納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
◆ ひょうきん男・・先ずは中畑選手。冗談やダジャレが流行語になってしまう天性の明るさでチームリーダーにはもってこい。オープン戦では原やクロマティを抑えて四番の座にすわっているが成績の方は今一つ。「打とう、打とうと前のめりになってしまって…(中畑)」とひょうきんさは影を潜めている。そこでにわかにクローズアップされ始めたのがクロマティ選手。片言の日本語で「サムイネ、サムイネ。デモ、ゼッコウチョウ」と大声で叫び笑いを誘う。試合前には両腕を組んで仁王立ちする阿野コーチの真似をしてナインの喝采を浴びた。目下の所、ひょうきん No,1は中畑を抜いてクロマティだ。
◆ 気配り・・オープン戦で日本各地を移動する際に多くの人が本を持参するが堀内コーチは『気配りのすすめ』を手放さない。この先2~3人に二軍落ちを通告しなければならない。これまでもただ一言「二軍へ行け」と言うだけではなく落とされる選手の気持ちを慮り、なるべく丁寧に理由を述べるようにしてきた。そこで参考にしているのが『気配りのすすめ』だ。選手を気遣う親心。あの " 小天狗 " が相手の気持ちを考えて何度も読み返しているなんてサバイバル競争真っ只中にいる選手同様に首脳陣も戦っているのだ。
◆ マメ・・ドラ1の上田選手。真面目な性格だけに練習も人一倍やっている。毎日のスイング数も優に300回を超える。当然のように左手に9個、右手に6個と手のひらは計15個のマメだらけ。ある意味 " 勲章 " ではあるが治りかけてはまたできるの繰り返し。痛みのせいでフルスイングが出来ない悪循環に陥っている。
【 センバツ随想録:槙原寛己 】
センバツで思い出すのは雨ですね。昭和56年の第53回大会に出場しました。1回戦は金村(近鉄)がいた報徳学園に5対3で勝ち、2回戦は御坊商工。報徳にも勝ったし自分はその大会の No,1速球投手と紹介されていたから勝てるだろうと思い上がっていました。結果は0対4と完敗でした。雨の中での試合で足元がグチャグチャで制球が思い通りにならなかったのを憶えています。言い訳がましくなりますが負けた気はしなかったですね。でも相手も同じ条件でしたから単純に力不足だったと今は思っています。
【 試される男:金城基泰 】
開幕一軍を勝ち取る為に若手はサバイバル競争真っ只中だが、このベテラン投手も例外ではない。南海から移籍して来たが一軍入りを保証されている訳ではなく必死に戦っている。3月20日、岡山での阪神戦に登板し1イニング・無安打・2奪三振と抑えた。グアム、宮崎と調整遅れが目立ったがここにきて存在感を増してきた。王監督や堀内コーチも「やってくれそう」と一安心。本人は「出来過ぎ。僕はスロースターターなので調整遅れの焦りは無かった」とベテランの余裕を見せた。
【 投手コーチに聞く、今季の投手陣はどうなる? 】
聞き手…オープン戦も後半に入りそろそろ一軍メンバーは決まりますか?
堀 内…水野が肩痛で離脱して今は13人。あと2~3人が下(二軍)に行く
聞き手…現時点で開幕一軍が決定しているのは誰ですか?
堀 内…江川・西本・加藤・槙原・斎藤・鹿取・角・カムストックの8人は確定
聞き手…そのカムストックはどうですか?
堀 内…先日の阪急戦は6回・4安打・2失点はまずまず。失点も自責点はゼロだし合格点だよ。ウチの先発陣は
右ばかりだから左が1枚加わるのは大きいよ
聞き手…やはり問題はリリーフ陣ですか?
堀 内…角の復活が鍵だね。去年の今頃よりは数段良いけどベストの状態にはまだまだ。それから鹿取の疲労が
取れているかが気になる。昨年あれだけ投げた反動は必ず出ると思っている
聞き手…金城は?
