Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 646 週間リポート ①

2020年07月29日 | 1976 年 



阪急ブレーブス:果たして " レフト・長池 " は?
「四番・レフト・長池」と4日の日ハム戦(後楽園)で場内放送アナウンスされた。DH専門の長池選手が守備に就くということは当然、DH制のない日本シリーズを想定してのリハーサルだ。「外野はウイリアムス(右)、福本(中)、大熊(左)で万全だが、攻撃面を重視すると長池の打棒に託す場面がきっとある。その場合に備えて長池に守備の練習もさせておかないと」と上田監督。相手は巨人か阪神か今は未だ分からないが、仮に巨人なら舞台となる後楽園球場に慣れさすには絶好の日ハム戦。「後楽園の人工芝もシーズン当初よりもだいぶ摩耗している。球の切れ具合も変わってきたし改めて検証する必要がある」と久々の後楽園球場での試合に上田監督は注意を払う。

肝心の長池はというと、やはりモタついた。4回裏、ウイリアムス選手が放ったレフト線への打球のクッションボール処理を誤った。記録上は三塁打だが、実際は二塁打に失策が重なり三塁進塁を許してしまった。「やっぱりカンが鈍っているんやな。練習せな皆に迷惑をかけてしまう」と長池は反省しきり。首脳陣の不安が的中しただけに長池本人は意気消沈したが、上田監督は「悪い所がハッキリして良かった。今から修正すれば日本シリーズには十分間に合う」と安堵の表情を見せた。もし長池をベンチに置くとすれば四番打者抜きで戦わなくてはならず、日本シリーズまでに守備の不安を解消しなければならない。

その日本シリーズに向けて今もっとも忙しいのが八田スコアラーだ。ペナントレース中は先乗りスコアラーとしてパ・リーグの5球団の情報収集に全力を注ぐ八田スコアラーの次なる仕事はセ・リーグ覇者の分析だ。9月30日、西京極球場で後期優勝を果たし上田監督が宙に舞った前後から活動を開始し、今日は後楽園球場、明日は甲子園球場と八面六臂の忙しさで巨人と阪神の戦力分析に余念がない。「八っちゃんの情報は正確無比。リーグでもナンバーワンの分析力」と上田監督も全幅の信頼を寄せている。「2年連続日本一達成の為に役に立てれば嬉しい(八田)」と今日も走り回っている。


南海ホークス:過去の実績が何になるんや
8月24日、西宮球場での対阪急6回戦で野村選手は足立投手から左前安打を放ち通算5000塁打を記録した。昭和31年にプロ初安打を打って以来、21年間という歳月をかけて築き上げた金字塔なのだが野村本人は「これも栄光というのかな…」と今一つ素直に喜べないように見えた。「プロ野球に栄光など存在しない。過去の実績が何になる(野村)」と記録達成に興奮や感激は皆無なのだ。最近の野村は記録に無関心になっている。これまでのプロ生活で記録した数々の栄光にもさして執着心を感じさせないのだ。

以前は違った。積み重ねられていく数字に自らの尻を叩かれ、目標達成のために意欲を燃やしたものだった。その結果として三冠王、600本塁打などの大記録を達成して、その都度新たな感激を味わってきた。「なるほどプロ野球選手にとって実績は財産みたいなものや。しかしその実績が何になるんや、過去の記録は単なる数字に過ぎないのではないか(野村)」と。そんな野村の気持ちに追い打ちをかけたのがモントリオール五輪から帰国し、引退を表明した水泳の田口選手を追いかけたテレビ番組だった。過去三度の五輪出場で金メダルも取った田口だけにその引退声明はさぞかし感激的なものかと思われたが「水泳をやめる虚しさだけが残った(田口)」と意外なものだった。

