納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
古くから " 一年の計は元旦にあり " と申しますが、こればかりは今も昔も変わりありません。正月になると何となく今年のプラン、決意などを新たにするものです。プロ野球のヒーローたちも例外ではありますまい。各球団の目玉選手たちがどんなプランを練っているのか、どんな夢を描いているのか、今年は王選手の世界新ホーマーに話題が集中しているようですが、ここに登場する男たちは " ワンちゃんばかりがプロ野球じゃない、今年は俺の年にするんだ " とまなじりを決しているのであります。
★阪急ブレーブス:3割へ挑戦の福本と山田・山口で50勝のノルマ
3年連続日本一へ燃える勇者の中で特に気合が入っているのが7年連続盗塁王の福本選手。1億円の保険が福本の足にかけられているのは有名だが今年から2億円に増額される。怪我さえなければ今季も盗塁王は固い。そんな福本も今年で29歳とすっかり中堅の部類で「もう年間100盗塁は無理かも」と弱気発言の一方で今季の目標は打率3割の復活。ここ2年は3割を切っている。一番打者だけに打席数が多く、安打数を増やすのは勿論のこと見逃せないのが四球。「ヒット欲しさについつい早打ちしがちだけど、今年は選球眼を磨いて3割を達成したい」と福本。打率3割と8年連続盗塁王を達成すれば3連覇の可能性はより一層高まる。
福本と共に阪急打線を牽引するもう一人の雄が加藤選手だ。昨季まで4年連続で打率3割をキープし、過去に首位打者が1回、昨季は2年連続で打点王のタイトルを獲得している。ここ6年間は常に打撃ベスト10入りするパ・リーグを代表する強打者である。「自分では中距離タイプだと思っている(加藤)」と言うが一昨季は32本塁打、昨季は28本塁打と決して他球団の四番に引けを取らない。その加藤以上の長距離砲なのが長池選手。しかしここ数年は故障がちで昨季も自主トレ期間中に足を怪我して出遅れ、打率.238・12本塁打と往年の面影がないが「数字はあえて言いません。今年に僕の野球人生を賭けます(長池)」とプロ12年目の34歳は意気込む。
一方の投手陣は山田投手と山口投手が両輪だ。MVPに輝いた山田は「昨年の最多勝(26勝)がフロックと言われないよう今年も20勝が最低ライン」と話す。戸田投手を中日にトレードして投手陣に少々不安を持つ梶本投手コーチは「ヤマが20勝以上してくれると計算している。戸田の穴もヤマがいれば大丈夫でしょう」とエースに全幅の信頼を寄せる。山口は1年目、2年目ともに12勝。両リーグを代表する剛腕ながら今一つ勝ち星は伸びていない。昨季はオープン戦で打球を右ヒザに当てて負傷し大きく出遅れた。「今年は万全の体調で開幕を迎えたい。目標は20勝(山口)」と意気込む。山田と山口で50勝できれば上田監督には左団扇のシーズンとなるであろう。
★南海ホークス:今年も陣頭指揮の野村、昨年のお返しを誓う江夏たち
今年も南海の浮沈のカギを握るのは野村監督の頭脳と打力。「数字は二の次で先ずはキャッチャーとしてフル出場できるように心がける。監督兼任となって8年目で何としても日本一になりたい。門田もようやく一人前になってきたし、四番から解放されて六番あたりで気楽にやれたらいいね」と今季の抱負を語る野村監督。その期待の門田選手は「打率3割は勿論、監督からは三冠王を獲れと言われてますけど、それはどうかな。でもタイトルは獲りたいですね。昨年も前半戦は良かったですが夏場にスタミナ切れになって失速してしまいました。だから先ずは夏場を乗り切る体力作りに重点を置こうと考えています」と意欲を見せる。
