納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
9月に入り、いよいよ終盤を迎えたペナントレースの裏で早くも来季のチーム作りの動きが火花を散らしている。今年は監督の座は比較的安泰と見られているが、それでも2~3球団の監督は冷たい批判を浴び、更迭のピンチに晒されている。トレードによるチームの刷新を図るチームも多くなりそうだ。これは渦巻く怪情報の総集編だ。
ジッと耐えた秋山監督は留任するか?
秋風が吹き始めると首筋が寒くなる監督の名前がチラホラと聞こえてくる。いま注目されているのは秋山監督(大洋)、鬼頭監督(太平洋)、与那嶺監督(中日)、吉田監督(阪神)の処遇だ。中でも秋山監督と与那嶺監督は注目度が高い。昨今のロッキード事件で耳にするようになった " ガバナビリティ " つまり統治能力が欠如していると酷評されているのが秋山監督である。監督とは現場の最高責任者として全てをまとめ、取り仕切っていくのが業務内容である。大の男たちを自分の考え一つで自由自在に動かして勝負する。負わされる責任は大きいが、やりがいもまた大きい。
ところが現在の秋山監督に全面的な指揮権はない。攻撃・守備の権限はボイヤーヘッドコーチが握り、投手に関しては児玉投手コーチとの合議制となっているが実際の投手起用は児玉コーチが決めている。要するに秋山監督はお飾りであり、選手交代を審判に告げに行く伝達係に過ぎない。先日のナゴヤ球場での中日戦、草薙球場での阪神戦では試合中にも拘らずベンチを抜け出してタバコを吸っている姿を目撃されている。それもベンチ裏で一服ではなくビジター用の控室や場内放送室の中で腰を下ろしてくつろいでいた。「今のお前はツキが落ちている。しばらくボイヤーに任せてみろ」との中部オーナーの鶴の一声で現場の指揮権を剥奪された秋山監督の何やら考え込んでいる後ろ姿には孤独の影が滲んでいた。
「成績不振の責任を取って身を引くのは簡単だ。しかし与えられた任務を途中で投げ出す訳にはいかない。男にはジッと耐えなければならない時もある。今がその時だと思う」と秋山監督はジッと我慢の子を決め込んでいる。球団内部ではこの秋山監督の忍耐力を評価し、来年もう1年様子を見て留任させてもよいのではないか、という声もあるがボイヤーコーチの手腕に期待する勢力との内部対立が顕著になってきており秋山監督の去就は流動的だ。最終的な決定をする中部オーナーの胸の内には別当薫氏をはじめ、2~3人の候補者が存在していると伝えられている。
牧野の線より与那嶺監督留任が強い
はっきり言って最も安泰と見られていた中日・与那嶺監督がBクラス転落でにわかに「もしかしたら危ないかも」という空気が漂い始めている。小山球団社長の信頼が厚く与那嶺監督の任期はあと1年残っており留任の見方が依然として強いのだが、結果が全ての勝負の世界では「絶対」はない。仮に監督解任となったら次期監督は誰か?第一候補は2年前まで巨人のヘッドコーチだった牧野茂氏であることは名古屋地区のマスコミ関係者の間では公然の秘密となっている。
昨年末、名古屋市内のホテルで牧野氏の長女・弘子さんの結婚披露宴が催され、来賓に招待された小山球団社長がスピーチの中で「牧野君はいずれドラゴンズの監督を引き受けてもらいたい人物である」と発言した。勿論、リップサービスだろうが当時それを伝え聞いた与那嶺監督がわざわざ東京から名古屋の球団事務所に駆けつけて発言の真意を問い質したというのだから穏やかでない。結局小山球団社長が「他意はない」と否定したことで一件落着した。折も折り、時期を同じくして中日OBの杉下茂氏がライバル球団の垣根を越えて巨人の投手コーチに就任したことも牧野監督誕生の現実味が帯びた原因の一つである。
