Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 606 後の大エース

2019年10月23日 | 1985 年 



今シーズンのチーム最多勝(12)、最多奪三振数(124)。いささかレベルが低いとはいえ、ともかく巨投の頂点に立った。来季の更なる飛躍を誓っているが、その来季に斎藤とよく似た資質の投手がやって来る。投手がダメなら打者があるさの桑田である。斎藤も入団時は打者の方が…の声が強かった。が、斎藤はあくまでも投手の道を焦らずに突き進んだ。そして成功した。だから斎藤は桑田に言う。「焦るな。じっくりその日を待て。これで俺は勝ったのだから」


20歳を過ぎた普通の若者ならガールフレンドの1人や2人がいても不思議ではない。巨人の若手選手(駒田・岡崎・川相ら)が写真週刊誌に追われていた頃、実は斎藤にも「とある銀行に勤めている彼女がいるらしい」との噂が駆け巡った。その噂の出所は斎藤が11勝目をあげた10月1日の大洋戦後の横浜スタジアムで当時の堀内投手コーチの発言だった。「清六(斎藤のニックネーム)は足しげく銀行に通っている。彼女でもいなけりゃ毎日のように銀行に行かないだろ」とつい報道陣の前で喋った。記者達は色めき立ったが何てことはない。貯金が趣味と話す斎藤を冷やかした冗談がいつの間にか話に尾ひれがついて広まったのが真相だ。野球一筋の斎藤は遊びに小遣いを使わず貯金は貯まる一方らしい。勝ち星が増えるのと比例して取材を受ける機会も増し、当然謝礼金もゲットし銀行に行く回数も増える。

活躍すればそれだけのモノが付いてくることを実感するシーズンだったが、遊びたい盛りの若者が懐が豊かになるとついつい横道に逸れてしまいがちだが「ヤツは放っておいても大丈夫(堀内)」「考え方がしっかりしてるから大きく成長するだろう(江川)」と歴代のエースがプロ3年目の斎藤を次世代のエースに指名する。最近うれしかったことは?の記者からの質問に「球団から頂いたヤング・ジャイアンツ賞ですね」と答えた。金一封の賞金が?と意地悪な質問に対して「ハイ(笑)。でもお金よりも球団が認めてくれたことが嬉しかった」と初々しく答えた。本業の年俸も来季は倍以上の千二百六十万円に跳ね上がった。今は遊びよりも野球をしている方が楽しくて堪らないのだ。

宮崎の秋季キャンプではどんな時でも自信を持って投げられる球をテーマに来季の武器となるシンカーの習得に取り組んでいる。横手投げ投手の宿命で球の出所が見やすい左打者には分が悪い。ましてやセ・リーグには三冠王のバースや掛布、若松など強打者が多い。今秋から就任した皆川投手コーチは斎藤にとって良い手本となりそうだ。現役時代の皆川コーチは左打者の内角にスライダーを投げてファールを打たせてカウントを稼ぎ、外角へのシンカーで左打者を封じてきた。斎藤の場合はスライダーの代わりに胸元を突くストレートで打者の体を起こしてシンカーで仕留める投球を考えている。斎藤の球は一見するとそれほど凄味のあるようには見えないが「見た目より打者の手元で伸びてくるのが斎藤の持ち味で、一番リードしやすい投手」と女房役の山倉選手は言う。

誰もが驚いた桑田の1位指名。斎藤も例外ではなかった。先輩として何かアドバイスは?と聞かれると「テレビで見ただけでアドバイスなんて」と少し照れた後に真顔になって「プロでやってみてすんなり行くか躓くか不安があると思うけど、もしも躓いても焦るなと言いたいですね」実は斎藤自身も1年目はプロの厚い壁にぶち当たった。「1日でも早く投げたい。首脳陣に僕の力を見て欲しいと焦るんです。ところが最初は体力作りばっかりで球さえ握らせてもらえない。しかもその体力作りにも付いて行けない自分に愕然とするんです」と。同じ新人でも野手は比較的早く試合に出場する機会を与えられるが、投手は体力作りが終わるまでブルペンにさえ入れてもらえない。周囲が開幕ムードが高まる中で自分だけ取り残される恐怖を実感することになる。

昨年の上田選手を除けばここ数年のドラフト1位は将来の投手王国を築くことを目標に高卒投手の指名が続いた。槙原、斎藤、水野、そして今年の桑田。この4人が揃ってローテーションを組める日が訪れたなら、それは巨人の黄金時代の到来を意味する。先ずは斎藤が頭一つ抜け出した。勝ち星も年俸も先輩の槙原を抜いた。追い抜かれた槙原は7月14日の阪神戦でバース選手の打球を追った際に転倒し、左足の付け根を骨折してしまいシーズンを棒に振ってしまったが、リハビリも順調で早ければ来季の開幕から復帰できそうだ。また後輩の水野も2人に追いつき追い越せで黙ってはいないだろう。気弱で勝負度胸に一抹の不安があると言われていた斎藤がエース候補の一番手に躍り出た。エースとは?と問われた斎藤は「エースとは誰からも信頼される投手。どうしても勝ちたい試合に登板する投手」と胸を張って答えた。
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# 605 師弟対談 ➌

2019年10月16日 | 1985 年 



毒島ヘッドコーチは最適任者だ !
記 者…コーチの話が出ましたがスタッフの陣容も固まりつつありますね。ヘッドコーチに毒島さんを起用する理由は?
 森 …毒島さんは先ずハッキリものが言える。人間として裏表のない方。それとスカウト経験があり若手選手にも精通している。
    叱ることも出来るし裏表がないからシコリも残らない。今の西武にはうってつけの人だと思い起用しました

記 者…投手コーチは?
 森 …一番の心配は投手陣ですね。とにかく頭数が足らない上に後半戦に肩や肘を痛めた投手が続出し無傷の投手はごく僅か。
    この傷だらけの投手陣を再生しなければ優勝は難しい。先ずは現状分析です。故障の原因が何なのか、練習法か投げ方か
    分析中です。ですから投手コーチには選手の中に飛び込んで行けて投手という人種を知り尽くした人に任せたい。そこで
    選んだのが八木沢君です

川 上…戦力面での課題は外人。郭投手はまずまずだがスティーブ選手は長打力不足で守りも肩が弱い。郭は右肩に不安があり1年を
    通してコンスタントに活躍できていない。もしも郭がローテーションに入れないなら外人打者が2人でもいい。大砲を獲って
    もらいなさいよ

 森 …その件はフロント陣と協議中です
川 上…さすがだね。恐れ入りました(笑)
 森 …フロントもちゃんと考えてくれています
川 上…もう言うことなしだ。これで勝てなかったら監督が悪い(笑)
 森 …はい(笑)
川 上…ついでに言わせてもらうと前監督はマスコミの前で選手に対する愚痴を言っていた。これは感心しません。決して外部に
    不満を漏らしちゃいけない。これはくれぐれも注意してほしい

 森 …僕らの頃は何を言われても聞き流していましたが、今の選手達は真面目ですから委縮してしまう。時代ですね(苦笑)


清原は先ず自分の目で確かめてから
記 者…さて、世代交代の象徴のように扱われているのがPL学園から入団する清原選手ですがどう使う予定ですか?
 森 …彼は一塁をやってきたわけですから先ずは一塁手としての適性を自分の目で確かめるつもりです。しかる後にコンバートの
    必要があればそこで考えます。清原にとって、チームにとって一番良い方法を探っていきたい

川 上…ファンは清原を早く見たいだろうけど慌てる必要はない。体力を付けさせてからでも決して遅くない。逸材である事は
    間違いないのだから

 森 …話は変わりますけど川上さんにお聞きしたいことがあります。監督に就任して初めての優勝(昭和36年)は正直言って
    勝てると思いましたか?ルーキー監督として非常に興味のあるところなんです

川 上…全く思わなかったね。無我夢中で戦っていたら優勝していた感じだった。むしろ大変だったのは2年目ですよ。続けて
    優勝すれば選手も自信が持てると思って手綱を締めた。そういう感じじゃなかった?

 森 …いや、逆ですね。1年目の方が厳しかった。2年目はキャンプも3勤1休になりましたし
川 上…えっ、そうだった?
 森 …昭和36年はとにかく練習、練習の1年でした。多摩川で雨の中でも練習して南海との日本シリーズに臨んだくらいでしたから。
    ところが翌年は一転して楽になった。そうしたら優勝できなくて次の年は36年以上に厳しくなった。憶えてませんか?

川 上…私は囲碁の世界の言葉である『一石は弱し、二石は強し』をモットーにしている。だから1年目より2年目の方を厳しくやった
    つもりだった。ただ頭のどこかで1年目は無我夢中で無茶をしたから2年目は知らず知らずのうちに緩めたのかもしれない。
    ボクシングだって3分間戦って1分休むのだから、キャンプも3日間厳しくやって1日ゆっくり休んだ方が良いと考えて
    3勤1休にしたんです。それくらい昭和36年は精神的に尋常じゃなかった

 森 …あの年は本当に大変だった。移動日や雨の日でも練習するんです。私も含めて選手達は「何でこんなに練習するんだ」と
    不平不満がタラタラだった。それが半年経つと練習するのが当たり前と感じるようになった。人間は不思議な生き物です(苦笑)

川 上…監督と選手の根くらべですよ
 森 …私もコーチになった時に選手に言いました『君達も嫌だろうけど、やらせる我々はもっと嫌なんだ』と


V9野球はあらゆる面で革命的だ
 森 …振り返ると私の本当の野球人生のスタートは昭和36年だった気がします。九連覇は昭和40年から始まりましたが、その原点は
    昭和36年です。川上さんの野球が、優勝 ⇒ 4位 ⇒ 優勝 ⇒ 3位 という歩みを繰り返すうちに巨人軍の野球が確立されて
    九連覇へと繋がったと理解しています。川上さんの口癖は「球際に強くなれ」で、今では当たり前のように言われていますが
    当時は何のこっちゃ、と皆で首を傾げていました(笑)

川 上…「球際で強く」とか「特訓」などは私の造語ですよ(笑)。取材を一手に引き受ける「広報担当」、「トレーニングコーチ」や
    練習中のグラウンドに音楽を流したのも私の発案です

 森 …音楽的センスが皆無の川上さんがバックグランドミュージックを考えるなんて(笑)。それから先乗りスコアラーも川上さんの
    案です。とにかく新たなことを開拓するのは非常に勇気がいりますが川上さんは躊躇しなかった。いわゆる " 哲のカーテン " は
    大正解でした。当時は記者さんがグラウンドの中まで入って取材するのが当たり前だった。それを川上さんが規制した。画期的
    でしたよ。もちろん選手は大賛成でした。マスコミを敵に回してでも自分の信念を貫き通す勇気に感服しました。私も是非とも
    見習いたいです

川 上…森君はよく勉強していた。14年間のミーティングの内容を全てメモしていたのが牧野コーチと森君の2人だけ。実に
    大したものです。長嶋君なんか右から左へ聞き流していた(笑)。でも彼はそれでいいんです。試合でしっかり結果を
    出す彼に理屈は必要ありません(笑)

 森 …自己反省が一番大事だと思います。そのノートはコーチとして選手を指導する際に本当に役に立ちました


9人の敵をすべて殺したプロ根性
記 者…さて来年の話になりますが西武はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか?
 森 …今季は確かに西武はリーグ優勝しました。しかし後半戦の西武が本当の姿だと思います。よほど気持ちを引き締めて戦わないと
    足元をすくわれます。他球団は打倒西武で来ると思いますが私はその方が楽しみです。叩かれれば叩かれるほどナニクソッと
    反発するタイプです。何しろ川上さんに毎年のように新しい捕手をぶつけられて鍛えられましたから(笑)

記 者…調べてみたら森さんがレギュラーになって以降、9人の刺客を送られましたが森さんは返り討ちにしました
        昭和35年 佐々木 勲(明治大)・野口元三(平安高)
        昭和37年 淡河 弘(久留米商)
        昭和38年 大橋 勲(慶応大)・宮寺勝利(東洋大)
        昭和40年 吉田孝司(市神港高)
        昭和42年 槌田 誠(立教大)・矢沢 正(中京商)
        昭和45年 阿野鉱二(早稲田大)

      
 森 …これは堪らなかったですよ。しかし常に緊張感を持つようにする事でマンネリや馴れで緩むのを許さなかった。そのお蔭で
    結局20年も現役を続けることが出来た。川上さんに感謝していますよ
      
