みいる強打者を封じる村田投手も今度ばかりはショックを受けた。今季四度目のリリーフ登板した対日ハム戦、9回裏一死満塁の場面で加藤選手に押し出し死球でサヨナラ負けを喫した。「胸元を狙った球が…(村田)」コントロールが乱れて加藤選手の側頭部を直撃した。敗戦のショックより昏倒する加藤選手を心配するのがやっとだった。今季の村田投手は開幕から一度も本来の投球が出来ていない。勝ち星は6月17日現在、7勝とまずまずだが村田本人は「全然ダメ。チームが優勝争いできないのは自分の責任」と自分の不甲斐なさを嘆く。その原因は右ヒジの状態が今ひとつで本調子とは程遠い。

「自分に勝ち星が付く付かないは運が左右する。だが防御率は個人の力を反映する。自分としては勝利数より防御率を重要視している」と常々村田投手は話していた。その重要視している防御率がなかなか2点台にならない。今季最悪の5.14 (4月24日) から徐々に改善してきているが、あと一歩のところで足踏みしている。「何としてもオールスター戦までには2点台前半にしなければ自分の気持ちが収まらない(村田)」と現在のところは意気込みばかりが先行しているが、村田投手にはキッカケとして期待しているモノがある。それは汗がたっぷり出る生ビールの季節に入ったことだ。

思い起こせば2年連続最優秀防御率賞(1.82) の好成績を残した昨季もそうだった。今季同様に前期は7勝5敗と今ひとつだったが盛夏を迎えると徐々に調子を上げた。並みの投手なら防御率3点台は及第点だがエースを自負する投手には物足りない数字なのである。いくら連投を命じられても決して弱音を吐かず黙々と投げ込む頼りがいのあるエースなのだ。そんなエースが受けたショック。コントロールの良さに絶対の自信を持っているだけに、何ともいたたまれなかったのであろう。「加藤選手には申し訳ことをしてしまった。でもこれを機に本来の自分の姿に戻ってみせます(村田)」と。生ビールが旨い暑い夏がエース・村田の心を開くであろうと期待している。
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# 757 週間リポート 南海ホークス

2022年09月14日 | 1977 年 



オレ笑う人、ボク泣く人
金城投手がツキ男ぶりを如何なく発揮している。といっても金城投手の勝ち星がやたらと増えているわけではない。不思議と金城投手が投げた試合は負けないケースが続いているのだ。4月3日に広島から移籍後初勝利を上げて以来、24日まで3週間ほど自身の勝ち星は無かったが、リリーフした投手が勝ち投手になった。金城投手が登板した試合の勝率は高くツキ男と呼ばれていることに「そう言われればそうですね。ボクが打たれてもチームは負けていない(金城)」と驚いている。これも巡り合わせだろうがナインからは「あいつが投げると負けない気がする」と言われ本人も悪い気はしない。

一時の山内投手がそうであった。投げれば勝つ、といった状態が続いた。投打の信頼関係が築かれ、投打共に気楽にプレーすることで凡ミスが減り勝利に結びつく好循環で勝ち続けた。同じような現状に金城投手は「今の状態がそうそう続くとは思えませんけどね。南海に移ったばかりだし、皆の援護が僕には一番嬉しいです」とニンマリ。広島での直近2年間での勝利数は3勝。今季はそれを遥かに上回り、昭和48年の10勝、同49年の20勝にいかに近づくかだ。「20勝はともかく10勝は早い時期に達成したい。その後は少しでも勝ち星を積み重ねてチームの優勝に貢献したい」と金城投手は意欲的だ。

逆に勝利の女神に見放されているのが藤田学投手。開幕当初は藤田投手も金城投手のように順調に勝ち星を稼いでいたが、5月の声を聞くやいなや勝てなくなった。一時はこのまま20勝するのではと思われていただけに突然の状況の変化に本人は勿論、首脳陣も首を傾げる。快進撃からくる反動や疲れ、相手チームの研究など原因は色々考えられるが、「ちょっと出来過ぎという感じもありましたね。5月はもう少し勝てていてもおかしくなかったけど…。神様に嫌われちゃったかな」と藤田投手はガックリ。

自分の誕生月である5月に勝てない妙な巡り合わせに藤田投手は首をひねる。4月は投げれば勝つ状態でしかも全て完投勝利だっただけに5月になると全く勝てなくなるとは本人が首をかしげたくなるのも無理のない話だ。しかしそこは若い青年の藤田投手、「しばらくすればツキも戻って来るでしょう。今は1試合、1登板を大事に丁寧に投げるだけです。そうすれば勝利の女神も僕に微笑んでくれるでしょう」と落ち込まず前を向いている。