五輪といえば世界最高峰のスポーツの祭典である。そこで金メダルでも取ろうものなら日本中の英雄である。だが野村には引退した田口には英雄どころか社会人として第一歩から出直す苦しさしか感じられなかったという。「世界を相手に金メダルを取っても選手を引退した後の生活に何の影響もない。ましてやたかが日本国内のプロ野球記録に誰が注目するのか。一時の栄光でメシは喰えん。単なる自己満足だけで終わってしまうのではないか(野村)」とテレビ番組を見た野村は田口の姿に自分を置き換えて侘しさに襲われたという。こうした例は一般社会でも見受けられることだが、確かに日本のスポーツ界では過去の実績・栄光に支えられることは少ない。

ところが海の向こうの野球の本場である大リーグでは本塁打記録を塗り替えたハンク・アーロン氏は将来を保証されていると聞いている。また五輪でも諸外国、特に社会主義圏では金メダル1つで社会的地位が国家により保証されている。それぞれの国によってスポーツに対する理解の差があるとはいえ、選手の意欲を左右することは確かである。翻って日本のプロ野球界にはアメリカほどの歴史はなく、功労者への保証は手厚くないがこんなことで失望せずにノムさんにはこれからも頑張ってもらいたいものである。


ロッテオリオンズ:毒蝮!ワシの球を打ってみい
日本球界で前人未到の400勝をマークしたカネやんが「プロの投手の球でも打ってみせる!」と豪語するタレントや歌手などの有名人と対決するテレビ番組があった。これはTBSテレビが企画した『みんなで金田正一に挑戦』で、収録が去る25日に川崎球場で行われた。主審には「私がルールブックだ」でお馴染みの二出川延明氏が13年ぶりに務め、捕手はカネやんが国鉄時代にバッテリーを組んだ根来コーチで、カネやんにとって現役時代を彷彿させる布陣を敷いた。

対する有名人も錚々たる野球狂がズラリ。一番・山田太郎、二番・黒沢久雄、三番・勝呂誉、四番・毒蝮三太夫、五番・水島新司、六番・本郷直樹、七番・サンダー杉山、八番・青空球児好児、九番・野村真樹。そして解説者には水原茂と豪華メンバーが顔を揃えた。これらの挑戦者の中でカネやんが「ちょっと油断のならぬ相手だぞ」とマークしたのは熱狂的な巨人ファンの毒蝮三太夫と漫画家の水島新司の四番・五番コンビ。なにしろ毒蝮は高輪商時代は強打の三塁手として鳴らし甲子園を目指していた。その夢は予選で早実に敗れて達成できなかったが実力は折り紙付き。いざ勝負!・・結果は空振り三振でカネやんに軍配が上がった。

「あいつに打たれたら1年中、テレビ・ラジオで全国放送されるから絶対に抑えてやると気合が入った。三振が取れて良かった」と息つく暇もなく続く水島新司と対戦した。南海ファンの水島は草野球を今でも年間40試合以上するとあってカネやん自慢のカーブを見事に中前にクリーンヒット。これにはカネやんも「ワシのカーブをちゃんとミートできるとはたいしたもんや」と脱帽。南海球団からプレゼントされたホークスのユニフォーム姿で現れた水島は「これで格好がつきましたわ」とご機嫌だった。

一方のカネやんは元気いっぱいで口の方も負けていない。内角低目ギリギリの球をボールと判定されると二出川氏に噛みついた。「おいアンパイア、あれがボールに見えるようじゃ目が悪くなったんとちゃうか」と毒つくカネやんに二出川氏は「ピッチャーは余分な口をきくもんじゃないです。黙々と一所懸命に投げてこそ名投手ですよ」とまたもや鮮やかな名文句でカネやんをヒラリとかわした。これには解説の水原氏も「カネやんの負けや」と大笑い。このユーモラスな対決でカネやんは被安打3に抑え、とりあえずはプロの面目を守った。現役を引退して7年、43歳のカネやんは「ワンポイントならまだまだ現役で通用するでぇ」と終始ご満悦だった。
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# 645 悲運の名将

