Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 472 キャンプ総評 ②

2017年03月29日 | 1985 年 



75点のキャンプ。これで上位進出の足掛かりが出来た(阪神・吉田監督)
聞き手…土台作りがテーマだったキャンプですが感触は?
吉 田…手応えがあった反面、やり残した事も多い。それが正直な感想です
聞き手…新外人のゲイルと話題を独り占めした感のある仲田はどうですか?
吉 田…ゲイルは私が考えていたレベルは越えていましたが実戦を見てからでないと判断できません。
      仲田については長い目で見てやらないと。せっかくの逸材を潰したら元も子もありませんから

聞き手…ここ数年、阪神は弱投と言われ続けています
吉 田…ゲイルや仲田らが働いてようやく広島や巨人の背中が見えるか、というのが実情でしょう
聞き手…池田の右ヒジの具合が心配ですが
吉 田…池田に関しては自己管理が出来る選手ですから心配はしていません
聞き手…他の投手陣はどうですか?
吉 田…工藤や伊藤が元気なのは嬉しいですね。中田も例年になく順調な仕上がりで期待できそうです
聞き手…守りでは岡田の二塁、真弓の右翼転向がどうなるか気になります
吉 田…岡田の足はもう大丈夫。前向きに取り組んでいるし平田との二遊間コンビに期待しています。
      真弓は押し出される形で外野へ追いやった感がしますが、彼は常に一生懸命だし例年以上に
      働いてくれると確信しています

聞き手…誤算はありましたか?
吉 田…北村の右肩の怪我と山本和の調整遅れですかね
聞き手…キャンプの自己採点は?
吉 田…厳しく見て75点。現実は甘くないです


若手がグングン伸びて一軍枠が絞れず嬉しい悲鳴(ヤクルト・土橋監督)
聞き手…ユマキャンプ、浜松キャンプと続いたキャンプもそろそろ終わり。成果はどうですか?
土 橋…若い選手がどんどん伸びてきたね。自信を持って練習に取り組んでいるよ
聞き手…特に目立つ選手は?
土 橋…投手で言えば阿井と鳥原。阿井は球に力があって例えピンチに追い込まれても落ち着いて投げられるんだ。
      鳥原は上から投げたり下から投げたりと工夫をして良い味を出している

聞き手…打撃陣では?
土 橋…池山と栗山かな。取り組み方がとても真剣でこの2人が一番伸びているんじゃないかな。2人とも足が
      速いのが売りで、ここ数年来、機動力の無いウチにはもってこいの選手だと思う

聞き手…話題の新人三人衆は?
土 橋…広沢・秦・青島の3人はズバリ一軍候補。特に広沢は開幕スタメンも夢じゃない
聞き手…逆に伸び悩んでいる選手は?
土 橋…う~ん、荒木と宮城かな。あの2人はスピード、コントロール、精神面もまだまだですね
聞き手…広沢の入団でコンバートが行われると言われていますが
土 橋…広沢を一塁で起用すると渡辺をコンバートしなければならなくなる。ただベテランの渡辺がそう簡単に一塁を
      新人に明け渡すとも考えにくく、広沢をライトで起用する案も出ている。アマ時代には主にサードを守っていた
      青島もプロでは外野を守ってもらうかもしれない。そうすると広沢とレギュラーを争う形となる

聞き手…では最近での悩みは?
土 橋…それは野手の一軍枠だね。伸びている若手が多く絞り込むのが大変なんだ。嬉しい悲鳴だけどね。当落線上の
      選手のアピールが凄くて昨年なんかより競争は激烈だよ



採点すれば90点の大成果。オープン戦の目玉は大畑だね(横浜大洋・近藤監督)
聞き手…いよいよオープン戦ですが使ってみたい選手は?
近 藤…なんと言っても新戦力の池内、木村、竹田。それから進境著しい大畑と堀井ですかね。彼らの中から
      何人か出て来てくれないと困る。平松、五月女、古賀、佐藤らが抜けた穴が埋まらない

聞き手…投手陣では左腕不足が指摘されて久しいですが?
近 藤…大畑に使える目途が立ちました。ただ彼は怪我(ヒジ痛)持ちなので無理はさせられません
聞き手…野手陣はいかかですか?
近 藤…紅白戦では村岡が光ってましたね。昨秋から始めたスイッチも思ってた以上にモノにしています。守備や走塁は
      元々一軍クラスでしたから打撃が安定すればレギュラーになれる可能性があります

