納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
あぁ黒い弾丸が去って…
対広島15回戦の4回裏、三村選手が放った大飛球を背走して見事にキャッチしたデービス選手は勢い余ってフェンスに激突して倒れてしまった。捕球したグラブを高々と挙げたが遂に起き上がることは出来なかった。ファインプレーの代償は大きく、左手首を骨折し全治4週間の大怪我を負ってしまった。「怪我が治ればまだ公式戦には間に合う。またバリバリやるよ。ドジャース時代に顔をひどく怪我した時も復帰後に13試合連続安打したこともあるし大丈夫さ」と言い残して治療の為に夫人が待つハワイへ旅立った。
その前日に7月のセ・リーグ月間MVPに選ばれたばかり。7月のデービス選手は打率 .357・10本塁打・21打点と大暴れでチーム内で確固たる地位を築いた。後半戦スタート3戦目のヤクルト戦では梶間投手から右中間へサヨナラ本塁打を放った。ひところはデービス選手に対して懐疑的な中日ナインが多かったが、この頃になると「やはり大リーガーは凄い」と脱帽するようになっていた。来日当時とは別人のような活躍をするデービス選手に与那嶺監督も「これからもチームを牽引してもらいたい」と全幅の信頼を寄せていた。
それだけに今回の怪我はショックで「本当にウチはツイていない。開幕当初から主力の故障が続いて悩まされ、やっと全員の足並みが揃ったと思った矢先にデービスが離脱。彼の穴は全員で埋めるしかないね」と落胆する与那嶺監督。だが今更ああだ、こうだと悔やんでも仕方ないこと。今後はベテラン・若手が一丸となって戦うしかない。藤波選手や田尾選手らは口にこそ出さないが、やっと自分にも出番が回ってくると目の色を変えている筈である。
タナからボタモチ
梅田選手が長期の休養となり、頼みの正岡選手までが右ヒジを痛めて遊撃のポジションにポッカリと大穴があいた。宇野選手(銚子商卒)を急遽一軍へ上げたがやはり新人には荷が重い。そんなところに入団9年目の三好選手が「こんなチャンスは二度とない」と名乗りを上げた。後半戦からレギュラーとして攻守にハッスルプレーを見せている。昨年のオフに首脳陣から外野手へ転向するよう言われ「もう後がない」と心機一転、外野手にチャレンジしたが思いがけず棚からぼた餅で内野手に逆戻り。私生活では野球選手としては珍しくシーズン中の7月末に結婚式を挙げた。その矢先に野球人生を左右する試練に挑むことになる。
本当なら3敗。だが今は9敗
高橋里投手は今や悲運のエース?シーズン折り返しの大洋戦に先発したがまた敗戦投手に。7回まで投げ5安打・2失点に抑えたが味方の援護がなく9敗目を喫した。相手打線に乱打されての敗戦なら仕方ないが、9敗の内訳は4失点が1試合・3失点が2試合・2失点が5試合・1失点が1試合といった具合で、仮に赤ヘル打線が3点を取っていたら6試合が勝てた試合に変わっていた可能性がある。単純計算で現在の7勝9敗はガラッと変わって13勝3敗で勝率1位になる。
かつての外木場投手のような打線の援護がない高橋里投手とは対照的に恵まれているのが池谷投手だ。投げる試合はたいてい打線が活発で2日の中日戦などは4回までに4得点。だが、それでいて負け投手になるのだからエースの肩書が泣く情けない状態。高橋里投手にしてみれば「俺が投げる試合に池谷の時のような援護があったら…」というのが正直な心境だろう。が、何をやってもちぐはぐなのが今シーズンのカープ。だからこそ最下位に沈んでいるということだ。
" 寒い、寒い " 連発のギャレット
一塁手としての適正を欠くという理由で外野手に転向したギャレット選手。元々が外野手だから守りに不安はないが肝心のバッティングの方がサッパリ。後半戦最初の対大洋3連戦ではたったの1安打に終わった。しかも6三振と開幕当初の状態に逆戻りといった感じ。球宴前には本塁打を量産し、スワッ打撃開眼かと首脳陣を喜ばせた矢先だけに本人も周りもショックが大きかった。打率も2割6分台まで上がったが、一時的なもので長続きせず現在は降下中だ。
球宴期間中のミニキャンプは炎天下で行なわれカープナインの多くが「暑くて死にそう」と悲鳴を上げる中でギャレット選手は「サムイ、サムイ」を連発した。これはギャレット選手独自の " 消暑法 " なんだとか。本人いわく「暑いと思えば余計に暑く感じるもの。暑くないと暗示をかければ少々の暑さは堪えない」と胸を張っていたが、今のギャレット選手が「サムイ」のは気温ではなく打撃不振から心身ともに冷え切っている状態を表している?