2020年07月22日 | 1976 年 



近鉄のニックネームは猛牛だ。かつて千葉茂監督の登場で千葉の異名がつけられたのだが、西本監督の鍛えっぷりも猛牛のような凄さで有名だった。高校野球のようにゲンコツを振り上げる西本監督に選手は痺れたものだが、そのゲンコツが最近みられなくなったという…

石垣に爪を立てても這い上がりたい
「いやぁぜんぜん変わっていませんよ。いつゲンコツが飛んでくるかヒヤヒヤしてます」「そう言われればゴツンと叩かれる回数は減ったかな」と近鉄ナインの意見は分かれる。8月27日の対太平洋戦、近鉄は4回までリードしていたが太田投手が5回に二度の暴投などで失点して3対5で敗れた。後期に入り対太平洋戦は6連勝していただけにこの敗戦は痛かった。太田は「すみませんでした」と小声で言ったきりベンチの片隅で小さくなっていた。この試合には太田の他に水谷、柳田、鈴木、福井と虫干しをするかのように矢継ぎ早に登板させた西本監督は相変わらず口をへの字にしていたものの、長い顎を撫でているだけで押し黙っていた。

「去年までとは明らかに違う。今年は終始落ち着いていて感情を表に出さなくなった。現在の戦力なら仕方ないと達観しての無表情か、ヤル気が失せているから無表情なのかは分からないがやはり近鉄が浮上するには西本監督の檄が必要」というのが近鉄担当記者の見方だ。今シーズンの前期は浮上できなかったが後期に入ると引き分けを挟んで5連勝と上々のスタートを切ったが長続きせずBクラスに転落したままだ。「要するにチーム全体の実力不足が原因。その一つに西本監督が情熱を失いかけているのが影響しているのではないか」と前述の担当記者は言う。「石垣に爪を立てて這い上がる」と西本監督は言うが選手たちの反応は今一つ鈍い。


育てる野球より勝つ野球が優先だ
それにしても西本監督の打線編成は苦労の連続だ。一番から五番まで左打者を並べて途中で左腕投手が出てくると右打者にガラリと変えるツープラトン打線だが、それが上手く機能していない。その代表が期待の若手・島本選手だ。キャンプからオープン戦にかけて珍しく西本監督が島本を褒めた。「コウヘイ(島本)ほど熱心な選手はいない。皆の手本になる選手だ。たとえ打てなくても起用し続ける」と熱弁をふるったが最近では代打にすら使われていない。これに対してマスコミだけでなく球団フロント陣からも島本を使えという声が沸き起こってくると「素人は黙っておれ(西本監督)」とご立腹の様子。

「育てる野球も大事だが一番肝心なのは勝つ野球じゃ。それを優先させてなぜ悪い」と苦虫を嚙み潰したような表情の西本監督。昨シーズン後期に優勝したとはいえ、近鉄は長い間Bクラスに低迷し負け癖が染み付いてしまい、勝つことよりも選手が明るく卑屈にならないよう球団フロント陣は雰囲気作りに苦労してきただけに西本監督が求める勝つ野球に追いついていないのが現状である。優勝経験豊富な西本監督にしてみればこうした周囲の気遣いがまどろっこしくて仕方ないのだ。監督が勝つ野球を目指しているのに選手やフロント陣がついてこないのが歯がゆくてならない。加えて助っ人のジョーンズ選手の扱いについても西本監督は気に入らないのだ。

近鉄は外人選手について妙に神経質なところがある。それというのも昭和47年から翌年にかけて近鉄は外人選手で大失敗している。ハンキンス、クオルス、コギンスなど今では名前すら忘れられている選手を大枚はたいて獲得したが大外れとなり、当時の球団代表のクビが飛んだことがあった。次が南海から移籍して来たジョーンズで昨シーズンは29本塁打を放ち残留は濃厚と思われたが球団との年俸交渉は決裂し球団はジョーンズを解雇してしまった。「あんな真面目で俺のアドバイスを忠実に守る外人はいない」と西本監督がお気に入りのジョーンズだったが、球団としては過去の外人選手を巡る失敗がトラウマとなりあっさり手放したのだ。

