納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
山崎隆造…周りが結婚ブームなので焦った訳ではなかったんですけど年明けの1月9日に結婚式を挙げました。5月には広島市小町に7階建ての新居が完成します。随分と借金をしましたし頑張らないと。去年、初めて受賞したベストナインとダイアモンドグラブ賞はこれからもずっと手放したくないですね。加えて今年の目標は大きく首位打者です。過去にスイッチヒッターで首位打者になった人はいないので是非とも第1号になりたいです。
長嶋 清…昨年はオープン戦大賞、日本シリーズMVP受賞と最初と最後だけ目立ったシーズンでした。皆から散々「中抜け」と冷やかされました。今年は何が何でも1年を通して働いて初の打率3割を達成して皆を見返したいですね。それから僕も結婚して世間的には一人前の大人になれたと思いますが野球界で一人前と認められるには数字を残さないとダメ。130試合フル出場して3割打って一人前になってみせます。
阿部慶二…プロ入り初打席に槙原投手(巨人)から代打本塁打を放ったもんだから周りも自分も長打力を期待しちゃって大振りしがちだったのが昨年の反省点です。秋のキャンプで自分は中距離打者であると再認識しました。それから本当はオフに結婚する予定でしたが祖父が亡くなったので式は今年の秋に延期しました。今年もしも成績が悪かったら祖父にも彼女にも顔向け出来ないので頑張りますよ。
白武佳久…入団した時から3年が目途と考えていましたので、今年こそ一軍に定着して最低でも5勝はしたいです。球威には自信を持っていましたけど制球力は今イチでした。でもアメリカ教育リーグでコツを掴んだ気がするので見ていて下さい。ウチでは西田・定岡、他球団では野口(西武)・石川(ロッテ)・木戸(阪神)ら同期が結婚しましたから僕もソロソロかなと。
【 ニューパワーの年頭所信表明 :斎藤浩行 】
聞き手…月並みですが今シーズンの目標は?
斎 藤…開幕から一軍に定着する事ですね。一昨年のキャンプで目標を聞かれて「100試合出場・2割8分・20本塁打」と言った直後に
ノックの球を目に当てて1年を棒に振って以来、具体的な数字は言わないようにしています。一軍にいれば自ずと数字は付いて
来ると思ってますから
聞き手…昨秋のキャンプ以来、首脳陣は " ポストコージ " と期待していますね
斎 藤…今年でプロ4年目ですけど怪我が多くて期待を裏切ってしまったのに将来の四番と言い続けてもらい感謝しています
聞き手…今年こそ期待して大丈夫ですか?
斎 藤…昨年は二軍で2年連続本塁打王、打点王になれた。オールスター後に一軍に上がり9月下旬の阪神戦で中田投手から
二塁打、更に日米野球では本塁打も打てた。何か今迄と少し違う気がしてて自分でも期待しています
聞き手…具体的にこれまでと何が違うのですか?
斎 藤…楽に構えられるようになりました。今までは目一杯フルスイングしてましたが今は七~八分の力で振ってます。それでも
飛距離はさほど変わらない。気づくのに3年かかりましたけど(笑い)
聞き手…このオフはどんなトレーニングをしてきたのですか?
斎 藤…筋肉を維持する為に水泳やランニング、それとビニールハウス内でスポンジボールを女房に投げてもらって打ってました
素振りは1日平均300本くらいかな。とにかく必死ですよ
聞き手…ところで初めての赤ちゃんが3月に誕生予定とか。やはり励みになる?
斎 藤…高橋さんの結婚式でガッツ石松さんが『子供が生まれてから世界チャンピオンになった』と話していたけど僕も子供が
生まれると知った時からバッティングが変わったような気がします。不思議ですね、とにかく頑張りますよ
三連覇を逃した西武には減俸の嵐が吹きまくっている。大田、高橋直といった高給取りなら多少の減俸など平気だが元々が安月給の若手にはダウンは痛い。六百七十万円の工藤公康は今季ほとんど戦力にならず六百万円に減俸され「小遣いの額を減らさなくちゃ」と頭をかくが身軽な独身者なので悲壮感はない。だが妻帯者となると話は違ってくる。七百五十万円から五十万円減となった岡村隆則は九月に長女が生まれたばかり。「一昨年、昨年とチームが連覇しても大してアップしなかったのにダウン額はかなりのもの。子供も生まれて何かと物入りなので…」と最初の交渉では保留し粘ったが渋々折れた。
永射保は選手会長だけあって交渉事に慣れているのか坂井代表と論陣を張り合った。
代 表…百万円のダウンで一千九百万円だね
永 射…ダウン?成績は前年より良かったから僕はアップだと思ってました。どうしてダウンなのですか?
