納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
7月24日、西宮球場で行われたジュニアオールスター戦で3年連続苦杯を舐めていた全イ軍が4年ぶりに雪辱した。酒井投手(ヤクルト)、佐藤投手(阪急)、益山投手(阪神)などドラフト1位指名選手が登場し熱戦が繰り広げられた。
一軍の味で球宴大活躍
全イ軍は初回に島田選手(日ハム)と中畑選手(巨人)の安打と2つの犠飛で3点を先行すると先発の斉藤投手(大洋)から中山投手(巨人)、酒井投手(ヤクルト)、藤城投手(巨人)、田村投手(大洋)の小刻みの投手リレーで全ウ軍の反撃を抑えて3対2で勝利した。勝利監督の岩本巨人二軍監督は4年ぶりの勝利を喜んでいたが、通算では全ウ軍の9勝4敗3分けと5つも負け越しているので全イ軍のリーグ関係者は「この勝ちをきっかけに来年以降も勝てるよう頑張ります」と口を揃えて怪気炎をあげていた。
この試合で大活躍したのが殊勲賞と打撃賞を獲得した日ハムのルーキー・島田選手だ。2週間ほど前に上垣地選手の一軍昇格の為に島田選手は二軍落ちしたのだが、プレーぶりは攻守ともに一味ちがう格の違いを見せつけた。第1打席から中前打、右前打、右前打。全イ軍が放った7安打のうち島田選手1人で3安打と気を吐いた。「これを機会に何としてももう一度、一軍に行きたい。足を活かしてとにかくシャープさを売り物にしたい」という島田選手の一軍復帰も早まりそうだ。
久々のサッシー登場
打のヒーローが島田選手なら投の方は2人で5三振を奪った先発の斉藤投手と見事な締めくくりでセーブをあげた田村投手の大洋コンビ。しかしスタンドの注目が集まったのはやはりサッシーこと酒井投手だった。昨年の甲子園大会以来、大阪のファンの前では初お披露目だっただけに大変な歓声だった。女学生ファンの黄色い声援を受けて1イニングを3人で片づけた。投げた9球のうち4球が目下マスター中の大きなカーブ。あとは自慢の速球で受けた笠間捕手(巨人)は「あれで肩を痛めたあとなんて…。ストレートもよく伸びてましたよ」とその怪物ぶりに驚いていた。
好ライバル同士の明と暗
お互いが「彼には負けたくない」とライバル意識をムキ出しだった佐藤義投手(阪急)と益山投手(阪神)は共にドラフト1位ルーキー。先ずは佐藤投手が先発で登場した。だが地元・西宮球場という緊張があったのか打者5人に2安打1四球に味方の失策も重なり2失点。ワンアウトを取っただけで一・三塁に走者を残したまま降板。「何が何だか分からないうちに終わってしまった…」と佐藤投手は無残なKO劇にショックを隠せなかった。その後を継いだのが益山投手。当初の4回から登板する予定が急遽繰り上がったが持ち前の度胸の良さで左犠飛だけに抑え、その後も好投し打者9人を1安打・3奪三振と佐藤投手とは好対照の結果を残した。
益山投手の見せ場は全イ軍のクリーンアップに鎮座する巨人勢との対決だった。益山投手は二宮選手を胸元を突く直球で左飛、山本功選手は空振り三振、中畑選手を中飛に打ち取り次代を担う若手対決は益山投手の圧勝だった。対戦した巨人勢は二宮選手が「速さは感じなかった」と言えば、中畑選手も「ストレートもカーブも大したことないと思うんですけどねぇ…」と悔しさいっぱいで歯切れが悪い。一方の益山投手は「巨人勢?特に意識しなかったです」とケロリとしたもので、近く一軍で登板する予定もあり格の違いを見せつけて余裕たっぷりといったところだった。
初先発・福島堂々完投勝利
