Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

#307 怪人・ブーマー

2014年01月29日 | 1983 年 



同じく1983年に日本にやって来たバース(阪神)よりも先に三冠王を達成、それも落合(ロッテ)という強敵を倒して。にもかかわらず、阪急という地味な球団に在籍していた為かメディアへの露出も少なく実績の割に評価が低かった選手です。日本での実績では格下のクロマティ(巨人)が運動具メーカーと3千万円でアドバイザリー契約を結んだと聞いて「何で俺にはオファーが無いんだ?」と記者に問うと「阪急だから」とアッサリ言われたそうで…気の毒でした。


本名 グレッグ・ウェルズを「ブーマー」で選手登録した理由、世の中にブームを巻き起こす選手になって欲しい…との思いが実現しつつある。高知キャンプ入りの翌日に早くもフリー打撃に登場したブーマーは、いきなり93スイングで柵越えが21本。その内6本が場外へ消えて行く怪力を見せつけた。隣のゲージで打っていた蓑田や中沢が「冗談やない、こんな化け物と一緒にやってられるか。自分の打球が中学生レベルに感じてやる気無くすわ」と呆れ顔。それも自分のバットは配送が間に合わず他の選手の借り物であったにもかかわらず、まさにピンポン玉のように弾丸ライナーで柵越えを連発した。

「いったい何㍍飛んだんだ?」と報道陣は大騒ぎとなり確認する為に球場関係者から巻尺を借りて球場の外へ飛び出して行った。高知球場の両翼は92㍍、その後方に芝生席があり防御ネットが張り巡らされている。球場の外には駐車場があり、そのまた後方には市営プールがある。地上から高さ8㍍の所にある管理事務所の窓ガラスが割れていて「突然ガラスが割れてビックリした。その後も何球かがプールの中に飛び込んだ。これが夏場で人がいたら…」と話す市営プール職員の顔色は真っ青だった。報道陣とすれば正確な数字を出す必要があり球場周辺の地図を引っ張り出して計算したところ160㍍を軽く超えていた。

「昭和47年のオープン戦で長嶋さんが駐車する車に当たる本塁打を打ったのを見た憶えがありますがプールに飛び込むなんて前代未聞です」と増井球団広報も驚きを隠せない。ひと口に160㍍と言われてもピンとこないかもしれないが後楽園球場に当てはめれば左翼場外にあるスカイタワーに届いてしまう。スカイタワーに乗って景色を楽しんでいるお客さんに直撃なんて事が起こったら一大事だ。「とりあえずは今後の推移を見てからの判断となりますが通行人に当たったりしたら大事故になりますので防護ネットの設置を検討しなくてはいけないかもしれません」とは後楽園球場の丸井支配人。

場外本塁打はめったに出ないだろうがファールボール直撃の可能性は有ると判断して早速、球団は日新火災海上保険の賠償責任保険に加入した。対物1事故当たり1千万円、対人は1人当たり1億円、対人対物は2億円で保険料は30万円と余計な出費がかさむが球団PR宣伝料と考えれば安いものだ。でもこれで一安心と思いきや「保険金目当てにわざと当りにくる良からぬ人に気をつけなくては」と新たな心配も。前代未聞の打球保険だが本場アメリカにも前例は無い。ブーマー本人は「アメリカで打球が当たって死亡したケースは3回くらいあったらしい。でもアイム・ソーリーで済むよ、不運だったのさ」と当初は関心が薄かったが最高2億円と聞いて「場外に飛び出さないように加減して打つから2億円をボクにくれないかなぁ」と羨ましげ。