西本監督はジョーンズの解雇に反対だったが球団フロント幹部の謝罪と新たな助っ人を獲得する約束に納得した。だが新外人獲得は難航した。これはと思う選手は年俸が折り合わず、ジョーンズ以上の選手を見つけられなかった。困り果てた球団はなんとジョーンズと再契約を結んだのだ。これには「新外人のアテもないままジョーンズを解雇したのか。チーム作りすら分かっていない」と西本監督は呆れた。そのジョーンズは「俺が頑張れるのはボスのお蔭」と大きな身体を折り曲げて西本監督に最敬礼。外人選手の本塁打記録を塗り替えて本塁打王もほぼ確実という活躍を見せただけにフロント陣は形無しだ。


勝負はツキが果てたら終わりやで
昨年の後期優勝の勢いで今年も…という考えは甘すぎる。「そんなフロント陣と選手の考えの甘さに西本監督はウンザリしているんだよ」という球団OB評論家の意見が今の近鉄の現状を最も端的に表している。フロント陣はともかく、選手らがなぜ西本監督の指導で伸びないのか?「それはね広島カープにも当てはまるように優勝して選手の給料が予想以上にアップしたせい。ダウンしたのは板東投手と橘投手くらいで、監督が選手はまだまだ一人前じゃないといくら叫んでみても選手は「俺は世間から認められた」と考えたくなるのが人情。監督が浮かれる選手を見て苦々しく思い、サジを投げてしまうのも仕方ない(球団OB評論家)」と。

現在12球団の監督の中で最高齢56歳の西本監督を失望させる材料がいっぱいなのだ。「3年契約が切れる今シーズンで西本監督は辞めるだろう。佐伯オーナーとの間で『3年の契約中に優勝する』の約束は一応去年の後期優勝で果たした。過去に11年間在籍し五度の優勝を果たし、強く慰留された阪急でさえあっさりと辞めた。西本監督の心底にあるのは、唯一の趣味で大好きな麻雀の世界で使われる『勝負はツキが果てたら終わり』の言葉。恐らく今シーズンで勇退すると思う」と担当記者。勇退の弁まで推察するとは恐れ入るが、西本監督の去就について球団関係者に確認してみたところ「半々かな」と全面否定しなかったことから、あながち間違った意見ではなさそうだ。

もしもそんな事態に陥ってしまったら近鉄の今後はどうなるのか。阪急を辞めた時は上田現監督という後継者がいたが、近鉄にはいるのか?「杉浦投手コーチが適任者ではないか。西本監督と同じ立教大学出身で大学で同期の長嶋も巨人で監督を務めており、経歴・実績ともに申し分ない。仮に長嶋相手に監督として日本シリーズで対決するとなったら日本中の話題となることは間違いない。多少ヤジ馬的な考えだが、本堂二軍監督や関口コーチではネームバリューで劣る(担当記者)」といささか先走ってしまったが近鉄は佐伯オーナーの鶴の一声で全てが決まる球団だけに予測はハッキリ言って難しい。

3年契約の最後の年になって急に怒らなくなった西本監督と底が割れてきたチームの戦力、それに加えて近鉄球団首脳の動きを三題噺風に結びつけると、やはり不穏と言うか想像以上の結末が待っているのではないかという結論になる。ただし残り試合数も少なくなってきたが、ここから近鉄が猛然と連勝街道を突っ走り首位に躍り出て優勝してしまえば事態が急変する可能性もゼロではない。なのでここしばらくの近鉄の戦いぶりと西本監督の言動を注意深く観察する必要があり、軽々に断を下すわけにもいかないがとにかく近鉄が微妙な現状にあることだけは確かなようだ。
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# 644 黒人差別 ?