聞き手…話題のゴールデンルーキー・竹田投手はどうですか?
近 藤…紅白戦の登板は1イニングだけでしたが実戦向きと感じました。ブルペンでは首を傾げる球もありましたが
      いざマウンドに上がるとまずまずの投球をする

聞き手…具体的には?
近 藤…打者にヤマを張らせないというか、例えボールカウントが悪くなっても安易に直球でストライクを取りに
      いったりせず変化球を放れる。カーブでストライクを取る江川のような " 術 " を持ってますね

聞き手…課題もある?
近 藤…勿論です。でも本調子になってから修正しても遅くないですから
聞き手…キャンプの総括をお願いします
近 藤…おとなしい選手が多く、全体的に声があまり出ないのは気になりましたが天気にも恵まれ成果は予想以上で90点。
      内野陣のコンバートも途上ですが開幕までには仕上げたいと思っています
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# 471 キャンプ総評 ①

2017年03月22日 | 1985 年 



若い選手の競争意識がアップ。実戦が楽しみ(広島・古葉監督)
聞き手…沖縄でスタートした1次キャンプ、日南2次キャンプの仕上がり具合は?
古 葉…後半は雨が多かった沖縄だが体力作りが主体だったので影響は小さかった。日南での実戦形式で
      若手も目立っていたし予定通りですね

聞き手…オープン戦の狙いを聞かせて下さい
古 葉…山本浩や衣笠といったベテランも早い段階で必ず1打席は出場させる。新人の正田も含めて若手は
      どんどん使う。小早川、長内、斎藤、伊藤ら結果を出した選手が生き残る、それがプロの世界

聞き手…投手陣はどうですか?
古 葉…高木、清川、森、白武の中から2人は出てきて欲しいと思っている
聞き手…小早川を二塁で使っている理由は?
古 葉…小早川に限らず長内、斎藤らには内外野複数のポジションを守れるように言っている。チーム構成上
      彼ら若手は欠かせない選手なんですから。現時点の小早川は及第点です

聞き手…今年の古葉カープが目指すものは?
古 葉…現在のプロ野球は外人選手への依存度が高い。それをあえて今年のウチは外人抜きで戦う。
      それには若手の成長が不可欠。若手間での競争意識はこれまでになく激しい。競争しながら
      いいモノを出せる方向にもっていければ、と考えています



守備は不安だが藤王はライトで打力を生かしたい(中日・山内監督)
聞き手…開幕まで1ヶ月余り。キャンプの成果を教えて下さい
山 内…点数をつけるとしたら65点から75点といった所かな
聞き手…一番の収穫は?
山 内…収穫は何と言っても若手投手の成長。曽田・近藤・鹿島・桑田・宮下ら昨季まで一軍実績がゼロと言っていい
      連中が、かなり力をつけてきた

聞き手…具体的には?
山 内…曽田は先発ローテーション入りするかもしれない。宮下の速球と鹿島や近藤の投球術なら中継ぎを充分任せられる
聞き手…一番の課題だった攻守ともにポスト田尾は?
山 内…ライトには藤王を使いたい。守りには不安が残るが彼の打力は他の誰よりも抜きん出ている
聞き手…一・二番は?
山 内…現時点では「平野 - 上川」或いは「中尾 - 平野」のどちらかを考えている
聞き手… " 一番・中尾 " をオープン戦で試す?
山 内…そういう事。ライトの藤王しかり、オープン戦の結果で最終判断を下します
聞き手…最後に今季の抱負を
山 内…どのチームも強そうですが最後まで優勝争いに加わりたい。またその力はあると思います


オープン戦では若手をどんどん使い新戦力を発掘したい(巨人・王監督)
聞き手…いよいよオープン戦が始まります。新戦力を見極める機会となりますね
 王 …投手では香田・岡本・橋本、野手では仁村・鴻野・石井・栄村などに期待しています
聞き手…秘密兵器はいますか?
 王 …川相ですね。投手で入団しましたが野手転向をして今ではレギュラー選手と一緒に練習しても遜色ない。
     打球を処理する能力は一軍レベル。守れない選手は一軍では厳しいからね