ブーマーとはどんな男なのか?生まれはアラバマ州で地元のアリバニ大学で健康管理学を専攻したインテリでアデブ夫人は大学の同級生だ。またアメフト選手も兼ねていて実はニューヨーク・ジェッツに入団して2ヶ月ほどプレーした。昨シーズンは3A・トレドでプレーし打率.336 107打点 で二冠に輝きミネソタ・ツインズも将来の看板選手にと期待していたのを阪急が口説き落として獲得した。同じく今年阪急入りしたバンプ・ウィルスの年俸1億円と比べると4千万円と格安。ちなみに両外人をラストネームで登録するとバンプは「ウィルス」、ブーマーは「ウェルズ」となり紛らわしくなるので「バンプ」「ブーマー」とする事になった。足の大きさは30㌢、太もも64㌢、胸囲118㌢、リーチ69㌢、首回り45㌢とどれをとってもビックサイズ。

勿論、人並み外れた体格や怪力を持つ助っ人が日本で必ず活躍出来るとは限らない。これまで来日した助っ人で今もってNo,1 の巨漢選手の称号を持つのは昭和49年に太平洋クラブ・ライオンズに在籍したF・ハワードだが、オープン戦で怪我をしてしまい公式戦では1試合のみ出場しただけで帰国してしまった。外人選手が好成績を残せるかどうかは日本の指導法を押し付けない事にかかっている。外人選手の多くが「完全に集中して打てる回数は40回が限度。時間にして10分程度と子供の頃から教えられてきた」と口にする。そんな彼らに特打ちと称して100回以上打たせるのはプライドを逆なでする事になる。

外人選手の成功には生まれ育った環境や伝統を重んじてその選手の良さを引き出す指導法が必須である。老婆心ながら「ブーマー」には「急に景気良くなったもの」つまりは「にわか成金」「成り上がり者」という意味もある。にわかの成り上がり者は急上昇するが反動で評判が落ちるのも早いのが世の常。キャンプの話題を独り占めする怪人は阪急に5年ぶりの優勝をもたらすのか、或いは超大型扇風機と化すのか目が離せない。



ブーマーには申し訳ないですが個人的には好きになれない選手でした。打席でのルーティーンなのか構える前の一連の動作の中で1球毎に必ず唾を吐くのが生理的に無理でした…
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#306 食生活

2014年01月22日 | 1983 年 


ビールを片手に肉をたらふく腹一杯詰め込む、それが一昔前の野球選手の食事風景だったが今ではバランスの取れたメニューで健康に気を使うようになりつつあるらしい。もっとも中には昔ながらの暴飲暴食型の選手もいるようだが…


どこまでも体に良い物を追及していく西武・広岡監督は今年の春野キャンプでは大根おろしに目をつけた。誰から聞いたのか、大根おろしは機械でやると栄養分が損なわれるとの事。何でも大根に含まれるビタミンCが機械の急激な摩擦で大幅に減少するのだとか。早速、西武の宿舎「桂松閣」では職員総出で大根と格闘するはめに。「約80人の朝食分を人の手でやるとしたら日の出前から始めても間に合うかどうか…」と困惑を隠せない。たかが大根おろしと言うなかれ。肉食から野菜中心の自然食へに続く「選手寿命を1年でも伸ばす為なら何でもやる」機械文明の発達した現代社会の世の中で時代遅れという声を無視する広岡改革の第2弾だ。

広岡信奉者がプロ野球界で広まりつつある。テレビでもお馴染みの「土井勝料理学校」の土井勝校長が南海の健康管理アドバイザーとなり理想的な食事を提案した。土井氏は西武・堤オーナーとも親しく請われてシーズン中の食生活を広岡監督にもアドバイスした事がある。熱烈な南海ファンである土井氏にしてみれば宿敵・西武に塩を送る形となったが、今度は穴吹監督の要請で南海ナインに自然食導入を説く事となった。キャンプイン直前の1月29日に大阪球場内の食堂で講義を行なった。ヘビー級の門田や香川らは戦々恐々と講義を受けたが「肉食が全て悪いのではなく、バランスの取れた食事なら問題ない」と意外と寛容な内容に胸をなで下ろしたのも束の間、香川の1週間のメニューを目にしたとたん土井校長の表情が一変した。