堀 内…ベテランだからね、調整は任せている。抑えで使えれば楽になる
聞き手…今季の星勘定を
堀 内…去年の予想(最高で100勝、最悪で65勝)が大ハズレだったので勘弁して下さい(笑)
◆ ヒゲ男 ・・串間キャンプが始まった頃にはヒゲ面男が7~8人いたが、いつの間にか1人剃り、2人剃りと減っていった。最初に陥落したのは金山兼任コーチ。続いて石井選手、豊田選手、平野選手らが剃って今は宇野選手と中尾選手の僅か2人しか残っていない。「僕は絶対に剃りません。たとえ1人だけになっても」と硬い決意で話すのは宇野選手。ヒゲを伸ばしたそもそものきっかけは剃るのが面倒になったからだそうだが今では「迫力のある面構えになった(宇野)」と御満悦な様子。「そのうち鈴木代表に剃れ、と怒られるよ」とは先に剃った某選手。
◆ 大物・・大物選手はよく忘れ物をする。代表的選手はミスター。かつて後楽園球場に一茂くんを置いて帰ってしまった逸話が残っている。中日では中尾選手と藤王選手が双璧。12日の阪急戦後の西宮球場にスパイクを置き忘れた中尾。気づいたのは帰り支度を終えた宿舎で慌てて球場に残っていた記者に連絡して新大阪駅まで持って来てもらった。一方の藤王選手は時間。即ち門限破りの常習犯なのである。坪内寮長がニヤニヤしながら藤王の頭をポカリ。「一時より減ったが相変わらず常習犯(坪内寮長)」だそうだが、そこは19歳の若者なので寮長も大目に見ている。
◆ 雨男・・登板が雨で流れるのは一度や二度なら誰でも経験している筈だが、続けて四度となると持って生まれた運命なのかもしれない。今年の新人の中で一番速い球を投げると評判の古川利行投手。首脳陣も早く実戦を見てみたいのだが二軍から急遽一軍に上がった3月11日の阪急戦は雨で中止。14日のロッテ戦、17日の日ハム戦といずれも先発する予定だったが雨天中止。ならば中継ぎでテストしようとした19日の西武戦も雨…。本人に聞くとやはり " 前科持ち " だった。「社会人時代も3年連続で初登板は雨で中止でした(古川)」と。
【 センバツ随想録:大石友好 】
普段はネアカな性格だけどこの季節は憂鬱な気分になる。当時の徳島海南高は県下でも優勝候補だった。投手には尾崎健夫、あのジャンボ尾崎の弟で今はプロゴルファー。一塁手はロッテでマネージャーをしている北川、センターにはセ・リーグの審判をしている谷と良い選手が揃っていたけど3年間で最も甲子園に近づいたのは1年生の夏の県予選大会準優勝。センバツはかすりもしなかった。今でも甲子園の高校野球中継は悔しくて見られないですね。
【 試される男:松浦英信 】
ポスト田尾は藤王だけじゃない!と名乗りを上げた松浦。3月16日の日ハム戦の7回裏の守りから出場した。一軍の試合はプロ3年目にして初めてで8回表、二死・二塁の場面でプロ初打席を迎えると川原投手が投じたスライダーをライト前に適時打。次打者・大島への2球目にすかさず二盗を決めるなどアピールに成功した。「松浦はただ打つだけの選手ではない」と高木二軍監督が言う通りのプレーを披露した。「とにかく良い所を見せたかった」と話す松浦。走・攻・守と三拍子揃った姿は山内監督の目にどう映ったか。
【 投手コーチに聞く、今季の投手陣はどうなる? 】
聞き手…評論家の間では投手陣の評判が良いです
中 山…でしょうね。課題だった左腕不足が杉本の加入で解消されましたし。小松・郭・都・鈴木らに杉本を加えた
五本柱でローテーションを組めるのは心強い
聞き手…ただ小松投手は過去7年、怪我なくシーズンを乗り切った事はないし都投手は出遅れ。不安ではないですか?
中 山…小松は過去を反省して調整法を考えているので期待している。都は確かに安心できない
聞き手…肩がなかなか温まらないと都投手は言っている。故障なのでは?
中 山…故障ではない。しかし肩が温まらないと力を入れて投げられず臆病になっている。真面目な性格だけに
責任を感じてしまうタイプなので余り追い込まないようにしている
聞き手…若手投手たちのテストはどんな具合ですか?
中 山…三沢、藤沢、安木がいなくなった分を若手で埋めないと。曽田・平沼・鹿島・近藤・宮下らはチャンスですよ。
新人左腕トリオの古川・清水・米村だって結果を出せば開幕一軍もありますよ
聞き手…具体的には?
中 山…単に頭数だけなら3人の穴は埋まる。ただ、こちらとしては頭数以上の勝ちゲームでの中継ぎや、あわよくば
先発ローテーション入り出来るレベルを求めているからテストは続きます
聞き手…結果が出るのはまだ先?
