納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
ニャロメから消えた笑顔
あまりにも遅い2勝目だった。柳田投手は8月12日の南海戦に先発し、被安打3・奪三振10・失点1で見事完投勝ちを収めた。実に5月25日の日ハム戦以来の勝ち星だった。柳田投手は漫画の主人公・ニャロメに似ているひょうきん者だが勝てない間は口数が減り笑顔を見せることも少なくなった。ペナントレースが3分の2を過ぎようとしている時点で僅か1勝しかしていなかったのだ。昨シーズンは鈴木啓・太田幸と共にローテーションの中心を担ってきた柳田投手。それが今シーズンは故障もあり開幕から蚊帳の外だった。「もう俺には先発はめぐって来ない」と愚痴を口にする状態まで追い込まれた。
更なる飛躍を今シーズンにかけていた柳田投手は宿毛キャンプでも人一倍練習したが結果が出ない。意欲と現実が噛み合わず悶々とした日々を送っていたが考えてもいなかった先発を南海戦の前日に告げられた。「この試合で好投できなかったら今シーズンはお終い」と心に決めてマウンドに上がった。案ずるより産むが易しとはこの日の柳田投手のことだった。初回を連続三振でスタートを切ると柏原選手のソロホームランだけに抑えて完投勝利。大喜びかと思いきや柳田投手は「今までチームに迷惑をかけた。これからその分も返さなければ」と笑顔はなかった。西本監督も「柳田の復活は明るい材料」と巻き返しに手応えを感じている様子。
エースの貫禄15勝も喜ばぬ鈴木
パ・リーグのハーラーダービーを独走する鈴木啓投手が13日の日ハム戦にも勝って両リーグ15勝一番乗り。この調子を持続させれば昭和44年に記録した自己最多の24勝を上回りそうな勢いだ。しかしマウンドを降りた鈴木啓投手は「俺もひとがエエわ」と苦笑いした。8回に富田選手に四球を与えて今シーズン八度目となる無四球試合をフイにしたからだ。「15勝は勿論うれしいがチームが上位に行かないと面白くない。下位でウロチョロしてたらつまらん」と不満げ。ハーラートップにいてもチームを思うこの心はやはりエースだけのことはある。
ガソリンタンク
超ベテランの米田投手の最近の口癖は「早く一区切りつけたい」である。通算350勝にあと2勝で今シーズンを迎えたが、なかなか勝てず王手をかけた今シーズン初勝利をあげたのは8月10日の南海戦だった。既に金田正一氏の記録を破る通算945試合登板の新記録を達成してるだけに、一気に350勝もという気持ちが前述の口癖に現れたわけだ。開幕前に痛めた腰も完治し「ナンボでも投げまっせ」と意気込む。350勝を達成したら次は?との質問に「そう簡単に辞めんぞ。新たな目標を見つけて投げ続ける」と39歳にして " ガソリンタンク " の異名はまだまだ捨てそうにない。
謙遜のし過ぎでしょう?
門田選手がニョッキリと首位打者の席へ躍り出て来た。阪急の島谷・加藤秀選手やロッテの有藤・リー選手に対抗して南海でただ一人の3割バッターがその面目を施すように登場したのである。阪急とのダブルヘッダーで大当たりし今季初めて首位打者の座に就いた門田選手。生来の照れ屋さんは嬉しさもあまり表に出せずモジモジ。「いやぁ、直ぐに落ちますよ。僕は首位打者なんてガラじゃないですから」としきりに謙遜して頭を掻くが、その言葉とは裏腹に左方向への打球は力強さを増しヒットの量産体制に入っていることは周知の事実だ。
「タイトルの話はまだまだ先。それよりもチームが勝ってくれる方が嬉しい」とザワつく周囲に困惑するが野村監督は門田選手にタイトルを狙わすようにしている。「チームの為にも本人の為にもタイトルを狙うぐらいの気構えでやってもらいたい。カドが打てばチームの勝利に近づくんだし他の選手もつられてプラスになる」と野村監督はチームと門田選手の将来の為にも全面支援の構えである。昭和46年に打点王を獲得して以来のチャンス到来に周囲は期待している。
スワッ野村御大が送りバント
四番打者が送りバント…天下の野村監督が阪急戦で試みた。場面は無死二塁、その前の打席ではいい当たりの左越えの適時打を放っていた。また再び得点を稼ぎたいところなのに足立投手の初球から送りバントの構えをした。走者を三塁に進めて後続の柏原・ピアース選手でダメ押し点を狙う作戦を立てたようだが、いずれにしても野村監督に犠牲バントは消極的でネット裏では疑問視する声が多かった。案の定、1球目は失敗。続く2球目は捕手への小フライとなりこの奇策は失敗に終わった。
苦笑いしながらベンチに引き揚げてきた野村監督。後続も凡退してしまい得点はならなかった。本来なら送りバントを失敗した野村監督自身は罰金ものである。だが何が幸いするか分からないもので野村監督のプレーが南海ナインを刺激したのか次の回に追加点が入り南海が勝利をものにした。試合後、野村監督はこの件について聞かれるとバツが悪そうに「いやぁ失敗しました。どうしても点が欲しい場面だったのでバントを試みたけどダメやった。申し訳ない」と頭を下げた。
