納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
一見落書き、実はおまじない
水沼選手はイタズラ好き?試合前にバットに塩をかけたりする選手は少なくないが水沼選手はバットの芯部分にマジックで目を描く。昨年まで在籍したシェーン選手がやっていたのを真似たものだ。「これがホンマのバッティングアイじゃ」と洒落を言う。それもこれもスランプ克服するための悩んだ結果から出た苦肉の策である。なにせ押しも押されぬ " 1000万円プレーヤー " なのに前半戦の打率が1割台では話にならない。 " おまじない " が効いたのか打率は2割5分近くまで跳ね上がったが本塁打数は後半戦になっても僅か3本。
そこで今度はバットにポパイの絵を書いて怪力にあやかろうとの願いだ。「走者がいる時はやはり一発が欲しい時もある」とポパイの絵だけでなく最近は奥さんにほうれん草のジュースを作ってもらいせっせと飲んでいるそうだ。さてこれがパワーアップに繋がるのかどうか。先ずはご注目である。
成功するか?最下位脱出
開幕前の赤ヘルは傍の者が気が引けるくらい威勢がよく優勝の2文字一色だったが前半戦が終わってみればなんのことはない最下位に沈んだ。昭和49年以前の野球に逆戻りといった感じで改めて古葉監督の力量が問われている。とはいっても主力選手に故障や不振が相次ぎ、しかもトレードの結果が失敗となっては古葉監督の采配が最下位の原因とは言えない。投手陣では外木場投手、池谷投手の2枚看板がガタガタ。野手陣では三村選手がダメ、大下選手も持ち味をフルに発揮することが出来なかった。
「池谷投手の復調には目途が立った(首脳陣)」のだが野手陣の方が何とも心細い。そこで古葉監督は一塁のギャレット選手を左翼へ、右翼のライトル選手を二塁にという構想を打ち出した。ギャレット選手が一塁手としての適正を欠くというのが理由だ。ライトル選手の場合は相手投手が下手投げなど特定の投手の時に限って二塁手に起用する狙い。既に前半戦最終の阪神戦で両外人のテストは済ませている。結果も上々で首脳陣は手応えを掴んでいる。
歳だなぁ
少し前まで「白髪は子供に抜かすのが楽しみでね」と余裕のあった山本一打撃コーチ。だが今では白髪に関しては禁句でさっぱり口にしなくなった。聞けばこの22日で満39歳。人は不惑の年という。口の悪いカープナインは「カズさんも、もう40歳ですか。歳とりましたねぇ」と冷やかすと本人は「バカ言うな。まだ30代だ!」と抵抗するが、「やっぱりオレも歳とったなぁ」とシュンとした。
長嶋さんに恥をかかせるな!
プロ入り4年目の若トラ・掛布選手が全セが誇るスーパーカー打線の三番を打ち堂々と活躍した。掛布選手を三番に起用したのは長嶋監督。周囲はプレッシャーが大きく、掛布選手を委縮させてしまうと危惧したのだが半ば強引に抜擢したのだった。「三番を打つなんて考えてなかったですよ。荷が重かったですけど一生懸命やりました。満足です」と掛布選手。第2戦こそ山田投手(阪急)などパ・リーグが誇るエース級の継投に抑えられたが第3戦は見事な活躍を見せ、長嶋監督は「ハイ、掛布君は立派に頑張りました」とベタ褒めだった。
この長嶋演出に感激したのが父親の泰治さん。第3戦の神宮球場へ家族連れだって応援に行き息子の晴れ姿を観戦した。その前夜、掛布選手は移動日休みを利用し故郷の千葉へ帰省し父親が営む小料理屋「みやこ」で親子水入らずで祝杯をあげた。泰治さんは「まだ三番って柄じゃない。もし散々な結果だったら長嶋さんに申し訳ない。しっかりやれと雅之に言いました」と。久しぶりにビールを酌み交わして " 球宴談義 " に花を咲かせた掛布選手はたった1日の夏休みを有意義に過ごし後半戦に挑んだ。全セの三番を務めた自信は大きく無形の財産となって一段の成長につながった。
「掛布は本当に純心ですよ。第1戦の7回一死二三塁で打順が回って来た時、粘って四球を選び一塁に歩いて次の王にチャンスを回したでしょ。普通ならあそこは強引に打って出て殊勲賞など狙うところだが掛布にはそんなヤマっ気はない。公式戦と同じ気持ちで取り組んでいた。あれが彼の野球に対する姿勢ですよ」これはある野球評論家の見方。掛布選手の人気・魅力は案外こんな一面にあるのかもしれない。
両エースもなかなかの好投
阪神の両エース、古沢・江本投手が球宴の第1・2戦でいずれも先発登板し好投した。特に第1戦に先発した江本投手は規定の3イニングを無安打・1四球に抑え最優秀投手賞を獲得した。また古沢投手も見事な投球で公式戦の出来を上回る内容だった。球宴前の前半戦終盤では両投手とも初回に打たれて崩れるケースが多かっただけに全セのコーチとしてベンチ入りしていた吉田監督も複雑な表情だった。こんな投球をペナントレースでも見せてくれよという気持ちだったのだろう。
ひとり黙々と
オールスター戦はやはり出場しないと面白くない…と " 休宴 " の身を悔やんだのは田淵選手。球宴前の広島戦で右手親指第一関節を骨折し出場辞退を余儀なくされた。田淵選手はプロ入り以来、8年連続で球宴出場していただけに悔しい思いは人一倍だ。7月25日、甲子園球場で始まった後半戦に備えたナイター練習に顔を出した田淵選手は1人黙々と外野を走り復活を目指しているが、戦列復帰は8月以降と見られる。「オールスター戦はテレビで見たけどやはり出場していないと寂しい。特に第2戦の西宮球場は家から球場の照明の明かりが見えるし気もそぞろだった。来年はファン投票で選ばれて活躍したいね」と捲土重来を誓っていた。
