納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
◆ オレもあの頃は甘かったなあ
「今、しみじみと思うのは野球をやめなくてよかったということだね」と衣笠選手は感慨深げに話す。先日の契約更改交渉ではチーム最後にサインをした。10%増でチームトップの高給取りになったとの噂がもっぱら。巷間伝えられる山本浩選手が年俸トップという話はどうやら違うらしい。衣笠は平安高から入団して3年目、主力選手でさえ国産の小型車に乗っていた時代に二軍で燻っていたにもかかわらず左ハンドルの外車を乗り回していた。「当時は見栄っ張りで野球は三流でも身の回りの品は一流品を好んでいた(衣笠)」そうで、野球が上手くならない自分への腹いせで捨て鉢な気持ちになっていたという。
そんな時、合宿所の近所で民家の塀に車をぶつける自損事故を起こしてしまった。幸いにも事故に巻き込まれた人はおらず、衣笠自身も怪我はなかったが、みかねた球団側は「野球に身を入れろ」と叱責し即座に運転免許証を没収した。これに対して衣笠はオモチャを取り上げられた子供のように駄々をこねて本気で野球をやめようと思ったのである。そんな衣笠も今では年俸二千万円に近い高給取りでプロ生活13年目を迎える。「いま振り返るとあの頃は、考えが甘かった。免許証を没収されなかったらこんなに給料を取れる選手になっていなかっただろう。本当に球団には感謝している(衣笠)」と述懐する。
◆ 球団初の新人王へ
プロ入り2年目を迎えた北別府投手は新人王獲得に意欲的だ。郷里の鹿児島県曽於郡末吉町で正月休み返上で連日3時間に及ぶトレーニングを続けている。昨年は2勝1敗と高卒1年目としては上々の成績。カープの高卒新人投手が勝ち星をあげたのは昭和46年入団の佐伯投手(現日ハム)以来だけに、球団幹部が本気で「(北別府に)新人王を獲らせる」と大騒ぎするのも無理はない。古葉監督が「北別府に経験を積ませる為にもっと投げさせたかった」と登板させようとしたが、新人王の有資格条件を満たす為に投球回数を29回1/3 で止めるよう球団側がストップをかけたくらいの本気度だ。
「新人王を獲る為には今ひとつ速球にキレをつけなければダメ。それにはもっと下半身を鍛える必要がある」と北別府自身も心得ている。池谷投手が最多勝のタイトルを獲得できたのも連日の早朝ランニングのお蔭だと言われている。だから北別府もそれに倣ってランニングには特に力を入れている。藤城投手(巨人)、斎藤投手(大洋)など有望な新人が顔を揃えたセ・リーグだけに新人王への道は容易ではないが、北別府本人は「アメリカの教育リーグで多くのことを学んだ成果を出したい。自信はあります」と胸を張る。この北別府が新人王を手にすればカープとして初の快挙となる。
◆ ギョッとした死球
大洋とのオープン戦で新人王候補の斎藤投手から右手に死球を受けた衣笠選手。現在、連続試合出場記録第7位の衣笠だけに痛みを堪える本人以上に周囲をドキリとさせたが軽症で済み「もしも開幕戦に間に合わなかったら大変なことになる。大事に至らなくて良かった」と関係者も胸を撫で下ろした。衣笠は昭和45年10月19日の巨人戦から昨季終了まで実に785試合に出場し続けている。仮に今季全試合に出場すると現在の7位から一気に3位に浮上する。それだけに周囲の心配は尽きないのだ。
病院での診察結果は右手親指の爪が少し傷ついただけで全治3日の軽症。オープン戦を2試合欠場した後に復帰した。「いやぁ助かったよ。もし開幕戦に出場できないとなったら僕も残念だけど、斎藤君も気の毒だからね」と新人を気遣う優しさを見せた。衣笠の身体の強さは日南キャンプの1500本ノックで証明済みだが、カープナインは改めて衣笠の球を避ける反射神経の良さに感心しきりだ。「並みの選手ならあの球はまともに喰らっていたよ」とウェーティングサークルで間近に見ていた山本浩二選手は言う。「こうした丈夫な身体に生んでくれた親に感謝しないとね(衣笠)」と。