森の石松
ホプキンス選手が判定を不服とし審判に暴行し退場させられペナルティで出場停止処分となった。その為、練習後の " 暇人・ホプキンス " はベンチ裏や食堂をウロウロし、試合に臨むナインを見かけると激励する。河埜選手には「コーノ、アイスコーヒーを奢るから頑張れ」と言ってコーヒーを差し出すと河埜選手は目を白黒させるもコーヒーを飲むと試合でヒットを量産した。これにはホプキンス選手も「僕の分まで打ってくれた」と大喜びし、森の石松よろしく「飲みねぇ、飲みねぇ」と他の選手にもコーヒーの " 押し売り " に走り回った。
歯切れも悪いインタビュー
2年連続の前・後期制覇の野望に黄色信号が灯った。対南海9回戦(大阪)はちょうど後期シーズン30試合目だったが逆転負けで14勝15敗1分けと勝率5割を切り4位に転落した。上田監督のショックが大きかったのはエース山田投手で負けたこと。山田投手は8回まで南海打線を2安打1失点に抑えていたが、阪急打線も藤田投手に1得点に抑えられ最後は山田投手が苦手の門田選手に17号3ラン本塁打を浴び負けてしまった。前日の試合は足立投手、前々日は稲葉投手とエース級を起用したが同一カード3連敗を喫してしまった。無論、投手陣を一方的には責められない。攻撃陣の3試合の得点が3点・1点・1点で勝てというのは難しい。
「今日は何も話すことはない。こんな不細工な試合を続けていては」と普段は流ちょうにインタビューに対応する上田監督も歯切れが悪い。貧打線に投手陣払底の今こそ文字通り「家貧しくて孝子顕る」を期待したが現れなかった。対南海戦3連敗後、舞台を平和台球場に移した対クラウン4回戦に上田監督はナント三枝投手を先発に起用した。三枝投手はドラフト外で大昭和製紙富士から入団したルーキーだ。カーブとシュートを駆使する中継ぎ投手を先発させる上田監督の奇策だった。3回までは無難にこなしたが一回りした4回に打ち込まれ敗戦投手に。これで4連敗で借金「2」となり5位転落。「ウ~ン…」と頭を抱える上田監督は言葉を失った。
ミスターブレーブス二軍落ち
長池選手が8月16日に一軍登録を抹消され当分の間ファームで調整することになった。痛めていた右手中指突き指の回復がおもわしくないところへ古傷の右足アキレス腱痛が再発した為。故障を発症した後も一軍に帯同し一緒に練習を続けていたがベンチ入りは見送られていて「この際、徹底して治療に専念したい」と長池選手本人から上田監督に申し出て戦列を離れることとなった。過去にMVPが二度、本塁打王が三度、打点王も三度と輝かしい経歴のミスターブレーブスも最近は故障に泣かされている。
偉大な先輩
第59回全国高校野球大会で母校の今治西が強豪の智弁学園を破ってベスト8入りした時、「ワシの後輩はしっかりしとる」と高井選手は鼻高々。高井選手自身の高校時代は今は同じ釜の飯を食うことになった島谷選手がいた高松商に敗れて甲子園には手が届かなかっただけに後輩たちの頑張りに感心しきり。ところでこの高井選手は後輩諸君から「高井先輩はさすが」と感謝されっ放し。というのも練習場探しに四苦八苦していた母校の苦境を知り西宮球場に掛け合って練習の場を提供した。
1回戦が第4試合に予定されていたので高井選手はナイター戦突入必至と考えて、練習開始を日没後にするスケジュールを組む用意周到さを見せた。予想通り試合は試合はナイターとなった。ナイターを経験したことがない相手校の選手たちは戸惑っていたが、事前に照明に目を慣らしていた後輩たちは普段通りのプレーをすることが出来て今治西は2回戦に勝ち進んだ。持つべきは偉大な先輩である。
あの前期のだらしなさがウソのようにカネやんロッテの躍進は素晴らしい。首位街道を突っ走って意気軒昂と思ったらそうでもなかった。意外にオトナシク静かなのだ。どうやらカネやんの変貌なのか、強くなったこととカンケイあるのかな…
夏に強い秘密と再生屋の真骨頂
なんとも鮮やかなロッテの変わり身である。オールスター戦前まで5勝6敗1分けと相変わらず不振をかこっていたが、球宴明けの16試合を10勝3敗3分けと蘇った。昭和49年のリーグ優勝以来の7連勝などで一気に首位に躍り出た。思い返せば前期シーズンは散々の成績でパ・リーグではロッテ以外の球団が観客動員数を伸ばす中、唯一前年同時期と比較し減少した。当然ロッテファンからの風当たりは強かった。それがアッという間にパ・リーグの主役になった。8月9日に首位に立つとカネやんは「ロッテの夏がやって来たんや。これからもドンドン行くで」と怪気炎をぶち上げた。