聞き手…松本の守備位置をセンターからレフトに変えましたね
 王 …松本の肩を考慮して昨秋から柴田コーチとも相談して決めました
聞き手…打線では駒田の一本足打法が注目されていますが
 王 …別に駒田と相談して決めた訳ではないんだ。駒田が練習中に何気なく一本足で打ったら感触が
     良かったらしく、ならばという訳で荒川さんに臨時コーチをお願いしたんです

聞き手…主力選手の調整具合はどうですか?
 王 …タツ(原)は思いっきりの良さが出てきたね。打つ方だけじゃなく守りでも積極性が出て頼もしくなった
聞き手…選手会長の篠塚も目立ってます
 王 …首位打者のタイトルを獲って更に自信を深めたみたい。バットでチームを牽引しようとする姿勢がいいね
聞き手…投手陣はどうですか?
 王 …やっぱり江川が目立つね。肩の不安が消えて今年の江川はやりそうだよ
聞き手…ではキャンプを総括すると何点ですか?
 王 …点数をつけるのは難しいけど80点くらいかな。少なくとも昨年よりは怪我人も少なく順調ですよ
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# 470 現状報告 ②

2017年03月15日 | 1985 年 



スティーブはイメージじゃない !? やはり迫力の点では大田だが腰と両足に爆弾を持つ身で・・

田淵が引退して後釜に誰が座るのか?「四番打者は打線の顔。130試合出場に不安のない人じゃないといけませんね」と広岡監督が発言した事で後釜の最有力候補だった大田が脱落した。代わって浮上したのがスティーブ。昨季は129試合に出場して打率 .338 ・101打点と文句なしの成績を残した。しかし何故かスティーブでは四番の座にしっくりこないという声がチーム内部のみならず他球団からも聞こえてくる。本塁打20本では物足りず威圧感に欠けるというのがその理由。

「迫力?そりゃ大田さんの方がありますよ」とは他球団の投手たち。不敵なツラ構え、何をしでかすか分からない不気味さ。加えてあの長打力とくれば四番打者に相応しい。確かに広岡監督が指摘するように大田はここ2~3年は腰と足に爆弾を抱えており万全の体調で開幕を迎えていない。毎年のようにオーバーペースがたたり4月になると怪我をした。「本当ならオッサン(田淵)に代わって自分が先頭に立ってやりたかったけど今年こそ怪我をしたら駄目だと言い聞かせてペースを落とした。また怪我をしたら今度は野球生命を断たれる気がする」と昨年までとは一味違ったキャンプを送っている大田は苦しい胸の内を明かした。

大田が現役に拘るのは昨年のオフに練馬区大泉の東映撮影所近くの高台に新居を購入したからだ。高年俸の大田でもキャッシュで買った訳はなく、5年のローンを組んだ。庶民からすればとても短いローン返済期間だが、ひとたび怪我をして引退したらたちまち無収入になってしまう。出来るだけ長く現役で稼ぎたいのが本音である。その為に身体に負担のかからないようにスタンスの幅を狭くした新打法改造に取り組んでいる。紅白戦で四番に座った大田とスティーブだが結論は出ていない。そんな中、中村渉外担当が緊急渡米をした。表向きは大リーグキャンプの視察が理由だが、何をするか分からない西武だけに予想外の新助っ人が四番に座る事になるかもしれない。



昨シーズンと同じ轍は二度と踏まん。落合が徹底的にスローペース調整した事情とは

昨季のデータがある。ロッテのチーム打率2割7分5厘はリーグ1位。しかし得点は1位の阪急とは39点差の3位。阪急が1点を奪うのに要する安打が1.7本に対してロッテは1.9本を要した。更にチーム本塁打数はリーグ5位の149本でパワー不足も明らか。とにかく昨季のロッテはチャンスに決定打が少なく勝負弱さが目立ち、満塁本塁打は0本だった。ちなみに最多は近鉄の8本。主砲の落合は打率.314 ・33本塁打・94打点と数字上は四番の重責に応えたが勝負所で結果を出せなかった。何度か満塁の場面で打席に立ったが本塁打どころか無安打に終わった。特に前半戦のスランプは酷く、チャンスに三振、併殺を繰り返した。