◆ 夜の特訓から英会話まで
安芸キャンプで田淵選手が9年ぶりの変身ぶりを見せている。先ずは練習内容の変化。初日から特訓につぐ特訓で山内コーチの指示通りの調整法で昨年までのマイペースとは大違いだ。初打ちのフリーバッティングは柵越えが1本のみと少々寂しい内容。ほとんどが詰まったボテボテの当たりで豪快な柵越えを見に来たファンは肩透かしを喰らった。しかし2~3日もすると打つわ打つわで、第2クールの13日の特打ちでは52本のアーチを放ち、さすが田淵と周囲を唸らせた。例年と異なるペースに田淵は「今年は課題を持って取り組んでいる。だから最初から飛ばさなくても焦ったりしない。中盤から徐々にペースアップすればいいかな」とドンと構えている。
山内コーチから指摘されている左脇をしっかり絞めて打つ、という打法も感触は良さそうだ。初日は不満げだったファンも号砲連発に拍手喝采で、外野スタンド後方に駐車中のマイカーを慌てて移動させる人が続出した。また練習後の宿舎・東陽館でも変化が。夕食後は昨年までは麻雀仲間と就寝時間まで雀卓を囲んでいたが、今年は山内コーチ主催の「山内塾」で素振りを欠かさない。素振りが終わると今度は英会話。田淵の自室に古沢投手、島野選手らが集まり「ハウ・ドゥ・ユウ・ドゥ」。これはブリーデンやラインバックら外人選手とコミュニケーションを図ろうと始めたものだが肝心の教えてくれる先生がおらず田淵が指導しているのが玉にキズ。
田淵が先生役とは少々心細いが『百万人の英会話』と『観光のための英会話』の2冊を大阪から持参し、「ワイワイがやがや皆で楽しくやってます(田淵)」らしいが " 田淵先生 " 自身が自己流の修行中で「田淵さんは大学を出てるんですから英語はペラペラの筈(笑)」と古沢らに冷やかされる。実は田淵夫人の博子さんは英語が達者で、どうやら田淵は博子さんに勧められての手習いらしい。それでも結構サマになっているそうでシーズンに入って外人相手に田淵流英会話がチーム内で流行るかも。「僕の部屋は日本語禁止です。たとえ監督やコーチでも一歩入れば英語で会話してもらいます(田淵)」と。成果の程は乞う御期待である。
◆ 200発打線というけれど
" 打高投低 " これこそ阪神の悩み。昨季から続く傾向で投手陣の不調が巨人に苦杯を喫した要因だ。打撃陣はオープン戦当初から好調で特に田淵選手、掛布選手ら中軸は急ピッチでペースアップして連日好打を飛ばしている。田淵は6日の阪急戦で2本塁打、特に2本目は速球王・山口投手から放った一発だけに価値がある。「ボールカウント0-3だったから好球必打で狙っていた。山口君の速球は確かに速いけどコースが甘ければ打てるよ(田淵)」と自信満々。10日の日ハム戦で3本目を放ち好調を維持している。田淵に負けず劣らずなのが掛布。阪急戦で連発した田淵に対抗するように掛布も2本塁打と昨季以上に逞しいバッティングを見せている。
阪神が誇るTK砲が順調で打線に関しては悩みは少ない。ただ対戦した阪急に比べると安打の割に得点の効率が悪く野球の質は落ちる。だが今後、ブリーデン選手、ラインバック選手の両外人が本調子になれば " 200発打線 " も夢ではない。一方で阪急打線の餌食となった投手陣の頼りなさは相変わらず。古沢、江本、上田ら主力投手は調整中で登板していないが、期待する若手投手の台頭が見られない。長谷川、池内、工藤、深沢投手ら中堅・若手の中で好投したのは阪急戦に登板した長谷川くらい。3年目の工藤はブルペンでは良い球を投げるが、いざマウンドに上がると委縮してしまい実力を発揮できない。
頭を悩ます皆川投手コーチが注目するのが新人の益山投手。2日のシート打撃で初登板して打者19人を3安打に抑えた。首脳陣は「これはいける」と色めき立ったが、5日の阪急戦では5連続四死球であっさりKO。いやKOというより完全な自滅だった。オープン戦も中盤になると徐々に若手投手も調子を上げてきたが、先発ローテーション入りを確実にするまでには至っていない。そもそもローテンション入り以前に一軍に残れるかどうかの段階で足踏み状態である。いずれにしても中堅・若手の中から一軍で通用する投手が複数出てこないと悲願の優勝への道は険しい。
