納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
人の噂も七十五日とか。春に話題にのぼった男たちもその後、つい忘れがちなもの。そこで " あの春一番 " ともいうべき話題をまいた未来のヒーローの近況をお知らせしよう。
大きく育てる為の英才教育中
180cm・75kg 、左投げ左打ち。立花義家選手は見た目には何の変哲もないルーキーの1人だが、スカウト界隈では凄腕と定評のある青木一三クラウン球団渉外担当重役が惚れ込んで松下電器に就職が内定していたのを口説き落としてクラウンに入団させた大器である。その立花選手を一目見て「素材は張本以上」と感嘆したのが東映時代に張本選手を育てた松木謙治郎氏だ。御年68歳の松木氏が張本選手以来18年ぶりに情熱を傾ける逸材に巡り合ったのだ。立花選手の感想を求められた張本選手は「めったに褒めない松木さんに認められたんだから立花くんは本物。中距離打者の理論では松木さんの右に出る人はいない。全てを任せて頑張れ」と述べた。
立花選手が大物に育つかどうかは本人の努力次第。球団も英才教育を施す方針で「松木さんには島原キャンプの臨時コーチをお願いした。1年を通して立花くんを見てもらうというわけにもいかず二軍が名古屋に遠征した時に指導してもらった。これからも事情の許す限り指導をお願いするつもりです」と青木球団重役。松木氏からのアドバイスを和田二軍監督を通じて立花選手に伝えるようにしているが、やはり直接指導が望ましいのは確かで今後の課題として球団も苦慮している。
「立花は足も速いし肩も強い。守備だけなら今の一軍選手より上かもしれない。打撃に関しては徹底的に体を絞り上げて体幹を鍛えている過渡的段階。使い勝手のよい選手でいいなら直ぐに一軍に上げてもいいけど、将来的にチームの中心打者として活躍してもらう為には少なくとも今年いっぱいは二軍で鍛えた方が本人の為にもチームの為にもプラスだと考えた」と和田二軍監督は言う。新人王の資格も近年は条件が緩和されたこともあり、一軍昇格したら新人王が確実なレベルの活躍を出来るように球団も考えている。
出場即新人王といった形のデビューにしたいというのが球団の考えで暫くは温存したいようだが、立花選手の成長度は球団の思いを超える。8月5日に行われたウエスタンリーグのトーナメント大会で最優秀選手に選ばれるなど早くも実力の非凡さを示した。「何をやらせてもサマになる選手。天性の何かを持っているし、実に熱心でタフ。暑い今はさすがにバテがきているが、この夏を乗り越えればもう一段階飛躍できるでしょう」というのが和田二軍監督の見方だ。春の話題をさらった男は順調に成長しているようだ。
行き先を告げず姿消す
実はインタビューを予定していた日には永射投手に会えなかった。彼は宿泊先のホテルのフロントに「すみません、インタビューは明日に変更してください」と私へのメッセージを託して独りで大阪の夜の街に出掛けてしまったのだ。その日(7月31日)は日生球場の近鉄戦に永射投手は先発登板した。序盤からクラウン打線が爆発し7点リードしていたが、3回裏に羽田選手に3ラン本塁打を打たれたところで降板させられた。よほどショックだったのか誰にも行き先を告げず消えてしまった。「彼を許してやってください。悔しさと情けなさで自分が嫌になったんだと思います」と同僚の古賀投手が永射投手に代わって頭を下げた。
私も辛くなってきた。永射投手に会えないのは残念だったが、それより3ラン本塁打を浴びて降板させられ宿舎に帰るなり姿を消した気持ちがひしひしと伝わり気の毒な思いだった。翌日の昼に私は再びホテルを訪ねた。彼のショックはまだ癒えていないはずと思い、私は昨夜の件は口にしないと心に決めていた。顔を合わせるなり永射投手は「昨夜は申し訳ありませんでした」と謝罪した。「曽根崎のスナックで夜中の2時過ぎまで飲んでました」と話す永射投手の表情は意外にもスッキリしていた。いかにも若者らしく爽やかさと生気を取り戻していた永射投手に私はホッとした。
強く印象に残る1勝目
プロ入りは5年前。指宿商からカープに入団した。1年目は1試合に登板し0勝0敗。2年目は20試合に登板したが0勝0敗と結果が出ず、当時の別当監督(現大洋監督)は「今のままじゃ通用しないので投球フォームをサイドスローで投げてみろ」と命じた。左腕でサイドスローは珍しく、小柄な体格のハンデを克服しプロの世界で生き残るにはそれしかないとフォーム改造を決めた。「サイドに変えてみたらコントロールが良くなった。力まずに八分の力で投げても球のキレが良くなりました」と本人も手応えを感じた。だが現実は甘くなく、2年目のオフに太平洋クラブへトレードされたが移籍後も勝ち星をあげることは出来なかった。
やっと勝てたのは昨シーズンの藤井寺球場での近鉄戦で既にプロ入り5年が経っていた。「九州の両親に電話をしました。『よかったな』とうめくように言ってくれた親父の一言を今でも憶えている」と浅黒い顔に思わず笑みが滲み出た。父親は鹿児島県の大浦町で果樹園を経営している。スポーツ一家で父親も2人の兄もマラソンが得意だ。「実は僕もマラソンが得意で高校時代は県大会の駅伝に出たことがあるんです」と。そう言われてみると 身長171cm・体重76kgと小柄な体格の割に足腰と胸板の発達が目につく。そこに強靭なバイタリティが秘められているように思える。
