打たれても青雲の志を捨てぬ
巨人の入団テストを受けるも不合格。ならば巨人を見返す為にと阪神のテストを受けて合格した青雲光夫投手。文字通り " 青雲の志 " を持って阪神に入団した。その強肩ぶりは春のキャンプで注目され速球王の「山口二世」だと話題になった。あれから半年、真っ黒に日焼けした青雲投手はまだ屈託のない笑顔のままだ。「プロ野球ってそんな甘い世界じゃないですよ。まだまだ勉強しなきゃならないことが山ほど残ってます」と " 二軍ずれ " していない青雲投手が頼もしい。0勝3敗と二軍でも勝ち星は無く、久保二軍投手コーチは「正直いうと二軍の試合でも投げさせるレベルではない」と手厳しいが本人は前向きでへこたれない。
昨年10月に行われた巨人の入団テストを受けて、某スカウトから「合格だよ」と耳打ちされ喜んだが結果は不合格。ならば自分を落とした巨人を倒せる阪神の入団テストで遠投120mを投げて周囲を驚かせ見事合格した。そうしたプロ入りの経緯や反骨精神も阪神ファンを喜ばせた。「これは即戦力です」と吉田監督の一言でキャンプ中の安芸市営球場は大騒ぎとなった。早速マスコミは「山口二世」ともて囃し、青雲という珍しい名字もどこか浮世離れして興味を引きつけた。ドラフト1位指名の益山投手や前々年のドラフト5位指名で1年後れで入団した深沢投手ら即戦力投手を差し置いて安芸キャンプに抜擢された寵児だ。
一軍選手もビックリの球も
だが現実は甘くない。ウエスタンリーグで17イニングを投げて自責点7。本塁打も3本浴びた。「深沢さんや益山さんに比べて僕は経験が少ない。高校野球なら初球の甘いコースのストライクを見逃してくれてもプロは打ってくる。初めて経験することが多く大変です。プロの世界に慣れるにはもう少し時間が必要です」と。久保コーチは「ピッチングの型は出来ている。でも正確なコントロールや配球はまだまだアマチュアで二軍レベルでも通用しない」と手厳しい。キャンプで即戦力だと喜んだ吉田監督もとんだ勇み足だったが、並みのテスト生とは違い将来性は確実にある。
時々、打撃投手として一軍の練習に参加するが何球かに1球は一軍選手も手が出ないスピードのある球を投げる。それを目の当たりにした皆川一軍投手コーチは1ヶ月ほど前、二軍の試合で投げる青雲投手を見に行った。「カーブで攻めればよいところでシュートで勝負している。あの辺のテクニックが分かれば勝てるようになるよ。素材が良いのは間違いない」と評価した。現段階の青雲投手に高等な投球テクニックを求めるのは無理かもしれないが、逆に言えばそれだけ無限の可能性を秘めている投手なのだ。高校時代(島根・平田高)は県予選の1回戦に勝つのが精一杯で神奈川大学に進学するも中退。投手としての伸び代は充分残っている。
安芸キャンプで一歩リードしていた2人のルーキーに今は差をつけられた。益山投手は一軍のマウンドに立っている。右手首の腱鞘炎で二軍にいる深沢投手もいずれは一軍に上がるはずだ。「やっぱり悔しいです。でも2人は僕より野球を知っている。いろいろ経験値を積んで1日でも早く甲子園球場のマウンドに立ちたい」と野球エリートに対するライバル心は捨てていない。テスト生から300勝投手になった小山正明氏にあやかって背番号「47」のユニフォームを着ている青雲投手。その志は夏空の雲のように大きい。