だがこの小山発言を快く思っていない中日新聞幹部がいる。「中日出身でありながら巨人のヘッドコーチとして花を咲かせたのが牧野だ。ただ牧野は選手として大成したわけではないから中日色がそれほど強くなく名古屋のファンも大人しくしていたが、今度はスター選手だった杉下までもが讀賣の軍門に下るとは何たることだ」といたく気分を害しているようで、巨人の手垢がついた " 牧野監督 " は聞捨てならない発言だったらしい。当の牧野氏は最近、中日に近い関係者に「中日のウォーリーは幾ら貰っているの?エッ1800万円、ずいぶん安いんだな」と尋ねて驚いたそうだ。牧野氏の年収は2500万円ほどで余程の好条件を提示されない限り監督就任はないだろう。したがって与那嶺監督留任が固いのである。
難しい田淵間違えば波乱
昨季は43本塁打で念願の本塁打王に輝いた田淵選手(阪神)だが今季は不振にあえいでいる。不振は打撃だけでなく守備の面でも「プロ失格」と評論家から酷評されるも本人は気にも留めていないから始末が悪い。田淵を持て余している阪神が田淵をトレード要員にして大型トレードを画策しているのではと書く在阪スポーツ紙は1社だけではない。トレードはないにしても、このままの状態が続けば大幅減俸は免れない。田淵は年俸3200万円の阪神きってのスター選手。昭和49年1200万円、同50年には2000万円の大台を突破して、昨年末の契約更改で球団史上初の3000万円台の高給取りとなった。この金額は王選手の5800万円、野村選手の3500万円に次ぐ日本No,3だ。しかも王にはコーチ料、野村には監督としての報酬が含まれており実質的には田淵が日本最高なのだ。
「20%ダウンは当然でしょう。それでも2500万円ですよ。本当なら1年前の2000万円に戻してもいいくらい」と話すのは阪神OB評論家。田淵本人は減俸を覚悟しているそうだが、問題は減額幅。阪神担当記者は「恐らく球団は大幅ダウンを提示できないだろう。なぜなら詳しくは話せないが博子夫人が球団代表と監督の急所を握っているというもっぱらの噂話があるんですよ。彼女が裏で駆け引きをやっているから球団は強い態度に出れない。せいぜい現状維持かダウンしても3000万円は切らない。問題は他の選手の動向ですね。球団の弱腰ぶりを目の当たりにした選手たちが強気に出る可能性がある」と声を潜める。
阪神という球団は不思議なチームで、かつては小山・村山、最近では江夏らスター選手の扱い方で揉め事を起こしている。スター選手の我が儘を許すことで他の選手との間に溝を作り、チームの和にヒビを入らせてきた。スター選手がスターらしく振舞い、リーダーシップを発揮して活躍すれば問題はないのだが、時としてスターに相応しくない言動でチーム内で浮いた存在になることが阪神では繰り返されてきた。今回の田淵がどのような態度で契約更改交渉に臨むのか。もしも球団から大幅ダウンを提示されてホールドアウト(契約拒否)といった態度を示した時に吉田監督の出番がくるかもしれないが、扱い方を間違えると吉田監督自身の進退に火の粉が降りかかる可能性もある。
別所毅彦(昭和17年~昭和35年)
鉄腕というと稲尾を思い浮かべる人が多いだろうが、元祖は別所である。それを示すのが2リーグ分裂前の昭和22年に記録したシーズン最多完投記録の47試合だ。ちなみにセ・リーグ記録は昭和30年・金田(国鉄)の「34」、パ・リーグは昭和44年・鈴木啓(近鉄)の「28」である。昭和18年に若林(阪神)が39試合に先発して全試合完投をしたが当時の打者の平均打率は1割9分6厘と打撃の技量は低かった。別所が記録達成した年の平均打率は2割3分2厘と向上しただけに価値がある。更に巨人に移籍した昭和25年以降の勝率6割6分8厘(207勝103敗)もセ・リーグの通算勝率記録(投球回数2000イニング以上)として現在でも破られていない。