若手野手では昨年大活躍した藤原選手に大きな期待が寄せられている。「とにかく昨年は自分でも出来すぎた年でしたが自信にもなりました。その経験を大事に今年に繋げていきたいと思います。特に打率が3割をマークできて自分もプロの世界でやっていけるという気持ちになれました。今年は個人的には昨年以上の成績を収めてオールスター戦の出場やベストナイン、ダイヤモンドグラブ賞も狙います。勿論チームの優勝が絶対目標です(藤原)」と目を輝かす。
悲願の日本一になるには投手力の充実、江夏投手・山内投手・藤田投手、そして広島から移籍して来た金城投手らの活躍が不可欠だ。特に期待されながら不振に終わった阪神から移籍した江夏の復活がカギとなる。「昨年は初めてのパ・リーグということもあって戸惑いがあったのは事実。肩痛もあって甘えがあったが今年は言い訳できない。今年でプロ11年目だけど1年生になったつもりで一からやり直す。狙うは20勝だが、それよりもチームの優勝を第一に考えたい(江夏)」
山内は「昨年20勝して球団から今年17勝すれば給料アップを約束してもらった。17勝といわず20勝が今年の目標です。ようやく自分も1000万円プレーヤーの仲間入りが出来たのでこれからも頑張って更に上を目指していきたい。その為にも先ずは1勝、次は5勝、10勝と段階を踏んで最終的には20勝以上をマークしたい」と話す。そして新人王の藤田は「2年目のジンクスの話は先輩から聞かされてます。他球団から研究されるのは覚悟しています。とにかく頑張ります」と浮かれてはいない。
今年の投手陣の目玉は金城だ。「初めてのパ・リーグでどうなるか不安でいっぱいですが、今年はやらなければならないという気持ちです。南海に移籍していきなり大先輩の杉浦さんが背負った『21』番を貰って感激しました。野村監督からも頑張れと激励されてやる気満々です。ここ2年間は怪我で不本意な成績でしたが今年はそのお返しをする覚悟です。僕を放出して損したと広島が後悔するくらい結果を出したいですね(金城)」と燃えている。
★ロッテオリオンズ:ファミリーの結束を誓って日本一の夢よもう一度
シーズン中から話題には事欠かないカネやんロッテ。優勝という最大の話題作りにロッテファミリーが結束する。先ずエース・村田投手が投手陣を代表して「昨年はプロ入り9年目で初めて20勝投手(21勝11敗)になれて防御率も1位と出来すぎの1年でした。今年は10年目の区切りですし最多勝を狙います。そうすればチームの優勝も2000万円プレーヤーも手が届くんじゃないですかね」と意気込む。続いてベテランの成田投手は「とにかくもう一度優勝したい。優勝に貢献して自分自身の有終の美を飾りたいと考えています」と今年を自らの野球人生を締めくくるシーズンにする覚悟だ。
トレード問題で揺れた金田留投手は「昨年は背筋痛で惨めなシーズンだった。トレード話でゴタゴタして周囲にも心配をかけてしまった。このままでは終われない。監督やチームメイトに迷惑をかけたぶんも恩返しをしたい」と決意する。プロ5年目で更なる飛躍が期待される三井投手は「プロ3年目の一昨年は目標とした10勝をマークできましたが、20勝を目指した昨年は6勝に終わり悔しい思いをしました。今年こそ監督や仲間に信頼される投手になりたいです。20勝と欲張らず先ずは10勝を目標に頑張ります」と捲土重来を誓う。
打撃陣の中心は有藤選手。「新外人のレロン・リー選手には負けたくないですね。今年はプロ入りから9年連続20本塁打の日本記録更新がかかる年。是非とも記録を作りたい。昨年は三塁手のベストナインを藤原(南海)に奪われたので今年は取り返します。その為にも首位打者のタイトルを狙います」と例年以上に意欲的だ。山崎選手は「今年の目標は3割を打つこと。打順は六番がいいかなと自分では思っています。有藤や外人コンビが作ったチャンスを僕が還すことが出来ればチームの優勝もグッと近づくと思います」と。