オールスター戦で初先発し、11本塁打を浴びながらも " 完投勝利 " を飾ったのは福島捕手ならぬ " 福島投手 " だ。実はこれ第3戦の試合前に行われたホームラン競争で投手を務めた時の話。11本塁打対10本塁打で全セが勝利し、福嶋選手は全セのナインから「ナイスピッチング」と冷やかされ照れくさそうに苦笑いしながら「初めて投手をやって固くなっちゃった。勝ててよかったよ」と勝利の弁。このホームラン競争は両リーグの3人ずつの代表が12スイングで本塁打を何本打てるかで勝負する。先攻の全パはリー選手(ロッテ)が4本、ウイリアムス選手(日ハム)と山崎選手(ロッテ)がそれぞれ3本を放ち計10本塁打。
対する全セの最初は福嶋選手の同僚・田代選手(大洋)で右に左に4本。続く大杉選手(ヤクルト)は3連発をダブルで放ち6本と大爆発し全パの10本に並び全セの負けはなくなった。最後は王選手(巨人)。「王さんならもう勝ったも当然だ」と役目を果たせると安堵する福嶋選手だったが、その王選手になかなか一発が出ない。「シーズン中なら打たれなくて喜ぶところだけど打って欲しいところで打ってくれなくて困りました」とぼやいた。ようやく10スイング目に柵越えが出て全セの勝利が決まった。
「何しろ初登板だったから大変でした。それにしてもよう打たれましたわ」と意気揚々とベンチに戻った福嶋選手は何と各チームの投手陣から歓迎を受けた。巨人以外の投手はシーズン中は王選手に打たれ泣かされ続けている。「田代選手や大杉選手には打たれましたが王選手は見事に抑えた。ウイークポイントはどこですか」と王選手を僅か1本塁打に抑えた " 福島投手 " に抑える秘訣を教えてもらおうというわけだ。 " 福島投手 " は「それは言えないな。内緒だよ」とニンマリするばかりだった。
あと5年はやれる
5月22日の対中日7回戦でプロ入り通算99勝目をあげて以来、足踏み状態だった高橋重行投手が7月20日の対ヤクルト13回戦でプロ70人目の通算100勝を達成した。この間、18回もトライしながら勝ち星に恵まれなかっただけに「長すぎて感激も薄れちゃった」と2ヶ月ぶりの勝利に苦笑い。プロ入り14年目、32歳のベテランだが「あと5年は投げられる体力とスタミナには自信がある。これで一区切りついたし、スピードアップで勝ち星を稼ぎますよ」と元気いっぱい。
高橋投手は千葉商を中退してプロ入りしたが2年間は二軍暮らしだったが、1964年に17勝し新人王に選ばれた。翌年には21勝をあげるなどその後も順調に勝ち星を重ね、一軍に昇格後6年で71勝をあげた。それが100勝まで残りの29勝をあげるのに9年もかかった計算になる。高橋投手は「150勝は絶対に達成しますよ。100勝の時に味わえなかった感激を味わうんですから」とやる気満々だ。
このツキと自信はデカイぞ
「シゲ(長嶋監督)に感謝状でも贈らにゃいかんな」とクールさが売りの広岡監督が珍しく冗談を飛ばした。安田・鈴木・梶間投手、大杉・若松選手を送り込んだ今年のオールスター戦。地元・神宮球場での第3戦に先発して3イニング・1失点と可もなし不可もなしだった安田投手以外は第1戦の平和台球場で若松選手が殊勲賞、大杉選手がホームラン競争で両リーグトップの6本を記録するなど大活躍してヤクルト勢の存在を高めたからだった。夢の球宴に勝った負けたは意味はないが、競り合いや勝負どころでまだ弱いと評されることが多いヤクルトの選手が後半戦に向けて自信をつけてくれたのは大きかった。
中でも広岡監督が一番喜んだのが鈴木投手と梶間投手の活躍ぶり。第3戦で優秀投手賞を獲得した鈴木投手は2試合・5イニング・自責点0。「自分が優秀投手賞に選ばれるなんて思っていなかったので夢みたいです」と球宴終了後も気分はウキウキだった。前半戦の鈴木投手は9勝5敗で安田投手と並ぶチームトップの勝ち星。これがフロックでなかったことが証明された。また梶間投手は球宴ルーキー史上初の2勝をあげた。しかも第1戦が12球、第2戦は僅か5球で計17球を投げただけで2勝を手にした。