代 表…確かに勝ち星は2勝から6勝と増えたけど防御率は悪化するなど総合すると貢献ポイントが去年より低いんだ
永 射…でも貢献ポイントは低くてもプラスなんですよね、せめて現状維持じゃないんですか?
代 表…一昨年は3勝から2勝と勝ち星を減らしたけどアップしたでしょ?貢献ポイントとはそういう事。成績だけじゃないんだ
話は広岡監督の投手起用法にまで及んだとか。立花義家は二千万円から一千七百万円へ。成績が悪かったので覚悟はしていたものの「金額を見たとたん余りにもショックで思わず席を立ってしまいました」と。その去り方に迫力があったのか次回の交渉ではダウン額が三百万円から二百五十万円に抑えられたとか。森繁和は潔い。右手に判子を持ったまま代表室に入り三千五百五十万円から三千四百万円へダウンした数字を見るやいなや、ポン。松沼雅之も「悩まされてきた肩痛がほぼ治った。来年は減った分を取り戻す」と百万円ダウンの二千六百万円にあっさりサインした。来季に自信を持っている選手は概ねダウン提示にも簡単にサインする。チームの勝利に貢献出来ればアップする事を知っているからだ。これが西武の特徴である。
西武の若手はこの先いくらでも挽回できるだろうが後がないベテラン選手だとそうはいかない。嘗ては若松とチーム No,1年俸争いを繰り広げていた松岡弘(ヤクルト)は今やチームトップ10からも弾き出されそうである。ヤクルトはファミリー的な雰囲気で選手の更改交渉時間は1人平均5分と短い。そんな中、松岡は異例の " 25分間 " に及ぶ交渉となった。「1勝5敗、防御率 6.56 じゃ規定最高の25%減でも仕方ないんだよ」と相馬球団代表。しかし、そこはヤクルト一筋で191勝を積み重ねてきた功労者の気持ちも理解できる。粘りに粘ったが「自分の価値は周囲が決めるもの。もうゴチャゴチャ言わない」と最後は陥落し、手取り月額百五十八万円から百二十六万円にダウンしてもサインした。「月に三十二万円は大きいです。可哀そうだけどお父さんのお小遣いを減らさせてもらいます。オフの旅行も控えなくては」と美佐緒夫人は財布の紐をしめる。
松岡はアッサリ陥落したが斎藤明夫(大洋)は徹底抗戦の構えだ。昨年は11勝6敗10Sと不本意な成績だったが、この3年間で26勝20敗62Sと貢献してきた男である。1年だけの成績不振を理由に15%ダウンの六百万円減はおいそれと受け入れ難い。「球団の言い分は僕が打たれた場面が目立ったから、だった。確かに大量点差を守れなかった試合もあったけど15%は有り得ない。だってチームイチのダウン率だよ、言っちゃなんだが僕より下げられてもおかしくない選手もいるのに。絶対に現状維持まで持ち込むよ」と納得するには程遠い。斎藤は選手会長だから最下位転落のスケープゴートにされた可能性が高い。提示を保留した日の斎藤家では「パパどうだった?(典子夫人)」「15%やて。話にならんわ(斎藤)」との会話が交わされたが典子夫人はその場に座り込んでしまったという。
3年連続の首位打者だったが今季は無冠に終わった落合博満(ロッテ)は姉さん女房の信子夫人と再婚し東京・世田谷区赤堤に1億7千万円の白亜の豪邸を建て新生活をスタートさせている。新居は落合の31回目の誕生日に当たる12月9日に完成させた。玄関の上にはステンドグラスが飾られ、柱は古代ギリシアのコリント様式など凝りに凝っている。そして玄関をくぐると10畳は優に越す広いリビングルーム。4LDKながらサウナルームも完備しており、車庫は2台入る広さでスイッチひとつで扉は自動開閉するなど至れり尽くせり。総額1億7千万円也の内、7千万円はキャッシュで1億円が借金。球界トップクラスの五千九百四十万円の高給取りの落合でも毎月140万円の返済は大変だが本人は「これだけ借金があれば嫌でもやらざるを得ず、いい刺激だよ。打率4割を達成して年俸1億が目標」と意に介していない。
昨年暮れから続いたプロ野球界の年に一度の賃上げ闘争はほぼ終結した。各球団のトップクラスはともかく、10位前後の選手の年俸は案外と分からないもの。 " 男の名誉 " をかけたマネーウォーズを紹介する(金額は推定・1月6日現在)。
