納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
「大洋よ移転しないで!」と熱望する川崎市。移転歓迎をますます強く打ち出した横浜市。ホットな両市の " 捕鯨合戦 " の反響の大きさに大洋は戸惑いながら決断を迫られてきた。さて、その内情は?
チラリとのぞいた球団社長の本音
6月15日、大洋球団の横田球団社長は川崎市役所で額に汗をにじませながら記者会見でこう述べた。「移転問題が大きくなり過ぎてしまったので、大洋球団独断で決定できない。54万人の市民が移転しないでという熱意を汲んで今しばらく結論を延期したい」と。しかし記者からの質問に答えた横田社長は会見の終わりに「球団も企業である。採算が合わなければ改善しなければならないという基本姿勢は変わらない」と付け加えることを忘れなかった。これまで明確な方針を打ち出してこなかった横田社長の最後の一言こそ、大洋球団が抱き続けてきた本拠地移転への意思表示であった。
横田社長はその日の午後に伊藤三郎川崎市長と会談をした。その内容は、❶大洋の移転が社会的問題にまでなっているので慎重に検討する ❷7月のオールスター戦が終わってからコミッショナー、セ・リーグ会長に調停を依頼する、の2点を申し合わせた。移転問題が社会的にも政治的にも大きくなってしまった所以である。ここで今回の移転問題の経緯を整理しておく。大洋の本拠地移転が明るみに出ると事前に打診すらなかったと川崎市側は反発し、市や市議会・川崎球場・川崎市商工会議所など19もの団体がスクラムを組んで大洋球団に川崎に残ってもらうべく反対運動を起こした。
プロ野球界始まって以来の本拠地移転反対運動に大洋球団は返答を先延ばしにした。業を煮やした反対派団体は大洋の親会社である大洋漁業、コミッショナー、セ・リーグ会長、横浜市長、横浜市議会、横浜新球場などに対して移転反対54万人分の署名を手渡した。なかなか回答しない大洋球団とは対照的に移転先の横浜市の態度は強気の姿勢で一歩も譲らなかった。反対派団体によると横浜市側は最初からケンカ腰で交渉の体をなさなかったという。
大リーグの本拠地変更と違う事情
親会社の大洋漁業は世界最大の水産会社だが捕鯨量の制限が厳しくなると同時に追い打ちをかけたのが専管200海里で経営面で強い打撃を受けた。ここ数年来、球団経営からの撤退が噂されてきたが、その度に故中部オーナーは絶対に手放さないと明言してきた。しかし現実は昨年9月の決算では球団の累積赤字の始末に他資本からの補填をしなければならなくなったほど厳しい。その他資本こそ今回の移転問題に重要な関係者となっている西武グループの国土計画だ。大洋球団の資本金は6億5千万円だが、その内45%にあたる3億円が国土計画の持ち株分だ。国土計画社長の堤義明氏は移転に積極的な飛鳥田横浜市長と懇意で知られている。
3億円という他資本の導入が出来たからこそ立地の悪い川崎球場よりミナト横浜の中心地・伊勢崎町から徒歩圏内の横浜新球場への移転を可能にしたと言えよう。しかし川崎市や川崎球場側とすれば移転は寝耳に水の話だった。大洋漁業出身者である宮崎川崎球場社長は前歴が前歴だけに口は重いが、その宮崎氏ですら「今回の移転話はどうにも納得がいかない」と大洋球団や横浜新球場へ不満をぶつける。関係各所に十分な根回しと対策を講じないうちに本拠地移転の狼煙を上げられたのでは27年間、球団と苦労を共にして歩んできた川崎球場側が怒りを爆発させるのも理解できる。
一方で赤字に苦しむ球団が心機一転を図る為に移転する策も当然とも言える。大リーグではニューヨークのブルックリンからロスアンゼルスに移ったドジャース、同じニューヨークの一角からサンフランシスコに移ったジャイアンツなど珍しいことではない。ただし日本と米国の国民性の違いというのか、日本ではビジネスライクに事を運ぶのは難しい。「横浜市は子供たちの為にプロ野球チームを迎えたいと言うが、それは川崎市の子供たちだって同じ。大洋は川崎のシンボルだった。隣家の庭で育った柿の実をむしり取るのと同じではないか」と反対派団体の関係者は憤る。
川崎側が強気になる強力な決め球