川 上…君は怪我にも強かったからね。ある時、試合中に怪我をした。それも1ヶ月くらい欠場するような怪我だったのに3日で
    帰って来た。あの頃の選手は性根が座っていたし、長く現役を続けられたのは本人の努力の結果ですよ。とにかく来年、森君が
    どんな野球をするのか楽しみです。監督が変わればそれまで陽の目を見なかった選手が出て来るものです。それも楽しみです

 森 …先ずは使える投手を発掘しなくては。これは私の専門分野ですから何とかしたいです
川 上…何が何でも4年は監督をやる。その間に西武の野球はコレだ、というものを作って次の世代にバトンを渡す。頑張ってほしい
 森 …分かりました。精一杯頑張ります。今日はありがとうございました
記 者…御二方、本日はありがとうございました
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# 604 師弟対談 ➋

2019年10月09日 | 1985 年 



本誌評論家の森昌彦氏が来季から西武ライオンズの指揮を執ることになった。森氏がどんな采配を見せてくれるか今から楽しみだが、森氏のバックボーンはやはりV9巨人の " 最強野球 " 。川上哲治氏が築き上げたチームプレーで勝ち抜く野球である。森氏はその川上V9野球の正統な継承者といえる人。2人の熱論の中から森氏の野球の輪郭がはっきりしてきた。

監督の仕事は先ず自分を捨てる
川 上…先ずは何はともあれおめでとう。この仕事は幾ら自分が願っても相手から請われないと出来ない仕事。このチャンスを
    生かして全力でぶつかってほしい。森君は強靭な精神力の持ち主だからきっとやってくれると信じている。来シーズンが
    本当に楽しみだ

 森 …ありがとうございます。大変な仕事を引き受けたというのが実感です。僕は今まで監督を補佐するコーチを経験してきました。
    いかに監督という仕事が孤独でシビアなものだと肌で感じました。それだけにやり甲斐があると思います

川 上…とにかく森君とは長い付き合い。巨人軍の監督を14年やりましたが、非力な投手陣を上手に支えてくれた九連覇の陰の立役者。
    長嶋君や王君が陽の当たるヒーローならば森君は日陰で目立たないヒーローで欠かせない存在でした。さて私が森君にお願いと
    いうか先輩監督として助言するならば先ず自分を捨てよ、これが一番大事だと思う。自分を捨てるとは自分を無にしてコーチの
    中に入り選手の中に入り一体化する事です。コーチの気持ち、選手の気持ちが全部自分に反映してくるので全てが分かってくる。
    そうして初めて自分がやりたい野球がスタートする

 森 …全くその通りだと思います。監督が野球をやるのではない。いかに選手に最高の能力を発揮させるか、そういう環境をいかに
    作るかというのが全てだと考えています。川上さんのおっしゃる自分を捨てるというのはなかなか難しいですが、実際にゲームが
    始まれば主役は選手で監督・コーチは黒子だと思うしそれが基本ですね

川 上…監督というのは頂点にある人です。目的のない所に目的を設定してチーム全体を牽引しなければならない。コーチ諸君は
    その設定された目的に向けて監督に従いついて行く。だから監督とコーチは同じ黒子でも職質、職域は自ずと違う。森君には
    その事をしっかりと認識してほしいと思う


勝利と選手育成は監督の二大責任
 森 …監督とはこういうモノだと考えていても実際にやってみて初めて分かるモノもあると思います。ですから今日は川上さんの
    貴重な体験談をお聞きして参考にさせて頂きたいと思っています。川上さんは昭和36年に水原さんから監督をバトンタッチ
    されましたが、当時の巨人軍は決して強いチームではなかった。投手陣に絶対的なエースは存在せず、長嶋君が一人で打線を
    引っ張っていました。川上さんはそのチームをリーグ制覇・日本一に導きました

川 上…あの時は水原さんでも勝てなかった。弱かった。そのチームを率いて勝て、という責任を負わされされたのだから、先ず
    勝つという大目標・大前提を置いてどうすれば勝てるという各論的な部分をじっくり考えた。そこから得たのはチームワーク。
    チームワークを整えなければ勝てないという結論でした。そして選手一人一人を少しでもプロらしい選手にしなければ勝てんと
    いう事でした。ではプロらしい選手を育てるにはどうすればいいのか?それには練習しかなかった。さて、そのチームワークや
    チームプレーですが当時は観念的な理解に留まっていた。それを具体的に例えばバント守備ならお前はこう動け、お前は
    こうしろなど出来るまで何度も繰り返す。と同時に監督自身も勉強する。チーム全員を牽引するには選手を理解しなければ
    なならない。それが昭和36年の実情でしたね

 森 …それぞれの球団によってチームカラーや選手の性格も違いますから、一概にこれをやれば全て解決するという正解はない
川 上…監督には二つの大きな責任がある。チームの勝利と選手の育成。正しい野球、間違いのない野球を教えると同時に良い野球を
    選手に身に付けさせる。それが大事です

 森 …まさにその通りで僕のテーマでもあります。西武球団は勝つと同時にチームが過渡期に差し掛かっていますから、これからの
    選手を育てることが重要なテーマです

川 上…人を率いながら仕事を成功させる上でリーダーとしての大事な心得が私なりに三つある。実はこの心得は監督を辞めた後に
    分かったことなんだけどね(笑)。先ず原理原則を説いてくれる師を持つこと。野球に限らず人生の羅針盤になってくれる人。
    私の場合は正力松太郎氏と梶浦逸外老師(元正眼寺住職)の二人。次に苦言を直言してくれる信頼できる部下を持つこと。
    九連覇時代は牧野ヘッドコーチがやかましく進言してくれた。最後は部外者の良きアドバイザーを持つこと。野球の世界しか
    知らない私に実業界で成功された方の集まりである「無名会」の皆さんの叱咤激励に勇気づけられた。森君もこういった人達を
    探す必要があると思う。この世界は自分一人ではやっていけない。老婆心ながら参考にしてほしい



不動の " 西武野球 " を確立すべきだ
記 者…お話を伺っていますと川上さんと森さんはV9野球の確立者と継承者という強い信頼関係で結ばれていることが分かりました。
    最強チームの再現に不可欠の新スタッフは固まりましたか?

川 上…その前に一言よろしいですか。スタッフ以前に私としては球団フロントとの意思疎通を大事にしてもらいたい。戦うのは現場だが
    戦う為の戦力補強などに球団から資金を出してもらう必要がある。普段からの付き合い方がイザという時にモノを言う。伝え聞く
    ところによると前監督(広岡氏)はフロントとの仲が良好とは言えず苦労したと聞く。森君に同じ轍を踏んでほしくない

 森 …私は球団あっての現場だという考え方です。必要以上に仲良くするつもりはありませんが適度な関係を築きたいです
川 上…監督がフロントと衝突すると一番困るのが選手なんです。まぁ森君はヤクルト時代の経験もあるから大丈夫だと思う
 森 …フロントと喧嘩している暇は今の西武にはありませんよ。チームは転換期でベテランと言える選手は投手陣では35歳の東尾と
    33歳の松沼兄、野手では片平、大田、田尾、石毛くらいで上手く世代交代できれば長期の黄金時代を築ける。選手が自分の
    球団に誇りを持てるように教育しなければならないと考えています

川 上…例え監督が交代しようが西武の野球は変わらないという確固たるモノを確立しなければならない。強いチームにはそれがある
 森 …大リーグのLA・ドジャースがそうですよね。監督や選手に変化があろうと、いつの時代でもドジャースの野球は変わらない
川 上…一貫性が大事。例えばあるコーチの指導と別のコーチの指導が違っていたら選手は迷ってしまう。何事もチームとしての一貫性、
    統一性が大事になる。樹木に例えるなら枝葉に多少の差異があろうとも幹さえしっかりしていれば樹は育つ。森君にはその幹の
    部分の確立をしてもらいたい
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# 603 師弟対談 ➊

2019年10月02日 | 1985 年 



阪神は見事に復活した。浪花っ子は狂喜した。その興奮が静まってくると何かを忘れていたような気がしてきた。そう、名門・南海のことである。かつては阪神と大阪の人気を二分した人気チームの凋落はあまりにも寂しい限り。南海が復活してこそ本当の大阪の復活があり、パ・リーグの復活がある。来季から指揮を執る杉浦忠新監督とかつて南海の一時代を築いた鶴岡一人氏に名門復活を語り合ってもらった。

金を儲ける為にプロに入った。これが原点なのだ
聞き手…先日のドラフト会議についてから伺いたい
杉 浦…長打力がある打者という事で清原君を指名しましたが縁がありませんでした。西川君(法大)か斉藤君(青学大)の
    二者択一でしたがウチの投手陣は右の本格派が多いので左腕の西川君にしました

鶴 岡…ドラフトを自己採点すると何点?
杉 浦…90点ですかね。左が2人、変則が1人と投手陣はまずまず。手薄な捕手や大砲候補も2人獲れました
鶴 岡…それにしても今年のドラフトは大騒ぎだったなぁ
聞き手…桑田・清原の話題で持ちきりでしたね
杉 浦…南海電鉄のおひざ元の岸和田出身の清原を指名しなかったら何を言われるか。最近は逆指名が流行してますけど
    敢えて指名しました

鶴 岡…抽選はダメで元々。人気のない球団も欲しい選手を指名しなければドラフト制の意味がない
聞き手…ドラフトも終わって今度はトレードですね?
杉 浦…ウチは建前としてトレードはしないとしています。あくまでもこちらから動くことはないと
聞き手…山内孝投手のトレード話も巨人側からがあった?
杉 浦…ええ。山内本人にも話しましたがトレードを申し込まれるという事は相手が評価している証拠。まだまだ老け込む
    歳じゃない。有名税だと考えて来季は発奮しろと激励しました

鶴 岡…それもひとつの見方やな。それに付け加えるなら選手は何の為にプロへ入ったのか、やっぱりお金儲けですよ。
    オールスター戦に出られるような選手になっていい給料を貰う。プロの世界で生き残るには本人の努力しかない。
    そういう選手になれと

聞き手…その昔、鶴岡さんは「グラウンドには銭が落ちとる。拾うてこい」とおっしゃってましたね
鶴 岡…自分が好きな事をやって有名になり若いうちに家を建てて贅沢な生活をする。プロ野球選手にはこれが出来る。
    最近よく耳にするのが「鶴岡さん、今の若い選手は何で上手くなろうと努力せんのでしょうかね?若いうちにお金を
    貰い過ぎでは?」と。これは半分本当やが、もう半分は一般人の僻みだと思うんです。これなんですよ。プロ野球選手は
    一般の人から妬まれるくらいの存在にならなきゃダメなんです



三塁・香川にかつての中西太のイメージが・・・
聞き手…11月4日から秋季練習を行なっていますが手応えはいかがですか?
杉 浦…今まで外から見ていて団結力というか纏まりに欠けていたように思ってましたが、徐々にですけど変わってきました。
    門田などはここ何年も秋季練習には不参加でしたが今年は自ら参加してくれました。練習が始まって5日ぐらい経って、
    もうそろそろ切り上げて構わないよと言ったら「邪魔になるなら帰りますけど(笑)」と練習を続けています。チームの
    士気も上がるしありがたいですね

鶴 岡…それは良い傾向やね。そういう所を若い選手達はちゃんと見てますから
杉 浦…鈴木という若い選手がいるんです。体格に恵まれパワーも申し分ない。だけど今一つ殻を破れない。そこで鈴木に「門田の
    所へ行ってティーバッティングの手伝いをしてこい」と言ったら門田が鈴木にマンツーマンで打撃指導を始めた。勿論、
    打撃コーチ了承の下で。今はチーム全体に一体感が出来つつありますね

聞き手…今の所、来季の目玉は " サード・ドカベン " ではないかと
杉 浦…まだまだ実戦で試せる段階ではないですが面白いですよ
聞き手…中西二世だとか(笑)
杉 浦…まだ強い打球は捕らせてません。捕球する際の足の運びとか内野手としての初歩段階です。でも日々進歩しています
聞き手…ほ~。三塁手・香川は本気なのですね?
杉 浦…しばらく様子を見て判断したいと考えています。僕自身は西鉄時代の中西さんにイメージをだぶらせています。香川本人も
    「高校の時に少しやった事がある。違和感はないです」と言ってやる気満々です。結論を出すのはまだ先ですが

鶴 岡…話題にはなりますわな(苦笑)