「ツキがないと泣きごとを言うやつは結局自分に力がないんだ。力があればツキの方から転がり込んで来るもんさ。オレは彼(梶間)を実力で選んだ。オレの目に狂いはなかった」と長嶋監督。力をつけ粘りが出てきたナインに「はっきり言って巨人との差はある。だがバラバラだったチームプレーが纏まりつつある。後半戦は巨人と互角に戦えるようになる」と広岡監督は確かな手応えを感じている。ヤクルトに欠けているのは巨人の王や張本といったチームの牽引者だ。松岡・安田投手、若松・大杉・大矢選手に球宴で自信をつけた鈴木・梶間投手が加われば決して巨人に引けはとらない。
規定打席
「いつ頃、新聞のリーダーズに名前が出るかな」とマニエル選手が指折り数えてその日を待っている。相棒のロジャー選手が規定打席に到達しているのに比べてマニエル選手は規定打席にあと「13打席」足りていない。打点こそ大杉選手の「59」及ばないがチーム2位。21本塁打はリーグ6位。そして打率は3割を超えているが打撃ベスト10 に名前を連ねていない。「体の状態はすごく良い。でもリーダーズに名前が出るのと出ないとでは気持ちの張りが全く違う」
怖いぞ?のってきたマーチン
マーチン選手に待望の二世が誕生した。7月23日夜にパトリシア夫人が名古屋市立大学病院で3400g の男児を出産した。「ハッピーだ、ハッピーだ!」とマーチン選手は大喜び。「どうだ立派なベビーだろ。初めての子供だから男でも女でもよかったけど、本音は男の子が欲しかったんだ」と普段は物静かな男が珍しくアメリカ人らしい派手なジェスチャーで大はしゃぎ。「手も大きいし足だってほらこんなに特大でスポーツは何をやらせても上手くなりそうだ。鼻も高くてハンサムさ」といった具合。名前は " トーマス・ジェイコフ・マーチン " 君と決めているそうで、マーチン選手の喜び方は留まるところを知らない。
「可愛い息子の為に後半戦はポンポンとホームランを飛ばすぜ」とナゴヤ球場で始まった後半戦に向けたミニキャンプでは宣言通りポンポンと柵越えを連発させていた。そんなマーチン選手を見守る中日ナインの多くは「まぁ練習だけじゃなく本番で打てるかが肝心だよね」と半信半疑状態だ。今シーズンのマーチン選手の本塁打数は前半戦を終えた時点で10本。昨年はこの時期すでに24本塁打だったのだから今シーズンは大砲としては目を覆いたくなるほどの大減産。首脳陣は「息子も生まれてこれをキッカケに心機一転して大爆発してくれれば願ったり叶ったりなんだがなぁ」と淡い期待を寄せている。
髪をバッサリ、心機一転の堂上投手
悲運の男と呼ばれているのが堂上投手。何しろ前半戦で何度も目の前に勝利投手の据え膳を置かれながら、その都度取り逃がして未だに0勝4敗。「オレ、もう前のことは全部忘れて新しく出直すよ」と言うなり、長かった頭髪をオールスター戦が始まる頃にバッサリ切った。新しい気分で出直すには先ずは見た目からというわけ。何としても今季初の白星を掴みたい。堂上投手のいじらしい気持ちがこんなところにも表れている。
意味わかる?
「公式戦ならピッチャー交代の場面なのに…」とオールスター第3戦でマウンド上の鈴木孝政投手が燃えた。最終回に無死二三塁のピンチから二死一三塁となり、1点差で打席に福本選手(阪急)を迎えた場面だった。ベンチを飛び出した長嶋監督が「タカマサ、代えないぞ。代えないぞ」と大声で言いながら近寄って来たのに先ずビックリ。投手たるもの監督に代えないと言われたら「ようしやってやる」と意気に感じるのは当たり前だ。
「敬遠するか?」と長嶋監督に聞かれると「いいえ、勝負します。任せてください抑えてみせます」と宣言した。結果は宣言通り福本選手を快速球で三振に仕留めて見事に男をあげた。投手を生かすも殺すも監督のサジ加減ひとつだというのが周囲の実感だろう。中日球団関係者の皆さん、この意味わかりますか?