2020年07月15日 | 1976 年 



一連の差別問題の余波で過去にMVPを受賞した複数のメジャーリーグの元スター選手たちが、MVPのトロフィーからケネソー・マウンテン・ランディス(初代コミッショナー)の名前を削除するよう求めていることが明らかになった。同氏がコミッショナーを務めた1920年~1944年に黒人選手がメジャーの舞台でプレーすることはなく、差別主義者であるというのが理由であるが、過去にも黒人選手を巡って騒動が起きたことがあった。


今シーズンの首位打者争いは両リーグとも熾烈を極めたが、現在のアメリカン・リーグでは今回のタイトルを巡って大問題が起きている。その発端となったのはリーグ戦最終日の10月3日、ロイヤルズスタジアムで行われたKC・ロイヤルズ対M・ツインズの試合。この試合まで毛差の打率争いをしていたのがロイヤルズで同僚のジョージ・ブレッド選手とハル・マクレー選手だったのだが、ツインズのスティーブ・ブリエ外野手が見せた " らしからぬ " 凡ミスを犯した。ロイヤルズは2対5とリードを許した9回裏・二死の場面でブレッド選手が放ったレフトへの打球は平凡な飛球で試合終了と誰もが思った。ところがブリエ選手が目測を誤ったのか打球は目前にポトリと落ちた。

この安打でブレッド選手の打率はマクレー選手を抜いて首位打者に躍り出た。続いて打席に入ったマクレー選手が安打すれば再び首位に返り咲いたのだが結果は遊ゴロで試合終了し、首位打者のタイトルも逃した。ブレッド選手の打率は3割3分3厘3毛、対するマクレー選手は3割3分2厘6毛で僅か7毛差で涙を飲んだ。問題が起きたのは試合終了後。マクレー選手が三塁側ダッグアウトに乗り込みツインズのモーク監督に対して何やら激しく喚き始めたのである。マクレー選手は「モーク監督がブリエ選手に指示してブレッド選手の打球を捕球させなかった。白人選手に首位打者のタイトルを獲らせる為の陰謀だ」と主張したのだ。

マクレー選手はアメリカンリーグでは屈指の指名打者と称される黒人選手。そのマクレー選手の抗議に対してコミッショナーも調査に乗り出さざるを得なくなり、関係者を集めて意見を聞くこととなった。もしもマクレー選手の主張通りモーク監督が実際にブリエ選手に指示を出していたと認められたらブレッド選手の安打は取り消されて首位打者のタイトルはマクレー選手のものとなる。確かにブレッド選手が放った打球はブリエ選手の守備範囲に飛んでおり、故意に安打にしたという主張も否定は出来ないが真相は藪の中だ。モーク監督とブリエ選手は共に疑惑を否定しており、マクレー選手の主張が認められる可能性は低い。

ところで現時点では生涯初の首位打者のタイトルを獲得したと言っていいジョージ・ブレッド選手はピッツバーグ・パイレーツに所属するケン・ブレッド投手の実弟で右投げ左打ちのアベレージヒッター。早くからその素質を認められており、いずれは大リーグを代表する打者になると言われていた。1971年にロイヤルズにドラフト指名されて入団した生え抜き選手で地元ファンの支持も絶大。プロ入り2年目の1973年のC・ホワイトソックス戦でデビューし、3年目の昨年に打率3割をマークするなど順調に成長してきた。今回のタイトル獲得で一層の飛躍が期待される若きスター候補選手だ。
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# 643 ストーブリーグ ❸

2020年07月08日 | 1976 年 



昨年、セ・リーグは巨人と阪神が中心となりトレード戦線で活発に動いていた。阪神は江夏を放出し巨人は張本を獲得した。今年注目されるのはヤクルトである。ヤクルトはトレードを殆どやらない球団だ。チーム全体をファミリーに例えて結束している。だが血の入れ替えをしないとチーム内での競争意識は減り、向上心も欠けるようになる。広岡監督は監督就任の条件としてトレード解禁の約束を取り付けたと思われる。今年のヤクルトは今までにない思い切ったトレードを敢行する可能性が高い。