そこでカギを握るのが外人だ。ジョン・ブリッグス選手は「昨年は監督との誤解や自分の病気でシーズン途中に帰国したけどもう大丈夫。昨年暮れにロスでラフィーバーコーチと納得いくまで話し合って解決した。今年は四番の責任を果たす」と誓った。新外人のレロン・リー選手は「ラフィーバーコーチからボスの性格や日本の野球について手ほどきを受けた。チームの優勝の為にガンガン打ちまくりたい。キャンプは初日から参加するよ」と抱負を語った。どうやらロッテファミリーの結束は固まったようだ。
酒井にだけは負けない:久保康生(柳川商➡近鉄・18歳・179㌢・74㌔)
酒井(ヤクルト)に対するライバル意識は大変なものだ。分かりやすいのが契約金。「酒井君が手取り三千万円を貰うのなら久保君は彼に投げ勝った事もあるのだから、それに近い金額であってしかるべきではないか」と久保投手の後援会会長は言う。それが理由かどうかは不明だが近鉄は当初の二千万円から二千四百万円にアップした経緯がある。あくまで大人の事情の話で久保本人に関わりはないが、根底には酒井に対する過剰なまでの対抗心があるのは間違いない。
柳川商は春から夏の甲子園大会予選が始まる前まで36連勝という驚異的な白星街道を突っ走った。そして37連勝目に大きく立ちはだかったのが海星高の酒井だった。酒井は以前に打ち崩した時とは別人のように成長していた。酒井は立花選手(クラウン1位指名)、末次選手(日ハム3位指名)を揃えた柳川打線を見事に抑えた。柳川商は夏の予選を勝ち抜き甲子園大会に出場できたが、久保本人は甲子園での敗戦より酒井に練習試合で投げ負けた方が悔しさ倍増なのだ。「酒井はセ・リーグ、僕はパ・リーグと別れたけど同じ高卒ルーキーとして彼にだけは負けたくない(久保)」と悔しさを忘れていない。
【 550試合・71勝62敗30S・防御率 4.32 】
度胸のいい一人っ子:山崎隆造(崇徳高➡広島・18歳・177㌢・74㌔)
一人っ子は精神的に弱いというのが世間の通り相場である。両親や祖父母が可愛がり過ぎて過保護になるからというのが通説で事実、その手の事例は多々ある。競争に勝ち抜くのが全てのプロ野球の世界で一人っ子が大成した例は少ないが、山崎選手はそれを覆すかもしれない。崇徳高は昭和51年のセンバツ大会で優勝したこともあり、野球部員も大量に増えて夏の予選が始まるまで全国各地の強豪校から練習試合の申し込みが殺到し、毎週日曜日は各地に遠征するなど大忙しだった。
増えた新入部員のケアやエースの黒田投手や捕手の応武選手など個性派選手をなだめたり、時に脅したりしてチームを一つに纏めるのは並のリーダーシップでは難しいが山崎は主将として成し遂げた。それだけ性格も粘り強い一方で割り切りの早さも兼ね備えている。「ドラフト前は大学進学を考えていた。もし指名されても下位指名か良くて3位くらいだと自分では思っていました。だったら大学へ行ってもっと実力をつけようと考えていたのですが、1位指名だったので急遽プロ入りに気持ちを切り替えました」と現代っ子の一面もある。
【 1531試合・1404安打・88本塁打・打率 .284 】
貴重な左の実力派:益山性旭(帝京大➡阪神・22歳・182㌢・74㌔)
中央球界には馴染みのない首都大学リーグに属する帝京大で31勝をマークしたが、大学選手権や日米大学野球で登板することが無かった為に知名度は低く、専ら玄人筋でその名が注目された投手だった。出身は大阪福島商。高校時代から左腕から繰り出される速球が評価されて大洋に4位指名されたが入団を拒否して大学へ進学し、1年生の秋から頭角を現した。「現在は首都リーグの試合は土・日にやるけど2年前までは神宮第二球場で平日開催。通うのが大変だったけど益山君は見ておかないと」と話すスカウトは多かった。