◆ ボクは何番でもいいっスよ
オープン戦も半ばを過ぎてボツボツ仕上げの段階なのに大爆発したかと思えばパタッと沈黙する阪神打線は山内ヘッドコーチの頭痛の種。そんな中でコンスタントに打ち続けているのが掛布選手。44打数14安打・打率.318(17日現在)をマークしている。「昨年の反動なんか考えられんネ。彼は心配いらんよ。三番だって充分こなせる」が山内コーチの掛布評。オープン戦では三番に座っているがシーズンが開幕したら三番か、六番か、はたまた二番か、掛布が何番を打つのかが注目の的だ。掛布本人は「僕は何番でもいいス。昨年以上の成績を残すことだけ考えている」と特定の打順に執着はないようだ。
三番を打つ予定のラインバック選手は来日が遅れたのに加えて風邪をひいて調整が遅れてオープン戦にも出場できない状態。二番候補の藤田選手は好調をキープしているので掛布の打順は現状では三番が有力になっていると思えるが「ラインバックが戻って来れば掛布は六番を考えている。ウチの四番・五番は足が遅いので出塁しても単打でホームに還すのは難しい。掛布が六番を打てば長打も期待できるので得点力が上がる。三番も打てる力はあるが打線のバランスを考えると掛布の六番が理想的」と吉田監督は語る。
だが好事魔多しの格言通り掛布に思わぬアクシデントが生じた。13日の南海戦で黒田選手が放った打球を左肩に当てて負傷退場し、翌日の試合は欠場。幸い軽い打撲で次に出場した試合に代打で登場し見事に右前安打し周囲を安心させた。昨年退団した " ヒゲ辻 " こと元ヘッドコーチの辻佳紀氏につかまり「おい掛布よ、今年は8割くらい打つんと違うか」と冷やかされてて「冗談はやめて下さい。いくらなんでも8割なんて。辻さんが出演している『欽ドン野球』じゃあるまいし(掛布)」と大照れ。
◆ ♬ 北の宿 ♬ は昨年の歌なのに
昨年ヒットした都はるみの『北の宿から』みたいに未練タラタラで「私は諦めませんよ。正月三が日が明けたら私が直接交渉に乗り出します」と2年越しで原辰徳選手(東海大相模)に御執心なのが正力オーナー。既に交渉の日時は決定しているそうだ。昨年暮れの12月19日のスカウト会議で中尾スカウト部長が「もう諦めましょう」と進言したが正力オーナーは「いや諦めない」と交渉続行を指示した。翌日、正力オーナーの命を受けた中尾部長が原家に出向いたが母親・勝代さんに「主人も息子も一度言い出したら決して変えません。お気持ちは嬉しいですがお引き取り下さい」と巨人入りを断られた。
「私がこれだけ粘るのは原君が長嶋君の若い頃に生き写しだからだよ。見た目じゃなくて選手としての佇まいがソックリなんだ。原君が東海大学の入学式に出席するまで諦めない」としぶとさにかけては天下一品の中尾部長の上をいく正力オーナー。「松本君(早大・ドラフト5位指名)だって根気よく交渉して入団にこぎ着けたじゃないか。私と長嶋君と二人で説得すれば可能性はゼロではないと信じています(正力オーナー)」。正力・長嶋コンビの交渉は実績がある。先ず正力オーナーが政財界の人脈を駆使して選手が所属する組織のトップと接触し、外堀を埋めた後に長嶋監督が出馬して一気に陥落させる。
「だって今の野球選手で長嶋さんに『君と一緒に野球がしたい』と言われて断れる選手がいるでしょうか」と松本が述懐したように長嶋茂雄といえば少年時代に夢見た憧れの大スター。その人にヒザ詰めで口説かれたら誰もが陥落するのは当たり前だ。原選手にもこの作戦で挑む。例えるなら正力オーナーが先発、中継ぎがスカウト陣、抑えで長嶋監督が登場し勝利するストーリーだ。必要とあらば王選手が代打で登場するという全員野球だ。「巨人百年の大計からどうしても何が何でも欲しい選手(正力オーナー)」と球団の枠を超えて讀賣グループの総力を結集して挑む覚悟だ。
◆ もうガマンできん。何を?