また南海の球団史上、唯一のノーヒットノーラン達成投手でもある。プロ入り2年目の昭和18年5月26日の大和戦で記録したのだが、惜しかったのは4日後の同じく大和戦で1安打完封したのだ。もしもこの1安打がなければ空前絶後の2試合連続の大記録だった。その後も昭和27年、30年にも1安打試合はあったが、ノーヒットノーランは達成できなかった。特に昭和27年の松竹戦の1安打試合は9回二死までパーフェクトに抑えていたが、27人目の打者に内野安打を許し大記録を逃した。
この27人目の打者はプロ入り2年目の控え捕手の神崎安隆。代打に起用されたが打てそうな気配はなく、二度セーフティーバントを試みたが失敗。別所も大記録目前で力が入り制球を乱してボールカウントは2-3のフルカウント。6球目を打ったが詰まったショートゴロ。遊撃手の平井が懸命に前進し打球を処理したが、前日の雨でぬかるんだグラウンドに足を取られて一塁送球が遅れて内野安打となった。大記録を阻止した神崎はプロ在籍4年で放った安打がこの時の1本のみ。別所にとって悔やんでも悔やみきれない結果となった。
別所の特筆すべきは投げるだけではないこと。昭和17年に滝川中学から南海に入団し、10月10日の巨人戦でデビューしたのだが、投手ではなく「三番・左翼手」だった。いかに投打ともに傑出していたかが分かる。選手層が薄かった終戦直後の昭和21年には投手として42試合に登板する傍ら、一塁手で22試合・外野手として5試合に出場した。他にも代打に起用されたのも一度や二度ではない。その間の打撃成績は2割5分3厘(二塁打15・三塁打6・本塁打4など計62安打)と野手顔負けだった。昭和23年は51安打、昭和25年も51安打し打率は3割を優に超えた。17年間で通算499安打・打率.253。本塁打は31本を放ったがこれは金田(36本)、米田(33本)に次ぐ歴代3位である。
吉田義男(昭和28年~昭和44年)
昭和28年、阪神に吉田義男が入団した。1㍍65㌢ はプロ野球界は勿論、一般社会でも小柄な部類だった。当時の監督は松木謙治郎。松木は春季キャンプに明治大学時代の恩師でもある岡田源三郎を招いた。岡田はノックの名人で左中間に直径2mの円を描いてホームベース上からその円を目がけてノックをすると打球は10球中5球は円内に落ちた。話はキャンプに戻る。遊撃のレギュラーは白坂長栄で新人の吉田は当然控え選手だった。キャンプイン2日目、ノックをしていた岡田が松木を呼び「おい松木、これから白坂とあのチビ(吉田)にノックをするからよく見とけ」と言うと3バウンド目で二塁ベース上を通過する球を打った。白坂は5~6歩ダッシュしたが二塁ベースまであと1mほど届かなかった。次は吉田の番。打球は白坂の時と寸分たがわぬコースを行き二塁ベース上を通った。次の瞬間、松木は目を疑った。二塁ベースの2m後方で吉田が捕球した。遊撃のレギュラーが吉田に決まった瞬間だった。次の日から白坂は二塁手として練習するようになった。
打撃と違い守備を数字で評価するのは難しいが吉田の守備範囲の広さを物語る数字がある。補殺数である。補殺とはその大半がゴロを捕球し一塁などに送球してアウトを記録すると残る数字だ。吉田は昭和28年464補殺、29年448補殺、30年436補殺を記録した。吉田とは同世代で同じ遊撃手として人気を二分した広岡(巨人)の最多補殺数は昭和30年の384である。昭和41年頃から年齢的な肩の衰えが見え始めた吉田は二塁を守る機会が増えた。それに伴い、吉田以外の阪神遊撃手の補殺数は目に見えて減少した。昭和40年の吉田は471補殺、吉田の二塁転向後の昭和42年の阪神遊撃手の合計は380補殺だった。その差の全てがそうだとは言えないが吉田なら捕球しアウトにしていた打球を安打にしてしまった可能性は高い。