益山投手は帝京大学から初めて誕生したプロ野球選手だ。「目標は近鉄の鈴木啓二さんのように速球で打者を抑えつけられる投手になること。身体が細く体重も軽いので、よく食べて走り込みをしてキャンプインまでに少しでもプロ野球選手らしい体格にしたいです」と初々しい。現在の阪神で頼れる左腕投手が山本和投手ひとりなので益山にもチャンスはある。ドラフト1位指名選手の中では12番目とドン尻だったが、意外と一軍デビューは一番早いかもしれない。
【 167試合・11勝27敗1S・防御率 4.63 】
芯の強いエリート:赤嶺賢勇(豊見城高➡巨人・18歳・176㌢・71㌔)
人気の面ではサッシーこと酒井投手に負けていない。赤嶺投手は那覇市で久米自動車を経営する一家の末っ子として経済的にも比較的恵まれた生活を送ってきた。沖縄県人は日本人平均より体格は小柄の部類に入るが、赤嶺も上背は175㌢とプロ野球選手としては華奢だ。だがその華奢な身体で甲子園に出場して習志野高校を完封したり、敗れたとはいえ原選手率いる東海大相模高と互角に戦った姿に多くの高校野球ファンが熱烈な声援を送った。巨人入りしてその人気は更に増すことになるであろう。
だが赤嶺は相当なはにかみ屋でマスコミ嫌いだ。2年春・3年春夏と三度甲子園のマウンドを踏み、赤嶺人気は頂点に達したがその時のマスコミ攻勢、写真攻勢、女子学生の猛烈なアタックに悩まされた。12月20日の入団発表の席で記者から苦手なモノは何か、と問われると「マスコミです」と答えたほどだ。性格は真面目で豊見城高野球部の栽監督によれば「(沖縄いちの繁華街である)国際通りに一度も遊びに行ったことがないくらい真面目な生徒」らしい。
【 4試合・0勝0敗・防御率 3.86 】
無名の燃える男:生田裕元(あけぼの通商➡中日・20歳・184㌢・75㌔)
昼間は生活必需品や海産物を団地の奥様相手に訪問販売をする「あけぼの通商」という会社を知る人は多くないだろう。昭和52年から九州社会人野球連盟に加盟しているあけぼの通商野球部は会社が丸抱えで練習できる場を提供する従来型の社会人野球とは一線を画す野球部だ。部員が自らの手で稼いだお金で練習したり遠征を行なうシステムを採用している。そんな厳しい環境下でも過去に3人のプロ野球選手を輩出し、今回の生田投手が4人目となる。
島原中央高を卒業する前に巨人の入団テストを受けたが結果は不合格。野球を諦めることが出来ず、食うことの難しさと野球好きが生田を成長させた。「野球を諦めずに続けてよかった。巨人戦に勝利して僕を不合格にした巨人を見返したい」と話す生田は静かに燃えている。かつて巨人入りを熱望しながらもドラフト会議で無視されたことを自分の糧にして巨人キラーになった星野投手のように " 二代目・燃える男 " を襲名する日も近いかもしれない。
【 一軍出場機会なし 】
福本以上の脚力:松本匡史(早稲田大➡巨人・22歳・180㌢・73㌔)
東京六大学連盟の通算57盗塁、昭和49年春のリーグ戦15盗塁と俊足を看板に引っ提げての即戦力である。デーブ・ジョンソン選手とは契約更新せず、二塁手のレギュラー争いに加える為に獲得した松本選手。確かに足だけなら盗塁王・福本選手にも劣らぬモノを持っている。たがそれには怪我なくシーズンを送れたらという但し書きが必要となる。大学卒業後に日本生命に就職を決めた裏には本人も周囲もプロ入りに慎重にならざるを得なかった理由があった。
脱臼癖のある左肩の状態だ。報徳学園在学中に発症したのだが頻発するようになったのは大学入学後だ。実に7回も脱臼に襲われていて心理的、肉体的にも影響は打撃に現れた。左肩を気にする余り右打者として大切な左手首の返しがスムーズに行えない。内角球を上手く捌けないのだ。大学2年の春に2割6分8厘を打ったのが最高で以降は下がる一方。大学通算は2割3分台と低迷した。逆にそれだけの低打率であの盗塁数は凄いとも言えるのだが。巨人系列の報知新聞が盛んに松本を盛り立てるが過度の期待は松本を苦しめるだけだろう。