良い監督とは相手に嫌がられる事を徹底的にやる男
聞き手…杉浦南海では二軍監督という名称を無くしました。その意図は?
杉 浦…二軍監督の下でリーグ戦をやりますよね、そうすると南海ホークスの選手ではなく " 二軍の選手 " という意識に陥ってしまう。
    二軍で活躍しても意味はないという意識を持ってもらおうと。一応は責任者は配置してますけど

聞き手…一軍と二軍の区別を無くすと?
杉 浦…ハイ。例えば一軍から二軍へ落ちた選手の指導は一軍のコーチが行なう。代わりに一軍へ昇格する選手について二軍のコーチが
    当初は行なず、一軍のコーチに引き継ぐ。これは近鉄の投手コーチ時代に感じた違和感から思いついたんです。一軍で抑え役に
    起用する予定の投手を二軍で先発させても意味はないですから

聞き手…これは阪神が安芸キャンプでやった一・二軍合同キャンプみたいなものですか?
鶴 岡…ウ~ン、シーズン中も続けるとなると阪神の上を行く改革やな。僕が監督の時も一・二軍の意思疎通は難しかったからね
杉 浦…チームが強いときは二軍からどんどん選手が育っていた。野村や広瀬など二軍からの叩き上げだった
鶴 岡…それに昔はコーチが手取り足取り教えるなんてなかった。自分の目で先輩から技術を盗んでいた。僕の場合は藤村さんだった。
    今は教え過ぎる。選手だって体は一つなんだから言われた事を全部やっていたら頭が混乱してしまう。取捨選択も大事やね

杉 浦…そうですね。ヒントを貰う感覚で宜しいかと
鶴 岡…辞めてしまったが広岡は良い監督だった。継投策が上手かった。永射が出て来ると相手は早く点を取らないと、と焦る。
    かつて西鉄の稲尾がブルペンで投げ始めるとこっちも焦る。そんな時はウチも杉浦にブルペンへ行けと命じた。これなんか
    三原さんから学んだ策。相手の嫌がる事をやらんと勝てない。それが出来る監督こそ良い監督だ

聞き手…川上さん(元巨人監督)も同じ様な話をしていました
鶴 岡…川上君も常に相手が嫌がる事をやって九連覇を成し遂げた。相手に見破られるような事をやっていたら監督は務まらない


隠れ南海ファンをいかに顕在させるかが課題
聞き手…阪神フィーバーで大盛り上がりの関西ですが、一方で南海の低迷が続いています
鶴 岡…今回、杉浦君が監督に就任して中年以上の人達は喜んでいるね。期待が大きいから頑張って欲しい。頑張れ、と言う以上に
    何が何でも勝って欲しい

聞き手…勝たないとお客さんが球場に来てくれないですし
鶴 岡…勝たないと親御さんが子供たちを連れて球場に来てくれない。ただし同じ勝つのでも学校が休みの春休みや夏休みに地元で
    勝たなイカン。勝って1万人のお客さんが周りに宣伝してくれるのと3万人のお客さんでは影響力が違う。前監督の穴吹君にも
    言ったんだ、君も頑張っているけど子供たちの前で勝たないとダメだと。肝心の夏休み中に最下位ではアカンと

聞き手…毎年、5月のゴールデンウイークの頃までは頑張っているんですけど夏休みまで持続しない
鶴 岡…春先は大阪球場も結構お客さんで埋まってますよ
聞き手…私たちマスコミ関係者の間では人気の目安はテレビの視聴率ですね。昭和40年代までは毎日放送が南海戦を、朝日放送が
    阪神戦を同時間帯に放送していたんですが両社の視聴率に差は殆どありませんでした。ところが今や雲泥の差です

鶴 岡…こういう事を言うたら叱られるかもしれないが近鉄や阪急が勝つより南海が勝つ方がパ・リーグの為にはエエ
聞き手…昔は南海と阪神が関西の人気を二分してましたからね。難波にもう一度火を灯さなければいけない。関西地区だけでなく全国に
     " 隠れ南海ファン " は潜在している。そういった人達を再び呼び戻さないと。今では南海ファンと公言すると笑われてしまう

鶴 岡…大人だけでなく子供たちの世界でもあるそうだ。学校で南海ファンだと言うと馬鹿にされると聞いた
杉 浦…先日、テレビで阪神優勝の特別番組が放送されたんですが、その中で「西武が何じゃい。マイナーやないか」という発言が
    あったんです。これは西武だけでなくパ・リーグ全体をマイナー扱いしている発言で聞いていて悔しかった。阪神もセ・リーグも
    憎くないけどやはりカチンッときました。おこがましいけどパ・リーグを盛り上げるには南海が頑張らなければダメだと思い
    ましたね。微力ではありますがパ・リーグ隆盛の為に一役買いたい。その為には2~3年先ではなく来年すぐに勝ちたい。
    パ・リーグの為にも勝ちたいんです

聞き手…頑張って下さい。期待しています。本日はありがとうございました
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# 602 新戦力 / 阪急・日ハム・南海

2019年09月25日 | 1985 年 



勇者復活のカギを握る超大型右腕レスリー投手獲得
阪急にはどうしても変わらなければならない課題がある。それは今季壊滅してしまった投手陣である。特にストッパー不在の悲哀を嫌というほど味わった阪急に頼もしい投手が加わる。ブラッド・レスリー投手だ。198cm・101kg の超大型投手で、重い速球とカーブを武器に1982年と今年に3Aでセーブ王になっている。わざわざ自ら渡米してテストに立ち会った上田監督は「体は柔らかいし良いフォームをしている。期待通りに抑え役の役目は充分に果たしてくれるだろう」と投手陣再編のカギとして並々ならぬ期待を寄せている。ズバリ、来季の阪急の浮沈はこの助っ人の右腕の出来に大きくかかっている。

今季はパ・リーグでトップの得点力を誇りながらBクラスに低迷した。チーム防御率4位(4.98)がそのまま順位に反映した形だ。ただし先発陣はその役割を十分に果たした。佐藤投手21勝、山田投手18勝、今井投手12勝と3人で51勝もしながら弱投の汚名に甘んじなければならなかったのは、ひとえに抑えや中継ぎのリリーフ陣の踏ん張りが利かなかった為だ。チーム完投数が「59」とパ・リーグで断トツだったのも完投しなければ勝てない、とリリーフ陣が頼りにならなかった裏返しでもある。「頼りになるストッパーがいればなぁ…」と嘆く上田監督の姿を何度見た事か。苦肉の策として山沖投手を先発と抑えの両刀遣いをしたが、中途半端な起用で前年の成績(11勝8敗15S)を下回ってしまった(7勝14敗6S)。

レスリー投手の加入で山沖を先発に専念させられる事は大きい。次期エースとして山沖を独り立ちさせる事は阪急の将来にも関わってくる。佐藤と山沖を先発ローテーションの軸にすれば山田、今井の両ベテランに充分な登板間隔を与えて登板させる事が出来る。白井投手など台頭してきた若手投手を先発に組み込めばローテーションの谷間を埋められる。ところでドラフト1位指名の石井投手(日大)は目下のところ計算外だが「彼が大学2年生の頃の状態に戻れば充分戦力になる」と藤井編成部長は言う。いずれにしろこれまで不在だった抑えに新外人を迎える事が出来たのが今オフ最大の戦力強化となった。レスリー投手が期待通りの活躍をすればV奪回も見えてくる。



打線はパワーを補強。守りは鉄壁、投手は豊富。コリャ優勝だ !!
大砲不在で打線に今ひとつ迫力を欠いた日ハム。先のドラフト会議では残念ながら清原獲得はならなかったが広瀬哲朗内野手(24歳・本田技研)、田中幸雄内野手(17歳・都城高)、沖泰司内野手(24歳・スリーボンド)ら課題の内野手を指名することに成功した。更に新助っ人はブリュワー選手に続き大リーグ通算64本塁打のパット・パットナム選手(31歳・ロイヤルズ3A)の獲得も内定した。1位指名の広瀬に関しては「当然、適性を判断してからになるけどショート起用を考えているよ。何しろ社会人ナンバーワン野手なんだから開幕からレギュラーで使う気でいる」と高田監督の期待は大きい。

そもそも清原の存在が無ければ1位指名入札は広瀬だった。駒大時代から走・攻・守三拍子揃った好選手で1年生からリーグ戦にフル出場し、ベストナインにも四度選ばれた。また3・4年生の時は白井選手(現日ハム)と鉄壁の二遊間を組んでいた関係もあり日ハムの評価は大学時代から高かった。本田技研に入社後は打撃も向上し通算打率.446・20本塁打と結果を残した。この広瀬の加入で日ハムの野手の布陣にも変化が起きそうだ。故障がちの高代選手が控えに回る可能性も出てくる。しかし高代の渋い打撃と手堅い守備も捨て難く、二塁へのコンバートも。そうなると白井との定位置争いが勃発する。これに沖を加えた4人の二遊間争いはレベルが高い。

唯一無風状態なのが古屋選手がいる三塁と新外人・パットナムの一塁。また外野陣で不動なのが中堅の島田誠選手。シュアな打撃と5年連続ダイヤモンドグラブ賞の賢固な守りはチームに欠かせない。右翼は新外人のブリュワーで決まり。左翼は順当なら二村選手だが秋季キャンプで急成長し高田監督から「来年こそは一軍定着してもらわなければ困る」とまで言われたプロ8年目となる早川選手がどこまで二村に追いつき追い越す事が出来るか注目だ。投手陣ではドラフト2位指名の渡辺弘投手(22歳・九州産業大)の評価が高い。最速143km の速球とカーブ、スライダーの制球力が抜群で即戦力と期待されている。来季の日ハムの戦力図は新戦力の加入で大きく変わりそうだ。



右上手投げ投手陣に左腕と下手投げの加入でバランス取れるか
杉浦監督は「今年のドラフトは90点がつけられる」と言い切った。左腕投手2人、右下手投げ1人、捕手1人に外野手2人という補強に大満足。加えてトレードでロッテから右の変則タイプの田村投手を獲得。これらの新戦力加入で来季は8年連続Bクラスからの脱却はなるだろうか?南海投手陣の顔ぶれを見ると山内和・山内孝・加藤・藤本修・井上・矢野とズラリと右の上手投げが並ぶ。これに藤田学や大久保が入っても同じだ。期待された左腕の竹口や中条は力不足だった。そこで先のドラフト会議で指名した1位の西川投手(法大)、2位の中村投手(拓銀)はいずれも左腕で、更に5位指名の坂田投手(九産大)は右の下手投げ。

「ウチは右のオーソドックスな投手ばかり。これでバランスのとれた投手陣になる」と杉浦監督も満足げだ。来季の投手陣は競争意識が高まるだろう。両山内や加藤・藤本修・井上ら5人は間違いなく一軍だろうが、残る一軍投手枠5~6を巡って激しいバトルは必至だ。田口・中条・青井・竹口と秋季キャンプで著しい成長を見せた大久保・畠山・矢野、そこに新人の西川・中村・田村を加えた10人で争う。今季は先発どころか中継ぎやワンポイントですら使える左腕がいなかっただけに杉浦監督は「サウスポーが2人は欲しい」と。その点で西川は東京六大学リーグで鍛えられたマウンド度胸の持ち主だけに期待は大きい。

8年連続のBクラスを返上するには課題は多いが、とりあえず投手陣に関しては右投げ一辺倒からは脱却できそうだ。ただし野手陣は依然として課題は残したままだ。例えば捕手陣。香川選手をサードへコンバートする案が首脳陣にあるようだが、香川が抜ける捕手の補強はドラフトで高校生(上宮高・西山選手)1人獲得しただけ。もしも正捕手の吉田選手が怪我をしたら忽ち危機を迎える事になる。また野手に一発長打の魅力を持つ選手が少ないのも寂しい。秋季キャンプの紅白戦で本塁打を放ったのは香川と藤本博選手の2人だけ。相変わらずベテランの門田選手頼りとは情けない。長打が無いならスイッチヒッターに転向した湯上谷選手や足のある佐々木選手の活躍に期待するしかないようだ。
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# 601 新戦力 / 西武・ロッテ・近鉄

2019年09月18日 | 1985 年 



ズバリ ! 来季は『投高打低』で日本一の座を奪い返せる
12球団ナンバーワンの投手王国の再建は成った。しかし田尾選手、スティーブ選手、大田選手らクリーンアップは合わせても34本塁打でこれは12球団のクリーンアップの中で最低本数でパワー不足が否めなかった。今季、終わってみればパ・リーグ制覇はしたものの日本一には届かなかった。勝った阪神との差は打線。投手力は東尾、松沼兄弟、郭、渡辺久、工藤ら寧ろ阪神より上。その打線強化の為にドラフト会議で清原選手を指名し、更に新外人の目途も立った。その名はベン・オグリビー選手。M・ブリュワーズの四番打者で今季10本塁打に終わったスティーブに代わりクリーンアップの一員を務めることになりそうだ。

広岡前監督が数年来に渡り嘆き続けていた大砲不在。それでもパ・リーグを制覇できたのは12球団随一と言われている豊富な投手陣のお蔭である。少ない好機を生かして得点をあげ、投手を含めた堅実な守りで勝利に結びつけた。そこへ来季はバリバリの大リーガーが四番の座にデンと構えるとなれば、これまでの投手陣におんぶに抱っこの投高打低を返上できるかも。ただし「外人選手は来日してみないと分かりませんよ。故障持ちだったり日本の環境に馴染めずに持てる力を発揮できずにアメリカに戻った選手は数えきれませんから。最近の西武はハズレ外人も減ってきましたけど、こればっかりはね」と話す大リーグ通もいる。やはり来季も投手頼り?