打撃に関しては小柄でグリップエンドを大きく空けてコンパクトなスイングに徹していたせいもあり、三振の少ない打者であった。規定打席以上の選手の中で最少三振打者になったのが10回。昭和35年から40年にかけては6年連続でセ・リーグの最少三振打者になっている。昭和39年には3月28日の対大洋戦、7回に高橋投手に三振を喫したのを最後に6月2日の同じく大洋戦で大崎投手の速球に空振り三振するまで実に179打席連続無三振だった。こうした場合は記録を意識するあまり中途半端なスイングになり打率は下がりがちになるのが通例で、過去に昭和30年から31年にかけて浜田義雄(東映)が196打席連続無三振記録を残した時は打率1割8分1厘の低打率だった。しかし吉田は3割1分6厘・4本塁打だった。
通算4490奪三振の金田正一が一番の苦手としたのが吉田だった。 " 打撃の神様 " 川上から9年間に41奪三振、長嶋からは7年間で31奪三振なのに吉田からは17年間で僅か15奪三振と1シーズンに1三振に満たない割合だった。しかも昭和35年からの4年間はゼロである。ただ三振しないだけではない。17年間の対戦で329打数102安打・打率3割1分0厘。吉田の通算本塁打は66本だが金田からは8本と、金田をお得意様にしていたのが分かる。そんなカモにしていた金田に対して昭和44年は8打数無安打に終わった。この年限りで吉田は引退するのだが、9月21日の試合が金田との最後の対戦となった。7回に代打に起用され遊ゴロ、9回は最後の打者で二ゴロに倒れ金田は勝利した。ちなみにこの試合が金田の現役最後の完投勝利試合だった。
黄金の足と言われ、1億円の傷害保険が掛けられている阪急の福本豊選手。しかし、どうしたことか今年はその出足が鈍いのである。6年連続盗塁王の福本に鉛のような重い足。いったいどうしたというのだろう
昨年の盗塁数減少とただいま2位
タイトルの常連は辛いものだ。王選手が少し調子を崩して本塁打を放つペースが減速しただけで周りが大騒ぎをするように、塁に出れば盗塁するのが当たり前と思われている福本選手の盗塁のペースがダウンすると「福本はどこか故障しているのでは?」や酷いのになると「もう福本は限界や。なんや鉛の靴でも履いているようや」などと言われてしまう。そんなに今季の福本は走れなくなったのであろうか?確かに6月2日現在、盗塁数トップは藤原選手(南海)で福本は2個差の18個で2位だ。数字的にも盗塁のペースは例年に比べて遅い。106個のシーズン記録を達成した昭和47年は5月末で28個だった。
勿論、7連続盗塁王を目指している福本にとって現在の18個は満足できる数字ではない。しかもペースダウンは昨季からで、盗塁王のタイトルを獲得したものの63個は福本にしては寂しい。63個は過去6年間で最低の数字だ。昨季については福本自身「とにかく打撃フォームがガタガタでヒットが打てなかった。出塁できないのだから盗塁数が増えないのは当たり前。打率3割は当然と根拠なく考えていた自分の慢心が原因。とにかく前期は最悪だった。後期で盛り返したけど1年トータルしても最悪のシーズンだった」と振り返ったように前期の極度のスランプを脱した後期には3割近くの打率を残したが、トータルでは打率.259 に留まり、盗塁数も伸びなかった。
まだ " 4足 " で足りているシューズ