一番苦境に陥ったのは大洋である。大洋は横浜新球場の1セット250万円のボックス席を80セット購入することで建設費に2億円の投資をした。新球場の発足には堤義明国土計画社長、クラウンライターの中村長芳オーナーらが筆頭の発起人に名を連ねていたが、騒ぎが大きくなるにつれて2人は一歩引いた立場を取るようになり大洋は孤軍奮闘状態となった。対する反対派団体は伊藤川崎市長によると「反対署名をした54万人の人たちはこれからも最低3回は川崎球場に足を運んで大洋を応援するそうだ」と勢いを加速させている。自治体の行政指導というものは市民の意見はなかなか一致しないのが通例だが、今回ばかりは様相が違う。
マスコミ報道もスポーツ紙より一般紙の方が川崎・横浜両市の争いを様々な角度から論評している。特に日本経済新聞5月28日付け首都圏版で『大洋球団争奪戦、外野席から見る』と題して報じ、清水一郎群馬県知事ら首都圏の自治体関係者7氏の陪審でも川崎市側が圧倒的に同情されている。川崎市側が着々と得点を稼いでワンサイドゲームになりつつあり大洋球団としては決断が益々難しくなってきた。「もし強引に横浜へ移転してごらんなさい、親会社の大洋漁業にとって由々しき問題が起こるはずです」これは反対派団体某氏の言葉だが、暗に大洋漁業商品の不買運動まで示唆して、いよいよ問題は球団の枠を越えて大ごとになってきた。
川崎市側にはもう一つ強力な決め球があった。それが大洋の練習場返還の件だ。大洋の合宿所と練習グラウンドは川崎市等々力の多摩川河川敷にある。広さ1万6336平米で将来は川崎市に返還する条件で昭和32年に格安で購入したもの。合宿所の横にはテニスコート3面、バレーボールコート1面があり大洋漁業本社社員の厚生施設にもなっている。多摩川べりの緑地対策の為に既に一部分は川崎市に返還され大洋漁業が賃料を払って借りている状態だ。さすがに担当の川崎市環境保全局も正面きって強硬手段に出ることはないだろうが、大洋はロッテのような練習場ジプシーに陥る危険があるのは事実だ。
惨憺たる前期の故障者続出
近鉄のように若手選手が次々と台頭してきたわけでもなければ、阪急の島谷選手や稲葉投手のような移籍選手の補強もなかった。更に決定的だったのは外人選手の予想以上のダメっぷり。加えて投打に主力選手の故障でクラウンは開幕から下位に低迷を続けた。鬼頭監督が「一度でいいから投打ともにフルメンバーで試合をしたかった」と前期シーズンを振り返ったのも無理はない。とにかくベストメンバーを組めたのは4月半ば迄の10試合ほどで、これでは最下位にならない方がどうかしている。
先ずは投手陣。エース東尾投手が4月に1勝、5月に1勝とまるでサラリーマンの休日ゴルフ並みの " 月イチ " ペース。負け試合ばかりウンザリするほど続いて6月下旬には " 10敗一番乗り " とエースの称号が泣く不名誉。東尾投手に並ぶ活躍を期待された古賀投手だったが開幕早々にヒジ痛で戦線離脱。左腕の竹田投手も打球が利き手の指を直撃し負傷。抑えの切り札として期待していたロッテから移籍の倉持投手はスピード不足に制球難で5月中旬に二軍落ち。もし若手の永射投手とベテラン石井投手、大洋から移籍の山下投手がいなかったら一体どうなっていたのやら。完全にリーグのお荷物になっていたに違いない。
打撃陣も負けず劣らず酷い。主砲の土井選手が4月下旬に盗塁をした際に左足アキレス腱を痛め前期シーズンの殆どを守れぬ外野手で過ごしたのを始め、4月末には大田選手が右足太腿とふくらはぎを相次いで肉離れを起こし欠場。基選手が右足のねん挫と右手突き指に加えて左手小指の腱鞘炎で離脱。更に昨年の首位打者・吉岡選手は開幕からの不調をようやく克服しだしたら5月末に右足打撲でスタメン落ち。それが治ったと思ったら6月上旬の遠征中に結膜炎を発症して再び休養に。その他にも広瀬・竹之内・長谷川選手らも満足に試合に出場できなかった。文字通りの満身創痍のチーム状況で故障のない選手を探す方が早いくらいの惨状だった。
土井選手の復調に全てを賭ける