念願を球宴で果たす
今シーズンの永射投手は既に8勝をあげ優勝候補の阪急を抑えて首位に躍り出たクラウン投手陣の貴重な支柱となっている。その左腕はオールスター戦で3連投し、全セが誇る王・張本選手のOH砲をピシャリと封じた。「第1戦で王さんをファーストゴロ、張本さんはセンターフライに抑えた。2戦目は2人から三振を奪い、3戦目はセカンドゴロと四球だった。3連投は批判もあったけど僕は大満足です」と過去5年の苦渋から一気に解放されたかのような活躍だった。「広島時代にワンポイントリリーフで王さんと対戦したんですけど打席の王さんと目が合った瞬間に体がすくんでしまった。まさに雲の上の存在なんです」と当時を振り返った。
その時の登板を含めて王選手に2本の本塁打を許した。「自分の力の無さを思い知らされました。でもいつか絶対にそのお返しはしたいと心に秘め続けてきました。その念願がオールスター戦の舞台で果たすことが出来て嬉しかったです」と感慨深げに話す。子供の頃に西鉄ライオンズに憧れプロ野球選手を目指した少年は、その夢を実現させ栄光のスターダムへの道を力強く歩み出している。インタビューを終えると近くにいた年輩の紳士が「クラウンの永射投手ですよね。頑張って下さい応援しています」と言うと「ハイ、ありがとうございます」と応じる永射投手を見て夢が叶ってよかったなぁと感激した。23歳の若者の将来は無限に広がっている。
大洋の川上哲治招聘の真実性
A記者…来シーズンから横浜に移転することが決まった大洋もミステリーじみた話が多いね。中でも
川上哲治氏の監督就任説には驚いた
B記者…これには根拠があるんだ。横浜スタジアム設立発起人会ができた時に大洋球団の累積赤字を
減らす為に西武グループが資本参加して45%の株式を保有した。それを機にユニフォームの
袖から「マルハ」のマークが消えたことから、いずれ大洋を西武が買収するのではという噂が
広まった。
D記者…でも西武グループの堤義明社長は球団経営には手を出さないと明言していた
B記者…そう。その代わりにV9監督の川上さんを招いて大洋を常に優勝争いが出来る強豪チームに
建て直して欲しいと堤義明社長が球団に要請したと言うんだ
C記者…川上さんが監督になればチームも強くなるだろうし球場経営も成功間違いなしという計算だね
D記者…ファンにとっても楽しみが倍増するだろうね、長嶋監督との師弟対決実現で。ただそうなると
別当監督の立場が微妙になってくる。田代選手や高木選手を育てて、万年Bクラスだった大洋を
勝率5割ラインまで引き上げた功労者だから
B記者…でも今シーズンの別当監督は失政もある。堀本投手コーチの起用だよ。ルーキーの斎藤明投手は
出てきたものの、エースとなるべき奥江・間柴の左右の両輪はサッパリ。理由は堀本コーチの
指導方法だと言われている。
D記者…いやそれはコーチが悪いんじゃなくて投手自身がだらしないんだ。大洋投手陣の伝統だよ
A記者…そうも言えるね。もし仮に川上監督が誕生したら別当さんはヘッドコーチが適任じゃないかな
クラウン勝って鬼頭監督の行方は
C記者…話題をパ・リーグに移そう。例年ならパ・リーグの方が怪談じみた話が多いが今シーズンは静かだね
D記者…前期は本命の阪急が優勝。後期はクラウンの躍進でパ・リーグ人気に火が点いた。本来なら鬼頭監督が
評価されておかしくないのに何故か今季限りの声が多い
B記者…ドローチャー監督の代役にしては長く続いた方でしょ。昨年は前後期ともに最下位。今年の前期も
最下位だったから後期シーズンが良くても来年も任せられるかは疑問だよ
A記者…後任候補は大洋同様に九州(熊本)出身の川上さん、西鉄黄金時代を築いた投打のスター稲尾さんと
中西太さんの名前が挙がっている
B記者…地元では稲尾さんを推す声が多い。中西さんはライオンズを去った時の印象が今でも悪い
C記者…例の黒い霧事件で逃げるようにヤクルトの打撃コーチになった件ね
D記者…鬼頭さんの他にもカネやんの動向が怪しいと耳にしたけど意外だね
A記者…重光オーナーがカネやんが監督に就任する時に「金田くんがロッテを去る時は私が球団を手放す時だ」と
言ったそうだからクビはないだろうけどロッテ本社筋でカネやんの信用は薄れてきている
B記者…話は飛ぶけど川上さんと鶴岡さんがセ・パ両リーグの会長になるかもという噂は聞いた?
C記者…鈴木セ・リーグ会長は高齢だし、岡野パ・リーグ会長は血圧が高く眼底出血の症状が出て、奥さんから
仕事を辞めるように説得されたそうだ
D記者…日本では選手出身の会長は過去にいないけど大リーグは当たり前になっている
A記者…日本のプロ野球界もそういう時代に来ている。この2人の会長さんが誕生するもしないも各球団の
オーナー達の胸算用ひとつ。是非とも実現して欲しいね