【 1016試合・902安打・29本塁打・打率 .278 ・342盗塁 】
新春・・そろそろあちこちで自主トレの便りも聞かれる。4月のペナントレース開幕を目指して春が動き始めた。なかでも期待に胸を膨らませているのは昨年入団したルーキーたちだ。酒井(ヤクルト)はじめ多士済々のニュースターの横顔を紹介してみよう。
おとなしい怪物:酒井圭一(海星高➡ヤクルト・18歳・187㌢・80㌔)
" サッシー " 騒動で一躍有名になったが、つい1年前まで中央球界では無名だっただけにやはり現代版シンデレラボーイだ。ちょうど1年前のセンバツ大会の選考で海星高は四国地区の増枠のあおりで落選の憂き目に。この時とある某球団の九州担当スカウトは「これでいい。甲子園に出場されたら名前を知られて契約金が高騰してしまう」と胸を撫で下ろした。九州大会で酒井と対戦した柳川商の選手は「確かに球は速かったけどコントロールは酷くて未完の大器って感じ」と評したくらいで、酒井に注目する球団は多くなかった。
あれから1年。契約金は手取りで三千万円、松園オーナーの地元・長崎で長崎県知事や財界人を招いての激励パーティ、背番号はエースナンバーの「18」。更に東京での入団発表では同時に夕食会も行うなどすっかりオフの主役となった。玄界灘に浮かぶ壱岐島出身の少年が恵まれた体を武器に長崎に出、そして東京へという現代版出世物語だ。
性格は無口で引っ込み思案。1対1で話をしていても相手から目を逸らすような感じで、離島の朴訥な若者そのものといった感じだ。夏の甲子園大会でも宿舎でのマスコミ取材は酒井本人だけでなく間に監督や野球部関係者を介して行われた。同じ人気者の原選手(東海大相模)は都会の現代っ子らしく明るくハキハキと取材陣と自由に応対していたのと比べると酒井の純情っぷりが微笑ましかった。「1日でも早く一軍に上がって投げてみたい(酒井)」と決して勝ちたいと言わないところがいかにも酒井らしい。
【 215試合・6勝12敗4S・防御率 5.08 】
酒井よりも速い自信:都裕次郎(堅田高➡中日・18歳・180㌢・74㌔)
「僕は中学生の頃から江夏さんを参考にしてきました。今の江夏さんが速い球を投げなくなったのを見るのはツライですね」と話す都投手は琵琶湖の西岸、滋賀県大津市にある堅田高でノビノビと野球を楽しんできた。イガグリ頭できかん気そうだが実際の都はおとなしく物静かな青年だ。名前の裕次郎は父親が大ファンだった石原裕次郎さんから頂戴したとか。「天真爛漫を絵に描いたような子なので、その辺を上手く成長させれば2~3年で一軍へ上れるのではないか」と野球部関係者は言う。
一般的に一流と評される高校生投手は投球回数と奪三振数はほぼ同じくらい。だが都はそれを上回る奪三振数で速球は誰にも負けない自負がある。「酒井君(海星高⇒ヤクルト)が速いと評判だったので甲子園球場のバックネット裏に行って自分の目で確かめました。まぁ僕の方が速いですね(都)」とライバル心もチラリ。かつて池永投手(下関商➡西鉄)が自分の眼力を信じてプロ球団を値踏みして入団する球団を選んだエピソードを彷彿させる。
【 243試合・48勝36敗10S・防御率 3.73 】
大学出ではトップだ:斎藤明雄(大阪商大➡大洋・22歳・182㌢・72㌔)
愛称はローマ神話に出てくる酒の神の " バッカス " である。身体もヒョロッとしていて軽口も多く、いかにも関西人といった感じの斎藤投手だが色浅黒く銀ぶちのメガネをかけていて、一見野球選手というより俳優の有島一郎さんのようだ。しかし野球の実力は折り紙つき。昭和50・51年と続けて大学選手権の決勝まで勝ち上がった。関西六大学リーグでの成績は通算31勝で山口投手(関大➡阪急)、森口投手(近大➡南海)に肩を並べる。