巨人:目玉商品は末次
優勝目前の巨人で注目されるのが末次選手。「末次の動向がカギだね。他球団へ行けば充分四番を打てる選手だから欲しい球団は多い」と巨人番記者は話す。巨人としては末次を出す以上は勝ち星を確実に計算できる左腕投手を希望している。だが勝てる左腕はパ・リーグでも少ないだけに候補は限られる。ズバリ狙いは近鉄の鈴木投手。巨人としては長嶋監督 - 西本監督の立教大学ラインを頼りにする腹づもりだがこのトレードが実現する確率は相当低い。

末次以外では高橋・小川両投手。2人とも杉下投手コーチと上手くいっておらず浮いた存在となっている。またジョンソン選手の退団は必至。問題児・ライト投手も新外人次第だが貴重な左腕だけに残留の可能性もある。いずれにせよ過去の中日や広島がそうだったように優勝するとトレードにブレーキがかかるのと、土井や柴田といったV9戦士はプライドが高いだけにトレードは難しく、今年のトレードは活発にならないというのが多くの見方だ。


阪神:一線級放出辞せず
オールスター戦後の凋落ぶりから吉田監督は「こんな調子ではトレードを活発化してチームの体質を変えなければダメだ」と公言しただけに今年の阪神からは目を離せない。特に投手陣に対する吉田監督の不信感は相当なもので、例え一線級でも不平分子はトレードの俎上に載るに違いない。昨年はあの江夏でさえ放出した吉田監督だけに投手陣は戦々恐々状態だ。ようやく主戦クラスに成長した古沢投手、リリーフに回り成功した山本和投手ですら安泰とはいえない。

ただ投手陣にも不平不満の理由はある。他球団の投手に比べて阪神の投手の年俸は安いのだ。山本和の年俸が仮に30%増となっても300万円という安さなのだ。球団は阪神という人気チームにいるお蔭で副収入を多く得られて他球団の投手と遜色ない筈であると言うが、実力を正当に評価してくれという投手たちの主張はもっともな話だ。狙いは日ハムの新美投手、巨人の淡口選手だ。阪神としては兵庫県の三田学園出身の淡口は是非とも欲しい選手で、一線級の放出も考えている。


中日:野手放出、投手移入
とうとう人工芝の後楽園球場で1勝も出来なかった中日。あまりの惨状にチームに同行していた中川球団代表が「これじゃ今年のオフは全員がトレード候補だ」と冗談を飛ばしたが、一部スポーツ紙が『代表がトレードの最後通告』と書いたもんだから選手全員が凍りついた。昨季数々のワースト記録を書き替えた巨人が張本獲得のショック療法で蘇ったのを目の当たりにしたフロント幹部がその気になっても不思議ではない。事実、シーズン中のトレード期限前までに幾つかの球団に接触していた。オフになれば更に積極的に動くであろう。

5月・6月頃に阪急や近鉄に対して火の車状態だった投手陣にトレードでテコ入れを画策したが、シーズン中ということもあり阪急や近鉄が用意した交換要員は主力ではなく一軍半クラスの投手だったので中日にとってプラスにはならないと判断しトレードは成立しなかった。この時の中日は第一線の中堅クラスの放出も止む無しという立場で、それは今も変わっていないので今オフはダブついている野手を交換要員に投手獲得を第一に活発なトレードを持ちかけると思われる。


