仲田幸司(興南高→阪神)…「また甲子園のマウンドが踏めるのは嬉しいです。今度こそ自分の力を出し切りたい」とセンバツ大会出場が決まり、浮かれる周囲とは対照的に仲田は冷静に答えた。昨夏の大会3回戦、2対4で広島商に敗れて以降仲田が課題としてきたのは制球力だ。3連続四球をきっかけに広島商に逆転を許したシーンが頭から消えなった。その屈辱を胸に仲田は制球力向上の為にひたすら走り続けた。秋季大会後から現在に至るまで1日13kmのロードワークを続けて下半身が逞しくなり体重も3kg増えた。
年が明けると投げ込みがメニューに加わった。「直球だけで三振を取れるようになってきた」と比屋根監督が語るように140kmを超す直球は今センバツ大会に出場する主戦投手の中でもトップクラス。センバツ大会出場が決定した日も黙々と練習メニューをこなす仲田の信頼度は絶大で、比屋根監督は「全国制覇を狙います」とキッパリ。食べ物の好き嫌いは無く「大好きな肉を腹いっぱい食べてスタミナをつけてます」と仲田は屈託がない。2月半ばからは全力投球を解禁し、練習にも熱がこもってきた。「今度こそ、今度こそ持てる力を全部出し切ります」と既に仲田の魂は甲子園のマウンドにある。 【 57勝99敗4S 防御率 4.06 】
三浦将明(横浜商→中日)…昨春のセンバツ大会ではベスト4進出、期待された夏の大会は右肩背筋痛を発症し神奈川県予選で敗退。そんな三浦が秋季大会後に自らに課したのが1日平均30~40kmという途方もない走り込みだった。学校では投球練習もそこそこに約20km、帰宅後は近所の川崎市河原町公園の周辺を約20kmを走った。時には足腰の負担が大きい砂浜を10kmも走る過酷なメニューが加わる事もあったがやり遂げた。
安定したフォームで投げる事で故障した上半身にかかる負担を減らす事が出来る。その為の下半身強化であったが成果は制球力の安定と変化球のキレの向上という副産物も得た。早実との練習試合に先発して高校球界屈指のスラッガーで昨夏の甲子園大会で3本塁打した板倉を完璧に抑え込んだ。「今年は最上級生になって自覚が出てきた。今迄は人の後ろについて行くだけだったが最近は先頭に立って牽引するようになった。頼もしい限り」と古屋監督の顔もほころぶ。三浦が甲子園で躍動するのはもうすぐだ。 【 0勝0敗0S 防御率 4.94 】
秋村謙宏(宇部商→法政大学→日本石油→広島)…"津田2世"と呼ばれている中国路の速球王が宇部商・秋村謙宏だ。秋村の魅力は何と言っても140kmを優に超す速球で剛腕と呼ぶに相応しい本格派である。「去年夏の高岡商戦に負けた原因は自分の暴投や押し出し四球で、絵に描いたような一人相撲でした。今度こそチーム全体の力で優勝を目指します」と精神面の成長が見える。秋の中国大会では4試合・36回を投げて防御率1. 25 、1試合平均奪三振は8. 5個と好投したように見えたが本人は「もう一つだった」と納得していなかった。
何が不満だったのか?実は甲子園大会後に肩を痛めてしまい思ったような投球が出来ず「直球は7割程度の力でしか投げられなかった」からだ。その肩痛も温泉治療が功を奏して既に完治。本格的な投げ込みは2月中旬以降になるが今は何の不安もなく2度目の甲子園に向けて準備万端だ。「去年の敗戦と肩痛を乗り越えた事で自分では精神的に粘りが出てきたように感じます。球速?去年以上の数字を出す自信は有ります」中国地方では津田(南陽工→広島カープ)以来の逸材が一回りスケールアップして甲子園に戻って来る。 【 9勝11敗3S 防御率 4.37 】
藤王康晴(享栄高→中日)…「チャンスに得点をあげるのが僕の役割。甲子園でも本塁打を狙います」 センバツ大会出場が決まると "尾張の大砲"は晴れの舞台での炸裂を高らかに宣言した。昨夏の愛知県予選大会から藤王の名前は日本中に知れ渡った。圧巻は一宮球場での一発。弾丸ライナーで右中間フェンスを楽々と越え、スタンド後方の競輪場内に飛び込んだ。183cm,76kgの身体から放たれる超高校級の打球は甲子園でも相手校の脅威となるに違いない。
ただ昨夏までは肝心な所で打てなかった。「無闇に遠くへ飛ばす事ばかり考えて力みが目立っていたが秋以降は力を抜く事を覚えて、コンパクトなスイングが出来るようになった」と柴垣監督。掛布に憧れるスラッガーは今センバツ大会を自らの真価を問う場と考え「20年ぶりの出場ですからデカイ事をやってみせますよ。是非とも池田高の水野君から本塁打を打って優勝したい」と活躍を誓った。 【 92安打 10本塁打 打率.220 】
山田武史(久留米商→本田技研熊本→巨人)…「ホッとしました」山田がそう語る意味は2つある。一つは勿論、4年ぶりの甲子園出場が決まった事。もう一つは投げられる喜びの安堵感。昨秋の九州大会直前に軸足である右足付け根の股関節を痛めて歩く事さえ不自由していた。大会には痛み止めの注射を打ち万全とは言えない体調で臨み準優勝、それがセンバツ大会出場につながった。年を越しても体調は戻らず「仮にセンバツ大会に出場できても投げられないのでは…」との不安が常に山田には付きまとっていた。故障の箇所が下半身だけに投球は勿論、走り込みも出来ずウェートトレーニングに努めるのみであった。
センバツ大会出場校の発表が間近に迫っても山田は「投球する際に軸足で踏ん張る事が怖くてマウンドに立てなかった」そんな山田を見かねた森監督が「いつまでもビクビクしていたって埒が開かない。軽目でいいから投げてみろ」と命じたのが1月22日の事。恐る恐るマウンドに上がり投げ始めた。最初は二分の力で、次は五分、七分…痛みは感じなかった。「良かったぁ」山田に笑顔が戻った。
177cm、66kgが公称の体格だが走り込み不足からくる体重増加で今は70kgを超えている。「今迄さんざん心配をかけたチームメイトの為にも甲子園では思いっきり頑張りたい」大会本番まで残された時間は少ないが「ここまで我慢してきたので慌てる事なくやっていきます。毎年、投げ込みは今くらいから始めていたので間に合います」と本人に焦りはない。森監督も「実力、センスは申し分のない男ですからきっとやってくれます」とエースで四番の山田を信頼しきっている。 【 0勝1敗0S 防御率 4.89 】