セ・リーグ志望でヤクルト・酒井投手、中日・都投手に次いで三番目に大洋に指名された時は「ノンプロ・大学組ではトップだ。大洋は好きな球団、プロでやりたい」と早々にプロ入り宣言。陽の当たる関東勢の駒大・森投手、日大・佐藤投手には並々ならぬ対抗意識を持っている。花岡高時代には甲子園大会に出場しているが、投手ではなく外野手だった。投手に転向したのは大学入学後なので肩も消耗しておらず少々の連投には耐えられる。投手不足の大洋では先発ローテーション入りは間違いない。
【 601試合・128勝125敗133S・防御率 3.52 】
プロ入り初志貫徹:藤城和明(新日鉄広畑➡巨人・20歳・180㌢・80㌔)
人間の運なんてどんなところで変わるか分からない。それまで " 第三の男 " だった藤城投手が都市対抗戦という檜舞台でベールを脱いだのはエースと準エースが相次いで故障したせいだった。「もうどうにでもなれ。運を天に任すしかない」と開き直った新日鉄広畑の三村監督の決断がニューヒーローを誕生させた。監督の不安をよそに藤城はあれよあれよという間に相手打線を抑えて勝利投手となった。しかもその年の大会には本格派といわれる投手が不在で、藤城は一躍プロ球団から注目される存在となった。
エースの堀内投手も29歳となり次世代へのバトンタッチは遠からず必要になるが、次期エースの期待があった加藤投手は肋膜炎を発症し来季のフル活動は無理。細腕小林投手も今季同様の活躍は保証されておらず新たな即戦力投手が必要になる。実は新日鉄広畑としては現状の藤城では一軍で活躍するのには力不足だから、もう1年待ってプロ入りした方が良いと進言したが「どの球団に指名されてもプロへ行くつもりでした(藤城)」と心は既に長嶋巨人の一員である。
【 101試合・14勝19敗・防御率 4.51 】
奥尻島のヒーロー:佐藤義則(日本大学➡阪急・22歳・181㌢・80㌔)
北海道奥尻島。その場所を直ぐに分かる人は多くはないだろう。民謡の " 江差追分 " で有名な江差から船で1時間余りの日本海に浮かぶ島である。酒井(ヤクルト)が西端壱岐島なら佐藤は東端奥尻島が生んだヒーローだ。佐藤は奥尻島で中学まで過ごし、高校は函館有斗高に進学した。甲子園には出場できなかったが日大に入学してから徐々に頭角を現した。2年生の時に日米大学野球の日本代表に選ばれ好投している。3年生では韓国で開催されたアジア野球大会にエースとして参加。4年生では再び日米大学野球に出場した。
性格は淡泊。日大打線は弱く好投しても報われないケースが多々あったが、愚痴ひとつこぼさず辛抱強く黙々と投げ抜いて通算22勝をあげた。阪急との入団交渉もピッチング同様に淡々と進めて、契約金三千万円・年俸三百万円で合意した。この金額はドラフト1位としては標準だが当初はセ・リーグ志望だっただけに入団に難色を示せばもう少し金額はアップしたのでは、という声が周囲から聞こえてくる。ただ本人は「プロは入団してからが勝負。ガンガン勝って給料を上げて契約金の分も取り返す」と意欲的だ。
【 501試合・165勝137敗48S・防御率 3.97 】
来シーズンから一軍選手の最低年俸は現行の240万円から360万円にアップされるのが確定的となった。20日、東京・九段のホテルグランドパレスで行われる実行委員会で討議され、来春1月13日、東京で開かれる選手会で正式に決定となる。年俸360万円以下の若手選手にとっては文字通り嬉しい年になりそうだ。
今も生きている最低保障60万円