キャンプも中盤になった頃に宮崎に寒波が押し寄せた。そんな中でも新婚カップルは熱々ムードいっぱいで寒ければ寒いほど肩を寄せ合って選手らの練習を見守っている。そんな風景に選手が刺激されないわけがない。特に新婚の河埜選手や中畑選手の心中察して余りある。「次の休日にはこっちに呼ぼうかと思っているんだけど、他の人に知られるとカッコ悪いから迷っているんだ」と河埜選手。練習が休みの前夜は許可を取れば外泊することは可能だが躊躇しているのだ。女房が来たから外泊しますとは言い出しにくいらしい。スタンドの新婚カップルを見ては複雑な葛藤に陥っている。
河埜より若い中畑は奥さんを呼ぶつもりはないという。「もう半月も会うのを我慢したんだから、この際だから最後まで我慢しますよ。今年こそレギュラーになって来年は誰にも遠慮せず最初の休日に呼んでやりますよ(中畑)」と野球に全身全霊没頭する覚悟だ。そこへいくと浅野投手の場合は奥さんの実家が鹿児島とあって奥さんが里帰りしたついでにちゃっかりデートと洒落込んだ。「宮崎にもカミさんの友達がいるので僕に会うというより友達と会いたいんじゃないですか(浅野)」と照れ隠し。そんな若手選手の雰囲気を察した王選手が率先して家族を宮崎に呼び寄せた。いかにも王らしい気配りの行動だった。
青島のプリンスホテルに奥さんと3人の子供たちを呼んだのは第3休日前夜の13日。「プライベートなことだから邪魔をしないでくれよ」と報道陣に釘を刺して一目散に家族が待つホテルへ出かけて行った。だがしかし、やはり若手選手にはハードルが高いようで河埜、中畑、中山、平田の新婚ホヤホヤ4人組は「やはり一人前になるまでは…」と目の前を闊歩する新婚カップルを横目に練習に汗を流している。一方で小林投手(結婚3年目)のように新婚カップルに記念写真をせがまれて「もう熱々ムードにアテられるのには慣れちゃった(小林)」と達観した選手もいる。とにかく若手選手には目の毒な今日この頃だ。
◆ どっちが来るのかなぁ…
待望の新外人投手がスポーツ紙にチラホラ出始めた。15日付けの紙面には第一候補がネッパー投手、第二がセルマ投手の名前が見出しになった。「名前がいいよね、ネッシーみたいで」とチーム内でも話題となっているが勧進元の佐伯球団常務は「スポーツ紙が独自に調査して書いたんだろう。僕のリストには30~40人も載っているから何とも言えないね」と肯定も否定もせずニヤニヤするばかり。そのリストの中から3月15日に終了した大リーグのスプリングロースターの最終選考に残らなかった投手、また残っても3A契約だった投手の中から選ぶ事になるので、正式決定にはもうしばらく時間がかかる。
しかしネッパーの見出しを書いたスポーツ紙編集部は「獲得の仲介をしている大リーグ・ドジャースのオーナー秘書を務めるアイク生原氏や在京の関係者の話を総合すると巨人が一番熱心なのはネッパーに間違いない」とかなりの自信を示している。ネッパーの正式名はロバート・ウエズリー・ネッパーで23歳の左腕投手。現在はサンフランシスコ・ジャイアンツに所属している。昨季はジ軍で4試合出場しただけでほとんどを3Aで投げていた。3Aでの過去2年の成績は11勝、14勝している。その前年の1974年には1Aで20勝している身長184cm・体重88kgの伸び盛りで将来有望な大型投手だ。
二番手のセルマ投手はリチャード・ジェイ・セルマという34歳のベテラン投手。大リーグ歴は10年でNYメッツを振り出しにパドレス➡カブス➡フィリーズ➡エンジェルス➡ブリュワーズを渡り歩いて1975年からド軍3Aで火消し役を務めてきた右腕。「いずれにせよ毎年毎年外人選手を探すのは芸がないから入団したら3~4年は新外人を探す必要がないような選手を選びたいね」と佐伯常務は言う。ネッパーことネッシーか老かいなセルマか、あるいは全く別の大穴が来るのか分からないが、選手を見る目は確かなアイク生原氏を前線にしての交渉だけにポンコツ投手が来る事だけはなさそうだ。
◆ オレたちが悪いんじゃなか!