絶対的エース・山田をして「ホント絵になる男よ」と言わしめた今井雄太郎(阪急)。これまで何度か浮き沈みを繰り返してきたが遂にド~ンと二千万円アップの四千万円をゲット。高給取りが揃っている阪急にあっても山田、福本、水谷、蓑田に次いで5人目(外人選手を除く)となる四千万円プレーヤーの誕生である。「やった!ちょうど四ッつや。これで俺も中心選手の一員だ」と会見でデッカイ鼻の穴をおっ広げた。ところが少し落ち着くと「ありゃ、カァちゃんに『四千五百万円いかなんだらハンコを押したらアカン』と言われてたんや…」と恵美子夫人の言葉を思い出してビクついたのは恐妻家の今井らしい御愛嬌。ともあれ二度目の最多勝と両リーグ唯一の20勝投手は苦節14年、やっと一流プレーヤーの仲間入りを果たした。
そんな今井がしみじみと振り返るのが昭和57年の大不振。前年に19勝で初の最多勝に輝き年俸も軽く一千万円をクリアして「さぁこれから」と意気込んだが6勝11敗と惨憺たる結果で減俸の憂き目に。今井は別名が " 隔年投手 " と揶揄され年俸が上昇一方通行のエスカレーターに乗り損ね、上下動が激しいエレベーターに乗る羽目になった。翌58年に15勝し二千万円の大台に乗せ、昨年は念願の2年連続好成績を修めた。さて、左ウチワの今井と思いきや「初めて続けて給料が上がって来年どれだけ税金を納めるのか気が気でない」とせっせと貯金に励むのだそうだ。車の免許は持っているが愛車はなく今後もベンツなど高級車を買う予定はない。それは決してケチなのではなく家の外で思う存分お酒を飲む為だそうで現役の間は車を運転しないと恵美子夫人と約束していて " 庶民派ユウちゃん " は当分続く。
お次の大石大二郎(近鉄)も見事なアップ率だ。入団時が三百三十万円、その後は三百八十万円、一千万円、二千万円と順調にアップし昨年の更改で60%アップの三千二百万円で一発でサインした。「すごい。プロはやればやっただけ給料が上がる。やはり遣り甲斐がありますね」 昨季、130試合フル出場しベストナインとダイアモンドグラブ賞を受賞、2年連続で盗塁王も手にし今やパ・リーグを代表する二塁手で年俸もホップ・ステップ・ジャンプだ。「プロに入った時からもっともっと欲しい、という希望を抱いてきましたからね。まぁこれだけの金額になるとそれに見合うだけのプレーをしないとね」 来季、3割・3年連続盗塁王に燃える大石だが年俸三千二百万円ともなればリッチな生活が待っている。昨年の秋に大阪・都島区にマンションを購入した。
「二千六百万円でしたが全て借金ですよ。でも2年で完済する予定です。小遣い?1ヶ月50万くらいですかね」懐が寂しいサラリーマンには何とも羨ましい限りだが、呑めば一晩でボトル1本くらい軽く空けてしまう酒豪でもある大石が銀座へ繰り出せば30万円はアッという間に泡と消えるだけに50万で足りない月もあるそうだ。「でもね、その反面しまり屋でもあるんですよ。マンションに帰れば小さな灯りでもこまめに消しますし、歯を磨いている最中の水道は流しっ放しには決してしません」と。さて、女性ファンが最も気を揉んでいるであろう大石の結婚について本人は「住む所は取り敢えずは確保しましたし、後は相手を探すだけです。出来れば30歳くらい迄に結婚したいですね」らしい。
金額ではなくアップ率だけなら中日の牛島和彦と上川誠二の投打の若手が筆頭だ。いかに思惑以上のアップだったのかは2人の更改直後の同僚選手の声で分かる。限りなく最下位に近い5位から2位に躍進したものの、球団の財布のヒモは固く「カミ(上川)があんなに上がっているのに(大島)」、「牛島のアップ率は本当?それにひきかえ俺は…(小松)」等々、先輩達は愚痴る愚痴る。普段なら選手は他人の年俸について一種タブー視して多くを語る事はない。なのに敢えて2人の名前を挙げたのは2人が如何に恵まれたか、を示している。事実、「信賞必罰を徹底化した結果です(伊藤球団代表代理)」と2人の大幅アップを認めている。2人は一体いくらアップしたのか?年俸九百万円の上川は120%増の二千万円、同じく一千八百万円だった牛島は倍増の三千六百万円で更改した。