大洋・松原、阪急・加藤のセ・パ両リーグ選手会長の努力がやっと実る " 嬉しい春 " が来たようだ。これ迄の歴代選手会長は年金問題とこの参稼報酬アップをメインに経営者側との特別委員会で掛け合ってきた。その結果、年金は昨年から8%アップ(最高で年額36万円)に決定し、一軍選手の最低年俸も一昨年から現在の240万円となった。更に今度は松原・加藤選手会長は最低年俸を360万円へアップと同時に、プロ野球選手の『参稼報酬の最低保障(野球協約八十九条)』の倍増(120万円)を要求してきた。『●●選手、年俸倍増!』といった話題がスポーツ紙の一面を飾る一方で野球協約では未だに『最低保障額は60万円(月5万円)』が謳われているのだ。
勿論、今どき年俸60万円といったプロ野球選手は存在しない。だが実際は年俸150万円以下の選手はセ・パ12球団で二軍に20人ほどいると言われている。プロ野球選手は一軍でプレーして初めて一人前の権利を要求できる。二軍の選手はモノ言えぬ存在なのだ。低年俸ではアパート暮らしも苦しく合宿所で食事込みで月額1万円前後の寮費を払い生活している。二軍選手の待遇は12球団様々でヤクルトは昨年に物価高を考慮して最低年俸を180万円(月額15万円)に引き上げた。そして今年は不況手当の名目で一律に年額12万円アップして192万円(月額16万円)とした。「昨今のせちがらい物価高の世の中で選手達に惨めな思いをさせたくないですからね(徳永球団代表)」という思いやりからだ。
巨人も低年俸の選手を対象に一律12%アップを決めた。「現在ウチには150万円以下の選手はいませんが他球団にはいるようです。未だに野球協約で60万円なんて記載が残っていること自体が恥ずかしいことです」「世間の誤解を招かない為にも野球協約の最低保障条項の60万円は抹消すべきだと考えています」と球団フロント幹部は言う。一方で「私は一・二軍の選手にサラリーの格差は必要だと思います。その悔しさが二軍選手を奮起させる。1日でも早く一軍に上がって高い給料を得られるように頑張る筈ですから。必要悪ですかね」と鈴木セ・リーグ会長は言う。
240万円以下ではノンプロ以下!
ところで一軍選手の最低年俸360万円は2年前に240万円が決まった時点で特別委員会に出されていた。これに対して経営者側は「一律に360万円なんてとんでもない。240万円でさえ大きな支出なのに(某球団代表)」と尻込みしていた。とりわけ全6球団が赤字のパ・リーグは240万円も渋面を刻んでの了承だった。それが来季から360万円にアップされる背景には物価高に加えてパ・リーグが2シーズン制による恩恵を考慮した結果だ。前・後期ともに優勝争いをすれば優勝できなくても観客動員は増える。優勝すればプレーオフで更に加算される。またファンサービスの工夫次第で観客を増やせる事は、今季リーグ最多の88万人を動員した日ハムが証明した。
先日行われたドラフト会議で上位に指名された選手の幾人かが入団拒否をした事も経営者側にショックを与えた。特にドラフト前にはプロ入りを表明していた駒大のエース・森繁和投手のロッテ入り拒否が好例だろう。ロッテは1位指名した森に契約金2500万円・年俸240万円を提示したが森は入団を拒否して住友金属へ就職を決めた。森はプロ入りする筈だったのに…と不思議に思った他球団のスカウトが内情を探ってみたら住友金属の大卒初任給は年額240万円だった。「今はノンプロでも支度金の名目で300万円から500万円を用意するのは常識になっている。ロッテと同額の給料なら終身雇用のサラリーマンを選ぶのは当たり前」と話すのは某社会人チームの監督だ。