今季は昨季に比べれば格段に打撃の調子はいい。開幕から打撃ベスト10に顔を出し、首位打者も狙える位置にいる。なのに盗塁数は思ったほど伸びない。昨季のような打てないから盗塁できないという言い訳は通用しない。となると原因は何か?「上手くは言えないがどうもタイミングがしっくりしない。相手バッテリーの呼吸を読み取るのが下手になったのかなぁ」と福本本人も首を傾げている。そういえば今季の福本は盗塁死よりも牽制で刺される場面が目立つ。上田監督に言わせれば「フク(福本)に対する牽制はボークまがいのものが多い。審判がもう少し厳格にジャッジしてくれたら牽制死はかなり減る筈」と。
他球団の投手がボークぎりぎりの牽制球をするくらい福本の足は依然として警戒されており、まだまだ健在であるが気になる現象もある。それはスパイクシューズだ。例年ならこの時期ならスパイクを8足くらい履き潰している。それが今季はまだ4足。盗塁で滑り込みをする機会が多い福本のスパイク消費は他の選手より早いのは当然。それだけ今季は盗塁する回数自体が減っていることを表している。また他にも今季の阪急打線の攻撃パターンの変化が盗塁数減少の原因ではないかという意見もある。これまでは出塁した福本が盗塁してスコアリングポジションに行き、次打者以降の適時打で得点するのが阪急の得点パターンであったがそれが今季は変わったと言うのだ。
今季の阪急打線の特徴は上位、下位の分け隔てなく長打が多いのが顕著である。特にマルカーノ、ウイリアムスの両外人が打ちまくっていて、福本が危険を冒して盗塁しなくても長打で一塁から長駆ホームインする場面が多い。「今年のウチの打線は長打が多いから盗塁しなくても得点できる。段々走る意欲が減ってきたよ(福本)」と苦笑い。確かに6月2日現在、チーム打率はリーグ1位。先発レギュラーメンバーだけで80本を超す長打を誇る打線の破壊力は絶大だ。つまり攻撃力の増大でこれまでの足を絡めた攻撃パターンが不必要になったせいで、福本の盗塁数も減ったという意見だ。
阪急のマジック灯した福本の快足
つまり福本の足が衰えたのではない。徐々にだが福本の存在感が増してきている。6月2日、近鉄戦前の日生球場の阪急ベンチ内では今後の試合日程が話題になっていた。走り梅雨の影響で5月中の試合がかなり中止になり、そのしわ寄せで6月の日程は9日間で11試合を消化する超過密で試合前の空気は重かったが「頑張ろうや!」と福本が一喝すると「よっしゃ~、やったろうやないか」とベンチの雰囲気は一変した。試合は8回表一死、左前安打で出塁した福本が二盗、三盗を鮮やかに決め、加藤選手の適時打で近鉄に競り勝って、マジックナンバー「18」が点灯した。
徐々に調子を取り戻しつつある福本は「去年は100盗塁を目標にしながら63個に終わり不本意なシーズンだった。今年も前半は去年を引きずっている感じだったけど、今後は追い上げてみせる。目標は勿論100盗塁」と自信も蘇ってきた。福本は気分屋で気持ちが入るとガンガン飛ばして手がつけられないプレーを見せるが一旦落ち込むと再上昇するまで時間がかかるタイプといわれている。6月の阪急は5月以上のハードスケジュールが続くが独走状態で前期優勝は間違いない。相手チームの視線は既に後期に向いており、福本の盗塁にさほど神経質になっていない今なら勢いに乗って盗塁数を増やすことも難しくない。
盗塁王と新記録に首位打者も狙う