本人達もビックリの大幅アップを手にした2人だがその使い途も似ていて堅実だ。上川は「月に百万くらいは定期にするつもり」とアップ分をそっくりマイホームの建築費に充てる予定。今オフに元ミスユニバース日本代表の久恵夫人と結婚し新居を物色中である。一方の牛島も実家(大阪・大東市)が経営する喫茶店のローンが五千万円以上残っていて「アップした分は返済に充てる」と決めている。月給が税込百五十万円だった昨季の毎月の返済額は八十万円、今季は倍の三百万円の給料の内いくら返済に充てるつもりなのか?「なるべく早く完済して次は自分達の家を建てる」と息巻く。光江夫人は常々多額のローンに不安を抱えていたがホッと一息つけそうだ。中日と言えば嘗ての " 一千万円プレーヤー " の松本幸行投手は月給を貰うとその足で競馬に行きスッカラカンとなり引退した時は借金を背負っていた逸話が残っているが、今の選手達は堅実である。
エガワくん、やっぱり君は速球派だった!? 巨人低迷の " A級戦犯 " 江川が7月24日、ナゴヤ球場で行なわれたオールスターゲーム第3戦で見事な快投を演じた。4回表から全セの二番手としてマウンドに上がった江川は公式戦では見られなかった140㌔台の快速球と切れ味鋭いカーブで全パの強力打線から何と8連続三振を奪い3回をパーフェクトに抑え見事に最高殊勲選手賞に選ばれた。昭和46年、江夏(阪神)が演じた不滅の " 9連続奪三振 " の再現か、とファンも両軍ベンチも息を潜めて見守ったが9人目の大石(近鉄)にカーブを引っ掛けられ二ゴロ。夢は露と消えた。しかし、この日の江川はまさに「怪物」で日頃は厳しい野次を浴びせる名古屋のファンもこの日ばかりは江川コールを大合唱し江夏の時と同様に球場全体がマウンド上の江川に注目した。
「久しぶりに本物の速球を見せてもらいました。高目で伸びる速球は珍しくないが今日の江川君は低目の球がホップして伸びる。更にカーブのキレが凄く、あれじゃ打てなくて当然です」と球審を務めた五十嵐審判員。打つどころかオールスター戦に選ばれた各球団の一流打者がまともにバットに当てられず「誰だ、江川は終わったと言っていた奴は。とんでもないデマだ(阪急・福本)」「なにしろ速かった。久しぶりに本当に速い球を見た(阪急・ブーマー)」と口あんぐり状態。三冠王の落合(ロッテ)も「速い。ベース手前で球が跳ねた」と脱帽。共にカーブで三振を喫した栗橋(近鉄)、石毛・伊東(西武)は「カーブというより昔のドロップみたい。キレキレでした」とお手上げのポーズ。
先頭の福本をカウント1-3から三振させたのを皮切りに3人目のブーマーから8人目のクルーズ(日ハム)までスリーストライクは全て空振りだった。興奮したのは打者だけではない。先発して3回を2安打に抑え優秀選手賞を獲得した山内和(南海)は自分の事より「いつもなら降板後は直ぐにロッカーに行って試合は見ないんですけど思わず見入ってしまいました。ベンチから見ていても球の軌道が他の投手とは別次元でしたね。いや~、凄い物を見せてもらいました」と。また同い歳で普段からライバル意識を露わにする遠藤(大洋)ですら「ウォーミングアップ中だったんですけど途中で止めちゃいました。だって歴史の生き証人になるかもしれない場面でしたから。自分の事じゃないのにあんなに緊張したのは初めて」と興奮を隠せない。
【8連続三振の内容 ○:ストライク ◎:空振り ●:ボール △:ファール】
福 本 ●●△●○○
蓑 田 ○○△△○
ブーマー ●●△◎◎
栗 橋 ●○○◎
落 合 ●●○◎◎
石 毛 ●△○◎
伊 東 ●●△◎◎
クルーズ ◎◎◎
そして9人目。大石(近鉄)は打席に向かう前にわざわざ三塁側ベンチに歩み寄り西武・広岡監督に「代打を出さず僕でいいんですか?」と尋ねた。「いいんだお前で」と広岡監督に言われた大石は大きく深呼吸をして打席へ。打席に入ると捕手の中尾(中日)に「おい、三振してやれよ」と声を掛けられた。大石は「とんでもない。死にもの狂いでバットに当てますよ」と応えたがその声は緊張で擦れていた。しかし初球、2球目と目の醒めるような直球に手が出ずたちまち追い込まれた。江川の球筋を見定めた訳ではなかった。「ダメだ…球が見えない」と三振を覚悟した3球目、江川が投じたのはカーブだった。 " カツン "と乾いた音がして打球は一・二塁間へ。球場内は溜め息に包まれた。