「朝からカツサンドにジュース。昼はラーメンとチャーハン、喉が渇けば好きなだけコーラをがぶ飲み…これでは減量なんてとてもとても。喉が渇いたら牛乳にしなければダメ」とキツ~イお達しを受けた香川は大きな体を小さく折り曲げて「努力します」と答えるのが精一杯。なぜ牛乳なのか?牛乳には不足しがちなカルシウムが豊富だからだ。カルシウムが不足すると人間は集中力を失いやたらとイライラしてくるのだそうだ。土井氏は「カルシウム不足はエラーや三振の原因」とまで言い切る。さらに食事の際はよく噛んで食べる事も大切と強調する。噛むという行動は大脳の働きを促進させ運動能力向上にも効果がある。

ただ広岡監督の大根おろしに関しては「機械も手作業も栄養的には変わらない。広岡さん特有の言い回しでしょう」とやんわり否定。しかし一連の広岡改革については「今までの野球選手の食生活が滅茶苦茶だったのは事実。それに気づいて改善された広岡さんはやっぱり凄い人」と感心する。ただ自然食が広まりつつある球界でも親会社が食肉業の日ハムのメニューは相変わらず血の滴るステーキが中心だ。メインディッシュの肉やハムが5日に1度どっさりと日ハム本社から沖縄に空輸される。しかし小さな抵抗を試みる「造反者」もチラホラ。高代は自費でキャンプに自然食品を山ほど持ち込んだ。

ところで大食漢揃いのプロ野球選手御一行様を受け入れる宿舎側の気の遣い方も大変なもので、中日が今年から宿舎にしている石垣島のホテルサンコーストはプロ野球のキャンプは初体験でノウハウはゼロ。そこでコック数名が名護市の日ハムが泊まるホテルおおくらに研修に行き毎食のメニューを参考にした。その結果ほぼ日ハムと同じ肉食中心となったが、これが殊のほか選手間の評判が悪い。「質より量」に徹したのかメインのステーキは500g とボリュームはあるがボソボソで誰も手を出さない。また名古屋で味噌と言えば八丁味噌だがホテル側が用意しなかった為に味噌汁も不評だった。「とにかくカロリーが高いものを出す事ばかり気を取られて肉の質や調味料まで気が回りませんでした。プロ野球選手の御世話がこれほど大変だとは思いませんでした」とホテル支配人は肩を落とす。

ロッテが11年間利用している鹿児島サンロイヤルホテルも大サービスを展開中だ。一般の宿泊客の場合は料金の35%が食材費に充てられるが、ロッテの場合は65%とエンゲル係数が跳ね上がる。「これはホテルのPRのつもりで御世話させて頂いています」と新山支配人の言葉通り、夕食のテーブルには牛肉・鶏肉・蟹・海老…と豪華な特別料理が所狭しと並ぶ。また「カロリーの高い食事を日替わりで準備するのがキャンプ中の課題です」と語るのは大洋が利用するサンパレスホテルの総支配人。キャンプ中の1ヶ月間は他の一般客を断り大洋球団だけに応対する徹底ぶりだ。一般人が想像もつかないほど大量に食べても、さらに夜食にラーメンやおにぎりが用意されるというプロ野球選手だけに受け入れる側の苦労は絶えない。



一時は持てはやされた広岡監督ですが、後に贅沢病とも言われる痛風を患い一気に批判の的にされてしまいました。現在では高カロリーの食事だけが痛風の原因ではないと判明しましたが、当時は「選手には野菜と玄米を食わせて自分は贅沢三昧か」とバッシングされました。
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#305 若きエース候補たち