こうした有力選手のプロ野球離れに巨人軍の山本顧問弁護士は「ドラフト指名選手の入団率が年々悪くなっているのは待遇面、特に年俸の低さにあります。機構側も真剣に考える時だと思います」と冷静に分析する。社会人野球に参加する一流企業なら大学を卒業して10年も勤務すれば年2回のボーナスを含めて年額500万円を超えるサラリーを手に出来る。10年どころか翌年の保障すらないプロ野球。例え最低年俸を360万円に上げてもまだまだ低い。「年俸アップをすれば赤字が増えるとパ・リーグは否定的。黒字球団が多いセ・リーグも利益が減ると後ろ向き。来春の特別委員会では経営者側から選手会に対して何かしらの交換条件を突き付けつる可能性もある(パ・リーグ関係者)」
二軍からの昇格選手は日割りで
また野球協約九十二条で参加報酬の最高25%と定められている減額制限を30%に引き上げるよう経営者側が求める可能性もあるという。現状では選手の同意なしに25%以上を減給した場合は当該選手は移籍の自由が認められている。その移籍の自由条項を撤廃したい経営者側と存続を求める選手会側は対立している。ところで最低年俸を引き上げても経営者側の負担はそれほどではないという指摘がある。というのも360万円未満の選手には一軍登録日数の日割りで支払われるからだ。しかもその日割りの差額(360万円 - 240万円=120万円)分が丸々負担増になるわけではない。
例えば巨人の新人・中畑選手の年俸は240万円。来季も現状維持と仮定し、春季キャンプ・オープン戦で頭角を現し1シーズンを一軍に定着したとする。その場合、中畑が手にするのは差額の120万円ではない。開幕日の4月からペナントレースが終了する11月までの約240日間が実働期間。差額120万円を365日で割ると1日分は約3300円で、実働240日分は79万円余り。これが中畑が手にする額である。何故こういう計算になるのか。実際は2月から11月末までが契約期間であるのだが、選手の給料は便宜的に月給と同じように毎月支払われていて、差額分はこの実働期間に対して支払われるものであるからだ。
王でも他のプロスポーツより安い
それに比べると大リーグの最低年俸は1万8千ドル(540万円)とやはり本場は違う。選手協会の発言力が年々強くなった背景には要求実現の為にはストライキも辞さない強気な交渉術がある。移籍の自由を得たオリオールズのレジー・ジャクソンはヤンキースと5年・300万ドル(9億円)で契約した。片や日本のプロ野球界のベスト5は➊ 王(巨人)5700万円 ➋ ジョンソン(巨人)3900万円 ➌ 田淵(阪神)3800万円 ➍ 野村(南海)3400万円 ➎ 張本(巨人)2800万円 。これ以外の2000万円以上の選手は助っ人を除くと山本浩(広島)くらいで大リーグには遠く及ばない。
日本の他のプロスポーツのゴルフ・ボクシング・レスラー・競馬・競艇・競輪らと比べても野球は低い部類だ。単純計算でも前述のレジー・ジャクソンの年俸は60万ドル(1億8000万円)になる。悲願の打倒巨人を達成し2年連続日本一になった阪急でも " 1千万プレーヤー " がやっとである。しかし明るい兆しはある。阪急の「少年友の会」会員は今季飛躍的に会員数を伸ばした日ハムの1万人を大きく上回る3万人だ。また昨年から入場税法の改正で、一人3000円未満の場合は無税となった。プロ野球の入場料は甲子園球場の巨人戦のグリーンシート席でも1500円と高くなく、税法改正の恩恵を得そうだ。
今季のセ・リーグ全体では907万人を動員した。全球団が赤字のパ・リーグに対してセ・リーグ最低の動員数だった大洋(98万人)でも黒字で全6球団が黒字だった。セ6球団は言うに及ばず、パ6球団の営業担当者も来季の入場料に関して大幅な値上げは考えていないそうだが、球場の観客席や通路・トイレなど設備面を大リーグ並みに改善すると入場料の若干の値上げは有りうる。だとしても2000円程度に抑える事は出来そうでお客さんの足が遠のくことは避けられそう。選手の待遇改善のみならず、ファンサービスの充実など経営者側が行うべき事は数多い。その意味では経営者側の努力が足りないと指摘されても致し方ない。