また一部報道(12月3日付・AP電)ではオグリビーが日本球界入りを渋っているとの情報があるが、坂井球団代表は顔色ひとつ変えずに「ウチは勝算の無い交渉はしない」と新大砲獲得に自信を見せた。加えて先のドラフト会議で高校通算64本塁打・甲子園大会だけでも13本塁打を放った清原を指名し獲得した。退団するスティーブの後釜に一塁のポジションを開幕から得られればヤングレオの新しい目玉になる。また清原加入は先輩の大久保選手を刺激するのは間違いない。後輩に負けてたまるか、と一塁のレギュラーを虎視眈々と狙っている。今オフの補強は来季の布陣もさることながら、5年・10年先の西武に多大な影響を与えるであろう。



横田以上の大物新人・古川の加入で戦国時代に突入の外野戦争
ドラフト4位で亜細亜大学の主砲・古川慎一外野手を獲得した事で来季の外野陣は益々レギュラー争いが激化する。古川は東都大学リーグで15本塁打を放ったスラッガー。古川の加入で8人(高沢・有藤・芦岡・庄司・横田・愛甲・岡部・古川)で3つのポジションを争うハイレベルな戦いとなる。今季の布陣は左翼・有藤、中堅・高沢、右翼・横田だったが来季に関して稲尾監督は白紙を強調する。先ず古川につて「パワーは文句なし。即戦力で愛甲や岡部はうかうか出来ない」と得津スカウトは太鼓判を押す。また11月29日の納会で進退が注目されていたベテラン有藤選手が来季も現役でプレーする事が正式に決まり発表された。

更に今季三冠王に輝いた落合選手が一塁に再コンバートされる事で今季は一塁のレギュラーだった山本功選手が押し出される形で外野手に転向する。こうなると今季メキメキと力を付けてきた愛甲選手や岡部選手、そしてレギュラーだった高沢選手や横田選手もレギュラーどころか一軍に残る事さえ大変になる。稲尾監督は「ウチは実力主義。それは有藤も例外ではない」と言い切る。場合によっては有藤の二軍落ちの可能性も否定できない。それと並行してベテランの庄司選手や芦岡選手は今オフのトレード要員として名前が挙がっている。巷間伝えられている横浜大洋・田代選手とのトレードで庄司に関しては石川投手と共に交換要員として有力視されている。

新旧交代が一気に進む可能性が出てきた。しかし有藤の二軍落ちが現実のものとなったらチーム内外に及ぼす影響は小さくない。就任3年目で初Vに挑む稲尾ロッテに亀裂が生じかねない。かといって有藤を特別扱いすればチーム内に不満や反発が生まれる。稲尾監督の選択がチームの浮沈を握る事になる。新人・古川の参入とベテラン・有藤の残留、更に山本の外野コンバート。昭和37年生まれの愛甲、横田、岡部の左打ち同級生トリオに高沢。どの選手を選ぶにも甲乙つけがたい。「実力第一主義でいくがウチの外野陣は駒が豊富で、レギュラーを決める前に誰を一軍に残すかで頭を悩ますよ」と稲尾監督も嬉しい悲鳴。ただ、ひとつ間違えればチームが崩壊しかねないだけに大変な決断を求められる。



大量7人の投手補強でシノギを削る一軍争いは必至 !
有田選手の巨人とのトレード発表後に岡本監督は「もう今の時点で来季の青写真を描いとる。トレードもこれで終わり」と補強終了を宣言した。ドラフト会議で1位指名した桧山投手(東筑)を筆頭に5位指名まで全て右の本格派投手。更に巨人から山岡投手、ヤクルトから南投手と大量7人もの右投手を補強した。「来年は投手にとって大変な年になるだろう(岡本監督)」と言われるくらい一軍の狭き門を巡って激しい争いが繰り広げられそうだ。一軍の投手枠は11人前後。そこに20人を超える投手が凌ぎを削る事となる。しかも岡本監督は「全て白紙で現時点では横一線」と明言する通り、若手もベテランも皆にチャンスが平等に与えられている。

各スポーツ紙の近鉄担当記者が岡本監督ら首脳陣への取材により得た情報による現時点でのABCランク評価は
【A】鈴木康・石本・佐々木・小野・小山・村田の6名、【B】谷宏・久保・住友・依田・柳田・吉井・高橋・藤原・山岡の9名、【C】谷崎・山村・山口・加藤哲・山崎・南・桧山の8名 となっている。しかし、これはあくまでも目安であり村田、小野、小山、佐々木の先発4本柱も首脳陣から絶対的な信頼を得ているとは言えず、ほんの少しの躓きでB・Cランクに転落してしまう。「ワシも長いこと野球をやっとるが…」と苦笑いで前置きしながら岡本監督はこう続けた。「軸になる投手が一人もおらんというのが初めてなら、これだけ多くの一軍候補者がいるというのも初めて」と。

しかし今では不安よりも自信の方が日増しに膨らんでいる。その理由は日向での秋季キャンプだ。「ヒューズ臨時コーチの存在が大きかった。マスコミの皆さんはチェンジアップやムービングファストボールに注目しとるが、我々にとって一番大きかったのは意識改革。若手投手に投げる楽しさと闘争心を呼び起こしてくれたよ(岡本監督)」と若手投手陣の底上げに確かな手応えを感じている。正直言って来季も今季同様に細かな継投を余儀なくされるだろうが、無い袖は振れない。これだけの顔ぶれしかいないのだ。否が応でも彼らの中から投げる人間を選ばなければならない。しかし昔から " 家貧しうして孝子出づ " と言うではないか。今年の石本投手のような救世主が彗星の如く現れるかもしれない。
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# 600 新戦力 / 大洋・中日・ヤクルト

2019年09月11日 | 1985 年 



木田の加入、斉藤の転向で先発グループはかなり充実。抑えは石川だ !
こと投手陣だけを比べたら最下位ヤクルトに鼻で笑われるような実情だ。今季二桁勝利したのは遠藤投手ひとり。いくら遠藤が日本一の投手だと近藤監督が言おうが遠藤ひとりではチームを優勝させるなど無理な話。そこで球団が打った手が今ドラフトで1位指名の中山投手(高知商)をはじめ6人全ての選手が投手という荒療治。また今季絶不調に終わった金沢投手とプロ入りして3年が経過しても芽が出ない大畑投手に見切りをつけ、日ハムと交換トレードを行ない木田投手と高橋正投手を獲得した。「チームを強くするにはある程度の思い切りは必要。血の入れ替えで根本から手直しをしないと。目先に拘る余裕は今のウチにはない」と近藤監督は言い切った。

先ずは木田。左の先発としての期待が大きい。確かにここ数年はかつての輝きには程遠くすっかり低迷しているが、日ハムの大沢元監督(現育成強化部長)によれば「環境が変わればアイツはまだまだやれる。簡単にくたばるような投手じゃねぇよ」と太鼓判を押す。投手を見る目に長けている近藤監督もその点では同じ意見だ。だからこそ今季は低迷したとはいえ一昨年まで2年連続二桁勝利をした金沢投手を放出してまで木田を獲得したのだ。また近藤監督は密かにロッテの石川賢投手の獲得を画策している。石川は昨季15勝したが今季は2勝と低迷。原因は右肩の故障で完治しておらず来季も登板は難しいと言われているが近藤監督は田代選手を見返りに石川を獲る覚悟でいる。

先発転向を希望している斉藤明投手も加えると来季の先発ローテーションは格段に厚くなる。更に高卒ルーキーの中山に関して近藤監督は「早ければ6月に出て来る」と考えている。中山と久保投手を中継ぎに、石川を抑えに使えればかなり勝ち星が計算できる。それもこれも石川を獲得できればの話なのだが。守備面では3位で指名した大川投手(銚子高)を外野手として1年目から使う腹づもりだ。「大川は100m を11秒で走る足を持っている。彼をライトで使えば右中間は抜けませんよ(近藤監督)」と。ここまでの話が近藤監督の思惑通り全て上手くいったら今年の阪神のような奇跡が起きても不思議ではない。笑うことなかれ。思えば昨年の今頃、誰が阪神の優勝を想像していたか…。



来シーズン「サード・中尾」が登場すれば中日は手強いゾ !
来季の中日にアッと驚く三塁手が誕生するかもしれない。ただしそれには条件がある。今ドラフトで3位指名した内田強捕手(日立製作所)、もしくは阪急から移籍して来た有賀佳弘外野手が捕手としての起用に目途が立てばの話である。「来春のキャンプが待ち遠しいよ」これが現在の中日首脳陣の話題の中心である。退団したモッカ選手の後釜に誰が三塁の定位置を手にするのか。それは藤王選手か、伏兵の古谷選手か。いずれにしても現状は決まっていない。ポスト・モッカは中日の最重要課題なのだ。山内監督は以前から中尾捕手を三塁で起用したい考えを持っていたが、中尾をコンバートすると頼りになる捕手が大石選手ひとりになってしまい二の足を踏んでいた。

そこで球団は手を打った。ひとつはドラフトで社会人屈指の捕手と定評の内田選手を3位で指名し、もうひとつが元捕手だった有賀選手を阪急から獲得した。有賀については肘を故障し外野手に転向したのだが「調査した結果、回復したと判断したので獲った。阪急では1年目から捕手として出場し注目していた。怪我さえ治れば充分戦力になる」と田村スカウト部長。元々投手陣は小松投手を筆頭に粒ぞろいで他球団に引けを取らない。課題は野手。一塁手は谷沢選手、左翼手は川又選手、右翼手はゲーリー選手と3選手は定位置を確保しているが他は未確定。特に三塁手は決め手を欠いていた。内田なり有賀が大石の控え捕手として計算できれば中尾を三塁手として起用でき、数年来の課題は一気に解消する。

「これはチームの問題だから僕の口からは何も言えない。ただ何処を守りたいか、と聞かれればサードですよ」と球団の㊙作戦に渦中の中尾は控え目に答えた。「中尾が捕手じゃなかったら3割・30本塁打・30盗塁だって夢じゃない。彼はセンスの塊みたいな男だよ」と山内監督。来季へ巻き返しを図る山内監督としては投手力に関しては不安はなく、もっぱら打線の強化が不安材料。特に飛躍を期待した藤王が守りの不安が得意の打撃にまで影響を及ぼし今季は結果を残せなかった。西武へ移籍した田尾選手の後釜に右翼を守らせたが元々内野手でとてもプロのレベルとは言えなかった。中尾の三塁コンバートが実現しなければ藤王を再び内野手に戻すしか手はない。



マジで優勝の予感がしてきたぞ ! コラッ ! 笑っちゃイカン !!
今年のドラフト会議は大成功だった。1位指名が社会人ナンバーワン投手の伊東昭光投手(本田技研)。弱体投手陣立て直しにこれ以上ない即戦力投手。更に2位には全日本の四番・荒井幸雄選手(日本石油)の指名に成功した。これらに新外人の加入も決まり、土橋監督は最下位脱出どころか優勝も視野に入れた??伊東に関して多くの評論家が来季の新人王候補で最低でも5勝、二桁勝利も可能と評価している。「開幕一軍?いやいや開幕からローテーションに入ってもらわなければ困る」と片岡チーフスカウト。来季の先発ローテーションは尾花・梶間・高野・荒木は既に決定し、これに伊東が加わると盤石になる。