藤田投手のようにツキに見放された投手が多い中で江夏投手ひとりが5月の勝率をグ~ンと良くしている。1完投を含めて2勝3セーブだ。「単なる巡り合わせやろ。自分じゃそれほど調子が良いとは思えんけどな。ただ真っすぐで空振りが取れるようになったのは確かやな(江夏)」と4月は鳴かず飛ばずだった江夏投手の浮上は今イチ調子が上がらない南海には心強い。佐藤投手が先発グループに回ったことでリリーフ役を江夏投手が担うことになり、「江夏がビシッと抑えてくれたらこれからのウチは上昇するで」と野村監督の期待は大きい。


みちのくで惨敗。東北はイヤ
「東北はツイとらん。ゲンが悪いよ」と地元の人が聞けば気を悪くするだろう言葉を野村監督が口にしたのも無理はない。今季は "お客さん " にしていた日ハムに3連敗。しかも3敗とも後味の悪い逆転負けとあって思わず東北地方に八つ当たりした野村監督であった。そもそも今回の八戸・青森の東北シリーズが始まる前から南海は東北地方では勝てないという印象はあった。ロッテの本拠地・仙台での勝率は他球場と比べて低く「ここはゲンが悪い」と思う選手は多い。日ハム戦の前が仙台でのロッテ戦だったが、結果は1勝2敗で負け越し。2敗が共に1点差負けと後味悪さを残したまま空路で青森の三沢空港に向かったが天候不良で仙台へ逆戻り。

仕方なく6時間の列車移動を余儀なくされた南海ナインはヘトヘトで、東北と聞いただけでウンザリするのも頷ける。挙句の果てが対日ハム3連敗で流石の野村監督もムッツリ顔に。更に不運というかツキの無さが重なった。ロッテ戦で藤原選手がイレギュラーバウンドした打球を顔面に受けて全治2ヶ月の重傷を負った。それで終わらず悪事は重なるもので藤原選手の代役で一番打者として気を吐いていたベテランの広瀬選手が次の日ハム戦で右足太もも肉離れで戦線離脱。「東北で強くなる方法はないやろか…どうも『北』は方角が悪くて困っとる」と縁起にこだわる野村監督はどうしようもないツキの無さを嘆くことしきり。


手負いの野村は怖い
既に伝説的になっている「手負いの野村は怖い」は生きていた。対阪急前期最終戦でそれは立証された。その前のロッテ戦、ホームベース上でのクロスプレーの際に左足首を白選手にスパイクされて5cmの裂傷を負った。病院で3針を縫う治療をされで全治10日の診断を受けた。チームドクターの診断も同じで2~3日の安静を言い渡されたのだが、3日後の阪急戦にはスタメンでマスクを被り逆転本塁打を放つ超人ぶりを見せつけた。手負いの野村は怖いと阪急だけでなく各チームの先乗りスコアラーに印象を植え付けた。なにしろこれまでも少々の怪我では休まず、むしろ普段以上に大暴れするのだから相手にとっては始末が悪い。

さすがにまだ抜糸していない足は痛むので試合後のノムさんは破顔一笑とはいかなかったが、勝利の味は格別だったようで上機嫌だった。「やはりホームランは力やないなぁ。タイミングや。俺のホームランは宝クジみたいなもんやで、滅多に当たらん」と軽いジョークが飛び出すほどだった。肝心の怪我については「やろうと思えば出来るんや。要するに気持ちの問題。今の連中はちょっと怪我をすると『ここが痛い、あそこが痛い』と言って大事を取りたがるけど昭和ヒトケタ生まれはそんな気にはなれんよ(野村)」と阪神の田淵選手が聞いたら耳の痛いことを言う。これが24年間プレーし続けてきた男の秘訣なのかもしれない。
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# 756 週間リポート 阪急ブレーブス

2022年09月07日 | 1977 年 



あっぱれ初先発初完投勝利
ドラフト1位ルーキー・佐藤義投手が対日ハム8回戦(西宮)で快投を披露した。被安打7・失点1・奪三振6・与四球4でパ・リーグの新人投手で完投勝利は一番乗り。ピンチが再三あり、投球数も152球と苦しんだが要所を締めて見事勝利した。3回表一死一・三塁、4回表無死一・三塁、9回表は無死満塁とピンチを招いたがキャンプで磨きをかけたパームボールを駆使してピンチを切り抜けた。「たいしたモンや。本人にもチームにも大きな1勝や(上田監督)」、「もっと早く投げさせていればよかったわ(梶本投手コーチ)」と首脳陣も大喜び。エース・山田投手が右足首捻挫で離脱し投手陣の遣り繰りに頭を悩ませていただけに佐藤義の快投はチームを救った。