2014年01月15日 | 1983 年 



小松辰雄(中日)… 飢えた狼の様なギラついた眼で小松が投げている。まだ肩馴らし程度の投手が多い中、既に連日50~60球も全力投球している。さすがに飛ばし過ぎを心配した権藤コーチがストップをかけても「もうちょっと、あと10球」と投げ続けた。思い起こせば昨年の串間キャンプでは早々に風邪を引いてリタイア。3日ほど休んだ影響はことのほか大きく本調子を取り戻せぬままシーズンに突入したが初登板の広島戦で無惨にKO。悪い事は重なるもので翌日の練習中に右内股肉離れを起こして結局シーズン半分を棒に振ってしまった。昨年はエースとして一本立ちする期待をかけられながらも終わってみればエースの座は都投手に、人気の面でも牛島投手に取って代わられてしまった。

契約更改ではトップバッターを務めたがリーグ優勝の御褒美でアップする選手が続出するなか数少ないダウン更改の憂き目にあった。シーズン当初は先発に起用されたが復帰後は病み上がりの負担を考慮して近藤監督は小松を短いイニングしか使わなかった。しかし今年は先発に戻す事が決まっている。「昨年の優勝は巨人を捻じ伏せて勝ったものではなく勝手に巨人がコケて転がり込んで来たもの。巨人を倒すには江川相手に勝たなくてはならず、それには絶対に小松の力が必要」と近藤監督は連覇のキーマンに小松をあげている。

昨年の二の舞はゴメンとばかりオフの間に扁桃腺除去の手術までして予防措置をしたのだが、風邪だと思っていたのは実はスギの花粉症が原因のアレルギーだった事が判明。山々に囲まれた串間はスギ花粉が大量に舞っていたが今年のキャンプ地は周りが海の石垣市とあって花粉症の心配はなく「ここは天国ですね。今年はクシャミが全く出ない」と調整は順調のようだ。キャンプでは変化球の精度を上げる練習を黙々と取り組んでいる。スピードガンの申し子と言われるだけに直球の威力は申し分ないが制球力と変化球は「並み」もしくはそれ以下で、近藤監督曰く「直球は日本一だが変化球は高校生レベル」と手厳しい。

課題はカーブの制球力向上とフォークボールの完全マスターだ。特にフォークは速球投手には絶対必要な武器で小松も昨年まで投げてはいたがフォークと呼ぶにはおこがましい程度のものだった。そこで先輩の鈴木や牛島に頭を下げて球の握り方から教えを請うた。15日から紅白戦が始まり小松は実戦でフォークを試したいと登板を志願しているが、故障を心配する権藤コーチに「主力クラスが投げるのは20日以降でも遅くない」とストップをかけられている。2年連続開幕投手とエース奪回に小松は南の島で汗を流している。




尾花高夫(ヤクルト)… 尾花ほど手を抜く事をしない若者も珍しいのではないか。手を抜かないというより自分を虐めるタイプと言った方が正しいかもしれない。プロ入り当初は「あんな投手はプロではバッティング投手でも務まらない」と酷評を受けた。実際、PL学園時代は目立たず新日鉄堺時代でも誇るべき実績はゼロ。そんな投手のどこに可能性を見出しドラフト4位指名に踏み切ったのか?「簡単な事ですよ、新日鉄堺・宮崎監督が『尾花はやめろと言うまで練習を続けるんですよ』と言ったのを聞いてコイツは伸びると思ったんです」と片岡スカウトは当時を振り返る。

尾花は「やる事をやって負けたら納得いくじゃないですか。だから練習で手を抜くのが嫌なんです」とサラッと言ってのけるが、その姿勢はプロの集団の中にあってもひときわ目立つようになってきた。甲子園のアイドル・荒木大輔の入団で取材に訪れるマスコミの数が増えて大フィーバーのヤクルトだが尾花はどこ吹く風。「別に荒木の加入で自分の調整法は変わらないし関係ない。それよりもあんなに大騒ぎされちゃ落ち着いて練習出来ないでしょ。気の毒ですよ」 仮に荒木が入団していなかったら若きエースとして自分にもっと注目が集まっていただろう…などとは決して考えない。