翌10日、宿敵の阪急戦で1点リードを許した9回二死一塁から登板した速球王・山口投手を攻め満塁とし、新井選手の右前打で逆転サヨナラ勝ちを収めた。スタンドを歓喜の渦に巻き込む快進撃の秘密はどこにあるのだろうか?確かにロッテは人々が暑さでウンザリする夏場になると強さを発揮する。日本一になった昭和49年も、前・後期シーズンともに3位で優勝を逃した昨年も8月の声を聞くと勝ちまくった。「ロッテ名物の死のランニングは何の為やと思う?伊達や酔狂で走っているわけじゃないんやで。夏の暑さに負けないスタミナを養う為に走っとるんや」とカネやんは胸を張る。
戦力面では投手陣の再整備、特に三井・成田投手の立ち直りが大きい。両投手はキャンプの時点で右肩痛を発症し出遅れが必至だった。それを見込んだカネやんは勝負所は後期シーズンと設定し、前期シーズンではエース・村田投手を酷使せず温存した。オールスター期間中の休みに三井投手をマンツーマン指導し、自らの目で回復ぶりをチェックして三井投手の復活を確信した。「完投してくれとは言わん。2イニングでエエからピタッと抑えてくれるリリーフの切り札になって欲しかった。三井にはそれが出来ると思った」とカネやん。
前期シーズンの死んだふりは後期シーズンを前にしての作戦だったのだろうか。三井・成田投手が戦列に復帰すると戦い方が変わった。好例が8月4日の対クラウン5回戦だ。5人の投手を惜しげもなく継ぎ込んで珍しい5投手による完封劇を果たした。後期シーズンに入り好回転しだした中で移籍選手の活躍も目立った。クラウンから来た白選手は指名打者をガッチリ掴み、実績が乏しかった安木投手は中継ぎ投手どころか先発ローテーション入りしそうな勢いだ。中日を自由契約となりテスト入団した末永選手も持ち味を発揮している。「再生屋はノム(南海・野村監督)ばかりやない。どんな選手もワシの言う事ことを聞けば蘇るで」とカネやんは得意顔。
いい意味でのカネやん離れ
ともすれば余りにパーフェクトを求める監督に対し距離を置く " カネやん離れ " がチーム内で起きていた。またカネやん自ら文字通り陣頭指揮によるムード野球に慣れが生じていた。どの世界でも慣れは怖い。慣れることで思わぬところで墓穴を掘ってしまうケースが多々ある。気性の激しいカネやんが檄を飛ばしても慢性から選手たちは踊らなくなっていた。加えて報道陣の前でミスをした選手をヤリ玉に挙げる回数が増えたことでチーム内にシラケたムードが漂うようになった。こうなるとチーム力は自ずと減じていくものである。前期シーズンではカネやんが雷を落とせば落とすほど勝てなくなった。
チームのカネやん離れが後期シーズンでは好結果に結びついている。監督就任5年目にして「ようやく選手自身がプロフェッショナルとして自立し始めた」というのが外部の声だ。選手が自分のするべきことは何かということを割り切っているのがこれまでと異なる点。各自が己の立場で持てる力を出せば良い、というムードが漂い始めている。それがバラバラのものではなくチームの勝利に向けて結束している。このままいけば後期シーズン優勝も不可能ではない。まさに選手が大人になったことでチーム力が急上昇したのだ。誰かれとなしに優勝という2文字に向かって動き出した気配が濃厚となった。
監督のジンクス打破実現へ
かつてのようにラッパを吹かなくなったカネやんだが、それは計算してのことだ。「ムード野球じゃ勝てん」と監督就任時のムード野球を自ら否定し地道な野球に変わりつつある。タレント監督として前面に出るよりあくまでロッテナインの自主性を重んじる効果に勝負をかけている。チーム内からは「監督がこれまでと全く変わったとは思わないが、それでいて勝負への気持ちはこれまで以上に伝わってくる」という声が聞こえてくるのはカネやんの変身が成功した裏付けだろう。社長業やタレント業を放棄したわけではないが、それ以上に野球に対する熱量が上回った結果だろう。
カネやんは「ワシは何もせんでええのや。コーチ陣が全てやってくれている」と軽くいなすがナインに向ける視線は強烈だ。何もせんでええ、は大袈裟だがその姿勢こそカネやんの視野を広げる一因になろう。信頼関係を構築し自主性がチーム力を後押しすることになる。5年前の監督就任会見での第一声「 " 名選手必ずしも名監督にあらず " などというジンクスは信用せんでくれ!」を実証する絶好のチャンスであることは間違いない。ロッテファンならずともそのジンクス打破に大きな期待を寄せているのだから。
前人未到の756号ホームランへ挑戦する王選手。その記念アーチが架かるのも間近だ。ひとくちに756号といっても、そこには王選手のみが知る長い苦労の道がある。今日はその苦労話をじっくり聞いてみよう。
苦しんだがゆえに達した世界への道
聞き手…今年のキャンプの時から心がけていた集中心の具合はどうですか?