昨季は暮れの契約更改でのゴタゴタが影響し下半身を充分に作らないままキャンプインして打撃フォームを崩してしまった。だから今年は「下半身が出来上がるまで打ち込みはしない(落合)」と決めて異常とも思えるスローペースで調整している。と同時に危険な練習も始めた。ホームベースの真後ろに立ち、自分に向かって来る球を打つという奇想天外な練習方法。もしバットに当てる事が出来なければ球は自分を直撃する。「バットの出を早くして球を充分に引きつけないとダメ。勿論、体が開くのは厳禁」と。昨季は3年連続で手にしていた首位打者のタイトルを明け渡しチームのスタートダッシュ失敗の張本人になっただけに落合は必死だ。

「昨年はチームに迷惑をかけたので今年はその借りも返さなくてはならない。家のローン(毎月140万円)もあるし、首位打者のタイトルを奪還して優勝しなくちゃ」と落合は静かに燃えている。稲尾監督も「ウチが優勝するか否かは落合のバットにかかっている。本人も今年は開幕から飛ばせるように色々と考えているようだ。『お前がどんなに不振になっても四番から外さない』と言ってある」と落合の今季にかける変身ぶりに期待している。主砲・落合のバットがロッテ悲願の優勝の鍵を握っている事だけは間違いない。



肩身の狭い投手陣が危険地帯と指摘する " 右ゾーン " は本当に大丈夫?

安芸キャンプ開始早々、投手陣が揃ってヒゲをたくわえ始めた。むっつり右門の野村や寡黙な山内らベテランをはじめ普段から紳士然として身だしなみには気をかけている山本和から若手の池田や中田まで、とにかく投手全員が鼻の下に無精ヒゲを伸ばし始めたのだ。末永マネージャーは「揃いも揃って見苦しい」と訝ったが実は投手陣のミーティングで「皆でヒゲを生やそう」と決めて実行したのである。弱体投手陣、エース不在、外人依存…と阪神投手陣は後ろ指を指されて久しい。「ウチらはあっちこっちで弱体と言われている。よ~し顔だけでも逞しく見えるようにしようじゃないか、と皆で話し合ってヒゲを生やすのを決めたんだ」と某ベテラン投手が明かした。

その投手陣ミーティングで話題となったのが " 右方向ゾーン " だ。「なあ皆、俺たち投手も確かにダメかもしれんがウチの守備陣、特にライト方向はお粗末じゃないか?」…。一塁・バース、二塁・岡田、右翼・真弓の右方向の守備力の事だ。バースの守備範囲は左右60cm 、足に爆弾を抱えている岡田の守備範囲も狭く一・二塁間に飛んだ打球を遠回りして処理する悪い癖は一向に直らない。加えて右翼は急造外野手の真弓とくれば「安心して右打者の外角を攻められない。打球が飛ぶ度に冷や汗が出る(某投手)」の声も頷ける。例えば右方向へ打たせまいと内角攻めが多くなる。しかし内角一辺倒とはいかず外角への誘い球も必要になりボールカウントを悪くする。これがかつての江夏や小山のように精密な制球力が有れば問題ないが、まだ未熟な池田や中田には自らを窮地に追い込む事となる。

スライダーが武器の野村や山内にはいよいよもって恐怖の右ゾーンな訳で吉田監督はOBの鎌田実氏を安芸に呼び岡田の守備力向上を図るなど苦心しているが往年の鎌田-吉田の華麗な二遊間の守備には程遠い。ならばせめて真弓の守備の負担を減らしセンターラインの強化の為に足も肩もある北村を中堅に起用したが練習中に右肩を脱臼する怪我を負い早くも構想が崩れてしまった。打球が右方向に飛ぶ度に投手もベンチも冷や汗が出るシーンが目に浮かぶ。「はい、ウチの大きな課題ですわ」と一枝コーチはハッキリと口にする。キャンプ、オープン戦の中でどこまで修正・向上させる事が出来るかが今季の阪神の命運を握っている。
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# 469 現状報告 ①

2017年03月08日 | 1985 年 



転身で大きくのしかかる期待と責任。高木豊を襲った異変とは何?