鬼頭監督は後期シーズンの巻き返しのカギは土井選手の復調に求めている。「土井が足を痛めてDHに回った為にDH専門のハンセンを一塁に回さざるを得なかったのだが、土井の怪我が回復してレフトを守れるようになればハンセンをDHに戻し好打の鈴木治を一塁に入れることが出来る。それだけでも攻守ともにかなりのレベルアップとなる」というのだ。問題の土井選手の怪我は徐々に回復に向かっており「何とか走れるようになってきました。打撃も打球をバットに乗せて飛ばせる感覚が戻って来ました。梅雨明け頃には打って守れるようになれそうです」と土井選手の表情は明るい。
基選手も一時は曲がらなかった左手の小指がバットを握れるまでに回復し「後期は多少痛くても試合に出る」とやる気を見せる。また吉岡選手も「休んだ分を取り返す努力をするのは当然」と復活に向けて特打を志願して取り組んでいる。とは言っても彼ら中堅選手にこれまで以上のプラスアルファの活躍を期待するのは酷な話で、やはり若手の台頭が求められる。そこで期待されるのが5年目の真弓選手と4年目の山村善選手だ。特に真弓選手は俊足好打でチームの盗塁王。今季から外野手に転向したばかりだが守備範囲が広く既に4回も俊足を生かしたファインプレーでチームの失点を防いでいる。
鬼頭監督も真弓選手に「走攻守、何を比べてもロザリオ選手に引けを取らない」と高い評価をしている。山村善選手も打撃フォーム改造の効果で本来のパンチ力が戻り、自信を回復して後期シーズンに挑む。不調が続いていた東尾投手も徐々にではあるが上向いており「前期のような惨めなピッチングはもうゴメン(東尾)」と捲土重来を期す。古賀投手のヒジ痛も回復傾向にあり、ベテランの石井・山下投手も健在。前期シーズンで孤軍奮闘していた永射投手を含めた投手陣で巻き返しを図る。
弱体すぎた投手力で前期はダウン
散々だったカネやんロッテの前期シーズン。開幕5試合目、4月8日の対南海戦(大阪球場)は9回表まで6対2とリードしながら9回裏にまさかの5失点で逆転サヨナラ負け。この試合が前期シーズンのロッテを象徴していた。全ては投手力の弱体が敗因である。試合終盤までリードしながらあと一歩のところで苦汁を飲まされ続けた。後期シーズンに巻き返すには一にも二にも投手陣の奮起が求められる。しかし現実には期待していたスティーブ投手を解雇したことでコマ不足は明らかだ。「ワシの頭は後期をどう戦えばよいかでいっぱいなんや」と金田監督が悩むのも無理はない。
これといった好材料が見当たらないのである。救世主となりそうなプレーヤーがいない。故障していた成田投手の復調が僅かに光明を差すくらいだが肩痛から復帰したばかりで大車輪の活躍は望み薄である。あるとすれば前期シーズンは無理をさせず中4日で起用してきた村田投手くらいだろう。あとは勝ち星には恵まれなかったが投球内容は悪くなかった金田留投手や自信をつけて球のキレも一段と良くなった安木投手も期待していい。本拠地を持たないジプシー生活で他球団の選手より疲れが残りがち。そうならないように金田監督考案のツープラトンシステムが功を奏すかどうか。
「とにかく兆治(村田投手)を中心に先発ローテーションを確立するんや。幸いウチの選手は暑い夏が大好きなんや。もう前期のような無様な戦いにはならんで」とカネやん節。投手陣に引きかえ打撃陣は弘田選手から始まる打線はリー選手を中心に、どこからでも爆発するか分からないパ・リーグでも相手を威圧するに充分な破壊力のあるオーダーを持っている。6月に入り初めて体験する日本の梅雨の影響で極端に体調を崩していたリー選手だが、それも徐々に解消されつつある。リー選手の復活で後期シーズンに臨む。
バラエティある攻守で優勝へ
「山崎にしても白にしても前期より悪くなることはないで。有藤・リーの前に走者を出して走りまくってやるんや。早い回に得点すればピッチャーもそれだけ楽になる。バレエティに富んだ攻撃が勝利への近道や。ワシも頭を軟らかくして先につっかけてやる」と後期シーズンに向けて鼻息の荒い金田監督。前期はリーグトップの盗塁数を記録したロッテ。後期も機動力をフルに生かすことで攻撃に厚みをつけようとしている。またスティーブ投手の退団で1人空いた外人枠に引退したラフィーバーコーチを現役に復帰させて代打要員、あわよくばレギュラーで起用するウルトラC案の構想も考えているそうだ。