王選手…集中心というのはやっぱりある程度、結果が伴っていないと持続できないと思い知らされました。
バッティング練習の集中とは全く違う。
聞き手…持続ね。実際の試合で投手に相対する場面はその都度違うので難しいですよね。
王選手…ハイ、だから一生懸命集中しているつもりでも打てないと弱気になりますね。状態が悪い時は
気持ちが守勢に回って、どんどん技術的な事ばっかり考え込んでしまうんです。
聞き手…考えれば考えるほどがんじがらめになってしまうような?
王選手…そうなんです。今年ほど相手投手のストレートが速く感じたことはなかった。去年までと相手の
顔ぶれは変わらないのにおかしいなって、また考え込んじゃう悪循環ですね。
聞き手…そういえば見ていて今年はボール球に手を出す場面が多い気がします。
王選手…ええ、焦って悪球に手を出してしまうんです。
聞き手…君ほどの選球眼が良い選手がそうなるなんて余程の事ですね
王選手…ツーストライクになるのが怖いんです。だから早いカウントで打ちにいっちゃう。
聞き手…苦しんだ度合いから考えたら今シーズン前半が一番だったんじゃないの?
王選手…そうですね。変な話ですけど幻影に怯えたというか、自分の年齢を意識しましたね。これまで
スランプになっても技術面の事は考えたけど年齢や体力面を考えたことはなかった。でも今年に
なって体力の衰えを意識したことが一番イヤでした。
聞き手…なるほどね。
キングを獲ることの効用
聞き手…ホームラン打者というのは悪い時期があっても打ち出したら続いて打てるもんでしょ?
王選手…ハイ、普段はそうですね
聞き手…それが今シーズンは良くなったと思ったらまた途切れることが多い。一番苦しんだんじゃないの?
王選手…本当に歯がゆかったですね。今シーズンみたいな感覚は初めてです。
聞き手…初めてなんだ
王選手…数字だけ見ても最初は田代(大洋)が走ってブリーデン(阪神)が続き、それをコージ(山本浩二)が
追うという争いに自分は加われない状態に忸怩たる思いでした。
聞き手…でも現在はトップを走っているわけだから
王選手…でも安心は出来ません
聞き手…あくまでも個人的な意見だけど今年は何が何でも本塁打王にならなくちゃダメだよ
王選手…やはりそう思いますか
聞き手…ダメというのはアーロンを抜いて世界記録を更新した年に日本の本塁打王が大リーグの
中古品であるブリーデンじゃ締まりがないでしょ。せっかくの世界記録が色褪せる。
王選手…肝に銘じておきます.
聞き手…それにタイトルを獲ることで選手寿命も延びると思う
王選手…そうですね。来年も頑張ろうと気持ちにハリが出ますから
日本中が沸く756号はいつか?
聞き手…僕が現役で一緒に巨人でプレーしていた頃の君はよく寝ることで有名だったけど今もそう?
王選手…睡眠時間はだいぶ短くなりましたね。昨夜も寝たのは夜中の2時頃で10時には起きました。
自然と目が覚めてしまうんです。睡眠に関しては明らかに歳をとったと感じますね(苦笑)
聞き手…若い頃は体を揺すっても起きなかったからね。遠征で寝台車に乗って駅に到着しても起きなかった。
王選手…今じゃ起こされる方から起こす方に変わりましたよ(笑)
聞き手…本題の世界記録更新について、いつ頃達成しそうですか?
王選手…雨でだいぶ試合が流されましたが順調にいけば9月頃じゃないですか。
聞き手…例年の調子ならね
王選手…連覇に向けてチームの調子も良いし僕もそのリズムに便乗してなるべく早く達成したいです。
聞き手…記録を達成したらまた話を聞かせて下さい。今日はありがとうございました。
王選手…ありがとうございました。頑張ります。