昨年の成績は12勝16敗4S 防御率 2.60 と負け数の方が多かった。しかし完投負け7試合中、1点差が6試合もあった。「打線の援護があれば20勝も可能だった」と武上監督。その尾花が虎視眈眈と狙っているのがプロ6年目にして初の開幕投手だ。「投手である限り開幕投手は夢で一度はやってみたい。その経験はこれからの野球人生に必ずプラスになる筈で野球を辞めた後にも残る財産だと思います」と熱く語る。

ユマキャンプではノドの痛みを訴えて練習中に熱を計ると36度7分と平熱だったが「風邪の前兆かもしれない」と早退を申し出た。トレーナーは心配ないと言ったが武上監督は「あれだけ自己管理に厳しい尾花がそう言うのなら風邪に間違いない」と早退を許可した。しかし翌日には早々に復帰しブルペンで110球を投げ込み周囲の心配を払拭した。「今年の目標は20勝」と普段は寡黙な男が熱く燃えている。




津田恒美(広島)… 11勝をあげて堂々の新人王なのだが、口さがない連中は「Bクラス専用投手」と卑下する。確かに対ヤクルト戦5勝、大洋戦5勝、巨人戦1勝で中日と阪神には勝てなかった。上位チーム相手に登板して早い回にKOされると次の対戦を避けたのが勝ち星をあげる事が出来なかった要因の一つだ。ただ対戦相手に偏りが出るのは古葉監督の投手起用法も関係していて先発投手陣は対戦チーム担当制を敷いている。先ずお得意さんを作って勝ちパターンのリズムを整えてから新チーム開拓に向かわせるというもので、この起用法で北別府も一人前に成長し遂に昨年は江川を抜き20勝をあげ最多勝と沢村賞のタイトルを手にした。

もう一つの要因はフォームの癖を見抜かれて球種がバレていた点だ。実は首脳陣は癖を見破られていた事を認識していたが古葉監督が「シーズン中にフォームをいじると故障につながる」として敢えてフォームの修正を行なわなかった。秋季キャンプでは球団OBの長谷川良平氏が付きっきりでフォーム改造に着手した。「どうせフォームを変えるなら制球も良くしたい。今までは直球の威力が増すように、より大きな投球フォームを追及してきた。今度はチカラ任せではなく肩やヒジに負担がかからない省エネでもキレのある球が放れるようなフォームにしたい」と津田も意欲的に改造に取り組んだ。

昨年末には生まれ故郷の徳山に後援会が発足した。社会人時代に在籍した協和発酵のCMにも出演してお茶の間に「カープの津田」をしっかり売り込んでいる。「どうして中日や阪神に勝てなかったのか自分でも不思議に思っています。あまり深くは考えず、たまたま調子が悪い時に対戦したと思うようにしています。新しいフォームに手応えを感じていますので今年こそ各球団まんべんなく勝てる投手になりたいです」と闘志をたぎらせる。あの江川と対等に真正面からぶつかり勝ってこそ初めて大投手への道を歩む事になるのも十分知っている。 "ニュー・ツネゴン" は昨年の新人王候補からエース候補へと着実に進化している。
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#304 シーズンオフの風物詩

2014年01月08日 | 1983 年 



夏場の幽霊話の様に毎年オフになるとプロ野球界では「長嶋復帰説」が現れては消えて行く。今年も野球中継やテレビCMでもお馴染みの有名野球解説者が「巨人・藤田監督が王助監督に監督の座を禅譲する事で長嶋の巨人復帰は無くなり、長嶋が来年の大洋の監督に就任する事がほぼ確定。中日は近藤監督が辞めて高木コーチが昇格して、安泰なのは西武の広岡ぐらいだ」とラジオ番組で発言して注目を浴びた。さらに昨年の暮れに大洋担当のスポーツ新聞記者の結婚式に出席した大洋・関根監督が祝辞を述べたがその中で「来年の今頃には大洋球団からビッグニュースが提供されると思います」と語った事で「大洋・長嶋監督」が俄かに現実味を帯びてきた。