爆弾仕掛けたゾ
後半戦に入っていきなり大洋に3連敗。ファンのイライラは募るばかりで対大洋14回戦の敗戦後には球団事務所に「広島市民球場のスタンドに爆弾を仕掛けたぞ」と物騒な電話が掛かってきた。球団はすぐさま警察に通報し、警官20人がスタンドを調べたが爆発物は見つからず悪質なイタズラと判明した。何とも愚かな行為だがこれも可愛さ余って…の類だろう。チームが頑張らないとまたぞろこんな騒動が起きるかも。
小料理店 " みやこ " 臨時休業
掛布選手の父親・泰治さんは千葉市高品で小料理店「みやこ」を経営しているが、7月末の5日間は臨時休業した。理由は一家総出で掛布選手の応援に行く為。神宮球場でのオールスター第3戦の観戦をスタートに7月29日からの甲子園球場の対巨人3連戦を一塁側スタンドから泰治さん、母親・テイ子さん、姉・優子さん、妹・道代さんは声援を送った。「店が忙しくて雅之の試合もゆっくり見ることが出来ない。そこで今年は家族で夏休みを取って皆で応援に行こうということになりました。甲子園球場は雅之が高校2年生の夏に応援に来て以来です。懐かしいですね」と泰治さんらはスタンドから応援した。
周りは阪神ファン一色。掛布選手に打席が回る度に掛布コールが起こり、泰治さんは「ありがたいです」と感激していた。当の掛布選手は身内の声援に固くなるかと思われたが意外とリラックスして後半戦スタートの巨人戦では4打数3安打と爆発し、家族に何よりの " みやげ話 " をプレゼントした。3日間、甲子園球場に通った泰治さんは「いい夏休みでした。たまには仕事を休んで出かけるのも悪くないですね。雅之の第1戦は出来過ぎ。次戦は四番でしたが打てず、まだ四番は荷が重い気がします」と手厳しい感想を息子に突きつけて千葉への帰路に就いた。規定打席到達まであと僅かの掛布選手は間もなく打撃10傑に名を連ねるだろう。
" 水を得た魚 " ラインバック
ファイターのラインバック選手がやっと活き活きし始めた。前半戦の途中から右手指のつけ根を負傷したり、ヒジを痛めたりと回復に時間を要した。少しの間でもジッとしているのが嫌いなラインバック選手だけにプレー出来ない間は歯ぎしりの連続だった。球宴明けからゴーサインが出て水を得た魚の如くハッスルした。29日の対巨人18回戦(甲子園)では六番で先発し二度のタイムリーを放った。守っても右中間への大飛球を追って回転レシーブ並みのダイビングキャッチで喝采を浴びた。
「試合に出られるって楽しいね。やはり試合に出てこそのベースボールだよ。久しぶりの先発出場で少し緊張したけど、チャンスの場面で打つことが出来てハッピーだ。これからも今まで以上にハッスルするよ!」とニンマリのラインバック選手はハッスルプレーが身上のファイター。全力でプレーする姿が阪神ファンの共感を呼ぶ。
オレはゴルフをやりてぇんだ
今シーズンはこれ迄おとなしかったライト投手がとうとう暴れた。8月3日に無断夏休み。「先発した翌日はアガリなんだけど球場に来てランニングをしてから休むことになっている。しょうがない奴だ」と神宮球場でライト投手が来るのを待っていた杉下投手コーチは呆れ顔。前日にライト投手がKO降板後に苦情を聞いた佐伯球団常務は「無断欠席を許してはチームの規律が乱れる。厳重注意をして罰金を取ります」とカンカンだ。" 苦情 " とは2日のヤクルト戦で2回KO後にライト投手が佐伯常務に「ゴルフでもして野球のことを忘れたい。明日から2日間休みをくれ」と訴えていたことだ。
佐伯常務はそれ以上詳しいことは言わなかったが、球団関係者によるとライト投手は杉下投手コーチと野手陣への不満を爆発させていたという。どんな理由があれ無断欠席は一種の首脳陣批判であり処罰は必至。だが長嶋監督は「困ったことだねぇ」と言いながらもニヤリニヤリ。「決して褒められたことではないが不甲斐ない自分に腹を立てて発奮してくれればいいけどね」とさほど怒りはないようだ。というのもアメリカではKOされた投手のストレス解消用にベンチ裏にアルミ缶などが置かれている。それを蹴り上げたりするのだ。「日本だとマナーが悪いと批判されるけど外人選手は不満を発散させないとダメなんだよ」と長嶋監督。
とはいえそれと無断欠席は別の話。謹慎中のライト投手の代わりに右目を負傷していた新浦投手が急遽一軍に合流した。「もう違和感はない。視力も落ちてない。良い休みとなって球が速くなったんじゃないの」と新浦投手は元気いっぱい。また消化器官を患っていた加藤投手も先発ローテーションに復帰し完全復調をアピールした。「1人が出てくれば1人がおかしくなる。なかなか全員の足並みが揃わんねぇ」と杉下投手コーチは喜んだり嘆いたり忙しい。長嶋監督は「どこのチームも夏場は苦しいんだ。その苦しさに勝たなきゃプロじゃない」とライト投手の無断サボリを機にチーム全員の奮起を促した。
ヤジ将軍
4打数4安打とか猛打賞とか時たま出場しては固め打ちを披露していた上田選手に河埜選手の背筋痛欠場でスタメンのチャンスが巡ってきた。「急なことで緊張しちゃうよ」とベテラン選手ながら戸惑い気味。ベンチではヤジ将軍の異名をとるプロ14年生。「チョンボだけはしないようにしたい。本音を言えばヤジっているよりヤジられる方がやり甲斐がある」というのがスタメン出場の実感だそうだ。