「おかしい…」・・一塁へ走りながら高木は自問自答するように呟いていた。2月25日の紅白戦でジャストミートしたつもりの打球が失速し凡打に。3打数無安打。バットの振りの鈍さを高木自身が気づいた。確かにキャンプも終盤で疲れが溜まり体調は万全ではない。だがこの男にはそれを補って余りある程の野球センスがあった筈。「今年は違う…」普段は滅多に弱音を吐かない高木が弱気になっていた。「二塁と遊撃でこんなに運動量が違うとは思わなかった。走者の足がやたらと速く感じるんだよ。守りでこんなに精神的に追い込まれるとは…」と吐露する。

近藤監督はチームの活性化と戦力アップを目的に大胆なコンバートを敢行した。遊撃手の山下と二塁手の高木、更に三塁手の田代と一塁手のレオンを入れ替えて内野陣を再編した。ところが打線のリードオフマンで守りの要でもある高木に異変が起きた。ゴロを捕球して一塁への送球するまでの " 間 " が高木の感覚を狂わせた。捕球してから一塁手を目で確認していたら間に合わない。常に一塁の位置を頭に入れて置かなければ駄目なのだ。事実、名遊撃手と誉れ高い山下はかつて「僕はベースの位置を体で覚えている。だから一塁手を見て送球していない。ただベース上に向けて投げているだけ。捕球できるかどうか、は一塁手の責任」と平然と言ってのけていた。

近藤監督は高木を昨季までのリードオフマンから今季は三番に据える予定である。しかし今のままではその目論見も瓦解しかねない。「俺みたいな小柄な選手には重過ぎる責任だよ」と高木は小さく笑ったがその目は笑っていなかった。「こんな筈ではなかった」と異変を確実に感じ取っている。近藤監督は「慣れれば大丈夫。僕は全く心配していない。三番・遊撃をこなしてくれる事で山下も生き返るし打線も高木の後ろにレオン・ホワイト・田代と続くクリーンアップは広島や巨人にもひけを取らない」と心配はしていない。昨年、初の盗塁王を獲得し今シーズンは首位打者も狙っている高木。しかしコンバートと三番への転身が全てを無くす危険をはらんでいる。



山内監督は適任と言い本人もやる気いっぱい。『一番・田尾』の跡目に浮上した中尾

山内監督は田尾が抜けた一番にシート打撃では平野を指名した。昨季30盗塁を記録したスイッチヒッターは数字的には大本命なのだが山内監督は「う~ん」と納得していない。一昨年、近藤監督(現・横浜大洋監督)が開幕30試合ほど " 一番・平野 " を試したが「まだ無理だった(近藤監督)」と撤回した過去がある。プレーボールの声と共に打席に入る一番打者に求められるのは「高打率・選球眼・俊足」と言われている。現時点での平野がクリアしているのは俊足のみ。昨季の田尾の出塁率 3割7分に対して平野は3割3分。出塁できなければ俊足は宝の持ち腐れである。そこに最近浮上してきたのが中尾の一番抜擢構想である。

昨季、右肩を痛めて欠場するまでは76試合に出場して打率 322 ・12本塁打。出塁率も3割9分 と平野は勿論の事、田尾をも上回っていた。「中尾が一番を打ったら史上最高の一番打者になるんじゃないか。3割・30本塁打だって夢じゃない」「本人に聞いたら『やってみたい』と言っていた。考える価値はある(山内監督)」と。本人が乗り気で監督も適任と判断しているが現段階では現実味はなくキャンプではただの一度もテストすらしていない。痛めた右肩の回復具合の確認が最優先課題でキャンプでは守り中心の練習を送っている。仮に怪我が回復しても捕手は怪我が多いポジションであり1年を通して一番打者を務める事は難しい。

ただでさえ中尾は怪我に弱い。プロ入り以来、中尾は一度として全試合に出場できた事がない。1年目は116試合、2年目以降は119試合、92試合、昨季は76試合にとどまった。シーズン中に一度や二度は痛みを理由に戦列を離れている。そのせいもあって中尾の控えとして田尾を放出してまでして大石を西武から獲得した。せっかく中尾を一番に抜擢しても怪我で欠場となったら平野を使わざるを得ない。そうなるなら最初から平野を起用した方がチームとしても平野本人の為にも影響を最小限に抑える事ができる。山内監督が決断できない理由もそこにある。中日を襲った田尾放出ショックはまだまだ尾を引きそうな気配である。
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# 468 魅力と実力度

2017年03月01日 | 1985 年 



仲田幸司(阪神) 阪神の話題を独り占め!ダメ虎のイメージを払拭してくれたキャンプの功労者は10勝と新人王を狙う

安芸キャンプはちょっとした " 仲田パニック " に陥っている。今や阪神のスターは掛布でも岡田でもなく、未だ一度も一軍で投げた事のない左腕投手である。「仲田はどこだ?」がキャンプを訪れた評論家の合言葉である。村山実、藤田平、田淵幸一といった球団OBばかりか球界の重鎮でもある川上哲治氏や鶴岡一人氏までもが仲田を見に安芸まで足を運んだ。当然のように在阪スポーツ紙の一面は「仲田」のオンパレードである。「話題がない時は仲田を書いておけば売れる」とはトラ番記者。一体、仲田の何がそこまでスポーツマスコミを興奮させているのだろうか?

