あの脚光は今いずこ
3年前のドラフト会議で " イの一番 " を引き当てた近鉄が、あの山口高志投手(松下電器➡阪急)を差し置いて1位指名したのが松下電器で山口投手の同僚だった福井保夫投手。プロ入り後は阪急で大活躍する山口投手とは対照的に福井投手は伸び悩み今やすっかり忘れられた存在になっている。「3年後を見ていて下さい。ウチが福井を獲った訳が分かりますから」と当時の中島スカウト部長をはじめ球団関係者はこう言って胸を張っていた。体格に恵まれ思い切り投げ込むストレートは威力があり、スライダーをはじめ変化球も一級品だったが体の硬さが欠点だと指摘する声があった。
山口投手の2歳下の福井投手は「山口さんには負けたくないです。歳は下ですけどプロでは同期で横一線。実力・結果が全ての世界ですから頑張ります」と胸を躍らせてプロ入りした。実はこの発言は報道陣に誘導されてのもので普段の福井投手は控え目で大口は決して叩かない。松下電器時代はあくまでも山口投手の控え投手。それがドラフト会議から一夜明けたら " イの一番 " 選手として脚光を浴び、寧ろ戸惑いの方が強かったのではないか。次々に訪れる報道陣から抱負を聞かれれば「山口投手には負けない」と言わざるを得なかったのではないか。どんな時にも山口投手の名前が付いて回った。右も左も分からない新人にはさぞ辛かったであろう。
プロ入りして2年目の半ばになった頃「ホッとしています。もう山口さんと比較されることも少なくなりました」と吐露した。それは実感だったろう。地道に歩み始めたがやはりプロの壁は厚い。一軍では短いイニングでさえ痛い目にあい、やがて声がかからなくなった。「良いモノは持っているんだけどねぇ」と一軍首脳陣は結果を出せない福井投手に歯ぎしりしている。現在首位の近鉄の原動力は谷投手を筆頭に中野投手、打者なら藤瀬選手らハツラツとした若い芽だ。彼らの陰に隠れた福井投手がどう奮起するのか。 " イの一番 " の意地を期待しているのは首脳陣だけではない。
男の意地を賭けてます
東海大相模高から初めてプロ入りした日ハムの岡部憲章投手。大学進学組の原辰徳選手や村中秀人投手に負けまいと必死にプロの世界で戦っている。「(彼らがプロ入りするであろう)4年後が勝負です。堂々と実力で渡り合ってやります」と力強く宣言する。ドラフト外で日ハム入りして5カ月経った現在、ようやく一本立ちした投手になってきた。1㍍83㌢・79㌔という本格派投手だが高校時代は岡部投手よりひと回り小柄な村中投手の陰に隠れた控え投手だった。しかし大学進学を選ぶ同級生が多い中、小さい時から憧れていたプロで自分の可能性を試してみたいと敢然とプロ入りを決めた。
そんな岡部投手に目をかけているのが宮田投手コーチ。投球フォームの矯正から新たな球種の開発、投球術まで付きっきりで指導中。「あとはコントロールだけ。投球フォームも自分のモノにしたし、球威もグンと増している。将来の為にはあと2~3年は二軍でしっかり鍛えた方が良い。なかなか面白い投手になりますよ」と宮田コーチは言う。「タツ(原選手)は大学1年生で日米大学野球の全日本メンバーに選ばれた。でも僕も負けませんよ」と負けん気も。先日のイースタンリーグトーナメント大会で強打の大洋打線を3回・1失点に抑えた。陽の当たらない控えに甘んじてきた男の意地に期待して今後の成長ぶりに注目したい。