中 山…ハイ。確かにそれぞれ成長していますが図抜けている投手はまだいない。欲張りかな?
聞き手…杉本投手は先発候補。左腕の中継ぎは?
中 山…期待していた桑田は出遅れ。新人トリオに期待するのは荷が重い。悩みの種です
聞き手…でも必要ですよね?
中 山…確かに左は必要。でも力のない左腕より球威のある右腕の方が良いという考えもある。開幕当初は左の中継ぎ
不在でいくかもしれない。それさえ解消できれば広島や巨人にも劣らない投手陣だと思います
◆ 勝ち星・・「別に勝とうと思ってないのに勝ってしまうんだ」と古葉監督。オープン戦で連敗街道まっしぐらの近鉄や中日の監督が聞いたら頭から湯気が立ち昇りそうな発言。オープン戦といえどもやはり勝負事は勝たなくては気分が悪い。「この時期は勝ち負けの結果よりも内容だよ(古葉監督)」と余裕の発言。今季の広島も死角なし?
◆ 12球団イチの若手選手・・カープの若手選手層は12球団でもダントツ。古葉監督が手塩にかけた若手がゴロゴロしている。オープン戦での投手成績を見ても上位15傑に金石、森、高木らが名を連ねている。古葉監督の彼らに対する評価は「金石は右打者の内角を思い切り攻められるようになった」「森は投球フォームを改造したが身に付いてきた」「高木はフォームが安定して球道が定まった」とそれぞれの成長を認めている。野手も斎藤、伊藤、山中ら期待する若手が多くオープン戦で活躍している。
◆ 真のナンバーワンは連続V・・若手の成長に大きく貢献しているものに環境面の充実もある。昨年に完成した大野町の室内練習場の脇にある合宿所(カサディカルピオ)の立派さはまさにホテル並みで、12球団イチの呼び声が高い。更に現在改築中の球場が2階建てになるという。若手選手の台頭で2年連続日本一になって " No,1 " だ。
【 センバツ随想録:原 伸次 】
プロ入り後に内野手に転向した原だが広島・広陵高3年生の時に強肩強打の捕手としてセンバツに出場して1回戦で東海大四高の西本投手(現西武)から本塁打を放った。準決勝で高知商の中西投手(現阪神)に敗れた事が今でも悔しいそうだ。今年がプロ入り5年目。「中西とは二軍戦で対戦したけど当時より投球フォームが小さくなったみたい(原)」と感じたそうだ。
【 試される男:津田恒実 】
先日のオープン戦はやっぱり不安でしたね。昨年の7月(対阪神戦)以来、251日ぶりの登板でしたから。まぁ中指(血行障害で手術)は心配なかったけど、とにかく良い結果を出さなくてはと必死でした。最初は1イニングの予定でしたが状態が良かったので2イニング投げました。結果は無安打・1四球でしたが、何よりも思いっきり腕を振る事が出来たのが嬉しかったです。翌日も指の状態は変わりなくホッとしています。次は5イニングを目標に一歩ずつやっていきたいです。そして開幕一軍を果たしたいです。
【 投手コーチに聞く、今季の投手陣はどうなる? 】
聞き手…今年は近年になく順調だったのでは?
安仁屋…確かにここまでは非常に順調。競争意識が高く若手は勿論、主力も例年以上にペースが早い。例えば北別府は
ここ2年はチームの勝ち頭になってない悔しさをぶつけるように練習している。追われる立場になった山根も必死だよ
聞き手…懸念されていた大野や津田の状態は?
安仁屋…大野はキャンプ途中まで遅れ気味だったが、オープン戦を見て分かるように投げる事は心配していない。
津田の場合は夏頃に戻って来ればいいと考えていたが現在の調子を見たら開幕から行けるかもしれない。
ただ無理はさせないけどね。今後の登板もなるべく暖かい日を選んで投げさせたい
聞き手…昨季は抑え役として「陰のMVP」と言われていた小林投手の調子は?
安仁屋…調子はすこぶる良い。球威は充分であとは変化球。今季は他球団も決め球のパームボール対策を考えて
くるだろうから、もう1つ違う変化球をマスターして欲しいね
聞き手…若手はどうですか?