「伊東は高校時代から荒木と投げ合ってた実力派。荒木と同等以上にやってくれる筈」と土橋監督もベタ褒めだ。先発陣は伊東の加入で大きく若返る。更に4位指名の矢野和哉投手もワンポイント起用で一軍に近く、弱体投手陣返上に確かな手応えを感じている。野手に関しても同様だ。2位指名の荒井は昨年の全日本の四番を務めた超大物。身長170cm と小柄だがパンチ力は抜群で早くも " 若松二世 " の呼び声が高い。本家の若松選手に衰えが見え始めており荒井にかかる期待は増すばかり。また打線には新外人のブロハード選手が加わる。一番打者の若松から角・ブロハード・杉浦・広沢・八重樫・新外人(未定)・水谷と続く来季のツバメ打線。

「とにかくウチには走れる選手が少ないからパンチ力のあるブロハードを三番に入れて得点をアップするしかないんだ。あとはチャンスに右の代打陣(渡辺・小川・杉村ら)と左の代打陣(岩下・秦・玄岡ら)や池山・荒井の奮起を期待している」と土橋監督。今季は投手陣が踏ん張れず大量失点で大敗を喫した。「バースやクロマティのような選手が一人でもいればガラッとチームの雰囲気は変わる(土橋監督)」と過去の助っ人外人の失敗も大きい。マニエル選手やヒルトン選手以降はハズレが多かった。ハーロー、ダントン、スミス、ビーンなど枚挙にいとまがない。来季は伊東や荒井の加入で期待は大。最下位脱出どころかAクラス、いやいや優勝争いだって。誰ですか、そこで大笑いしているのは!
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# 599 新戦力 / 阪神・広島・巨人

2019年09月04日 | 1985 年 



清原が獲れず全てがパー。しかし柏原獲得に目途がつき右の代打問題が解決
昭和53年のドラフト会議では江川投手、翌54年は岡田選手の交渉権を獲得するなど強運を誇った阪神だが、今年は運に見放された。「清原君を獲れていたら… " たら " の話は禁物だがバース・掛布・岡田に清原が加わったら甲子園も沸いただろうね」と残念がるのは並木打撃コーチ。清原を外し、代わりの1位指名は熊本・八代高の遠山投手。「即戦力ではないが彼は3年くらいでウチのエースになれる逸材。中央では無名だけど文句なしに高校ナンバーワン左腕」と九州地区担当の渡辺スカウトは力説する。大型左腕獲得にしてやったりではあるが、来季セ・リーグの勢力分布図を塗り変える程の戦力加入ではない。

現状の戦力のままでも来季の首位争いは可能であろう。だが相変わらず投手陣は盤石とは言えず、打線にオンブに抱っこ状態は解消されていない。打線は阪神が誇るクリーンアップを中心に健在だが唯一の懸念材料が右の代打である。川藤選手は衰えが顕著で事実上戦力として計算に入っておらず、渡真利選手や和田選手ではまだまだ力不足。清原を獲得しベテランの佐野選手に代わり左翼手で使いながら育て、佐野を代打の切り札にするのが理想だったがクジを外して叶わなかった。「長崎選手みたいな選手が何処かにいないか?」と昨年トレードで獲得し活躍した長崎に味をしめて二匹目のドジョウを探しているのがトレードの仕掛け人でもある西山編成部長だ。

西山部長はシーズン中から極秘裏に動いていた。第1案が山村選手(南海)の獲得。南海は現在、香川選手を捕手から三塁手に転向させて野手としてドカベンの打棒を生かすコンバートを計画中で、トレードの見返りに捕手を要求してきた。白羽の矢が立ったのは山川捕手。しかし「山川を放出したら捕手が足らなくなる。ドラフトで吉田選手(5位指名・三菱重工)を獲得したがまだ海のものとも山のものとも分からず実力は未知数。山川は出せない」と土井ヘッドコーチの反対で御破算に。そこで第2案は柏原選手(日ハム)の獲得。当初は日ハム側は交換トレードを要求してきたが阪神は難色を示し破談しかけたが結局、日ハム側が折れて金銭トレードが成立した。ドラフトの完敗からちょっと盛り返した感じの阪神だ。



即戦力は長冨ひとり。若手間の競争が益々熾烈になってくるゾ !!
今オフの広島は「外人は獲りません、トレードもしません」とくれば残る戦力強化はドラフトのみ。ドラフト会議で5人の選手を指名した。阿南新監督は「3位まで無抽選で獲れた。100%のドラフトだった」と胸を張る。1位・長冨浩志投手、2位・高信二内野手、3位・河田雄裕外野手、4位・谷下和人投手、5位・足立亘投手。なかでも長冨投手は苑田スカウトが持参したスピードガンで球速を測定すると時速153km とアマ球界で最高の数字を叩きだした。一部にはヤクルトに入団した伊東投手(ホンダ技研)と比べると制球面で粗さが目立つとの声があるが、そうした外野の声を蹴散らしてしまう程の球威と伸びシロが魅力の剛腕投手である。

長冨を1位に指名すると広島の若手投手陣から「なんで投手を1位指名に?ウチは投手が豊富なのに俺たちは信頼されてないのか」と嘆きの声が上がった。確かに広島投手陣は粒が揃っていて他球団からは垂涎の眼差しで見られている。ただ今季は山根投手が怪我で戦線離脱し、津田投手も年間を通して安定していなかった。彼ら右の本格派2人が本調子でないと来季に不安が残る。古葉監督が勇退し阿南新監督の下で心機一転、V奪回を目指すには投手は幾らいても構わない。「制球や配球は練習すれば上達する。でも球速は鍛えても増さない天性のもの(苑田スカウト)」。それを受けて首脳陣も「球威があるので(長冨を)抑えで使ってみたい」と大変な惚れ込みようだ。

2位以下はいずれも高校生で将来を睨んでの指名だが、目につくのが皆が左打ちという点。谷下は左腕投手なので当たり前としても他の3人は右投げ左打ち。2位指名の高は九州では広く名前を知られた遊撃手で宮川スカウトによると「篠塚(巨人)に似たタイプで左右に打ち分ける。頭の方もクレバーでショートを守っているが二塁を守らせたら今のウチなら直ぐに使える」らしい。3位指名の河田は今年のセンバツ大会で準優勝した帝京の一番打者で通算31本塁打とパワーも兼ね備えている。またベース一周が13秒8と俊足の持ち主で「ウチの一軍選手と比べても彼の方が速い」と木庭スカウト部長もゾッコン。広島には伸び盛りの若手選手が多いが高と河田に関しては意外と早く出て来るとの評価だ。



弱体投手陣活性化に欠かせない桑田・広田の存在。有田・福王の加入で控えも充実
強引とも言える桑田投手のドラフト指名、5年越しで実った近鉄・有田選手の獲得。3年目のカド番を迎える王巨人は着々とチーム再建を行なっている。世間の非難を承知の上で決行した桑田の強行指名をはじめドラフト上位4人を投手が占めた。中でも1位・2位の桑田、広田投手は共に即戦力として評価している。今季は槙原投手と角投手が怪我で戦線離脱し来季の活躍に「?」マークが灯っている。加えて抑え役として期待した金城投手が1セーブも挙げられずに退団、更に近鉄とのトレード話の不手際で今季47試合に登板した定岡投手まで退団してしまった。星勘定どころか投手の頭数にさえ事欠く有様に新任の皆川投手コーチも頭を悩ましている。現状は新人の桑田や広田に頼らざるを得ないのだ。

「全て白紙。自主トレ・キャンプ・オープン戦を見た上で判断する」と皆川コーチは横一線を強調する。今季のチーム防御率はリーグ1位の3.96 だが、ここ一番の勝負所で弱さを露呈した投手陣。江川・西本・斉藤・カムストックの先発陣。加藤・鹿取・宮本の抑え役、岡本・中島らの中継ぎ陣に新人の桑田や広田が食い込めれば他球団にも引けを取らないバラエティに富む投手陣を組むことが出来る。その意味でも新人2人が今季の王巨人の浮沈の鍵を握る。正力オーナーが「狂喜・歓喜・乱舞」と最大級の形容詞で成功を自画自賛した今ドラフトで世間を敵に回しながらも強行指名した甲斐もあるということだ。

一方の野手陣は長年の課題だった捕手の補強に近鉄から有田選手を獲得した。定岡投手の退団という想定外の事態も起きたが有田の加入は表面的な効果以上のものがある。今季は山倉選手が101試合にマスクを被った。カムストック投手が登板する時は山本幸選手が起用されたがまだまだ一人前とは言えず山倉の負担は依然として大きかった。山倉に肉体的・精神的休養を与える意味でも有田の加入は大きい。また福王選手(明治大)の加入は石渡選手の引退で手薄となった内野陣の穴埋めには最適。また東京六大学時代に首位打者になった打撃は駒田選手ひとりになる左打ちの代打陣の強い味方になる。内野陣には川相や岡崎、外野陣には石井や仁村など有望な若手もおり来季の巨人は楽しみだ。
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# 598 眉唾妄想話

2019年08月28日 | 1985 年 



桑田事件の後は落合事件勃発が必至。ドラフト会議の終了はストーブリーグ開始のゴングである。各球団はドラフト指名選手の獲得と併行して本格的トレード交渉に突入した。

読売全社あげて " 落合盗り " に
「桑田獲得に動いているのは代表クラスのトップだけ。国内トレードは岩本渉外担当補佐や江藤二軍ディレクターらが密かに動いている(巨人担当記者)」だが実は彼らが動くのは小物相手のトレードだ。大物相手は球団レベルを越えて讀賣グループ全体で動く。目下のターゲットは落合選手(ロッテ)だ。「落合獲得は讀賣の総意みたいなものです。王監督の『四番を任せられる選手を獲ってくれ』の希望を叶えるのは落合しかいない」と巨人担当の記者は言う。しかし、落合といえばロッテ、いや球界を代表する強打者でロッテの重光オーナーも「絶対に出さない」と明言しており、いかに巨人と雖もおいそれと獲得は出来ない。この難攻不落の強打者をどうやって獲る気なのか?

先ず第一は魅力的な交換相手を用意すること。噂では中畑選手プラス西本投手・江川投手・斉藤投手以外の投手1人。または西本プラス中畑・原選手・山倉選手・松本選手以外の野手1人の2対1の交換トレードを画策しているとされている。巨人としても中畑と西本の2人を出すのは無理と考えているがロッテが要求した場合は放出やむなしとの意見がフロント陣の一部にはある。「ひょっとしたらロッテは中畑を軸に投手1人+野手1人の1対3の交換を要求してくる可能性もある」とはロッテ担当記者。一方では「西本は讀賣グループ上層部のお気に入りだから出さない」とする声もあり情報は錯そうしている。巨人は系列の報知新聞紙上で中畑放出の是非を問うた所、OK派が上回った。

だが交換要員を揃えてもロッテ側がトレードを受け入れるかは疑問だ。落合を放出することはチームを解体するのと同じではないかという批判が出るのは必至。ロッテには世間の風当たりを防ぐ大義名分が必要なのである。この点についてある事情通は「落合は今度の契約更改交渉で年俸八千万円、タイトル料五千万円の計一億三千万円を要求するらしいが、球団がこの要求を拒否して交渉が決裂すれば落合放出もやむなしと世間も納得するだろう」と語る。また一部報道では讀賣グループが韓国政界に働きかけて韓国内でロッテ本社をバックアップするなど政財界あげて巨人の落合獲りに力を貸す動きもあるようだ。


西武が密かに狙いをつける真弓
更に巨人はバース選手(阪神)対策用に永射投手(西武)獲得に向けて西武に打診をしたという情報もある。その西武だが、阪神に奪われた日本一奪回の為にトレードを積極的に行なう腹づもりのようでトレード要員を半ば公表している。主な選手は大田・片平・永射・高橋・立花ら。更に「松沼弟や蓬莱の名前も挙がっている(西武担当記者)」そうだ。これらの選手で誰を狙っているのか?「先ずは大砲。次いで人気。ドラフトで清原を指名したが来年いきなり活躍するのは無理だろう。そこで大島(中日)、門田(南海)のベテラン勢やロッテも狙っている田代(大洋)が大砲候補。人気面では真弓(阪神)、中畑や篠塚の巨人勢も候補(西武担当記者)」らしい。いずれ劣らぬビッグネームばかりだが西武の本命は真弓だそうだ。