ドラフト3位で沖縄・興南高から入団して2年目。その素質は周囲から高く評価され、球団はそれこそ金の卵の扱いで1年目はじっくり二軍で寝かせていた。成績は2勝6敗と特筆すべき程ではないが自慢の速球は滅法速く、58回 1/3 で 54奪三振。新任の米田投手コーチが放っておく筈はなく就任早々に「こいつは間違いなく使える。一軍で二桁勝利も可能」とブチ上げた。そして安芸キャンプ。フリー打撃で登板しただけで大騒ぎ。大きなモーションから140㌔の速球を投げられたら調整の遅れたベテラン選手は手も足も出ない。岡田が空振りし掛布がドン詰まりの打球を放つと " 仲田、主軸を完封 " と大見出しがスポーツ紙の一面を飾った。シート打撃で抑えられた真弓は「聞かれるのは仲田の事ばかり。たまには俺の事も聞いてよ」とぼやく。

2月20日の紅白戦に先発して3回を1安打に抑え、課題の制球も無四球と合格点。それでも本人は「三振が1個しか取れなかったのが不満」と言ってのけた。それを聞いた米田コーチは「その通り。俺も不満だ」と仲田に対する要求も高くなる。とにかく仲田は練習好きで研究熱心で対戦した打者に「僕の球はどうですか?」と意見を聞いて回る。先輩達も「もっと内角を攻めろ」「あそこは直球勝負」などアドバイスを送る。投手陣の間でも「礼儀正しい子で我々にも気を遣ってくれる。聞かれた事は何でも答えてやってるよ(山本和)」と可愛いがられている。特に山本和とは宿舎も同室で何度も食事に出かけるなどすっかり師弟コンビだ。

しかしプロの世界は甘くない。二度目の登板となった24日の紅白戦で長崎、掛布に連続本塁打を浴びた。掛布に対しては第一打席はフォークボールで三振を奪い思わずガッツポーズを見せたが、二打席目ボールカウント 0-3 からストライクを取りにいって一発を喰らった。ベンチに戻ると「チクショウ!」と大声をあげた。米田コーチは「チクショウと言ったって後戻りは出来ないよ。安易にストライクを取りにいった自分の未熟さを反省しなくちゃ」と苦言を呈した。オープン戦での登板も決まっている。開幕一軍は余程のアクシデントがない限り間違いない。「全て勉強です。これからもどんどん経験を積みたい」と意欲的だ。



藤王康晴(中日) " ポスト田尾 " の急造主役に仕立てられた怪物くん。慌てず騒がず「何とかなるでしょう」とは流石!

後逸しようがポロリと落球しようが中日の藤王売り出し作戦は日ごとに熱くなっている。串間キャンプの山内監督からは「藤王、藤王」連呼が絶える事はない。1安打に終わった2月23・24日の広島とのオープン戦後にも「1安打?そんな小さい事より藤王は何をやっても絵になる男だ。守りでチョンボするのも飛球を追ってフラフラするのも御愛嬌だ」と。藤王一色なのは監督だけではない。現場にはノータッチの筈の鈴木球団代表までもが「今年の藤王はいいでしょう?光ってるねぇ」とご満悦。中日には珍しい一選手を前面に押し出す手法の裏には、藤王には何が何でも活躍してもらわなくては困る背景があるのだ。

電撃トレードの田尾放出後の騒動が未だに鎮静化しない。チームにとって良かれと判断して実行した田尾のトレード。だが激しいファンの抗議行動が波紋を広げた。抗議の電話や投書は球団にとどまらず親会社である中日新聞の重役の家にまで及んだ。驚いた重役たちは球団フロントに対して「善後策はどうなっているんだ!」と迫った。例年、キャンプ前には中日スポーツの売り上げ部数は増える。しかし今年は減っている異常事態。事は急を要した。慌てた球団フロントの善後策が前述の藤王売り出し作戦なのだ。山内監督が数多い右翼手候補の中から藤王を抜擢し、現場・フロント挙げて " 藤王!、フジオー !! " とポスト田尾の急造主役に仕立て上げた。