山田の抜けた穴を埋めるにはベテランの足立投手や白石投手では登板間隔が短か過ぎ、山口投手や稲葉投手に中3日登板を強いるのは酷な話だ。最近の今井投手は調子を崩したままで山田の代役が務まる状態ではない。実は佐藤義の登板は " 一か八か " の苦渋の選択だったのが真相だ。「上田監督に5回まで2~3点くらいでと言われて少し気が楽になりました。真っすぐが思った所に投げられたのが良かったのだと思います」と佐藤義は今回の登板を振り返った。

孤軍奮闘のルーキーをバックも盛り立てた。加藤秀選手が初回に阪急が苦手とする高橋直投手から先制2ランを放ち、8回裏にもマルカーノ選手が2ラン、高井選手がダメ押し2点タイムリーと佐藤義を援護した。守りでも3回表二死二・三塁の場面で投ゴロを佐藤義がトンネルしたが、大橋選手が横っ飛びで捕球し見事にカバーし佐藤義を救った。関西3強が凌ぎを削るペナントレースのド真ん中でルーキーを中心にチーム全体が一つになって手にしたこの日の1勝の意義は大きい。「これや、これが阪急ブレーブスや。この勢いを落とさず突っ走るで」と上田監督が腹の底から声を絞り出したのも無理はなかったようである。


強~い出雲の神様に守られて
出雲を舞台にした首位攻防の対近鉄2連戦は阪急にとってありがたい御利益の結果となった。昭和30年5月以来、22年ぶりのプロ野球公式戦となった第1戦は初回の攻防で勝負が決まった。2週間ぶりの登板となった近鉄・神部投手から先頭の福本選手が四球で出塁すると、続く大熊選手は三遊間内野安打で無死一・二塁。加藤秀選手が中前適時打、高井選手が四球となったところで神部は20球で降板となった。準備不足が明らかな交代した柳田投手からマルカーノ選手、島谷選手が連続適時打で初回で4得点して早々に試合を決めた。「近鉄相手だとウチの打線は飲んでかかる。ボクら投手陣は大助かりですよ」と先発した山口投手は大喜び。

こうなれば勝負の流れは阪急のモノ。翌日の試合も先発の白石投手が立ち上がりに乱れて初回に1点を失うもチームは微動だにしない。その裏すぐさま福本と大熊の長短打と島谷、長池選手、河村選手の適時打などで瞬く間に4点であっさり逆転し、そのまま近鉄に流れを許さず連勝。連戦前まで首位近鉄に1.5差の2位だった阪急が逆に1.5差の首位に立った。開幕から45試合目にしてようやく王者がトップの位置に。だが初戦で先制点をあげた加藤秀は右脇腹を痛めていて、試合前に上田監督から「無理はするな。休んでも構わない」と言われていたが強行出場した為に翌日の試合から欠場となる痛手もあった。


不注意だぜ!マルカーノ
マルカーノ選手が前期出場が危ぶまれる不測の事故に遭った。去る11日、西宮第2球場での練習中の事。一塁側ブルペン付近をウロウロしているところへ、打撃練習中の河村選手が放った打球がマルカーノ選手の顔面を直撃した。周囲が「危ない!!」と叫んだが時すでに遅し。不幸中の幸いで眼球直撃は免れたものの、今季から使用しているメガネのフレームが折れて左目下の裂傷を負った。球場近くの外科医の診断を受け、傷自体は軽症だが眼科の専門医の診察を受けた方がよいと言われそのまま大学病院へ向かい精密検査を受けた。結果は「左外傷性虹彩炎」で2週間の休養加療が必要と診断され入院した。

事故の瞬間をバッティングゲージの後ろから目撃した上田監督は「全くの不注意や。あれだけ打球の行方には気を付けろと言っていたのに」と怒りを抑えられない。末次選手(巨人)の例を挙げるまでもなく常日頃から打撃練習中の事故には注意を促してきた。2か所のゲージでは加藤秀選手と河村選手がフリー打撃中だった。左打ちの強打者である加藤秀選手が練習しているのだからライト方向に打球が飛ぶのは想定できる筈だが、マルカーノ選手はブルペン脇でボンヤリとしかも本塁方向に背を向けて立っていた。実際には右打者の河村選手が放った打球が当たったのだが、マルカーノ選手の不注意さは弁解の余地はない。
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