元々真弓は西武の前身のクラウンライターライオンズに所属していた。阪神に移籍後もライオンズファンの中での人気は衰えていない。しかし今や阪神でも1・2の人気を誇る真弓だけに獲得するには前述の選手クラスでは無理で松沼兄弟のどちらかか、東尾投手クラスの出血を覚悟しなければならない。清原の入団でチームの若返りは更にスピードアップするであろう。その意味でもベテラン選手にとっては落ち着かないオフになりそうだ。ベテランといえば定岡元投手のトレード拒否で宙に浮いた形となった有田選手(近鉄)に関しては巨人入りは消えたという説がある。近鉄には選手をお詫びとして1人無償でトレードする事で御破算にしてもらい、新たに大宮選手(日ハム)を狙うそうだ。

他にもドラフトで清原を外し、更に広瀬選手(本田技研)も日ハムに獲られた中日は内野手を狙っている。「水上選手(ロッテ)や大石選手(近鉄)がターゲット。トレード成立の為には大島選手は勿論、都投手や場合によっては谷沢選手の放出も辞さない覚悟」と話す中日担当記者。仮に谷沢放出となれば第二の田尾騒動になりかねないが新たに球団社長に就任した中山氏は球団内部では常識外の事をする人、と評される人だけに目が離せない。中日新聞本社内部では今回のドラフト会議に関して「大失敗」との声が多いだけにドラフトの失敗をトレードで取り返すのではと考えられている。過去に多くのトレードを成立させてきた阪急と既に交渉を始めているという情報が流れている。


阪神 - 近鉄で電撃複数トレード !?
日本一になった阪神も決して無風状態ではない。「吉田監督が監督就任前に世話になったフジテレビ系列『プロ野球ニュース』の解説者を通じて複数の球団幹部と接触している。表面では大幅なチーム改変は行わないと言っているが、あの人はかつて江夏投手さえ切った人だけに日々新しいものを求めてチームに刺激を与える考え方は変わっていない。何か大きなトレードを画策していても不思議ではない」と在阪テレビ局関係者は語る。今季、大洋から池内投手との交換で獲得した長崎選手は大活躍した。二匹目のドジョウ狙いでベテランの大田や片平(共に西武)あたりに目をつけている。ただしトレードには交換選手が付き物で " 切られる選手 " は誰なのかとチーム内では不穏な空気が漂い始めている。

日ハムは古屋選手を放出要員として投手を狙っている。「内野手が足りない中日あたりと交渉している形跡がある。曽田投手や後藤投手が欲しいが中日が出すかどうか。堂上投手だと古屋と釣り合わない(日ハム担当記者)」。また木田投手も交換要員として他球団の人気は高い。1年目の22勝から徐々に成績は下降し今季は僅か2勝に終わったが環境が変わればまだまだ戦力になると考える球団は多い。落合の去就が注目されるロッテはドラフト1位で指名した石田投手(川越工)の交渉に手こずっている。仮に入団拒否となったら投手の補強が急務となる。その場合は巷間伝えられる落合の交換相手は中畑ではなく西本プラス加藤投手の可能性も出てくる。

残る広島、ヤクルト、近鉄、南海のうち広島に関してはあまり動かないであろうと言われている。何故なら阿南新監督はあくまでも山本浩選手が引退後、次期監督に就任するまでの繋ぎであってチームの根幹はいじらないと決めている。チーム編成を大きく変えるのは " 山本浩新監督 " 誕生までお預けだ。近鉄はロッテ同様にドラフト1位指名の桧山投手(東筑)の獲得交渉が暗礁に乗り上げている。補強はトレード頼りだ。「同じ関西地区同士の阪神と3対3くらいのトレードを画策している動きがある(近鉄担当記者)」らしい。南海の杉浦新監督は巨人から申し込まれた山内孝投手のトレードは断ったが巨人とのルートは繋がったままで急転直下のトレード成立も有りうる。
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# 597 いきのイイやつ

2019年08月21日 | 1985 年 



ワタクシ鈴木葉留彦は評論家1年生として右往左往し何が何だか分からないうちにシーズンが過ぎました。34歳の筆者としては歳の近いベテラン選手より若手選手と触れ合う方が若返る?気がします。そこで若手にスポットを当てて彼らの代弁者となりたいと思います。先ずは古巣・西武の選手から・・

小田真也(西武):左の横手投げという希少性を生かしたい
小田にとって今季は画期的なシーズンだった。阪神と日本一をかけた日本シリーズの出場登録メンバーに選ばれた。残念ながら試合には出場しなかったが現場の雰囲気を肌で感じられただけでも有意義であったろう。オリンピックではないが日本シリーズは参加することに意義があるのだから。その貴重な経験を来季に生かして欲しいと筆者は願う。それには先ず模索中の横手投げを完成させ自分のモノにしなければならない。シーズン開幕当初は未だ上手投げだった。だがしっくりこない。本人もだが周りの首脳陣も手応えを感じられずにいた。5月に入った頃、遊び半分で腕を下げて投げてみたところ見事にはまった。体の軸もブレず体重移動もスムーズになり制球力も格段に良くなった。

「横から投げた方がしっくりきました。永射さんを参考にした?いいえ自分で考えたフォームです(小田)」と永射投手を真似したと言われるのが不服のようで、投手特有の自尊心の高さ故の発言だ。投手という職業はこれくらい自我が強くないと務まらない。秋季練習の課題は一にも二にもフォーム固めだ。「今は昼・夜、関係ないっス。昼の合同練習後は夜食を摂ったら夜間練習でシャドーピッチングをみっちりやっています(小田)」と。私生活ではまだ新婚さんだが早く愛妻のもとへ帰りたい気持ちをグッと抑えて練習に取り組んでいる。

球界では左腕投手は貴重だが、それに横手投げという変則投法を加味すると更に希少価値が増す。先ずは左打者は絶対に抑えるという印象を首脳陣に植え付けることが大事。「日本シリーズでベンチ入りしてみて1球の重みを実感しました。工藤がバースに打たれた場面を目の当たりにして改めて1球で局面が変わってしまう怖さが分かりました。ただあの1球が悪いというのではなく、そこに行き着くまでの過程が大事。僕も来年こそああいった場面で起用される投手になりたいと思います。厳しい場面で抑えて初めて認められるんですから1球1球必死に投げたい(小田)」と決意を語る。" 第二の永射 " 誕生も近い。



仁村 徹(中日): " あっち向いてホイ " バッティングの魅力
私のように高校時代からプロ生活を終えるまで同じポジション(一塁)しかやってこなかった人間は他のポジションだったら違う野球人生を送っていたのでは、と時々考えてしまう。だから今回取り上げる仁村選手は実に羨ましく思えるのだ。高校・大学と投手をやり、その実力を認められてプロ入りして勝ち星も手にした。にもかかわらず投手から野手に転向するスリリングな野球人生を送っている。私からすれば何とも羨ましい限りだが本人はそんな呑気な気分ではないらしい。「初勝利もしたし投手に未練はありましたよ。簡単に野手転向なんて出来ませんよ。第一、野手の練習は本当に厳しい。それとチームプレーが大変。自分の事だけ考えてる投手とは大違いです。時間が幾らあっても足りない(仁村)」と語る。

東洋大学時代は " 東都のエース " とまで呼ばれた男。「仁村投手」にはその投手としてのプライドを捨てること以上に投手として過ごした4年間のブランクが今になって堪えるという。大学出の選手は3年がひとつの目途と言われている。来季がプロ3年目となる仁村に残された時間は余り無い。仁村は私と同じ埼玉育ち。東日本で育った人間が西日本で生活すると初めのうちは違和感がある。いわゆる " 水が合わない " というやつだ。私が太平洋クラブに入団して九州博多に行った時も食事が口に合わず体調を崩し、盲腸をこじらせて腹膜炎になるなど散々だった。その点では仁村は「大丈夫です。身体だけは自信があります。ダメなのは野球の技術だけ」と苦笑い。

食事など私生活は高校の同級生だった加代子夫人のサポートもあって万全のようだ。それはともかく1年間ファームでみっちり鍛えたお蔭もあり「守備だけなら宇野さんに負けない自信がある(仁村)」とキッパリ言い切った。しかし打撃に関しては残念ながら守備のように上達度が練習量に比例してアップしてくれないのが一般的なのだが、仁村は余人が真似できない天性のモノを持っている。それが " あっち向いてホイ " 打法だ。簡単に言うと体勢と打球方向が全く違うがヒットになる妙なバッティング。早大時代の松本選手(現巨人)がそうだった。ただしこれは球を捉える能力に問題はなく、少し矯正すれば大丈夫。三塁・仁村が一軍で見られる日は案外と近いかも。



岸川勝也(南海):ポスト門田に名乗りを上げた肝っ玉男!
若手がそれなりに育ってきた南海。次なる課題はポスト門田。南海の大砲不在の悩みは年々深刻化している。それを端緒に表したのが岸川選手の四番DH先発起用であろう。いくら門田が故障で欠場しているとはいえ、高卒2年目の岸川には荷が重すぎる。南海の大砲願望はここまで肥大化しているのだ。しかし岸川にしてみたらこれは千載一遇のチャンスで利用しない手はない。中モズでの秋季練習をする岸川に四番抜擢の感想を聞いてみた。「突然の起用?そうっスねぇ、僕は特に緊張とかしないタイプなんで当たって砕けろ精神で平気でした(岸川)」と来たもんだ。この若者は恐るべし強心臓の持ち主のようだ。

チームメイトによると「バッティングも豪快だけどそれ以上に肝っ玉が座っていて多少の事には動じない。先輩から注意されようが怒られようがカエルの面に小便ですよ」らしい。私は益々気に入ってしまった。今季は一軍で33回打席に立って安打は僅かに2本だけだったが、そのうち1本はホームラン。まさに当たって砕けろとばかり思い切りの良いスイングを披露した。「僕はちょっと変なんですよね。若いくせに変化球が得意で逆に直球に遅れ気味。バットのヘッドが体の内側に入り過ぎて一瞬遅れてしまう。今はスイングの矯正中です(岸川)」と話す。

33打席で5三振というのは長距離砲としては少ない方で、それだけ本人が言うように変化球に対応できている証拠であろう。打撃は磨けば光るモノを持っているのだから問題はやはり守り。20歳の若さで守る所がなく指名打者で試合に出るしかないようではいささか情けない。「今は一塁と三塁両方の守備練習をしています。ただ昨年に肩を痛めた影響で満足な送球ができませんでしたが今は段々良くなってきました。とにかく守りの特訓をして何処を守っても大丈夫なようにしたいです。代打じゃ4打席回ってきませんから」と本人も守りの重要さは心得ている。佐賀の実家近くには九州では有名な裕徳稲荷があり岸川も毎年お参りしている。来年の願掛けは全試合出場しかあるまい。
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# 596 契約更改 ➍

2019年08月14日 | 1985 年 



判を押せる最低線で岡田納得
掛布が納得型とするなら真弓は要求型。となると岡田はあっさり型だろうか。2200万円アップの4500万円で更改。「交渉の席でお金の話は5分くらいだった(岡田)」だそうで実にあっさりしている。社長室にいたのも30分くらいで交渉と言うには余りにも淡泊。「自分なりに最低ラインの金額を決めていた。提示額がその額を上回っていたのでサインしました(岡田)」と。掛布のように選手として " 格 " を求めるなら5000万円は欲しい所だが岡田は「まぁ来年には届くんじゃないですかね」と興味はないようだ。シーズン終盤までバースと首位打者争いを演じる働きぶりは賞賛に値する。「ここ2年間は足踏みしてたから。そうじゃなかったら今頃は5000万円は超えてたろうね(岡田)」と振り返る。

最近は右太腿の故障に悩まされ満足いくシーズンを送れず契約更改では苦い思いしかなかった。しかも選手会長としてチーム全体の事を考えて球団側と交渉しなければならず自分の事は後回しだった。「選手会長として球団と色々な話をしましたよ。自分の事だけでカリカリするのはもう嫌ですからね(岡田)」となるべくなら年俸の話はしたくないようだった。結局、ビッグ3は揃って大満足な契約更改ではなかったようだが3人が更改すれば他の選手も保留しづらく、越年は佐野選手と工藤投手の2人だけ。阪神一筋の生え抜きで共に真面目人間。佐野が現状維持の3200万円、工藤は100万円ダウンの1750万円を保留した。今回の波乱なき契約更改はビッグ3の性格を読んだ球団側の作戦勝ちだった。