安仁屋…今季は連戦が多いので出来れば先発要員は6人で回したい。ローテーション入りするチャンスは
金石や高木も充分ある。抑えを小林ひとりでは負担が大きいので森に期待している。ただ森はムキになる
癖があるのでその点が課題かな
聞き手…主力陣はどうですか?
安仁屋…順調ですよ。池谷も今年はやる気充分です
聞き手…広島投手陣は質量ともに12球団イチと言われていますが
安仁屋…全員が揃って好調なんて事はないだろうし、とにかく3連戦を勝ち越すのを目標に頑張ります
昭和49年の夏の大会から金属バットの使用が認められた。それは即ち" 打撃の時代 " を迎えた事でもあった。夏の大会から遅れる事半年、昭和50年のセンバツは打撃の時代を象徴する16対15の乱打戦(倉敷工 vs 中京)で幕開けした。決勝戦は高知高と東海大相模。金属バット時代の申し子とも言える原辰徳と " 中西太2世 " が異名の杉村繁の対決となった。初回に原が本塁打を放てば3回には杉村が右中間三塁打で応酬。期待に違わぬ打撃戦は延長13回、杉村のこの日2本目の三塁打で決勝点をあげた高知高に軍配が上がった。前年の大会がランニング本塁打1本だけだったものが一気に11本に激増し金属バットの威力を見せつけた。
" 池田イレブン " から3年、昭和52年には部員数12人の中村高が " 二十四の瞳 " 旋風を巻き起こした。エース・山沖投手を中心に「よそのチームを連れて来たみたい(市川監督)」とあれよあれよと言う間に勝ち進んだ。準々決勝戦の相手は強豪・天理高。負けを覚悟した中村高ナインは高知への帰り支度を済ませて試合に臨んだが、勝って決勝へ進んだ。決勝戦では箕島高に敗れたが全国のファンから惜しみない拍手を浴びた。金属バット隆盛の時代を迎えたが、余りにも急激な打撃上位への天からの警鐘とも言える大記録が達成された。過去、春・夏の大会合わせて2428試合で如何なる大投手も成し得なかった完全試合である。
168 ㌢、63 ㌔の小柄な体格の松本投手(前橋高)は8回まで24個のアウトのうち15個が内野ゴロに代表される " 打たせてとる " 頭脳的な投球で8回まで比叡山高に1人の走者も許さない。前橋高のベンチでスコアをつける背番号「14」の橋爪はペンを持つ手が震えた。松本の1球、1球を固唾を飲んで注目し球場内は異様な雰囲気に包まれた。迎えた9回、先頭の七番・山本を二飛、続く大伴を二ゴロに打ちとった。最後の27人目の時田は果敢に初球を打って出たが投ゴロに倒れた。僅か78球、ボールとなったのは11球。絶妙な制球力に支えられ投手として夢の大記録が春・夏を通じて初めて達成された。
しかし時代の流れは変わらず金属バットの威力は一向に衰えなかった。少年マンガの主人公を思わすユーモラスな巨体を揺るがし登場したのがドカベンこと香川(浪商)だった。春・夏通算5本塁打は昨年の清原(PL学園)に破られるまで甲子園記録だった。この香川とバッテリーを組んでいたのが牛島投手(浪商)。投打の活躍で昭和54年のセンバツでは決勝戦まで勝ち進んだ。相手は後に西武と阪神に入団する石井投手と嶋田捕手の強力バッテリーが率いる箕島高。二転三転する試合経過で8対7の激しい打撃戦を制した箕島高が優勝した。ちなみに箕島高は同年の夏の大会も優勝し史上三度目の春夏連覇の快挙を成し遂げた。
ドカベン同様にマンガ人気を受け継いだのが " 球道クン " の中西投手(高知商)。高校生離れした投球術で高知商に初の優勝旗をもたらした。また圧倒的な戦力で2年連続でセンバツ制覇を果たしたのがPL学園。着々と築かれていた野球王国の確立は今年、桑田・清原の投打の主役を擁して優勝候補の筆頭に推される歴史へと繋がっている。記憶に新しい一昨年のセンバツを沸かせたのは " 打の記録男 " こと藤王(享栄)と " 阿波の金太郎 " こと水野(池田)。豪打で圧勝した池田打線はいつしかやまびこ打線と名付けられた。金属バットが登場して10年で本塁打数は飛躍的に増し、100本を超えた。今春の新たな金属バット規制で歴史は変わるのか注目だ。