では当の長嶋氏本人の胸中はどうなのか?今の日本で一番忙しい人は日産自動車・石原俊社長で二番目が長嶋氏だそうだ。何しろローマ法王に謁見する事が許されるほどの国際人で超殺人的なスケジュールで世界中を駆け回っている。その長嶋氏が2月4日、沖縄県浦添市で交通遺児の為のチャリティイベントで講演を行い心境を吐露した。午後5時に始まった講演で地元市民の口笛や指笛の熱烈歓迎ぶりに長嶋氏も気分が高揚したのか昔話にも熱がこもった。「私は野球で立教大学に入学しました。つまり推薦入学です。だから野球で大学に還元する、恩返しするという意識で4年間を過ごしました。大学卒業後はプロ野球に入りましたがプロは社会人ですから今度は社会に還元する、それは一人でも多くのファンに喜んでもらう」 「だから三振をするのでも『格好いい』と思わせなければならなかった。見逃し三振なんて論外だと思ってプレーしていました」

場内の熱気に押された長嶋氏は自らの去就についても言及し始めた。「私は自分の意志で浪人生活に入った訳ではありません」と言う事はやはり不本意ながら讀賣に解任されたのが真相で巷間伝えられている辞任ではないのか…続いて「その浪人生活も今年で最後と決めました」と語ると場内は静まり次に発せられる言葉を待った。噂通り大洋かそれとも日ハムか、またまた巨人の名が飛び出すのかと聴衆は固唾を飲んだが「充実した1年にしたいと思っています」と見事に肩透かしを喰らった。

会場には各マスコミの記者も駆け付けたが予め主催者側から取材は拒否されて長嶋氏の会見は無し。しかし手ぶらで帰る訳にはいかないと一言でもコメントを取ろうと会場出口で待ち構えていたが敵もさるもの、送迎用の車を2台用意し陽動作戦を敢行して長嶋氏をマスコミから逃れさせた。長嶋氏周辺がそこまでピリピリする事は従来無かっただけに何かしらの変化が起こっているのではないか、と推測する向きは多い。長嶋氏の本音は巨人復帰が第一なのだが長嶋氏の代名詞とも言える「90番」が今年入団した堀田徹外野手(京都商)に与えられたり、巨人軍応援団と言われて球団人事にも少なからず影響力を持つ財界人で組織する「無名会」が次期監督に王助監督を推していて長嶋氏は既に過去の人間扱いされるなど読売グループ内では「長嶋離れ」が着々と進行中だ。3浪が終わる10月21日まであと8ヶ月余り、次の機会にはどんな発言が飛び出すか注目だ。ちなみにこの日寄せられた募金は20万18円、長嶋氏の講演料は100万円也だそうだ。
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#303 スポーツ紙記者座談会

2014年01月01日 | 1983 年 



:日刊スポーツ記者       :スポニチ記者       :サンスポ記者


:先ずは今オフを騒がしたパ・リーグの1シーズン制復活についての御意見を伺いたい。
:近年稀に見る改悪でしょ。
:あれは一般の大学生のファンが提唱した案ですよ、パ・リーグ事務局は否定しているけど。

※ 1983年から2シーズン制に代えて変則1シーズン制を導入することとなった。これはいわば2シーズン制と通常の1シーズン制の中間に位置する折衷案として企画されたもので【130試合終了時に1位と2位のゲーム差が5ゲーム以内である場合、5戦3勝制を原則としたプレーオフを行う】というものだった。但し勝率はプレーオフを含めた成績で計算する為、1位のチームが1勝した後、2位のチームが残り4試合に全勝しても勝率が1位のチームに届かない場合はその時点で1位チームの優勝となるといった複雑なルールがあった。実際には優勝した各チーム(83年・85年は西武、84年は阪急)が2位以下に大差を付けて圧倒的な優勝を決めたことからプレーオフの実施には至らず、この制度は1度も実施されぬまま廃止となり「幻のプレーオフ」と言われた。(出典: Wikipedia より抜粋)