大洋:ぬるま湯はやめる
Aクラスには全くといっていいほど顔を出さず、中部オーナーならずとも「個々の選手はそれなりに実力を持っているのにどういうことだ」と嘆きたくもなろうものだ。ぬるま湯にドップリと浸かっている選手を放出して新しい血を入れて体質を改善することが急務である。横田球団社長を筆頭とするフロント陣は「反対する意見もあるだろうが現状のままでは来年もBクラスだ。今年こそ思い切ったトレードを敢行してチームの再建を図りたい」と言うが、その台詞は少々聞き飽きた感は拭えない。

昨年のオフに表面化しなかったが横田球団社長と秋山監督が揃って「平松をトレードの交換要員にしてもいいか」と中部オーナーにお伺いを立てていた。 " 腐っても鯛 " の言葉通り平松は入団以来、大洋のプリンスとして今なおチームの顔である。その平松を放出する事とは一大改革を意味する。平松といえば中部オーナーのお気に入りであることを承知の上での陳情だった。実際にトレードは実現しなかったが球団社長や監督がそこまでして何とかチームを立て直したいという姿勢は評価できる。

昨年に続いてトレードに関しては今年も同じ方針のはずである。今のところトレード要員にリストアップされていないのは松原選手、山下大選手、シピン選手、奥江投手らで、あとの選手は条件さえ整えば話し合う余地は残っている。前述の平松も然りである。こうした大洋の動きを察したのかロッテ、日ハムの関係者がネット裏から早くも狙いをつけた選手の動きに目を光らせている。球界内では今年のストーブリーグの主役は大洋であるという意見は多い。


ヤクルト:守りの野球実現へ
「新しい血を注入しなければチームは強くならんでしょう」と佐藤球団社長。勿論、監督就任の条件として広岡監督が求めたトレード解禁を指しての発言だ。トレードに関しては荒川前監督も松園オーナーに直訴していたがチームの一体感を大事にするオーナーに却下されていた。だが3年越しの要請で誕生した広岡政権では球団としてバックアップは約束されている筈。まだシーズン中なので広岡監督は未だ具体的なチーム作りは語ってはいないが「トレードはどんどんやる。球団の理解が得られれば僕の理想は実現する」と明言している。

6月にこんな噂が流れた。日ハムの新美投手とヤクルトの榎本選手のトレード話だ。2人ともチーム内では余剰戦力なのであまり話題にならなかったが、両球団のフロント陣同士の繋がりを表す噂話だった。球団フロント幹部も苦笑しながらも否定しなかったことから単なる噂話の域を出ていたと思われる。今オフの目玉商品は浅野投手とシーズン前から阪急が欲しがっていた益川選手だ。浅野は今季はまだ1勝と不調だが他球団による評価は高い。益川も現在は二軍落ちしているが環境さえ変わればまだまだ戦力になると見ている球団は多い。
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# 642 ストーブリーグ ❷

2020年07月01日 | 1976 年 



トレードは球団最高機密事項。話が固まらないうちに外部に漏れると纏まる話も壊れてしまうのが通例。しかしこの時期はどこからともなくキナ臭い話が漏れ伝わって来る。

ロッテ:木樽、江藤放出
ロッテでとりわけ気になるのは高給取りでありながら成績を上げられなかった選手や、監督・コーチ陣と衝突して睨まれている選手の動向だ。ロッテのゴッドファーザー・カネやんは好き嫌いがハッキリしているだけに一度睨まれたらチーム内での立場は危うくなる。先ず筆頭はミネソタツインズから6万ドル(1800万円)で入団したブリッグス選手。シーズン終了を待たず既に米国に帰国してしまい、球団からの再三の来日命令を無視している。南海や近鉄からのトレード話もあり6万ドルをドブに捨てるくらいなら放出も有り得る。