なにせラフィーバーコーチは現役時代はスイッチヒッターで左腕投手を得意としていた。現在のロッテ打線は左腕投手を苦手としているので、ラフィーバーコーチの現役復帰は苦手克服に願ったり叶ったりだ。打線がどこまで弱体投手陣をカバー出来るかが後期シーズンの最大の課題であるカネやんロッテ。もともとは力があるチームだけに、如何に良いスタートが切れるかが肝心。「きっかけを掴んで(後期)開幕から突っ走ってやるで」と金田監督は巻き返しを誓う。
投手陣の猛反撃と4本柱
6月22日の対ロッテ戦に勝利し、今季初の貯金『1』となった日ハム。数字だけ見ると今さら感が強いが、優勝争いを繰り広げている阪急・南海・近鉄にとっては厄介なチームだ。というのも5月26日の近鉄戦に敗れた日ハムは5連敗・借金『11』だったのが、1ヶ月足らずで貯金するまでになった。この間、15勝3敗1分け。その3敗も0対1(対クラウン)、0対2(対近鉄)、1対2(対阪急)という惜敗で勝っていてもおかしくない試合内容だったのである。この驚異的な快進撃に誰だって後期シーズンへの期待が高まるが大沢監督は「後期のことはまだ考えていない。前期の残り試合を勝つことが最優先」と話すが本心は違う。
阪急など上位チームが警戒するのは何といっても日ハムの投手力。開幕当初は高橋一投手が故障、野村投手は不調。佐伯投手は好投はするが勝ち運に見放され、構想の4本柱のうち3本が崩れた。先発陣では高橋直投手、リリーフ陣では江田投手・村上投手・宮本幸投手だけが頼りだった。もともと攻撃陣は他球団より見劣りしていただけに弱体投手陣では試合に勝ち目はなかった。その4本柱が揃ったのが5月末のことだった。以後の19試合で失点は34。単純計算では2点取れば試合に勝てる。
投手陣は4本柱の他に宮本好・杉田投手をからませれば後期シーズン開幕からの南海・近鉄7連戦、1日休んでクラウン・ロッテ・阪急・南海の14連戦の先発ローテーションを組むのもさほど苦労しない布陣だ。「後期シーズン開幕から2週間は東京に居座るスケジュール(後楽園 11・神宮 3)なので、その間に弾みをつければその後の阪急・南海戦は少々の無理をしてもオールスター休みが待っているのでダメージは少ない」と日ハム首脳陣はソロバンを弾いている。
投手力だけでない攻撃陣の充実
通常は打力が勝負の夏場に投手力で挑むのは異例だが日ハムの打力も侮れない。前期は富田・小田選手が交互に二度ずつ故障し、上垣内・服部・千藤選手らが怪我と病気でダウン。一時は野戦病院化していたが後期は今季初めて全員が顔を揃える。確かに打撃部門でトップクラスの選手はいないがチーム打率は2割5分1厘とまずまずで、本塁打数はリー選手がいるロッテや南海を上回る57本(6月25日現在)で阪急の70本に次ぐリーグ2位だ。不振だった両外人は球団が代わりの新外人を探し始めた途端に打ち始めて、ミッチェル選手はリー選手に次ぐ16本塁打、ウイリアム選手は12本塁打と昨季を上回る活躍を見せ始めた。
「永淵選手がいい。勝負強さは他の選手にはない。それと加藤選手。この両ベテランは頼りになる」と大沢監督。代打陣も後期は揃う。残る課題は二遊間コンビの打撃の弱さだ。だがそれらを補って余るくらい投手陣は安定しており、最小得点でも勝てる陣容だ。先ずは1点を取るという作戦で無理のない攻撃を仕掛けられる強みがある。「後期がどんな展開になるか分らんが、前期の終盤に勝ちまくったことが良い自信になり選手たちが勝利の味を覚えたのは大きい。それが何よりの収穫だ。後期もどんどん勝ちにいく」と大沢監督の鼻息は荒い。
強い阪急をイビリ抜き、開幕当初は苦手にしていた南海と近鉄に借りを返していった前期シーズン終盤の快進撃の余韻を残して後期シーズンに突入する。優勝争いが常連チームならどんなチーム状況でも追い上げや競り合いなど対応できる能力はあるが、経験の浅い日ハムがペナントレースを制するには先行逃げ切りしかない。「どこまでやれるか分らんが、前期は波乱を起こしただけに過ぎないが後期は自分たちが主役になる覚悟でやる」と大沢監督は初の栄冠を虎視眈々と狙っている。