川藤の逆転残留に阪神らしさ
金銭闘争である以上、球団側も全ての選手の言いなりという訳にはいかない。相対的に見て今回は球団側の勝利と言えるだろう。しかし多くの選手がアップしたのも事実で例として1000万円プレーヤーを挙げると、中西・平田・木戸・吉竹・北村・伊藤・中田・長崎・真弓・池田・福間・山本・永尾・岡田・野村・弘田・掛布(佐野・工藤は未更改)と19人で、これは12球団トップで南海球団の倍の人数となる超豪華球団だ。これにバースやゲイルを加えるとベンチ入り25人中、21人が1000万円プレーヤーというリッチぶり。今でこそ一流プレーヤーの証は3000万円と言われているが、庶民からすればやはり羨ましい限り。野球で日本一となった阪神は給料の面でも日本一球団になった。

もう一つ、いかにも阪神らしい更改があった。川藤選手である。吉田監督以下、コーチ陣の戦力検討では川藤については来季の戦力として入らないとの結論で吉田監督直々に川藤本人に伝えられた。36歳、代打一筋に生きてきたが今季は31打席で僅か5安打。首脳陣の結論を待つまでもなく周囲は今季限りで引退と考え、在阪のマスコミ各社は引退後の評論家としてのオファーをする準備を整えていた。日本一というこれ以上ない花道。いかにも浪花の春団治に相応しい引き際の筈だった。ところが涙の引退劇を取材するべく球団事務所に集まった報道陣を前に川藤は「サインしました。来年も頑張ります」と堂々の現役続行宣言。記者達は吉本新喜劇ばりにドテッとズッコケた。

当然、岡崎球団社長から引退を通告されたが「命をかけてやります!」の一言で川藤のクビはつながった。年俸は300万円ダウンの900万円で更改。今季は5安打だったのでヒット1本につき180万円也で、なんと球界一の " 高給取り " となったのだ。まさに阪神ならではの話である。監督が戦力外と判断しフロントも解雇を通告するも「命を…」で覆ってしまうとは大阪商法というか、これが巨人や西武だったら絶対に有り得ない話である。世間の注目を集めた今回の契約更改は笑いと涙と最後に驚きと何でも有りの成功裏に終わった。とにかく阪神は12球団一のリッチぶりを全国に示した。選手も球団も満足し、しかも西武の契約更改で垣間見られた冷酷さは微塵もない。「来年も優勝や!」選手達は心から思ったに違いない。
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# 595 契約更改 ➌

2019年08月07日 | 1985 年 



スタート時は大荒れが予想された日本一・タイガースの契約更改劇だったが意外や意外、僅か2人の保留者を残すのみ(12月13日現在)でスンナリと幕を下ろした。球団に " 実弾 " が豊富だったこともあるが選手別に緻密な作戦を練り上げそれを遂行。次々に選手を納得させていった球団の手際の良さが目立った更改だった。名物のお家騒動を期待する向きには肩透かしだったが・・

" 4時間の日本一 " でも十分満足
テレビカメラがなんと8台。比較的ゆとりを持って作られた球団事務所も身動き出来ない程の混雑。12月13日、ハワイへの優勝旅行を翌日に控えて大トリとなる掛布選手の契約更改交渉が行われた。ミスタータイガース、不動の四番打者として全試合・全イニングに出場し大阪だけでなく全国にトラフィーバーを巻き起こした阪神の優勝に多大なる貢献をした掛布の契約更改に日本中が注目していた。「判を押しました」・・掛布が事務所奥の社長室に消えてから1時間後のことだった。会見場にはどこかホッとした空気が流れた。だが席に着いた掛布の表情は晴れやかなものとは違っていた。どこか子供が拗ねたようにも見えたが、実はこうした表情こそ掛布らしい最大限の喜びの表情であることはトラ番記者達は分かっていた。

本塁打を放ちベースを一周する時もまるで何事もなかったかのように淡々と走る。見逃し三振した後も悔しそうな表情はせず、一部のファンに「三振してヘラヘラするな」と誤解されたこともあった。「なんだか照れくさいんだよね。気持ちを表情で表すのが。プロとして恥ずかしいというか…(掛布)」だからあの時のむっつり顔は実は会心の笑顔だったのだ。だが会見が進むうちにハッキリと喜びを語り始めた。「浩二さん(広島・山本浩二選手)を超えました。大台?そこまでは届いてません。来年頑張れば届くかな(笑)。あとどのくらい?まぁそれは…」今季の6100万円から2700万円アップの8800万円で更改した。

実は球団とは事前に何度か話し合いをしていた。これは阪神に限らずどこの球団でもトップクラスの選手とは事前協議を行っている。掛布はその話し合いで提示額は8500万円くらいとの感触を得ていて、その額なら保留も考えていた。だが実際には予想を上回る8800万円だったので判を押した。「自分で言うのもおかしいがこれくらいの金額になると税金も多くなり手取りはそんなに変わらない。むしろ査定額じゃなくて査定ポイント、つまり球団の僕に対する評価の方が意味が大きくなるんだ。今年は阪神の四番じゃなくて日本一のチームの四番。いわば球界の四番打者に対する評価を知りたかった(掛布)」と。

この時点では山本浩選手(広島)の8500万円を抜いて日本一の高給プレーヤーに登りつめた。ところが数時間後に東尾投手(西武)が9100万円で更改し抜かれてしまった。「4時間?まぁ仕方ないよ。僕は判を押した時点で日本一だった事に満足しているよ」と笑顔を見せた。打率.300・40本塁打・108打点の結果に相応しい金額を球団が提示し本人も納得している。「これで気持ち良く来年もプレー出来る。提示額に納得できたかどうかが次の年に気分良く野球に専念できるか、のキーなんだ。これで来年は目標の年俸1億円にチャレンジできる。今回は大きなジャンプの一歩手前。それもちょっと飛べば届く所まで来た。2年連続日本一と1億円目指して頑張るよ」


真弓は六千万円を狙ったが…
大フィーバーの末に21年ぶりの優勝、そして日本一。フィーバーが一段落すると世間の注目は阪神が幾ら出すのか?それに関心が集まった。選手が優勝の対価を求める中で保留者は佐野選手と工藤投手の2人だけ。球団として今回の査定は大成功だったと言える。「スポーツ紙には大盤振る舞いと書かれているけどそれは違う。ウチは仕事をした選手にはきちんと評価している。それだけの事」とひとまず大役を終えた岡崎球団社長は余裕たっぷりに答えた。一連のフィーバーと並行して球団も儲かった。俗に阪神商法と揶揄されるほど儲かった。入場料収入は言うに及ばずトラマークを使ったキャラクターグッズも売れに売れてウハウハ状態だった。

ケチ球団などと言われたのは遠い昔の話。「お金はどんどん貰うべきでっせ、プロなんですから。優勝したんやし選手は胸を張って要求したらよろしいとちゃいますか」とシーズン終了直後から吉田監督は何度も口にしていた。それが選手達への強力な後押しになったのは言うまでもない。吉田監督の口癖でもあるプロ球団としての " 土台作り " は球団フロントにまで及んだ。その結果が今回の波乱なき契約更改交渉に表れている。ちなみにハワイ旅行の後に行われる自身の契約については「球団が提示した額でサインしまっせ」と親しい知人には漏らしている。阪神にはビッグ3と呼ばれる男たちがいる。掛布、真弓、岡田。掛布以外の2人も一発でサインした。

先ず真弓・・1800万円アップの5700万円を提示されたが「希望額?そうだねぇ、もうちょっと上だった。お互い歩み寄った感じかな。得点に関しての評価が低いと思いました。打点じゃなくて得点ね」と渋々サインした。突っ張ろうと思えばもう少し粘れただろう。今季は二塁手から右翼手へコンバートされ負担も増え、「プロ13年間で最高(真弓)」と自負する成績を残したのだから。また真弓がこだわった108得点は今季セ・リーグ最高だ。本塁打や打点のようなタイトルには設定されていないが、一番打者として誇れる数字なのだ。「クリーンアップがいくら打とうが僕らが塁にいなければ点は入らない。本塁打を放とうがソロ。僕らクリーンアップ以外の選手の働きも認めて欲しいね(真弓)」と語る。
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# 594 契約更改 ➋

2019年07月31日 | 1985 年 



阪神の査定システムは完璧に近い
史上最強のクリーンアップと恐れられた阪神ビッグ3(バース・掛布・岡田)は〆て3億円。3人以外の真弓選手も25%アップを最低限に5千万円台の攻防を繰り広げそうだ。また平田選手・木戸選手・中西投手ら若手選手も大幅アップを虎視眈々と待ち構えていて、あちらこちらで火の手が上がりそうだ。ここでキーとなるのが阪神球団の査定方法である。球団は200項目を越える査定ポイントを5年以上前から採用しており、球界に古くからあるドンブリ勘定とは無縁だ。今では更なる改良を加えて球界トップクラスの査定方法だと自負している。査定ポイントは全て同じではなく、歴代監督が掲げる野球スタイルによって項目毎にポイントが変わるシステムになっている。

例えば無死二塁の場面で従来は右方向への凡打でも走者を三塁へ進められればポイントが加点されたが、吉田政権では右方向へ打つよりも強い打球を打つ事を奨励しているので右打ちばかりに気を取られて強い打球を打てず凡退した場合は減点となる。逆に強振して三ゴロや遊ゴロで走者を進められなくても減点とはならない。このあたりが攻めて攻めて点を取る野球を目指した吉田イズムの象徴と言える。「契約更改は現場の人間は関知しません。ただ現場としては毎日行ってきたスタッフ会議の中で球団の査定ポイントについて確認してきました。更改交渉で球団が選手に提示する内容は我々現場の意見と相違ないと思ってもらって構わない。それくらい査定には自信があります」と吉田監督。

もしも選手と球団の折り合いがつかない場合があったら現場の最高責任者として吉田監督が調停役として出て来る可能性もゼロではない。どこの球団にもよくあるパターンだが、シーズン中に働け、働けと尻を叩いておきながらシーズンが終わった途端に知らん顔をすると監督と選手の信頼関係にヒビが入るのはプロ野球の世界だけに限らない。信頼関係の崩壊は来季以降の吉田阪神にも影響が及びかねないだけに、ある意味では吉田監督の言動はシーズン中以上に慎重で一貫したものを求められる。例えばシーズン中にこんな場面があった。福間投手が中継ぎで登板しあと1イニング投げればセーブポイントが付くシーンで吉田監督は中西投手にスイッチした。

中西のセーブ稼ぎが明らかだったのだが面白くないのは福間だ。ピッチングコーチから事前に福間に対して中西への交代は告げられていた。選手が監督の采配に口出しは出来ない。そんなことをしたら首脳陣批判としてペナルティを課せられてしまう。福間は文句ひとつせずマウンドを降りた。この時に吉田監督は福間に「セーブと同等の査定をする」と言ったが実際にどれくらい年俸に反映されるかは不透明。福間はこれまでも過去に幾度も同じような目に遭っている。「考慮している」という球団側に対して「では金額は幾らなのか?」との疑問に球団は明確に回答せず、最後には選手が諦めて判を押してしまうのがこれまでの阪神だった。その悪しき習慣を吉田阪神は変えられるのか注目だ。


吉田監督の " 介入 " がポイントに?