:その大学生本人かどうか確認は取っていないけどウチにも同じ案が送られて来た。どうやら球界の各方面に送っていたらしい。
:まさに「貧すれば鈍する 」で荒唐無稽。プレーオフをやるには2シーズン制が大前提で、根の無い木に接ぎ木をするようなもんですよ。
:検討した案は幾つかあったみたいだ。最初から「プレーオフ有りき」の中でベストではなくベター案かな。実際、過去の優勝と2位とで
  5ゲーム差以上ついた年はそう多くないから採用したんだろうけど、案外大差がついたりするもんだよ下手な策を労すると。

:ファンにしてみれば良かったと言えるんじゃないか。前期で優勝争いから脱落したチームは早々に後期に照準を合わせて捨てゲームが
  多かったのも事実。後期に備えてエース級が二軍で調整する事も珍しくなく、ファン無視も甚だしい。

:事務局の言い分は2シーズン制による過密日程を減らして選手の怪我を防止する為としているが、それなら純粋な1シーズン制で良い筈。
  経営者側はプレーオフによる観客動員数のアップと言う「果実」を手放したくない。そもそも前後期制にしたのも観客数を増やすのが目的
  だった。優勝争いが3回訪れる訳だからね前・後期とプレーオフで。

:でも結局、前後期制ではレギュラーシーズンの観客数は増えず過密日程などデメリットの方が多かった。プレーオフの恩恵を受けられない
  4球団の不満は増えるばかりだった。

:プレーオフ云々以前に企業努力をしてチームを強くするのが一番にやるべき事。西武と言う良いお手本が有るのにね。


:次は日本シリーズでのDH制採用について。もう採用決定で固いかな?
:強硬に反対していた巨人・正力オーナーとヤクルト・松園オーナーが下田コミッショナーに説き伏せられたからほぼ決まりでしょ。
:さすが下田さんと言ったところだね。日本球界の悲願とも言える日米決戦を提案するのに「日本はDH制を採用しない」を貫いた場合
  「仮にア・リーグチームが米国代表となった時に『DH制でなければ対戦しない』と固辞されたらどうする?」と問われグーの音も出なかった。

:日米決戦は常々正力オーナーが力説しているイベントだからね。
:まだセ・リーグ6球団は不満タラタラで仮にDH制が採用されても日本シリーズでは投手を打席に立たせる腹づもりらしい。
:「日本一」が目の前にぶら下がった状況でそんな事が本当に出来るのかね?それで負けたりしたらファンが許さないでしょ。
:谷沢(中日)・加藤(広島)・藤田(阪神)・大杉(ヤクルト)などはDHの方が活躍出来ると思うけどね。
:DH制を最初に採用しようとしたのは実はセ・リーグの方だった。それが先を越されたから面白くないと思ってる。
:是非とも巨人に優勝してもらってDH制を使わないお手並みを拝見したいですね。


:高橋選手(ロッテ)の話に移ろうか。
:結局は何も解決されていない。
:機構側が慌てたのは今まで慣例的に平気で行なっていた事が実は不適切な行為だったと世間に知られてしまったから。例えば保留選手
  名簿は11月27日で締め切り30日に発表する事が決められていたが守られていなかった。また契約をする意志の全く無い選手まで入れてた。

:あくまでも契約をしたいが条件面で合意に至らない場合の猶予措置だからね保留選手は。
:高橋がクビを宣告されたのが12月末だったのもロッテが批判される要因の一つでもあるね。
:経営者側が今一番警戒しているのは選手会の強大化。統一契約書を詳しく読んでいくと選手の基本的人権を蹂躪している面が色々と
  浮かび上ってくる。選手会が法律の専門家を招いて統一契約書を精査し出したら厄介な事になり球団経営を圧迫しかねないと恐れている。