昨季が終わった時点で通算550盗塁まであと46個。目標通り100盗塁をクリアすれば広瀬選手(南海)が持つ日本記録(593個)更新も実現する。更にもう一つの目標が首位打者のタイトルだ。現在のトップは同僚の加藤選手。「チャ(加藤)は粘り強く向こう意気が強い。フクはソフトで気は優しく、二人は対照的だがウチの打線はこの二人が中核」とナインからの信頼も厚いライバル同士。「去年までとは違って今年のフクは相手投手の球を最後までしっかり見ている。球を呼び込んで強く叩くタイミングも文句なし」と上田監督もベタ褒め。ヒットを打って出塁すれば必然的に盗塁のチャンスも増える。首位打者になれば盗塁王のタイトルもついてくるだろう。
盗塁数を増やすことがファンの声援に応える術である。中でも福本最大のファンは美津子夫人である。シーズン直前、美津子夫人が「あなたの公式戦の成績は毎年オープン戦の成績で占えるのよ知ってた?オープン戦が良かった年は公式戦の打率はいいし、盗塁の数も増えているんです」と夫人お手製のスクラップブックを持ち出してデータを示してくれた。振り返ってみれば今年のオープン戦は打率.372 ・8盗塁だった。確かに打率は打撃ベスト10から落ちることなくトップの加藤を追っている。ただし盗塁数は40試合を消化した時点で例年なら25個前後はあっていい筈なのだが16個留まり。美津子夫人の為にも6月の声と同時に猛ダッシュをしていくことになるだろう。
この声、不満、お願い…切符も取れない。テレビも見れない。ファンのイライラどうするの?
堀内がコケたらシュウマイが売れた。巷ではそんな現象が起きているそうだ。つまり堀内が打たれて巨人のリードが無くなり試合は延長戦へ突入。当然日本テレビの中継は終了してしまうが、今ではローカル局のテレビ神奈川でリレー中継を行なっている。そのスポンサーがシュウマイで有名な某●●軒で、CMを見た視聴者のシュウマイ購買量が増えたというわけだ。今季の巨人は打高投低で打線が爆発し攻撃時間が長くなったり、逆に相手打線に打ち込まれてこれまた試合時間が伸びてテレビ中継の枠に収まらないケースが多々あった。6月3日の中日戦では日本テレビの中継が終了した時点は7回表で4対2で巨人がリード。巨人ファンの多くがテレビ神奈川にチャンネルを変えた。そしてまたシュウマイが売れたのだ。
テレビ神奈川を見られないファンの「あぁウチの地方ローカル局もリレー中継しないかなぁ」と嘆く声が多いという。ローカル局にとってこれほど局のイメージアップはない。全国ネット局の傘下にないローカル局はいろいろな努力と工夫を凝らしてきた。ネット局が扱わない東京六大学野球や高校野球の地方予選の放映など数少ない人数で早朝から夜遅くまで関係各位を飛び回り " 持たざる局 " の悲哀をグッと堪え、もがき苦しんで頭を絞って考え出したのが巨人戦のリレー中継なのである。
テレビ関係者によると「成功するだろうという漠然とした思いはあったが、ここまで爆発的な人気になるとは」と驚いている。スポンサー協会の「第5回・民放テレビ局サービスエリア調査」によると昭和48年に約300万台だったテレビ神奈川の受信台数は昭和50年には約80%増の550万台に達した。リレー中継は後楽園球場で行われる巨人軍主催の全42試合をカバーする。テレビ神奈川に続き千葉テレビ、群馬テレビもこれに追随したことからもリレー中継の人気が分かる。「いつもハラハラドキドキする場面で時間切れになるのが癪だからリレー中継を見たい。放送を見るにはどうすればいいのか教えて欲しい」という視聴者の声が各ローカル局に殺到しているという。
長々とリレー中継の話をしたのはそれだけ多くの野球ファンがナイター中継の「誠に残念ですが間もなく中継を終了します」という時間切れに対して不満を抱いている事実の証明になるからだ。否、不満というより怒り・憤慨に近い気持ちだろう。『ギャートルズ』や『花の係長』でお馴染みの文春漫画賞受賞作家・園山俊二氏に言わせると「試合のクライマックスで平然と中継をやめてしまうのは世界でも例のない愚行である。だって一番面白い場面でやめるなんて漫画や小説の世界では有り得ない。『続きは次号で』なんて手法を何回も使ったら読者にソッポを向かれてしまう。よくもまぁ野球ファンは大人しく黙っているよね」と嘆く。