今季は吉田監督の「チーム一丸で」を合言葉に戦ってきた阪神。しかしオフになれば選手はそれぞれが個人事業主で各自が自分の技術を球団に買ってもらう訳で全くの個人プレーとなる。ましてやグラウンドを離れ家に帰れば妻子を抱える一家の主としての責任があるだけに、チーム一丸のフォアザチームより先立つお金の方が大事になる。契約更改交渉はプロ野球選手として生活していく為に一年で一番大切な行事だけに監督は第三者と言いきれない。時には球団に対して良く働いた選手には見合った年俸を出すように助言するのも大事な仕事となる。ましてや日本一になった吉田監督の発言力は俄然影響力を増しており、大荒れの更改交渉となれば吉田監督の出馬がポイントとなりそうだ。

そこで気になるのが阪神球団の懐具合だ。商売上手の小津球団社長が就任してからは営業的には充分に採算がとれていた。観客動員数が200万人を超えてから毎年のように増え続け、キャラクター商品の売り上げもウナギ昇り。あくまでも概算だが入場料だけで30億円、キャラクター商品の売り上げが100億円とも200億円ともいわれており球団には使用料として売り上げの5%分の5億円~10億円が転がり込んだ。この他にもテレビ・ラジオの放映権料も相当な額を得ている。一説には株式会社阪神タイガースとしての売り上げは70~80億円に及ぶと言われている。阪神球団は選手・フロントを含めて約150人の企業だからいかに優良企業であるか分かる。例え選手の人件費が10億円を超えても大した事ではないのだ。


攻め手も守り手も勝手を知らない
11月5日付で中埜前社長の後任に昇格した岡崎球団社長(代表兼務)も選手達の勢いを肌で感じたのかドンと受けて立つ構えで「とにかく21年ぶりに優勝したんだからそれなりの事はするつもりでいる。日本シリーズは別物という考え方もあることは承知しているが、我々としては日本一になった功績としてシリーズの6試合も査定に含めたいと思っている。ただ全てを年俸に反映させるとは限らない。ボーナスや一時金という形になるかもしれない。とにかく選手とはとことん話し合い納得してサインしてもらうつもりだ」と語る岡崎社長。ただし日本シリーズまで査定に含めると資料を整理する時間が足りない。

限られた時間で選手全員が納得してサインするのは難しく越年組が続出することも考えられ、岡崎社長にとってはいきなり " 銭闘 " の矢面に立たされることになる。選手は秋季キャンプ、ハワイへの優勝旅行、オフのテレビ番組出演など今後の日程はギッシリ詰まっており、球団との交渉にさける時間は思っているほど余裕はない。なにしろ勝ち慣れていない球団だけに攻める選手も守る球団も手探り状態。果たして選手達の強気な要求が通るのか、はたまた球団が時間切れのドローに持ち込むのか注目だ。大荒れの契約更改を期待しているのはペナント奪回に向けてスタートしたセ・リーグの5球団かもしれない。「阪神が来年も優勝できるかどうかは契約更改の出来にかかっている」と某阪神OB。
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# 593 契約更改 ➊

2019年07月24日 | 1985 年 



他人の懐具合が気になるのは人間の性みたいなものである。ましてや日本一に輝いた天下の阪神のV戦士の懐となれば・・なにしろ今年の契約更改はプロ野球史上空前の10億円更改となる筈なのだ。これが気にせずにいられまっか?名うての渋ちん球団とV戦士達との熾烈な戦い、こりゃペナントレースよりおもろいデ!(金額は全て推定)


バースは1億7千万円要求!
これまでの阪神は人気球団にもかかわらず優勝をしていない事を理由に選手の年俸を抑えてきた。選手達にとって一番痛い所を突かれて渋々降参してきた歴史が繰り返されてきた。それだけに今年は誰もが強気で、これまでの鬱憤を一気に晴らそうと手ぐすね引いて待ち構えている。目玉は何と言ってもバース選手。セ・リーグでは初となる外人選手として三冠王獲得だけでなく、勝利打点や最高出塁率のタイトルを含めると堂々の五冠王だ。「今年の働きには満足している。球団もそれにきちんと応えてくれると確信している(バース)」と一歩も引かない気でいる。ただしバースの契約内容については諸説ある。すでに昨年の更改で複数年契約を結んでいるとか代理人のミサヤンド氏がなかなかのやり手で数多くの付帯契約を要求するとか情報が乱れ飛んでいる。

バースの年俸は9千6百万円。仮に複数年契約を結んでいたら来季も同額。そうでないなら56%アップの1億5千万円が最低ラインで、プラスボーナスで総額1億7千万は譲れないと代理人のミヤサンド氏は公言する。バース本人は「俺はグラウンドで力を出し切ることだけに集中してきた。お金のことは代理人に任せてある」とミサヤンド氏に全幅の信頼を寄せている。細かな契約内容についてバースは多くを語らないが親しい日本の友人には「来年は間違いなく阪神でプレーする。でも再来年は大リーグに再挑戦したいんだ」と漏らしており、ビジネスライクに割り切るバースが阪神に対して相当なサラリーを要求してくるのは間違いない。


掛布・岡田の " 陣取り合戦 " の決意
バースの年俸が仮に1億5千万円とするとその額は他の選手の総年俸に対して15%を占める。バースひとりで人件費の1割強を持っていかれる訳だから球団としても穏やかではない。実はバースの年俸を巡って過去にひと騒動あった。掛布選手が昨年の契約更改交渉に三度も球団事務所を訪れたが、交渉の中身は自身の年俸ではなくバースの年俸に対する球団側の考えを問い質すものだった。掛布の言い分はこうである。「バースがどうのこうのではない。日本球界は外人選手に甘いのではないか、外人の言いなりになっている現状に納得がいかない。バースだって我々日本人選手と同じく優勝経験がないのにガッポリ大金を得るのはおかしい。同じチームで差があるのは虚しい」と言うのだ。

結局、昨年はフロント幹部の「外人の年俸には我々も頭を痛めているんだ。分かってくれ・・」との泣きに折れ掛布は渋々サインした。だが納得した訳ではない。つまり今年の交渉でも同様の話し合いは不可避である。仮にバースが思惑通りの契約を交わしたら掛布も今度は黙って引き下がらないだろう。掛布の年俸は6千1百万円。掛布は過去に本塁打王や打点王になっても年俸を抑えられてきた代表選手だ。そんな掛布にとって今年は千載一遇のチャンス。日頃から日本人選手の年俸は安過ぎると訴えてきただけに優勝した今年は例年以上に粘る筈だ。「今年は自分の為だけでなく、球界全体の事を考えて交渉したい。簡単にはサインしませんよ(掛布)」と早々と球団に対して宣戦布告。

バース、掛布ときたらもう一人忘れてならないのが岡田選手。岡田の年俸は2千1百30万円と意外と安い。毎年期待されながら右足の故障の影響で思うような成績を残せず年俸はここ2年間据え置き状態だった。岡田はプロ入り以来、毎年一発更改で済ませてきた。ことお金に関してはクリーンなイメージだが今年は少し様子が違うようだ。「今年は本当に楽しみにしているよ。プロに入って最高の成績を残したし強気に言える。ただ球団も湯水のようにお金を吐き出すとは思えないから、良い意味で各選手の陣取り合戦になるんじゃないですかね」と腕ぶす。岡田の目標は最低でも100%アップの4千5百万円。つい数年前までは1千万円が一流の証だったが今は5千万円。岡田の本音は5千万円突破を狙っている。
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# 592 三冠王

2019年07月17日 | 1985 年 



11月20日のプロ野球表彰式で並び立つ落合選手とバース選手。2リーグ分裂以降35年を数えるプロ野球の歴史の中で、両リーグで同じ年に三冠王が誕生したのは初めてのことである。両者の凄さを今更語るまでもなかろう。ここでは視点を変えて2人の使用するバットに迫る。使用したバットは共に青ダモ。バースのバットは重さ1kg 。グリップ部分は直径23.8 mm と極端に細く、逆にヘッド部分は64mm と太い。つまりはヘッドに重心を集めた典型的な長距離打者用のバットだ。怪力バースならではのバットで重心が片寄っている分、ジャストミートしなければ折れやすく年間使用本数も7~8ダースにも及んだ。

一方の落合が使うバットは比較的オーソドックスなスタイルで重さは930 ~ 940g 。グリップエンド部分は太いがグリップそのものは細めでバランスが良いバット。ミート力が確かな落合の年間使用本数は3~4ダースとバースに比べて少ない。同じ三冠王とはいえ2人の打撃は異なる。バースは外人選手にありがちな力に頼るだけでなく左右に打ち分ける上手さを兼ね備えている。落合は好調のバロメーターが右方向への打球。右中間に本塁打が打てる時は絶好調で引っ張りよりも右方向への打球の方が伸びる特徴がある。2人のバットを製造しているのはバット作り歴26年の久保田五十一氏。美津濃養老工場に勤務するベテランでミリ単位の注文にも応える現代の名工である。

日本では打ちまくったバースだが大リーグでは僅か9本塁打。1972年にプロ入りして1980年までの9シーズンはマイナー暮らしだったが四度の本塁打王になっている。特に1980年のデンバー(3A)では123試合で37本塁打・143打点で二冠に輝き、打率も3割3分3厘で3位。その時の打率1位だった同僚のレインズ選手は大リーグ・エクスポズに昇格して今季はナ・リーグ打率3位の好打者。そのレインズと競っての成績だけに価値がある。この活躍でバースはマイナーリーグ全体のMVPに選ばれた。デンバーはエクスポズのマイナーチームだがレインズが昇格したのと対照的にバースはパドレスにトレードされ、9月9日の対SF・ジャイアンツ戦に四番・一塁手で先発出場した。

1回裏、一塁に走者を置いてリプリー投手から400フィートの本塁打を放つなどこの試合は4打数2安打・3打点とチームの勝利に貢献した。同14日のA・ブレーブス戦でソロ本塁打、21日の同じくブレーブス戦ではナックルボールを駆使するニークロ投手からソロ本塁打を放つなどシーズン終盤の数少ない出番ながら結果を残した。翌1981年からパドレスの監督にF・ハワードが就任した。ハワードは大リーグ通算16年で382本塁打した長距離砲で、昭和49年には太平洋クラブライオンズに入団したあのハワードだ。4月12日、対ジャイアンツ戦の3回表にグリフィン投手から満塁本塁打を放つ。24日の対ドジャース戦でウェルチ投手からソロを放つなど順調な滑り出しだったがその後にスランプに陥り1ヶ月余りスタメンから外れた。

6月に入り、徐々に打棒が上昇し始めると6月4日の対アストロズ戦でようやくスタメンに復帰。すると3打数3安打4打点、うち1安打が本塁打と活躍した。その時の投手はニークロ投手。前年のブレーブス戦で本塁打したフィル・ニークロ投手の実弟で兄と同じナックルボーラーのジョー・ニークロ投手だった。9日の対パイレーツ戦ではローデン投手から2ランを放つ。この年は4本塁打で通算7本塁打。1982年5月13日の対エクスポズ戦で通算8本目を放つが4日後の17日にパドレスからア・リーグのTX・レンジャースに移籍した。5月31日の対オリオールズ戦に四番・DHで出場すると大リーグ最後となる通算9本目となる本塁打を放った。

伝えられる所によると阪神球団とバースの代理人との間で来季の契約更改交渉を極秘裏に進めていたがバースが希望する2億円には届いていないようだ。それを知ってか知らずか定かではないが、バースは大阪に本社があるサンスター社と男性用化粧品のCM契約を結んだ。半年間で契約金は600万円。巨人勢の江川や原の年間2~3000万円と比べると格安だが、これでも昨年の三冠王・ブーマー選手(阪急)の200万円より高い。CM料で届かない年俸分を補う算段なのか?また開幕前に堂々と三冠王獲得宣言をして、それを見事に果たした落合もバース同様お忙が氏。これまた公約通り信子夫人を世間にお披露目した。阪神勢の高給更改には馬耳東風でいよいよ1億円更改が年末に迫って来ている。

もしも信子夫人がいなかったら落合の二度目の三冠王は実現しなかったかもしれない。野球に興味がない信子夫人は落合が「俺は三冠王になったことがあるんだぞ」と威張るので何回?と聞くと一度と答えたので「だったらもう一回獲ってみなさいよ」とけしかけた。それが負けず嫌いの落合の闘争心に火を点けた。「俺を褒めてくれないのは女房くらい。やってやろうじゃないかとカチンときたね」と落合。信子夫人はただハッパをかけるだけではなく内助の功も発揮した。食生活で好き嫌いの多い落合は野菜は殆ど口にしない。「あなたが野菜を食べないなら私も食べない」と言って信子夫人も片寄った食事をすようになった。これにはさすがの落合も陥落した。

「俺が食べないと女房も食べない。体に悪いよと言っても頑として食べない。仕方がないから食べるようになったよ(落合)」と信子夫人の作戦勝ち。そのお蔭もあって今季は体調も良く全試合に出場できた。シーズン終盤に持病の腰痛に見舞われたた時、車で病院に通院する際に少しでも落合を楽にしてあげようと運転する落合の腰の部分に手を当てていた。一方で叱咤激励も忘れない。腰痛の影響で打撃に陰りが見え始めると「何事も締めくくりが大切。フンドシが緩いままなら私が締め上げてあげるわよ」と喝を入れた。そのお蔭なのか落合は4試合連続本塁打で有終の美でシーズンを終えた。今や外で酒を呑むことも減り、必ずカエルコールをして早々と帰宅する落合。視線は既に来季の連続三冠王に向いている。
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