:短兵急なものじゃないけど、いずれは日本の選手会もアメリカのような圧力団体になると思うな。
:僕もそう思うな。経営者側が最近になって「10年選手制度」の復活を口にし出したのもアメリカのようにフリーエージェント制を導入されたら
  手も足もでないと考えているから。まだ10年選手制度の方が球団に主導権があるからね。でも世の中の趨勢でプロ野球界だけが閉鎖的な
  ままで許されるとは思えないから、そう遠くない将来には選手会がフリーエージェント制導入を要求してくるだろう。

:だから今回の高橋選手の件では鈴木(セ・リーグ会長)さんや福島(パ・リーグ会長)さんは慌てたんだ。今の所は選手会の力が弱くて
  この程度の騒ぎで済んでいるがもしストライキなんて事を言い出したら球界は大混乱になる。何とか選手会を手なずけておかなければ、と。

:野球協約はプロ野球界にとっての憲法だけれども法律家が見たら隙間だらけの欠陥品だそうだ。高橋選手の弁護士が法廷闘争に向けて
  野球協約や統一契約書を取り寄せて確認したが、中身は「奴隷契約」に等しく現代社会では有り得ない話だと呆れたらしい。

:江川事件で野球協約の欠陥が露呈されたのに放置してきたんだから自業自得だね。
:プロ野球と言う業界は企業体として見直す時期にきている。基本的人権意識の拡大の流れは誰にも止められない。


:長嶋さんのネタは有る?藤田監督は優勝しても、しなくても今年で辞めるだろうけど2年連続で優勝を逃せばひょっとしたら王助監督も
  引責辞任する可能性もゼロじゃない。王さんの性格なら何も無かったかのような顔をして監督に就任出来ないと思う。となると長嶋さんに
  お鉢が回って来るかもしれない。

:優勝を逃せば一応は進退伺いを出す事にはなるだろうけど、それは形だけの事で監督就任は既定路線だよ。二軍スタッフの顔ぶれを見て
  ごらんよ、王派の国松二軍監督・須藤コーチ・町田コーチは来年そのまま一軍へ昇格する筈だよ。王監督誕生は間違いない。

:じゃ長嶋さんの復帰は暫く無い?
:長嶋さんが「川上タイプ」と「三原タイプ」のどちらを選ぶかだよね。川上さんは巨人で野球人生を全うしたのに対して三原さんは請われるが
  ままに西鉄や大洋の監督を引き受けた。個人的には長嶋さんは川上タイプだと思うな。

:僕も最初はそう思っていたけど最近の言動を見ていると以前ほど「何が何でも巨人」ではない。広岡さんの影響かな?
:ただね、色んな球団を渡り歩く人は浪人はしないんだよね。要請が来たら断ったりしない。長嶋さんは浪人生活が長過ぎた感が有る。元々は
  走りながら物事を考えるタイプの人が一度立ち止まってしまった為に臆病になっているのかも。かつて中部(大洋オーナー)さんから要請が
  あった時にスパッと決断していたら今頃は生き生きとグラウンドで躍動していただろうな。

:仮にやるとしても巨人時代のような仲良しグループじゃダメだよ。ヘッドコーチに嫌われ役も厭わない人間を引っ張って来ないと。そうなると
  巨人OBに拘る必要も無くなって読売グループと縁も切れる。

:そう。読売グループとの決別が出来るかどうかだね。他球団の監督をやった人間を巨人の監督に就任させないから。森(西武ヘッドコーチ)
  さんが他球団の監督要請を断り続けてコーチ業に甘んじているのも巨人の監督の座を諦めきれないから。

:長嶋さんばかりじゃなく今年のオフは10球団の監督の去就が不確定。ネット裏の評論家はソワソワ落ち着かない秋となりそうだ。
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