日本テレビの関係者はヤケ気味に「いっそのこと午後7時半からテレビ神奈川に中継してもらってウチはその後にやればいいんじゃないかな」と。いい例が4月の大洋戦。この試合は終了時刻が午後10時過ぎだったが、日本テレビの中継時間は1時間20分、テレビ神奈川は1時間17分と差は無かった。テレビ神奈川の視聴率も凄い。昨年は平均16%でこれはローカル局としては異例の高視聴率だ。一方で中継を打ち切られたファンの抗議の電話が日本テレビに殺到する。「責任者を出せ」から始まり挙句には「社長を出せ」とエスカレートする。ならば日本テレビは中継を延長すればいいではないか。だがそんな単純な話ではないのだ。
もう既に来年の巨人戦ナイター中継のスポンサーとの交渉は始まっている。野球に限った話ではなく午後9時以降の番組スポンサーも決めなくてはならない。その席で午後9時半まで中継してはとスポンサーに進言しても相手から色よい返事は来ない。早々と9時前に試合が終わったらどうするのか。例えば9時から野球と無関係の別番組を放送するとしてもスポンサーは納得しない。視聴率を稼げない番組に巨人戦用の高額スポンサー料を払うことは割に合わないと判断するからだ。テレビ局側が1分1秒で他局と視聴率を争っているのと同様にスポンサー側も高視聴率の対価としてお金を払っているのである。
「全国ネット局は貴重な時間帯を売っているので完全中継は無理だがウチは開局以来、ローカル局としての使命を果たしている」と胸を張るのは神戸で昭和44年の開局後8年間ずっと阪神の試合をプレーボールからゲームセットまで中継しているサンテレビの関係者だ。甲子園球場での試合だけではない。広島に遠征すれば25人の中継スタッフがチームに同行する。近畿以西はサンテレビが担当し、名古屋に行けば三重テレビ、川崎に行けばテレビ神奈川に依頼して阪神戦を中継する。こういうローカル局による共同制作、共同セールスはこれからのローカル局にとって業界を生き抜いていく理想的な形なのではないだろうか。
さて野球中継に関してファンの間でもう一つの不満が「なぜ巨人戦ばかりなのか」である。他球団同士の試合も、パ・リーグの試合も見たいという声が少なからず存在する。そうした声に応える形で誕生したのがフジテレビで午後11時10分から放送された『プロ野球ニュース』である。30分番組であるが巨人戦だけでなく全12球団を扱う番組は画期的であった。しかし、巨人戦以外の生中継にはまだまだ高いハードルがあった。フジテレビの関係者によると「プロ野球ニュースの成功で巨人戦以外の試合を中継したこともあるんですが、結果は大失敗でした。次回?ウ~ン、ちょっと難しいかな」と低視聴率に終わった事実を明かした。
アンチ巨人派やパ・リーグ愛好者が「巨人戦以外の試合を中継しろ」と声高に叫んでも視聴率という高い壁の前ではどうにもならない。ファンの気持ちは理解できる。しかし現状の視聴率では無理だ。そもそもスポンサーが付かない。「中継するだけで大赤字。どうしてテレビ局が奉仕しなくちゃならないのか」とフジテレビ以外の局員も言う。「パ・リーグの試合を中継する方法がある。各親会社がスポンサーとなること。南海や阪急は勿論、ロッテだって今や一流企業。自分の球団の試合にお金を出してくれれば明日からでも中継できる。自分達でお金は出さず他人任せは虫が良すぎる」とテレビ局関係者は言う。当分はスポンサー不要のNHKに頼らざるを得ない。