昨年暮れから始まった契約更改交渉が難航している。ほとんどの若手選手は郵送方式で更改を済ませるが、年俸300万円を超える一軍クラスの選手は球団事務所で直接交渉に臨む。その球団事務所での交渉がさっぱり進まないのだ。昨年中にサインしたのは控えクラスの永射投手らほんの数人。どうしてこれほどはかどらないのか?どうやら原因は球団側の強硬姿勢にあるらしい。昨季は2シーズン制導入後、初の前後期ともに最下位という成績に終わり球団フロントは協議し「成績不振は球団、首脳陣、選手ら全員の責任。ライオンズを運命共同体として考えるのなら選手も個人成績とは別に責任を取る必要がある」との結論に達した。
つまり来季の契約方針として一軍選手は一律5%減から交渉を始めると決めた。例えば査定が現状維持の500万円なら25万円減の475万円になり、20%増の場合は15%増止まりとなる。当然の如く選手側の反発は大きい。「運命共同体とか言っているが選手だけが減俸なのは納得いかない。もとはといえばドローチャーの監督招聘に失敗し、チーム構想や方針が定まらないまま戦った結果の最下位。フロント陣の責任の方が大きいでしょ」と某ベテラン選手。またある若手選手は「首脳陣の好き嫌いで無茶な使われ方をされて調子を崩した。選手だけの責任じゃない」と交渉の席で球団フロントに詰め寄った。
越年組の中でも特に強硬なのが1100万円から大台割れを提示された東尾投手と2000万円から1800万円にダウンする土井選手だ。東尾は巨人から非公式にトレードの打診があったと噂されて騒がしいオフだが「野球以外の私生活まであれこれ言われるのは心外。話にならんよ」と強気一点張り。土井も「主砲として期待していると言われたがそれが金額に反映されていない」と粘る。数少ないアップ組も予想外に渋い金額提示に表情は冴えない。新人王こそ逃したが11勝した古賀投手は倍増を望んでいたが75%増を保留、ベスト指名打者の大田選手も35%増の提示で合意には至っていない。
◆ あれ!ライターの火が消えた
投手陣は手薄だが打撃に関しては全く心配していない。それがキャンプ終了時点での首脳陣の総括だった。確かに昨季は前後期ともに最下位に沈んだライオンズだったがチーム打率はリーグ1位、本塁打数も2位と大当たりだった。ただし得点力が低く打線として機能させる事がキャンプの課題でそれを克服できたと首脳陣は胸を張っていたのだが3月10日現在のオープン戦のチーム打率は1割9分3厘でリーグ最低。打線の繋がり云々の前に選手個々のバットは湿ったままでライターの火は消えたままだ。
一方の投手陣は予想外に好調で防御率は1.88 とトップ。特にリリーフ陣の奮闘が目立つ。移籍組の左腕・竹田投手(前中日)、山下投手(前大洋)、倉持投手(前ロッテ)が好調だ。また意外な所では一軍残留スレスレと見られていた五月女投手と高垣投手(前大洋)が長いイニングを任せられるリリーフ転向に成功した。玉井投手、野崎投手、浜浦投手、永射投手らがオープン戦で結果を残せていないだけに移籍組の頑張りは首脳陣をホッとさせている。
スローガンに掲げた " 5点打線 " はおろか " 5安打打線 " にも届かぬ惨状だ。「打てない。打てなさ過ぎるよ。直球なら打てるが変化球にはお手上げなんて情けない」と鬼頭監督も怒り心頭だ。昨季の首位打者の吉岡選手、ベスト指名打者の大田選手、さらには一昨季の本塁打王の土井選手といった主軸打者が打ち込み不足を理由に欠場しているとはいえ、代わりに出場の機会を得た若手選手が揃って討ち死に状態に伊藤打撃コーチは「せっかくのチャンスをみすみす逃している若手は情けない」と。
◆ チームをPRするCMが登場
オープン戦を例年になく好調に乗り切ったライオンズだが地元福岡の盛り上がりはいま一つで、球団フロント陣は観客動員数の確保に頭を悩ませている。そこで坂井球団代表が一計を編み出した。「ファンの皆さんと選手との繋がりを密にしたい」と地元テレビ民放3局に15秒のCMを登場させた。開幕戦の予告や年間予約席の告知を東尾、古賀、浜浦、基、土井、ハンセン選手らが画面からお茶の間に届ける。球団としては初めての試みだが、1000万円の予算を計上して地元密着をアピールする狙いだ。
「プロ野球選手が野球のCMをするのだから商品の宣伝をするのとは意味合いが違う」と坂井代表は自画自賛。どうやらチームぐるみで万年筆の商品名をテレビで連呼する巨人軍とは違うぜ、とでも言いたいようだ。さて、CM効果の程はどうか?地元ファンの間には「巨人みたいに自社商品を宣伝してほしいという企業がいないだけでは」「要するに勝てばファンは球場に行く。CMを見て球場に行きたいと思うファンが果たしてどれくらいいるのだろうか」など懐疑的な意見が多数で心もとない。