今や全国区のショート
オールスター戦で一番自信を付けたのが遊撃手の河埜選手。第3戦の神宮球場ではただ1人フル出場した。「第1・2戦は多少なにか学ぼうとかいろいろ気を遣いましたが、第3戦ではノビノビとプレーしました」といかにも今時のヤングらしく目を輝かせていた。阪急の速球王・山口投手から中前打を放ったり、二盗はおろか三盗までやらかすなどハツラツとプレーして一気に人気と実力のほどを全国のファンに示した。「アイツにもう少し力強いサムライ気質があれば俺の若い頃そっくりだ」とかつて西鉄でサムライ遊撃手といわれた評論家の豊田泰光氏が言うほどの躍動ぶりだった。
全セを率いた長嶋監督は河埜選手をフル出場させることによってペナントレースで3割2分を超える打率を残す打力がありながら有名選手に引け目を感じる奥手な性格を一気に払いのけようとし、河埜選手がその思いに見事に応えたのだった。「若松さんの打撃が非常に参考になりました。早いカウントからどんどん打っていく積極性は真似したいです。それとバットを爪楊枝のように扱うバットコントロールを身につけたいです」と打力・守備力・脚力、そこに積極性の自在性を身につけるというのがオールスター戦で得た土産である。
セ・リーグの遊撃手といえば長く藤田選手(阪神)、三村選手(広島)と相場は決まっていた。そこへ山下選手(大洋)が人気と若さを売りに殴り込みをかけてきたが、あいにく今年は怪我でオールスター戦は欠場だった。その隙をぬって河埜選手がファン投票1位で球宴出場を果たした。今や押しも押されぬ全日本の遊撃手になったと言ってもいい。「いえいえ山下さんがいたらフル出場できたかどうか。これからが本番です」と今年のオールスター戦を機に " 山下 vs 河埜 " のライバル対決が始まりそうだ。
5000円の罰金
オールスター休みの7月26日、多摩川グラウンドで " 一軍対二軍 " の試合が行われた。結果はナント3対0で二軍が勝利した。あまりの不甲斐なさに一軍メンバーには一律5000円の罰金が科せられた。一軍を牛耳ったのが目下イースタンリーグで4勝1敗の中山投手。「次々に僕より先に一軍に行く後輩がいて結果的にこうなったんですが、今に見ていろって気持ちです」と。その心意気を忘れるな!
もう死んでもいい
3試合きりのオールスター戦。その3試合全てに登板した永射保投手。酷暑の中、3試合で計5回 2/3 イニング・無失点だったのに勝利投手はおろか賞品のひとつも手にしない「タダ働き」に終わってしまったが本人はそうでもないようだ。 第1戦では王選手を一ゴロに退け「次はぜひとも三振を」と言っていたが、宣言通りに第2戦では王選手と張本選手のOH砲を連続三振に仕留めた。「あの2つの三振があったからもう賞品はいらない。自分にとって最高の勲章ですから」と興奮した。第3戦でも張本選手に死球を与えたが王選手を二ゴロに打ち取り、永射投手の伝家の宝刀であるカーブがセ・リーグのスーパースター達にも充分通用することが証明できた。
オールスター戦初出場でいきなり全パのエース扱いされた永射投手の評価は上昇する一方で第3戦の神宮球場では場内アナウンスで永射投手を「クラウンの若きエース」と紹介するまでになった。「嬉しかったですね。連投はシーズン中でも慣れているから苦にはならなかった。コントロールも良かったし、攻めの投球ができたのも満足だった。三度も投げさせてくれた上田監督には感謝しています」と永射投手はうっとりした表情で華やかだった3試合の初体験を振り返った。クラウンの鬼頭監督は上田監督に永射投手は故障がちなので1試合程度の登板にして欲しいと事前に申し入れしていたらしいが本人が納得しており問題はないようだ。
「セ・リーグの選手かて人間だ。お前の球ならまともに打てるわけない。パ・リーグの為にもジャンジャン投げてこい。どんな試合だって若いピッチャーは使ってもらって損をすることはない。どんどん使ってもらって自信を付けて帰って来い。短期戦のオールスター戦で投げて潰れるような投手なら長丁場の公式戦では使い物にならない。だからウチは永射を安心して送り出したんや」と胸を張ったのはクラウンの江田投手コーチ。まさにこの師匠にしてこの弟子あり、といったところである。
社交辞令
オールスター戦まで首位を維持し、快調ぶりにウハウハの周囲をよそに鬼頭監督は「いいことばかりは続かんよ。悪いことばかりが続かんようにね」と相変わらず悟りきった発言。オールスター戦休みも2日間だけであとは平和台球場でナイター練習をしたが、「これからの心配があるとしたらやはり打つ方だろうな。前期は絶好調だった基のバットも湿ってきとるし。決定打が出ている間はいいが、それも手放しで楽観できん。まぁ連敗を最小限にすることだな」と淡々としたもの。上田監督(阪急)が「クラウンが走ったら近鉄や南海より怖い」と発言したと報道陣から聞かされても慌てず騒がず「そりゃ社交辞令ですよ」と受け流した。