もっとも藤王本人はそんな周囲の騒ぎも意に介さず「サードはモッカさんと併用でしょ?ライトなら一人ですからイイっすね」とすっかりその気になっている。そもそも球団は当初は藤王を大型三塁手に育てる方針だった。山内監督も「打撃は一軍レベルだが三塁の守りは素人。息の長い選手にする為にもじっくり育てたい」と言っていた。それが田尾放出後は降って湧いたように藤王を使わざるを得なくなった。打つ方は問題はない。キャンプを訪れた川上氏などは「王の再来じゃ」と唸り非凡な打撃センスにぞっこんだ。確かにオープン戦は1安打に終わったが安打にこそならなかったが、バットの芯で捉えていた。

だが強弱難しい打球が頻繁に飛んで来て、サインプレーも要求される三塁手にはとても使えない。試合に出場するには外野しかなかったのだ。オープン戦初戦は二度の捕球機会を無難にこなしたが、次戦では早くも不安を露呈した。小早川が高々と放った飛球をグラブで触れる事なく二塁打に。また長嶋が放った右前打の処理を誤り二塁進塁を許した。どう贔屓目に見てもプロのレベルではない。それでも本人は「誰だって最初から上手かった選手はいない。開幕まで1ヶ月以上あるし、何とかなるんじゃないっスかね」と平然と言ってのけた。思えば昨年の藤王も何度となく二軍落ちの危機があったが、その度に代打で安打を放ち生き残った強運の持ち主。ひょっとしたら今度もシーズンを終わってみたら正々堂々のレギュラーだった、となっているかもしれない。



秋山幸二 (西武) 脅威の打ち込み量の陰にあった雑音の悩み。今は打って打って打ちまくるしかない

秋山の打ち込み量は驚くべきものである。キャンプ終盤に腰の違和感によって量こそ減ったが毎日、全体練習が始まる1時間前に球場入りして早朝特打。練習が始まり他の選手がグラウンドで打撃練習をしている間はブルペン脇のテントの中でマシン相手に特打。夜間は大広間で素振り。更に休日返上で特打。とにかくチームプレー、紅白戦以外はひたすら特打に明け暮れたキャンプだった。しかも秋山の練習はキャンプ中の事だけではなく昨年の秋季キャンプ、冬季練習、年明けの自主トレと打ちに打ちまくった。口の悪い記者達は「秋山はちょっとしたワークホリック(仕事中毒)だ」と軽口を叩いた。

だが昨オフに打撃コーチに就任し秋山の養育係に任命された長池コーチは「そういう時期にあるという事です。ひたすら打ち続ける時期があって当然。秋山は打線の中心になるべき選手なのです」と敢然と話す。田淵の衰えが顕著になり始めた3年前に秋山は二軍で本塁打王になった。秋山にポスト田淵の白羽の矢が立ったのは自然な流れだった。だがそこから秋山の苦悩が始まる。米国の野球留学から帰国した秋山に英才教育がスタートする。しかし指導者が入れ替わり立ち代わりした。佐藤孝夫打撃コーチ(現・阪神スカウト)、与那嶺要(現・日ハムコーチ)、近藤昭仁、黒江秀修ら。時には広岡監督自ら指導にあたった。また球団外の青田昇、荒川博、豊田泰光、張本勲などもアドバイスを送るなど、まさに " 船頭多くして… " である。「次は長嶋さんですかね(秋山)」のジョークにも悲哀が帯びる。

悩み苦悩する秋山に広岡監督は「意見は意見。それらを参考にして自分のものにしなくちゃならんのですよ」と。その為にひたすら打ち込む。それが秋山の日課となったのだ。しかし残されている時間は決して多くない。秋山を追いかけてくる選手の足音が背中に迫っている。ドラフト1位で入団した大久保博元の評価が高いのだ。打つだけならレギュラーと言われる18歳の怪童が秋山のポジションである三塁の練習を始めた。「人の事まで考えている暇なんてありませんよ」と大久保の話題になるとそれまでの笑顔が凍りついた。打ち疲れて夜はひたすら眠るだけだが「眠い。寝た気がしない」・・最近は悲壮感が漂う。今の秋山は夜明け前の一番暗く、寒い時機の真っ只中で苦しんでいるが明けない夜はないのが自然の理である。
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