年俸1200万円の江藤選手もトレード候補。カネやんは江藤を後期からコーチ補佐の肩書を付けようとしたが江藤は拒否。あくまでもバットマンとして働きたい希望があり他球団移籍は必至だ。他の野手では飯塚選手の成長と芦岡選手の遊撃コンバートで宙に浮いた千田選手とラフィーバー選手。投手では木樽投手と松岡投手もトレード要員である。補強ポイントは大砲の指名打者。狙いは太平洋の土井選手、巨人の柳田・淡口選手、大洋の中塚選手だ。淡口を獲得する為なら成田投手の放出も覚悟しているという。カネやんは昨年張本選手の獲得に動いたが交換要員の差で巨人に奪われて失敗。それを反省してレギュラークラス選手の放出も辞さない覚悟でいる。


阪急:狙いは巨人の末次
ベテラン勢の衰え対策が急務なのだが波風を立てたくない恩情主義が今まで大型トレードの実現を阻害してきた。トレードで獲得したのは巨人からの島野投手ただ一人。昨季は日本一になった為に余計にその傾向が強かった。新たな血を注入しない限り今季のように後期になるとスタミナ切れを起こすことは目に見えている。そこで交換要員として名前が挙がっているのが森本選手と大熊選手。森本は昨年にもトレード話があったが成立せず残留し、新人の蓑田選手とのポジション争いに勝ち、試合の勝負所で決定打を放つなど健在ぶりを示せた。

だが森本は34歳、大熊も33歳と選手としての峠は過ぎており今季以上の活躍は望めず交換要員としての魅力に欠ける。代打の切り札として活躍した正垣選手も交換要員の一人だが他球団が欲しがるかは未知数だ。交換要員のバランスが取れない場合はプラス金銭で交渉する構えだが、相手球団がその話に乗ってくる可能性は低い。一方で狙っているのは巨人の末次選手、ロッテの江島選手、広島の水沼選手らだが、いずれもレギュラークラスの選手だけに獲得するには阪急も相当の出血をする覚悟が必要だ。


近鉄:益川、梅田を狙う
昨季は若手選手の成長で後期優勝を果たしたが、相手球団に研究された今季は抑えられ優勝を逃した。したがってかなり陣容の入れ替えが予想される。近鉄が狙うのはヤクルトの益川選手と中日の梅田選手。益川は大阪興国高出身のファイター。梅田は今季太平洋から中日に移籍したばかりだが、実は近鉄も井本投手を交換要員に太平洋と交渉していたが中日に奪われてしまった経緯がある。近鉄にとっては2年越しとなるトレードだ。

他には日ハムの行沢選手を獲得して内野ポジションの総入れ替えを計画している。トレードで獲得するには当然放出する選手がいる。梅田獲得の為に中日の地元中京商出身の加藤投手を用意している。ただ加藤はプロ10年目で新鮮味に欠け、中日が拒否した場合はプロ2年目ドラフト1位指名の福井投手の放出も検討している。野手では昨年の永渕選手(近鉄➡日ハム)に続いてベテラン勢がリストアップされ、小川選手の名前が挙がっている。


南海:中日・新宅を狙う
再び中日とのトレードを模索している。去年は星野秀・藤沢の両サウスポーを獲得。今年は稲葉投手に目をつけている。稲葉は昭和47年には20勝をあげながらその後は精彩を欠いている。野村監督は稲葉の再生に自信を持っていて山内投手(巨人➡南海)のように過去にも投手を再生した例があり、稲葉自身も野村監督率いる南海入りを望んでいるだけにトレード成立の可能性は高い。使える投手が喉から手が出るくらい欲しい野村監督はヤクルトの上水流投手の潜在能力の高さにも注目している。

監督・捕手・四番を兼務する野村監督の負担を減らすことが最近の南海が抱える課題であり、ドラフトやトレードで補強を試みてはいたが、なかなか四番を打てる選手の獲得は難しい。そこで球団は捕手のトレードに狙いを定めて幾つかの球団と交渉してきた。今年は阪神から和田選手を獲得したが思うような活躍は出来なかった。そこで今度は中日の新宅選手やヤクルトの久代選手を狙っているが捕手はどこの球団も人材不足で獲得は困難だ。


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